顧客体験を最大化するOMOの実現
2014年からSalesforce Commerce Cloud(以下Commerce Cloud)を使い、自社ECとモールを運営してきた株式会社TSIホールディングスと株式会社セールスフォース・ドットコムは、2021年1月から、TSIの運用ノウハウを活用したECソリューション・CCIPの提供を開始している。Commerce Cloud導入後、売上を約300%まで拡大してきたTSIは、どの様な取り組みを進めてきたのだろうか。
数多くのブランドのECサイトを効率よく展開
別頭 Commerce Cloudを導入いただいたのは、2014年ですね。
渡辺 はい。当時は1モールで全ブランドの商品を扱っていたので、プラットフォームの切り替えを行って基盤を整理しようと思い、Commerce Cloudを選びました。オムニチャネルを推進していこうという販売戦略の一環として店舗とECサイトの連携を強めていくために、自社ECをブランドごとに立ち上げることにしたのです。
鈴木 ECサイトの立ち上げを一つ一つ外部に依頼するよりも、内製化しながら構築していくほうがスピードも出るし、コストも抑えられると考えました。当時はCommerce Cloudのようなプラットフォーム自体が少なかったこともありますが、複数のサイト間で情報を共有しながら、効率的に横展開していきやすい。我々が使いたい機能も揃っていたことがSalesforceを選んだ決め手です。
別頭 Commerce Cloudはグローバル展開を想定したつくりになっているので、各サイトの情報を横展開していくことに長けているという特徴があります。ですから海外展開していたり、マルチサイト展開を行われる事業者様には有効なプラットフォームだと思っています。現に私たちのお客様も、20~30カ国と広く世界に事業展開されている事業者様が多いですね。
岸 Commerce Cloudを導入した直後はCVRが従来から8%程度向上しました。ECサイトの数も違いますし、運営体制の規模拡大、EC事業の推進など複数の要因が考えられるにしても、ここまで数値が上がったのはCommerce Cloudを導入して、さまざまな施策を打ちやすくなったらだと思います。
自社運用でマーケティングPDCAを高速化
鈴木 実際にCommerce Cloudを使ってみて、ブランド内のアイテム構成に沿った商品カテゴリー設定など自由度が高いと思いました。新しいカテゴリーを追加したり、トレンドに合わせて構成を変えることも多いので、自由度が高いことにメリットを感じています。
渡辺 各ブランドでお客様にお見せしたい世界観を表現できていると思います。ブランド側のポリシーを尊重しながら、ここまでECサイトを構築できたことはすごいことです。
向山 例えばABテストを外部に依頼すると、全てのデータを把握できないし、結果が出るまで時間がかかるといった話を聞きます。Commerce Cloudは、内製でマーケティング施策を簡単に実施できるという点は価値の一つだと思っています。
岸 おっしゃるとおりです。お客様のことを一番理解していなければならないのは内部のスタッフです。施策と向き合ってPDCAを繰り返し、ナレッジを蓄積していくのが最善であるのに、その作業を外部に委託すると、ECサイトにおける顧客行動に関するナレッジが蓄積されていきません。お客様の嗜好はますます多様化していくはずです。多様化すればするほど、内部に専門性を備えておかなければスピード感ある適切な対応ができなくなりますから、マーケティングを内製化できたことは我々にとって、とても意義があると思います。
具体的な機能の例を挙げると、顧客の購買情報や属性を元にしたセグメント別のプロモーションは導入当初から相当活用しています。他にもEinsteinを活用したレコメンドやサイト内検索など、本来なら外部のツールを利用しなければならない様なこともでも、標準機能を利用して社内で実施できたので、コストを抑えて様々な新しい取り組みを行うことができました。
メンテナンス負荷を軽減し顧客中心のEC運用を
向山 メンテナンスの工数の多さにチームが辟易としているという話は、お客様からよく聞くお悩みの一つです。我々のお客様はマルチブランドを展開されていることが多いのですが、Commerce Cloudの場合複数のサイトを運用していてもバックエンドは基本的に一つなので、スピード感をもって調整いただけると思っています。
鈴木 現在はEC事業に関わる約160名のメンバーをチームとして集約させています。ECサイトの運用チームを縦串、マーケティングやCRMといった専門性の高い領域を担当するチームを横串としたマトリックス組織を組んで、EC戦略に基づいた運用を行っていますが、どのECサイトを担当しても運用方法のベースは同じ環境です。新しいスタッフにはOJTを通してナレッジを高めてもらいます。プラットフォームが使いやすいため、担当者が変わるといった運用面の変化にもスムーズに対応できます。
岸 1年間で10サイトくらい立ち上げた時期もありましたが、1サイトを最短で2カ月くらいで完成させることができました。エンジニアやデザイナーを内部に抱え、内製化できる体制を整えてきたこともありますが、普通では考えられないスピードです。これも横展開しやすいCommerce Cloudだから実現できたことだと思っています。
それからデザインの変更なども、フロントエンジニアがいれば、内包されているCMSで対応できます。簡単な作業であれば経験の少ないスタッフでも直観的に変更できる。それがクイックアクションにつながっています。
渡辺 セール時にトラフィックが集中してECサイトが落ちてしまうという課題があったのですが、それもクリアしています。まったく落ちないというのもSaaSプラットフォームの魅力ですね。
新しいEC構築運用サービス・CCIP
別頭 2021年1月に、TSIとOSF Global Japan(OSF)、そして我々の三社で、CCIPという枠組みを発表いたしました。これは我々の提供するCommerce CloudをOSFが導入を行い、またTSIが運用内製化の支援を提供するという枠組みです。ECはシステムを使いこなしてこそ売上が上がる世界です。ベンダー側の支援も大事ですが、お客様側のノウハウによって成果が大きく左右されると感じています。商品点数が多く、ECが難しいとされるアパレル業界は、特に運用のノウハウが重要だと思っています。
渡辺 事業者様の規模やステージよって提供する支援内容は変わると思いますが、我々が行うのは運用業務ではなく、内製化のための支援です。我々も最初は外部の力を借り、彼らに学びながら内製化を進めてきましたし、Commerce Cloudのユーザー企業として、他のユーザー企業と同じ課題を抱えてきました。我々が何を考え、どう調整してきたのかをお伝えすることが、ブレークスルーのお手伝いになるのと考えています。
向山 このサービスは一般的なコンサルティングとは決定的に違います。それはTSIの実体験から得たノウハウを提供いただける。加えてすでに成果を出されている事業者様のノウハウに触れられる機会は本当貴重だと思います。
渡辺 顧客体験の最大化という観点からすれば、今後はよりOMOへの取り組みが重要になってくるはずです。ECと店舗がシームレスに繋がり、お客様にはその時々で便利なチャネルで商品の検討をしていただいたり、お買い上げいただける様に準備しておく。
一人ひとりのお客様に最適化された顧客体験を提供してゆくためには、モールだけではなく自社でECを運用し、お客様と「直接的」な関係を構築してゆく必要があります。そのためには、自社ECの強化が必要不可欠なのです。この様な事業を通して、アパレル業界全体のさらなる活性化に少しでも貢献できたら、と考えています。