コレクション機能で顧客の「欲しい」を引き出す。songdreamが取り組む家具×Instagramの活用法とは?
EC売上を最大化するためには、SEOだけでなく、SNSを活用した集客やブランディングなど、多方面の施策に取り組む必要がある。
ところが、SNSを使った取り組みレベルは事業者間の差が大きく、なかなか成功への道筋を見いだせていないEC事業者も多いのが現状だ。
特に家具という商材はECでの取り扱いが難しい。単価が高額なうえ、サイズ感や色味は、実際に見て触ってみてから部屋に置いたときのイメージを膨らませ、そこで初めて購入したいと考える人が多いからだ。
上質なウォールナット材を主材にしたモダンインテリアブランド「songdream」は、家具という商材、InstagramというSNSについて深く理解し活用している。同ブランドを展開している富士家具工業株式会社の宮嵜氏に、日々の取り組みについてうかがった。
Instagramはファン作りに有効なSNS
ーーsongdreamがInstagramを活用し始めたのはいつ頃でしょうか。きっかけなども教えて下さい。
Instagramの活用を始めたのは2015年3月からです。当時はFacebookのほうがユーザー数は多く、Instagramがここまで社会に根付くSNSになるとは思っていませんでした。
ブログやFacebookはある程度文字数が必要なので気軽に投稿するという感じではなく、定期的に更新するのに労力がかかっていました。また、Twitterは時事ネタには良いのですがインテリアという商材には難しいSNSだと感じていました。そんな時にInstagramの特性を知って、「これはやるべきだ」と思いました。
当社では、songdreamブランドでひとつのInstagramアカウントを作って、投稿の世界観を統一しています。
ーー数あるSNSの中で、songdreamにとってInstagramはどのような位置付けでしょうか?
当初、「写真主体のSNS」というInstagramの特性が、インテリアという商材と親和性があると感じたことを覚えています。
「百聞は一見にしかず」という言葉がありますが、実際に活用してみてInstagramは画像検索革命を起こしたと感じています。
言葉よりも画像のほうがsongdreamの「シンプルなデザインと機能性の両立」というメッセージを消費者に効果的に伝えられます。Instagramはユーザーも、デザインに対する価値観を重視している方が多いと感じます。
投稿を見たユーザーがその場ですぐ商品を買うとは限りませんが、「このアカウントの投稿いいな」と思ってくれるとフォローしてもらえるので、Instagramはファンを増やすためには重要なSNSだと実感しています。
Instagram投稿にはリアルな「レビュー」の要素も
ーーsongdreamがEC・ブランド運営を行っていく中でInstagram活用はどのようなメリットをもたらしましたか?
まずは、ブランディングにとても大きな効果があったと思います。投稿を統一感のあるものにしていくことで、そのブランドが発信したい世界観をお客様に感じていただくことができるからです。
Instagramにおいては、販売促進よりも、ビジュアルを重視してお客様にファンになってもらうことを大切にしました。それまではお得な情報などセールス的な要素が多かったのですが、Instagramに関してはブランドの世界観のほうが重要だからです。その点で、InstagramはブランディングがしやすいSNSだと感じています。
また、Instagramユーザーは新しい情報にとても敏感な層が多いです。これは単純に売上が上がるというよりもブランドのステータスを上げるうえで非常に有効で、事業者とお客様が一体となってブランドを構築することができます。
具体的には、songdreamの商品を購入されたお客様がタグをつけてInstagramに投稿し、家具の購入を検討している方がそれを見ることによってsongdreamを知っていただくことができます。
これはとても素晴らしいことだと思います。お客様満足度を重視すれば勝手に宣伝されていくことを知り、時代の変化を強く感じました。
インテリアはイメージから入るので、消費者も画像検索をして、見た目から気になったアイテムをクリックする方が多いです。
Instagramの場合、おしゃれな雰囲気で投稿しているユーザーが多いので、目的のものが見つけやすいというメリットに加え、投稿者の主観的な感想が書かれていて「レビュー」のような役割も果たしています。セールストークとは違い、消費者個人のコメントは言葉にリアリティがあると感じています。
InstagramがECと実店舗、両軸での売上向上に寄与
ーー他のSNSと比べ、Instagram上でのユーザーとの距離感をどのように感じていますか。
Instagramはユーザーとの距離が非常に近いです。写真に映っているアイテムについての質問も多く、私たちがフォーカスしたつもりの商品とは別の商品に関する質問がくることも多々あり、日々気づきや発見があります。
また、Instagramをきっかけとした実店舗への来店も多いです。「〇月〇日にInstagramに投稿されたソファの実物が見たい」や、実際に写真を提示していただき「この商品が見たい」など、特定の商品を目当てに来店され、会話が始まります。
songdreamを知ったきっかけとしてInstagramを挙げられるお客様も多く、店舗スタッフはInstagramの集客力を実感しているようです。
ーーInstagramの活用によって、EC・実店舗の売上にどのような影響がありましたか?
