消費者を危険な製品から守るには?経産省が語る製品安全への取り組み

濱田祥太郎

経済産業省製品安全課長(現:四国経済産業局長)の原伸幸氏

2021年3月、経産省製品安全課から「インターネット取引における製品安全」という資料が公表された。経産省ではネット取引における製品安全の確保を重要課題とし、モール運営事業者との協力体制を築いている。コロナの影響が広がり、ECの需要が高まるなか、「製品安全」への取り組みをモールや事業者が行うべき理由は何か。経産省製品安全課長(現:四国経済産業局長)の原伸幸氏に話を聞いた。

消費者の安全を守るのが製品安全課の役割

ーー経産省製品安全課の業務を教えてください。
製品安全課では、消費生活用製品について、消費者庁と連携しながら、消費者の安全を確保するためのさまざまな取り組みを行っています。消費生活用製品は業務用を除く幅広い製品が対象となり、大半は電気製品です。

2007年に重大製品事故の報告が義務付けられました(消費生活用製品安全法第35条第1項及び第2項、施行規則第3条)。これにより、消費生活用製品の製造事業者または輸入事業者は、その製造又は輸入に係る消費生活用製品について重大製品事故が生じたことを知ったときは遅滞なく国に報告しなければなりません。この義務付け制度により、重大製品事故の情報がすべて消費者庁に集まることになりました。(消費者庁の発足以前は経産省に報告。2009年9月より消費者庁へ報告先を移管。)

重大製品事故とは、製品事故のうち、死亡や通院・加療に1カ月以上要する重傷、火災、一酸化炭素中毒など、危害が重大であるものをいいます。現在は年間800〜900件前後が報告されています。制度ができた当初は年間1400件以上ありましたから、企業側の努力でだいぶ減少してきたといえるでしょう。

重大製品事故として報告が届いたものは原因分析を行い、製品起因の事故と断定されると、製造業者等にリコール等、安全のためのしかるべき措置を求めます。判断が難しい場合は、消費者庁と経産省が合同で構成する第三者による審議委員会において協議して判定を行います。

ーー制度ができたきっかけは何だったのですか?
ちょうどガス機器や石油機器の使用時の一酸化炭素中毒による死亡事故が相次ぐなどし、消費生活用製品安全法の法律改正が必要となったためです。

ーー消費者庁ではなく経産省が担当しているのは意外な気もします。
それまでは、自動車、食品、家電など製品ジャンルごとに異なる法律、異なる官庁で同じような仕組みはありましたが、製品ジャンルを超えた横串の統一ルールはありませんでした。しかし、消費者庁が設立されて情報が消費者庁に一元化(消費者安全法による情報の集約)されることになりました。その意味で画期的な仕組みです。一方で、経産省も引き続き重大製品事故の原因究明を行っています。

ただし、制度ができても、重大製品事故が完全になくせるわけではありません。なぜなら、情報をもとに原因分析をしても、製品起因の事故だと断定できるケースは3割程度しかないからです。残る7割の多くは原因不明・誤使用・不注意・経年劣化など。そもそも原因になっていそうな製品が火災で完全に焼失してしまっていることも少なくありません。

ネット販売ではモール運営事業者との連携が不可欠

ーーいつ頃から、インターネット取引における製品安全というトピックが浮上してきたのでしょうか?
2017年ごろです。この年に、モール運営事業者(インターネット上で製品の売買が行われるオンライン・ショッピング・モール、インターネット・オークション、オンライン・フリーマーケットを運営する事業者)との相互連携をスタートさせました。大手EC事業者8社を対象に製品の安全性に関する情報共有を行い、危険性がすでに明らかな製品の販売を取り下げてもらったり、新たに危険性が判明した製品の購入者に使用中止通知を送ってもらったりする仕組みを構築したのです。

ーー何かきっかけがあったのでしょうか?
このような連携体制を作ったのは、当時モバイルバッテリーの火災事故や違反が多発しており、それらの製品がネット経由で多く販売されているとわかったからです。ネット販売は参入障壁が低いので、安全性への配慮が欠けている事業者も少なくありません。サプライチェーンのグローバル化によって、海外からの輸入品による事故も増えてきています。

モール運営事業者に協力要請したのは、ネット販売ならではのメリットがあるからです。ネット販売は、消費者と直接接点が持てるところが大きな強み。誰が何をいつ購入したかがわかるので、製品に欠陥が見つかったときはすぐに使用中止の通知を出すことができます。

重大製品事故の1割ほどは未回収のリコール製品が原因になっていると思われるので、最小限のコストでスピーディにリコールを出すことができるのは大きなメリットだと思います。

また、海外事業者への牽制という点でもモール運営事業者の役割は大きいと考えます。海外に拠点を置く事業者の中には、儲かればいいと粗悪品を安く売りさばいて逃げてしまう事業者も少なくありません。特定商取引法はあるものの、取り締まりに効果的な手段はないのが現状です。

