食品ロス削減のためのECアプリ「LET」、1年でユーザー倍増の背景とは?

森田春香

わけあり品や規格外品といった、従来であれば廃棄されていた食品の販売に注力しているECアプリ「LET」。簡単に出店できるうえ、食品ロス削減に貢献できるところがユーザーの心をつかみ、1年でユーザー倍増という躍進を遂げている。

「LET」に込めた思いや今後の展開などについて、レット株式会社の金 麗雄氏に話をうかがった。

わずか5分のスピード出店。WEBが苦手でもスマホひとつで取引可能

――会社・サービスについて教えてください。

株式会社レットは、2018年に設立した会社です。食品ロス削減のためのECアプリ「LET(レット)」を運営しております。
主に流通に乗らなかったわけあり品や規格外品など、通常であれば食品ロスになるものを、直接ユーザーに販売できるアプリです。

出品方法は、アプリをダウンロードして出品ボタンを押すだけ。テキストと画像さえあれば、ものの5分で販売を開始できます。使い勝手としては、フリマアプリに近いですね。スマホ一つで簡単に出品ができるため、ECモールやネット通販まで手が回らなかった方から、コロナをきっかけに新しく出品いただいており、今、ご利用者が非常に伸びています。

――どのような経緯でLETを開発されたのですか?

もともとは、「世の中に埋もれている価値、世の中に余っているモノ、余っている時間をマッチングさせる」ということを事業コンセプトとして掲げていました。

当初は飲食店やホテルなどのECにも取り組んでいたのですが、コロナをきっかけとして、物販に主力を置く方向にシフトチェンジ。ちょうど食品ロスの問題が顕在化したタイミングでもあり、その課題解決の一翼を担うべく、LETを開発しました。

日本では現在、年間600万トンを超える食品ロスが発生しています。日本人が1人当たり1日お茶碗1杯分のごはんを捨てているのと同じような無駄が出ている。この問題を解決できるようなサービスのプラットフォームを作りたかったのです。また、今までのECがフォローしきれなかった部分、生産者やメーカーなど、商流の川上にいる方に、簡単なECの手段を提供していきたいという思いもありました。

生産者のWEB販路として利用されている

――どのような方が出品されていますか?

出品に関しては、食品に限定しているわけではありませんが、現状、食品の出品が8~9割を占めています。地方の生産者やメーカーの方、卸売業者や小売店、飲食店からの出品が多いです。

そのなかでも特に多いのは、生産者さんですね。農家さんや漁師さん、水産加工業者さんや精肉業者さんなど。食品を扱う中でも、川上の方が多数を占めています。

――そういう方は、ECサイトや別の販路などを持っていらっしゃるのでしょうか?

本格的なECサイトを運営している方はほとんどいません。これは正直、意外でした。簡単にECを始められるサービスも増えていますが、ヒアリングしてみると、全くやっていない。都市部よりも地方の方が多く、ECの事情についてあまり詳しくありません。このようなサービスであっても、導入ハードルが高いようです。

WEBの販路としては、フリマアプリを使っている方が多いですね。在庫をたくさん抱えているのに、CtoCのフリマアプリで、一個ずつ頑張って売っている方がほとんどでした。WEBでの販路を全く持っていない方も多いです。「LET」で初めてWEB販売するというケースも結構あります。

在庫設定ができるので、出品の手間が省け、口コミが蓄積される

在庫設定ができるので、出品の手間が省け、口コミが蓄積される

――フリマアプリと「LET」は、どこが違うのですか?

手軽に出品できるという点では、フリマアプリと変わりません。「LET」が一般的なフリマアプリと大きく異なるのは、在庫の設定ができる点にあります。フリマアプリの場合、一品ずつ出品しなければなりません。同じ商品が10個あったら10回出品作業が必要になるし、100個あったら100回出品作業をしなければならないのです。

しかし、「LET」では、商品を1回登録したら、その在庫がなくなるまでずっと出品し続けることができます。

――それは出品の手間が随分省けますね。

はい。在庫設定ができるというのは、出品が楽になるというだけではありません。「商品に対する口コミが溜まっていく」というメリットもあります。

一品だけの出品だと、1回の取引でそのページが完結してしまいます。しかし、「LET」の場合、在庫が完売するまでページが動いているため、商品に対して口コミがどんどん蓄積されていきます。