Instagramの活用によって、EC売上はもちろん実店舗の売上も伸びるという二重の効果が生まれています。「EC売上が上がると実店舗の売上が下がる」という構造ではなく、Instagramはリアル店舗での購買促進にもつながっています。
現段階では、ブランド全体の売上における比率は実店舗のほうが圧倒的に大きいですが、実店舗で一度購入すると品質がわかって安心されるので、2回目以降はECで購入されるお客様も多いです。実店舗で商品を見た後にECで購入されるお客様も多いですね。
ーーInstagramが実店舗での接客に与えた変化はありますか?
かつて、店舗での接客は「どういったものをお探しですか?」からスタートしていましたが、今はInstagramの投稿を見たお客様が「この商品はどれですか?」と尋ねてくるケースが増えています。スタートラインが全然違うので、接客時間が短くなり、効率化にもつながっています。
しかも、Instagramを通じてすでにブランドの世界観がお客様に伝わっているので、お客様のニーズと私たちが提供できるもののあいだに乖離が生まれにくくなったというメリットもあります。
Instagram経由のお客様は購買意欲が高い
ーーInstagram経由と検索エンジン経由で、客層にどのような違いがありますか。
Instagram経由で当社のホームページを訪れるお客様は購買意欲が高く、PV数も多いのが特徴です。
Instagramよりも検索エンジン経由のほうが自社ホームページへの流入数自体は圧倒的に多いのですが、PV数が多いInstagram経由のほうが客質が良いといえます。
また、Instagram経由のほうが実店舗に足を運んでくれるお客様の割合も多いです。最終的なコンバージョンを「購入」とする場合、同じ費用をかけるなら、Instagram広告にかけたほうが売上につながると感じています。
一方、認知を目的とするならSEOに力を入れたほうが幅は広がります。どちらかだけに集中するのではなく、両施策のバランスが重要ですね。
3Dシミュレーションで個々の悩みに応じた提案が可能に
ーー取り扱う商材が家具だからこそのECやSNSに感じる難しさ、反対にメリットなどがありましたら教えて下さい。
家具というのは、実際に店舗に足を運び、座り心地や質感などを自分の目で見て触って体感することが重要な商材です。
ですので、私たちは当初、座り心地がわからないソファをネットで販売するのは難しいだろうと考えていました。ダイニングテーブルやテレビボードなどを販売することはできてもソファやダイニングチェアは難しいと勝手に決めつけていたと思います。しかし実際には、ソファを購入される方がいらっしゃるのでとても驚いています。
Instagramは動画も投稿でき、柔らかさなどを実際の言葉で伝えることもできるので、その点ではとても助かっています。
インテリアは、お客様の部屋の間取りに応じてのご提案が必要になります。「お部屋の広さに対して検討している家具が大きすぎないだろうか?」「床の色が濃い色に対してどんな色のソファが良いのだろうか?」など個々の悩みはそれぞれだからです。
家具は写真だけでは買いにくいと感じている方も多いため、私たちはそのような個々の相談に対し、3Dシミュレーションを使ってご提案しています。
InstagramでのDMから気軽な相談を受けてやり取りしながらシミュレーションになったケースは何度もありました。Instagramは、店舗とお客様をできる限り気軽に繋ぐ役割を果たしてくれています。
正しいサイズで視覚化することでお客様の不安はある程度消えるので、インテリア業界においての3Dシミュレーションによる新居のご提案は、今後も大切なサービスになるでしょう。
このサービスとECを掛け合わせることで、店舗の所在地は関係なくなり、商圏が日本全国に広がりました。
ただし、空間全体のイメージを提示してゴールをイメージさせる必要性があるため、単純に商品をたくさん登録してボタンひとつで販売するというのは、インテリアの世界では難しいと考えています。
商品のタグ付けで購買までの導線がスムーズに
ーー今までInstagramを活用してどのような施策を行ってきましたか?特に2020年、2021年に行った施策、そしてショップ機能を活用した施策があれば教えてください。
特にインパクトが大きかったのが、投稿した画像に商品のタグ付けができることになったことです。認知で終わらず、Instagramを介して個々の商品情報を見せるところまでスムーズにもっていけるようになったという点で、この機能は革新的でした。
以前は、Instagramの投稿を見て、商品の詳細を知りたいお客様はコメントで質問したり、店舗に電話で問い合わせたりされていました。