だからこそ、販売の段階でモール運営事業者に事前確認をしてもらうことが有効。PSマークがついているか、第三者機関の証明があるかなど、信頼できる事業者の製品だというエビデンスを求めるだけでも、粗悪品を販売する事業者への牽制になるはずです。

2020年7月には、モール運営事業者へ、違反や事故報告の多いリチウムイオン蓄電池、カートリッジガスこんろ及び携帯用レーザー応用装置の3品目について出品前審査の実施を要請しました。

ーーモール運営事業者を直接法律で規制しないのはなぜですか?
モール運営事業者が製品に対して直接責任を負っているわけではないからです。ただし、一般家庭にインターネットが普及し、コロナ禍もあってネット取引がもはや社会インフラ化している中、モール運営事業者にも一定の社会的責任はあると考えています。

現在提出されている取引デジタルプラットフォーム(DPF)を利用する消費者の利益の保護に関する法律案は、こうした観点からの新法案です。

消費者基本法にもあるように、消費者には自由で多様な購買活動が権利として与えられています。ですから、国は必要最小限の規制しかできませんし、規制する場合で事後規制が原則です。

税関で全ての手荷物の適法性を判断できないのと同じように、ネットモールで販売される製品もすべて国が調べて規制することはできないのです。ですから、モール運営事業者の社会的責任として、ぜひ協力をお願いしたいと思っています。

ーー海外モールについてはどんな対策をとっていますか?
海外のレジストラに対しては、国内法に違反する事業者のHPに閲覧制限をかけるなどの依頼を行っています。令和元年から現在(2021年3月時点)までで、すでに17件行っています。

「販売されているものはすべて安全」という考えを捨てよう

ーー安全性に疑問のある製品が流通している現状を変えるには、何が重要だと思いますか?
私たちが重要視しているのは、消費者教育です。消費者が変われば、製造事業者もモール運営事業者も変わるはず。ですから、消費者には安全な製品を自分で選別して購入する視点をぜひ持っていただきたいと思っているのですが、残念ながら学校教育においても十分な教育ができているとはいえません。

ーー消費者の最大の関心は「安さ」というのが現状ですよね。
でも、たとえば粗悪品のモバイルバッテリーを安いからというだけで購入して、結果火災になって家が焼けてしまったらどうでしょうか?それでも、安いものを選びますか?

たとえば、純正品にはバッテリーマネジメントシステムというものが入っていて、劣化が進んでいる電池が過充電にならないように制御し発火を防いでいます。純正品が高いのはこうしたシステムを備えているからで、価格の高さにはわけがあるのです。

安全の対価を払うという意識を消費者には持ってほしいですね。安全は大切なブランドであり、安全なものづくりを掲げられない企業は決して生き残れません。私たちが製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)を行っているのも、こうした考えに基づいています。

ネットで売られている製品は安全で当たり前だと思わないでください。簡単に世界の製品が手に入るようになった代わりに、安全は自分で判断し、守らなければならない時代が来たのです。少し高くても安全で安心な製品を購入する方向性に消費者の意識を変えていくのが最大の課題です。

そのために、2020年に消費者教育のポータルサイトを立ち上げました。自治体にも、重大製品事故の情報を公表して広報活動に役立ててもらっています。使われている製品や使用状況は地域差が大きいので、国による全国一律の規制ではカバーしきれません。さまざまな方法で、消費者に安全な製品を選ぶ視点を伝えていきたいと思っています。

消費者が安全な製品を選べば安全が当たり前の時代が来る

製品の安全性は、人々の生命や財産に関わるもの。ですから、製造事業者の方には、安全な製品を提供するための仕組みをしっかり社内に構築してほしいと思います。

安全を一つの売り文句として経営の柱にしてください。デザインがどんなに良くても品質に問題があるものが本当に良い製品といえるでしょうか?お客様に安全な製品を提供することこそ、企業の最大の価値のはず。リコールを出すことにマイナスのイメージを持たないで欲しいですね。リコールを出すということは、安全性に真剣に取り組んでいる証拠なのですから。

消費者も、本当に価値のある製品を見極める判断力を身につけてください。消費者が安全な製品しか購入しませんと声を上げれば、ネットモール事業者も安全な製品しか取り扱わなくなるし、製造事業者も安全な製品しか作らなくなる。そういう好循環が生まれることを期待しています。

ECのミカタ通信21号はこちらから


記者プロフィール

濱田祥太郎

新卒で全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャーを経てMIKATA株式会社に入社。ECのミカタでは行政、規制系・老舗企業のEC事例に興味があります。千葉県我孫子市出身。

濱田祥太郎 の執筆記事