「宅急便に並ぶ主要商品に」 EC事業者向け配送サービスEAZYの戦略を担当部長に直撃
ヤマト運輸のEC事業者向け配送サービス「EAZY」。昨年6月のサービス開始以降、コロナ状況下の需要を取り込み、グループの営業利益が過去最高に達した(第3四半期まで)ことに大きく貢献した。その実体や、目指す未来はーー。EAZYを担当するヤマト運輸EC事業部長・齊藤泰裕氏に話を伺った。
サービスのカギは「リアルタイムコミュニケーション」
ーー改めて、EAZYの特長を教えてください。
齊藤氏:一番大きなところは、荷受人のお客さまと配達員がリアルタイムコミュニケーションを取れること、そして拡張性があることです。「EAZYといえば置き配ができるサービスだよね」と言われることがありますが、それがメインではありません。
ーーリアルタイムコミュニケーションができることによって何が変わりますか。
たとえば、対面で受け取りたい、置き配にしたい、などの要望を配達直前まで受け付けることができるようになりました。雨が降ってきた、といった時はもちろん、突然子どもの迎えが発生したとか、お風呂に入りたくなったとか、直前で状況が変わった時にも対応ができます。
お客さまの要望に臨機応変に応えられるという点で、お客さまの状況に合わせたコミュニケーションができるようになりました。
サービスには「拡張性」もあります。たとえばセキュリティが担保できればドライバーの顔認証でマンションなどのオートロックのゲートを開けられることも将来的にできるようになるかもしれません。
ーー「EAZYクルー」と呼ばれる配達員を募集されています。
宅急便で活躍されているセールスドライバーとの違いは、宅配に特化した人材ということです。「パートナー」という形で一緒にやっていこうということで、1万人を超える方と契約させていただいています。
ECの多様な需要に応えられないのでは
ーーEAZYが始まるきっかけについて教えてください。
コロナの影響が広がる以前は、ECをよく利用する年齢層と直接接点を持つことは少なかったです。しかし、リアルタイムコミュニケーションができないと市場のニーズに応えていけないという課題は以前から抱えていました。
ーー社内ではどのような検討がされたのでしょうか。
私自身、昨年3月にEC事業部長に就任しました。長尾社長(長尾裕・ヤマトHD社長)と話をするなかで、「宅急便はいいサービスだけど、現状だけではECの需要に応えられないのではないか」という話をしたことがあります。この後の成長戦略として、ECに徹底的に取り組むべきじゃないかという結論になりました。それを受けて一年間、実験を繰り返して開発していきました。
EAZYにつながる取り組みとしては、実はその以前から始まっています。2015年には「宅急便コンパクト」「ネコポス」をはじめました。私は当時の開発担当者でした。
いま振り返ると、当時は荷物の「大きさ」「幅」「重さ」に視点を置きサービスを改良してきました。一方、EAZYはEC需要に特化し、「受け取り方」に着目しました。ECでは、荷受人と依頼者が同じケースがほとんどです。より顧客ニーズにあったきめ細かなサービスをするべきだと考えました。
ニーズがあるのに、手を出さないのはありえない
ーーヤマト運輸の中でも大きな方針転換だったのではないでしょうか。「宅急便に注力するべきだ」と反対する人はいませんでしたか。
配送に関するお客様のニーズがそこにあるのに、ヤマトが対応しないのはありえない、という思いでやってきました。日本の宅配を支える企業として正面から向き合わないといけない。「社会的使命」というと話は大きいですが、コロナ前から物流を通じて生活を支えている企業として、できることをしない、というのはおかしいのではないかとも思います。
また、EC需要が大きく伸びるなか、トップの旗振りでスピード感を持ってできたことは大きかったです。
アップデートを重ねていく
ーー今後の目標などはありますか。
まず1、2年で宅急便に並ぶ主要商品にしていきたいです。いままでよりサービスの幅を広げていき、半年に1度くらいの頻度でアップデートを重ねたいと思います。より多くの方にEAZYの利便性をわかっていただくことも重要だと考えています。
ーー価格についてはどのように考えていますか。
たとえば価格が600円のものは、「3時間以内に届けるから800円になります」とか、配送手段と時間によって幅を持たせることも良いのではないかと考えています。こうしたダイナミックプライシング、またローカルコマースへの対応も検討していきます。
ーー今後の展望について教えてください。
EAZYは、昨年11月にサービス開始を目指していたものをコロナ禍の非対面ニーズに応えるため前倒しして6月にはじめました。
しかしその後もお客さまのニーズはどんどん変わってきて、そのニーズに合うサービスを提供する「山」はどんどん高くなってきています。それにかなうサービスのためには、リアルタイムコミュニケーションなどさらに高度化しないといけないと思います。
特にSNS世代の学生たちは、そうしたコミュニケーション手段なら抵抗がないんです。
日本の宅配は、世界に誇れるものと自負していましたが、ここ10年ほどでEC特化型の宅配ベンチャーやサービスを提供する企業が多く出てきています。旧態依然のままでは日本の宅配サービスは取り残されてしまい、海外の企業に駆逐されてしまう可能性もあると思っています。
私たちは色々な国のベンチャー企業とも手を組み、これからもお客さんのニーズにあったサービスを提供していきたいと考えています。