しかし今は、商品のタグ付けができるようになったことで、お客様は興味を持った商品をタップすれば、すぐにECサイトに飛ぶことができるようになりました。その結果、店舗への問い合わせが減り、その分従業員は対面での接客に時間を割けるという良い変化も見られました。
私たちのような小規模事業者は、少人数で店舗運営をしなくてはならないため、「どこまで自動化できるか」というのはとても切実な問題です。
その点において、解決策を見出してくれたことは非常にありがたいと感じています。お客様に知りたい情報への道筋をわかりやすく伝えることができるというのは、とても有益なアップデートでした。
ーー特にこだわって使用されている機能や施策などがあれば教えて下さい。
コレクション機能は、本来ダイニングテーブルやソファなどテーマごとにお客様が商品を探しやすくするために活用していました。
しかし、今回の新型コロナウィルスの蔓延により、外に出て買い物をすることがしにくい世の中になってしまいました。そんな折、西新宿に予約制のショールームをオープンすることになりました。
しかし、期間をどれだけ設けることができるのかもわからず、また商品も入れ替えが起きるので、紙媒体で小冊子を作成しても作り直しが発生しコストに見合いません。そこで、Instagramのコレクション機能を利用したらよいのではないかと考えました。
コレクション機能は単純な販売用のツールではなく、その場所には今何が展示されているのかを伝えることもできると思ったからです。わかりやすく言うと、「カタログとして機能する」と考えたということです。
これであれば商品の登録も簡単に入れ替えができますし、お客様にとってもそこに行けば何が見られるのかがはっきりわかっているので無駄足になりません。
この機能を使う前は、店舗に電話がかかってきて、お目当ての商品はそこにあるかを確認されるケースが多かったです。しかしコレクション機能により、お客様が前もって知りたいことを簡単に知ることができるようになりました。
店舗スタッフの労力を少しでも減らし、店舗に足を運んでくださっている目の前のお客様の接客に集中できる環境ができるのはありがたいことです。
気軽な投稿がお客様に“刺さる”ことも
ーーInstagramを使い始めてから今日まで様々な機能が追加されたと思います。気になっている、実践してみたい機能は何ですか?
私たちはライブの機能をあまり使ったことがないので、今後はもっと勉強していきたいです。お客様とのつながりをどのように有益なものに変えていけるかは、とても大切だと感じているからです。
ライブ機能でお客様の新居のご提案をしたり、IGTVで商品説明動画や店舗までの道案内動画などを作成したりすることを考えています。
今は消費者が情報発信できる時代になり、店舗が発信する“作り上げた情報”よりも、お客様が投稿する、より現実に近いリアルな情報が求められていると思います。その中で、店舗に足を運ばなくても安心して購買するためにお客様がどんな情報を求めているのかを、これまで以上に考えていく必要があると感じています。
ーー今後、このような機能が出て欲しいなどInstagramに期待することを教えてください。
広告でターゲットを選定する機能の中に、ビジネス属性やフォロワー傾向から分析して、AIが自動で提案してくれるようなものがあると非常に助かります。
Instagram広告は、幅広い設定ができるぶん、いろいろな試行錯誤が必要になってくるため、すべての設定を自分たちで行うのではなく、我々のビジネススタイルをある程度理解し、そのデータに基づいた提案が欲しいと思う場面があります。
Google広告には、自社のお客様や自社のサイトに訪問したことのあるユーザーと行動内容が似たユーザーを提案してくれる「類似ユーザーターゲティング」があり、それを活用することで自社の商品に興味を持ってくれる層に効果的に訴求ができていることを実感します。
Instagramはアカウントによってユーザーの個性が明確になっているぶん、「インテリアが好きな人」を絞るのは簡単だと思います。そのなかでもかわいらしいものが好きなのか、シンプルでカッコイイものが好きなのか、性別だけではなく個人の志向も踏まえ、配信ターゲットを提案してくれる機能があれば活用してみたいです。投稿などの運用に関しては、現時点でもいろいろな機能があるので満足しています。
ーーよく活用している機能や、使用することでお客様からの反応がいい機能などはありますか。
先ほど挙げたコレクション機能のほかに、ストーリーズは今の店舗の状況などを短時間で伝えられるため重宝しています。15秒で気軽に投稿でき、「一生懸命考えて投稿しないと」というプレッシャーがないのがいいですね。気軽に投稿したものが意外に消費者に“刺さる”こともありますのでとてもよい機能だと思います。
特定の領域を深めるほうがファン作りがしやすい
ーーsongdreamがInstagramでのファン作りに成功した秘訣は何でしょうか?
