アンダーアーマーの快進撃を支える「Commerce Cloud」 SalesforceのCSMが原動力に
世界的なスポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店である株式会社ドームは、Salesforceが提供するクラウド型プラットフォーム「Commerce Cloud)」を導入して以来、ECでの売上を伸ばし続けている。この快進撃を裏で支えているのが、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)だ。ここではそのCSMが具体的にどのような形でアンダーアーマーのビジネスに関わっているのか、株式会社ドームの大竹口智也氏とセールスフォース・ドットコムの河合正成氏、徳重彩子氏に、Commerce Cloudを使用する利点や、顧客とCSMの関係性について語ってもらった。
一人ひとりのお客様にパーソナライズしたアプローチ
――まずはドーム様の概要についてお聞かせください。
大竹口 当社は創業以来【社会価値の創造】を企業理念に掲げています。このビジョンを実現するためのミッションが【スポーツを通じて社会を豊かにする】です。スポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店としてアパレル・フットウェアを中心にプロダクト事業を展開しており、アンダーアーマー事業を通じて、日本のスポーツをよりよくしたい、新しいマーケットや文化、生活などを創造していきたい、と考えています。
――コロナ禍を経て、スポーツビジネスを取り巻く環境はどう変わりましたか。
大竹口 スポーツの市場環境はより多様化が進んだと感じます。ライフスタイルの変化に伴い、今までスポーツに関心がなかった人たちもランニングやトレーニングに取り組むようになりました。また、一般的なアパレル企業がスポーツウェアを、スポーツブランドがライフスタイルウェアを取り扱うなど、カテゴリーを超えたボーダーレス化も進んでいます。
――こうした市場環境の中で、アンダーアーマーはどのようなポジションにあるのでしょうか。
大竹口 アンダーアーマーはスポーツと真摯に向き合うアスリートはもちろん、自身のパフォーマンス向上や「上手になりたい」「強くなりたい」という意志を持った方々をさらなる高みへと導きたいと考えているブランドです。商品の機能やデザイン、素材などはすべて“アスリート起点”で考えられ、実店舗やECでのコミュニケーションにおいても利用者にどのようなベネフィットがあるのかという点にフォーカスして価値を提案するよう心がけています。
――ECで顧客にアプローチする際、特に重要だと感じていらっしゃることはありますか。
大竹口 市場環境が多様化しているとお話ししましたが、利用者個々のニーズも細分化しています。対面接客のできないECでは特に、顧客ひとりひとりに最適な商品やサービスを選定しながらコミュニケーションする“パーソナライゼーション”が重要だと感じます。例えばお客様の購買傾向に合わせて次に買うべき商品をレコメンドしたり、購入頻度の変化に合わせてレベル感の異なる商品を提案したり、こうしたパーソナライズされたアプローチは今後重要性を増してくると思います。
――顧客の興味・関心に合わせて商品やサービスを提供できれば、ブランド価値の向上にもつながりますね。
大竹口 そうですね。そういう意味でCommerce Cloudは顧客のセグメンテーションや商品の並び替え、サイトの最適化を図るためのABテストが簡単にできるので、当社が課題にしていたパーソナライゼーションの実現には非常に効果的でした。また、操作性が良く、商品登録や商品データ修正はもちろん、何か施策を打つ時やプロモーション設計を考える際も便利でした。
ゴールと課題の共有で一体感を
――ここからはSalesforceの河合さんと徳重さんにも加わっていただき、Commerce Cloudの利点やユーザーの支援体制についてお話しを伺います。まずはCommerce Cloudの概要について教えてください。
河合 Commerce Cloudは企業向けのクラウド型ECプラットフォームです。先ほど大竹口さんにもご紹介いただきましたが、拡張性とカスタマイズ性に優れ、人工知能(AI)を活用して消費者ごとに最適化したショッピング体験を提供できます。グローバル企業を中心に6000以上のサイトで導入されており、ここで蓄積した成功ノウハウをお客様に還元できる点も強みです。
大竹口 実際に使ってみて、Commerce Cloudは標準機能のレベルが非常に高いと感じました。顧客を絞り込んで商品を見せたり、個々のお客様に適した商品をレコメンドできたりもします。高精度なAIの分析をさまざまなデータと組み合わせて使えるため、データドリブンな施策の実行ができています。2018年夏の導入以降、EC事業の売上は拡大しており、トラフィックも順調に伸びていますが、あらゆる取り組みの結果、コンバージョン率は約2倍近くにまで向上しました。キャンペーン等の設定が誰でも簡単にできるため、施策のアクション回数も導入前は月1回程度がやっとでしたが、現在は多いときで週1回など担当者自身でサッと設定できるようになり、チャレンジできる機会が明確に増え、PDCAサイクルが高速化した点も当社にとっては大きなメリットでした。CSMがしっかり伴走してくれる点もありがたいですね。
――今お話しに出たCSMは、具体的にどのような業務を行うのですか。