また、楽天市場やYahoo!ショッピング、Amazonでは、口コミは基本的にテキストが主流です。しかし、「LET」では写真や動画をつけて評価するユーザーさんが非常に多い。わけあり品の場合、購買前に気になる点も多々あると思いますが、画像や動画入りで口コミを書いてくださる方が多いため、それが非常に強い後押しになっています。

もちろん、ECモールさんでも写真や動画を口コミに載せることはできますが、そのような口コミはさほど多くありません。「LET」では、文化として商品画像や動画入りの口コミが多いことが、大きな特徴です。

――わけあり品の購入に関しては、躊躇してしまう気持ちもありますが、写真や動画入りの口コミがあると安心ですね。

そうですね。やはり第三者評価的に口コミがつくことは、大きな信頼につながります。口コミによって、さらに売れて、口コミがまたついて…と、ポジティブな循環が生まれやすい。もちろん、商品の状態を出品画像や説明文できちんと丁寧に説明していただくことが大前提ではありますが、そこにプラスして口コミがつくことが、売上アップに大きく貢献します。

プロモーションなしでも商品が売れていく「LET」の集客力

――口コミ以外にも、出品者にとって「LET」を利用するメリットはありますか?

いい商品は、プロモーションなしに売れていくというのが、大きなメリットです。

通常のECサイトでは、SNSを頑張ったりWEB広告を打ったりと、自分たちでお客様を連れてくる必要があります。しかし、生産者の方が日頃の業務に加えてInstagramやTwitterの投稿をするというのは大変です。そこまで手が回らない方がほとんどでしょう。やり方も分からなければ、時間もないと思います。

その点、「LET」なら、ユーザーを集めるのは私たちの仕事です。WEBマーケティングやテレビCM、noteでの情報発信といったPR活動によって、出品者がプロモーションすることなしに売れていく状態を実現しています。

――noteでは、お取り寄せセールや出品者インタビューなど、さまざまな情報発信をしていますよね。

はい。一番力を入れているのは、出品者へのインタビューです。実績の高いところや口コミ評価の高いところ、ユニークな商材を扱っているところへのインタビュー記事を、週1回ほどのペースで更新しています。

出品する方にコンテンツを見て「自分でもすぐできるんだ」と理解していただきたい、そう思っています。出品する方に安心感をもってご利用いただくために、今後も更新を続けていきます。

食品ロスの削減が生産者の応援につながる

――出品者だけではなく、購入するユーザー登録数も伸びていると聞きました。

はい。お陰さまで、この1年の間にユーザー数は倍近くに伸びました。現在、350万人を超えるユーザーにご利用いただいています。

単に食品が安いというだけではなく、「困っている生産者の助けになる」「食品ロスに貢献できる」というメッセージが、ユーザーに刺さっているようです。生産者を応援する気持ちを込めて買っていると、口コミによく書かれています。
その口コミが他のユーザーの参考になるのはもちろんですが、出品者の心の支えにもなっています。農家や漁師の方は、消費者から声をもらうことがほとんどありません。

そこに、画像や動画付きで、お褒めの言葉や感想、共感の言葉をいただける。これは、出品者の皆さんにとって、大きな喜びになっています。出品者と購入者との間に心の交流が生まれているのも、「LET」の大きな特徴です。

出品者を包括的に応援できるプラットフォームへ

出品者を包括的に応援できるプラットフォームへ

――御社の課題や、現在力を入れている取り組みについて教えてください。

出品される方の多くがECに慣れていないため、写真の撮り方や説明文の書き方など、基本的なスキルをブラッシュアップしていただくためのフォローに力を入れる必要性を感じています。

わけあり品を出品する際には、丁寧に説明しなければ買ってもらえなかったり、トラブルになったりしますから。出品者の販売ノウハウについて学べるコンテンツを拡充させて、いい商品なのに売れないといった機会ロスを減らしていきたいですね。今はnoteなどで記事として発信していますが、ゆくゆくは動画やセミナーといった教育体制を作っていきたいと思っています。

――御社としては、今後、どのような展開をされるのでしょうか?

当面は、今の分野をより拡充させていく方向で考えています。好調とはいえ、まだまだあまりサービスを知られていない状況です。皆さんに日常的に使ってもらえるような、出品する側としても購入する側としても使っていただけるサービスにしていきたいと思っています。

もう少し拡充させたいところで言うと、例えば送料などのような、配送まわりのところが、若干まだ弱いんです。出品者任せになってしまっている感じで。そこはやはり、送料をもう少し安くしたり、簡単に配送ができるような仕組みを取り入れたり、より使いやすいサービスを構築していきたいと思っています。

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