マーケティングのやり方としては、多額の広告費をかけて幅広く認知を広げてお客様を獲得するやり方と、ターゲットを狭めて特定の領域で負けないものを作るというやり方があり、私たちの場合は後者のほうが良いと考えていいます。
songdreamでも、過去には何色もの木材を扱っていましたが、今はウォールナットだけに絞っています。ベッドもサイドテーブルもドレッサーも同じ木の色で揃えて、トータルコーディネートができるようになっています。
色々なメーカーの商品を扱って幅を広げると、それぞれの領域が浅くなってしまいます。songdreamはむしろ、「幅を狭めて特定の領域を深めていく」という戦略です。ひとつの領域を深めるほうがファン作りがしやすく、この戦略とInstagramは相性が良いというのが私の結論です。
かわいらしい家具の写真を投稿した次の日にコンクリートの打ちっぱなし空間にあるような家具の写真を投稿しても、「家具」ということしか共通項がありません。そうではなく、デザインやテイストに統一感を出して、投稿自体も見た人が「部屋を全部これで揃えたい」と思うようなものに絞っておくことが重要です。
商品戦略とマーケティング戦略が同じ方向を向いていたほうがフォローされやすく、Instagramでのファン作りに向いています。
また、私たちのように実店舗を持っている事業者の場合、実店舗を持たない事業者よりも商品写真の撮影がしやすいので、Instagramでの発信に有利です。
ーーウォールナットに一本化したのはどのような経緯からですか?
もともとsongdreamでは、明るい色のオークよりも暗く赤みのあるウォールナットのほうが売れていました。オークはやや女性受けが良く、ウォールナットはどちらかというと男性受けします。
ウォールナット一本にしたのは、オークのほうが市場の競合が多く、ウォールナットがブルーオーシャンであったこと、そしてインテリアをウォールナットで揃えている人のほうが圧倒的に購入単価が高かったことからです。
オークはカジュアルなイメージになりやすいので、ウォールナットのほうがスタイリッシュで高級感のあるイメージを演出しやすいという背景もありました。ウォールナット一本にしたことで、Instagramでもブランドの方向性が伝わりやすくなったと感じています。
“千客万来”よりも“一球入魂”
ーーInstagramはEC事業者にとってどのようなツールとして活躍できると考えていますか?SNSと括られていますが、宮嵜様が考えるインスタ×コマースのポテンシャルを教えてください。
Eコマースだけで考えてしまうと、結局はアクセス数という分母を大きくすることだけに頼ってしまうことになるのではないでしょうか。そうなった場合は、強者が勝つ戦略論になってしまうと私は思います。
Instagramは客質を上げる効果があります。それは、Instagramが世界観を大事にしているからです。お客様の属性が一致している場合にはコンバージョンが上がると思います。
Instagramはおしゃれなものを求めている人が多く、機能だけではなくデザイン性を重視している人が多いと感じます。だからこそ画像を重視したSNSとして発達したのだと思います。女性ユーザーが多くなる理由もそこにあるのでしょう。
まずは、Instagramで自分たちの誘導したいお客様のペルソナと投稿していくイメージをしっかりと重ね合わせていくことが重要です。単純に確率論だけでECを考えてしまうとアクセス数をいかに上げるかに注力すると思いますが、労力の割に売上は上がらない可能性があります。
消費者はよりリアルな情報を求めているので、リアルな画像とそこに添えられている忖度の無い文章が「レビュー」として十分に成立しているのだと思います。
事業規模では劣るブランドがこの厳しい環境下で生き残るためには“千客万来”よりも“一球入魂”で戦略を立てるほうがよいと考えます。そこで私たちは、「いかに多くのお客様に効率よく対応するか」よりも「いかにお客様の新生活に対する悩みや迷いを消すことができるか」に注力しています。
Instagram(認知)→3Dシミュレーション(解決)→EC・店舗(購入・決済)→配達までの流れが確立した今は、コロナ禍でも業績は昨年を上回っており、順調に推移しています。紙媒体からSEO・SNSの2つに集客を移行できたことがおもな勝因ですね。
Instagramは単なるECへの導線という役割にとどまらず、songdreamのブランディングとマーケティングにおいて、欠かせない役割を担ってくれています。