河合 カスタマーサクセスを実現するためお客様と伴走をし、Commerce Cloudの活用支援はもちろん、ゴールを明確化しこれから行うアクションの優先順位を整理したり、成功企業のベストプラクティスを還元したりしながら、お客様の自立・自走を支援しています。
また、Commerce Cloud全体のデータやベンチマークを共有することで、コマース全体の傾向と優先順位づけのお手伝いを行っています。例えば、2021年は2020年のコロナによる影響と比べると成長率が一旦落ちるのでは、という予測がありましたが、四半期毎に更新しているThe shopping indexではQ2 (5-7月)などは、昨年のような伸びはなかったものの、Commerce Cloudユーザーのグローバル平均では昨年のQ2とのYoYは+3%で、日本も同様のレベルでした。その中で、売上までの過程を分解して近しい商材や地域、価格帯のグループとKPI比較をし、アクションの優先順位のサポートをしています。
徳重 例えば定例会では、お客様が現在抱えている課題や新しくチャレンジしようとしていることなどをヒアリングし、当社としてどのような支援が可能かを確認し合います。ベンチマークやKPIなどの指標もチェックしますが、まずはお客様に寄り添い、現状をしっかりと把握することに重点を置いています。
――ゴールと課題を共有しながら定期的にミーティングを行うことで、顧客との一体感が生まれるのですね。
徳重 そうですね。わたしがドーム様の担当を始めたのは、ドーム様がちょうどEC部門を強化されたタイミングでした。メンバーには若手の方も多かったので、改めてEinstein等の標準機能の活用方法などをコーチングする機会をご提案させていただきました。ビジネスのフェーズやニーズに応じてアプローチの仕方や適切な事例をご紹介しています。
大竹口 徳重さんはもともとスポーツ業界にいらしたので、スポーツビジネスについてもご存じですし、事業者の立場でCommerce Cloudを運用されていた経験がありますよね。当社としても共通項が多く、自社で抱える悩みや課題を斟酌しながらコミュニケーションしていただけるのは非常に助かっています。もちろんCommerce Cloudのプロフェッショナルとして、サポートしていただけるのも心強いです。
「ひとりじゃない」という安心感
――今年5月にはCommerce Cloudのユーザー企業を集めた交流会を行ったそうですね。この企画もCSMが主導したのですか。
徳重 はい。業界を問わず多くのユーザー様にお集まりいただき、情報交換の機会を設けました。他企業の事例や課題を知ることで、現在自分たちができていることや、これから取り組まなければならないことを考えていただくきっかけになったと思います。
河合 5月のイベントでは、参加者に関心のあるトピックや質問を事前にヒアリングし、当日それに答えられるユーザー様をマッチングする試みを行いました。手間はかかるかもしれませんが皆さん熱量が非常に高く、活発な意見交換が行われました。
徳重 当社としてもさまざまなフィードバックが得られたので、こうしたイベントは今後も続けていくつもりです。我々が仕切るというよりは、ユーザー企業様同士で議題を設定したり、ファシリテーションしていただいても良いかもしれません。今後は業種をセグメントした交流会も行う予定で、次回のスポーツブランド様向けの交流会では、ドーム様にファシリテーターをお願いしています。
大竹口 同じスポーツビジネスの業界ですし、同じECプラットフォームを使用する“仲間”として共通課題は多いと思います。あるいは各ブランドでまったく違った視点の意見が出るかもしれません。こうした共通点と相違点をあぶり出し、当日はそれをもとにディスカッションできればと考えています。単なる情報交換会ではなく、各社の成長につながるような場にしたいですね。こうした機会を設けていただいたSalesforceには本当に感謝しています。
――ドームにとってSalesforceのCSMとはどのような存在なのでしょうか。
大竹口 Commerce Cloud導入当初から自分たちと一緒に同じ方向を見ながら伴走していただいているので、本当の意味での“パートナー”だと思っています。先ほど徳重さんがEC部門の若手社員向けに行ったコーチングのお話しをされましたが、当時は本当に助かりました。そもそもCommerce Cloudが使いやすいということはありますが、CSMに適宜サポートしていただけたので、習熟スピードが早く理解度も非常に高く、結果として社員がすぐに活躍してくれたことがとても良かったです。ともすればECの業務推進は孤独な作業になりがちですが、自分たちは「ひとりじゃない」という安心感がありました。
徳重 ありがとうございます。CSMとしても施策を一方的に提案するのではなく、お客様の立場に立ってお客様と情報を共有しながら最適な施策を共創していくスタンスで取り組んでいます。
河合 我々のKPIはお客様の成長ですが、CSMがずっと隣で伴走し続けることは必ずしも良い状態とは言えません。定期的にチェックインはしますが、最終的にはお客様が自走できるようにサポートするのが務めだと考えています。だからこそ大竹口さんに触れていただいた通り、機能活用の利便性や操作性、PDCAを定着化させることや、交流会などで“横のつながり”を作る場を提供したり、成功事例を積極的に共有したりしながら、お客様とのコミュニケーションを深化させていこうと思います。