Ship&co×FedExが語る年末商戦、越境EC事業者にはどんな準備が必要?
消費者にとってクリスマスは1年を締めくくる楽しいイベント。しかし、受注が急増する時期だからこそ、EC事業者の中には、苦い思い出がある人もいるのではないだろうか。
年末を迎える11月は、年末商戦を乗り切るための準備をする大事な時期だ。年末に向けてどう備えるべきか、クラウド出荷管理システム「Ship&co」のベルトラン・トマ氏と、FedExマネージングディレクターの清澤正弘氏に話をうかがった。
世界的に大型のイベントが続く年末
――Ship&coベルトランさんから伺います。EC事業者にとって、年末とはどういった時期でしょうか?
ベルトラン:扱っている商品にもよりますが、基本的に11~12月はピークシーズンです。特に越境ECをやっている場合、11月末はアメリカの「ブラックフライデー」や「サイバーマンデー」、中国では11月11日の「独身の日」など大きな商戦があります。
もちろん12月には世界的なイベントであるクリスマスもあります。この時期にセールを開催する国もあるので、セールとクリスマスのギフト需要が重なって、12月25日まで連日多くの注文が入ります。
ECならではのユニークな商品を探している人も多いので、年末は「日本にしかないもの」を売るチャンスが満載と言えますね。
清澤:我々も11月と12月の前半2~3週をピークシーズンと位置づけています。年末商戦は特にアメリカが顕著で、私たち日本人は年間を通して買い物をしますが、アメリカでは年末に集中的に買い物をする習慣があります。そういった商習慣はネット社会になっても変わらず、年末商戦が盛り上がる傾向は今も続いています。
コロナ禍で欠かせない越境EC物流の3ステップ
――年末に向けて、EC事業者にはどんな準備が必要ですか?
ベルトラン:年末商戦の需要をしっかりとらえるために、まずはSNSやメルマガなどを活用したマーケティングが重要です。当社では11月~12月末にかけて、ほかの時期に比べ5倍ほどの数のメルマガを打って積極的に情報発信をしています。
物流の観点から言えば、普段より在庫を多めに仕入れることが前提になります。その上で、注文件数が普段の2倍、3倍に増えてもうまくオペレーションが回るような仕組みを構築しなければなりません。そのためには在庫管理から発送業務までのフローを組み立て、できる限りデジタル化していくことが必要になります。
清澤:年末商戦はギフト需要が多く、特にクリスマスプレゼントの場合はクリスマスまでに相手に届かないと意味がありません。いつも以上に「いかにして届けたい場所に届けるか」が大事になってきます。
特に今年は、配送業者によっては一部のサービスを停止していて、特定の国に荷物が送れない、あるいは送れたとしても到着まで1ヵ月かかるケースも出てきています。まずはその国や地域に荷物が送れるのか送れないのか、またどのくらいで送れるのかを確認し、確実に届けられるサービスを選ぶことが重要になります。
――FedExの場合、配送先の国や地域に制限はあるのでしょうか?
清澤:配送が混雑していると遅れが生じることもありますが、当社の場合、どの方面にも荷物を送ることができます。ただし現在は、国際配送業者各社とも、1回に受け入れられる物量に制限があります。物量が多く、制限に引っかかってしまうと1日で発送しきれなくなるため、配達が間に合わない恐れが出てきます。
そうならないよう、各社の制限を確認した上で、「何件まで受注できるか」「いつまでに発送すれば間に合うか」を逆算して設計する必要があります。
①送れるかどうか/到着までにかかる日数の確認
②物量制限の確認
③いつまでに発送すれば間に合うか逆算
今年の物流においては、これら3つのステップを踏まえて受注に制限をかける、早めの注文を呼びかける告知をするといった対策が重要になってきます。
――「今年」という枕詞がつくのは、コロナの影響で航空便が減っていたり、需要が高まっていたりという背景があるからでしょうか?
清澤:おっしゃる通りです。理由は2つあって、ひとつは国際線旅客の激減で航空便の多くが運航休止になっていることです。旅客便の客室下には貨物スペースがあり、旅客便で運ぶ貨物が航空貨物全体の45〜50%を占めているのですが、多くの国際線の旅客便が止まっているため供給が少なくなっています。
もうひとつは、各業界で経済活動が再開し、貨物の需要が増えたことです。コロナ禍で入国制限を設けている国もあり、運航上の制限も多いことから、航空便を増やしたくても増やせないという事情があり、航空貨物が逼迫している状況です。
大切なのは商品の「ストーリー」を伝えること
――海外の消費者の日本の製品への注目度はいかがでしょう?購入してもらうためにはどんなことがポイントになりますか?
ベルトラン:私たちが扱っているお弁当箱の場合、日本のカルチャーのファンだけではなく、料理好きのお客様も多く、自分や大切な人のために良いものを求めています。
ただし、単に「メイドインジャパン」というだけで買ってもらえるわけではなく、購入してもらうためには商品ページのコンテンツがとても重要になります。
質の高い写真が必要なのはもちろん、詳細な商品情報を記載する必要があります。単なるモノとして提示するのではなく、「この商品は職人さんがひとつずつ大切に作っています」など、商品のストーリーを伝えることを意識しています。
「職人さんがこんな風に作っています」ということを写真や動画で見せることで、「届いたら楽しく大切に使いたい」と、お客様の意識が変わるんです。
――コロナ禍で売上にはどのような影響がありましたか?
ベルトラン:実店舗が休業していた関係で、店舗売上は減りましたが、ECは特にアメリカからの注文が増えています。当社では日本にしかない鍋やフライパン、包丁なども販売しています。マーケティングのやり方を変えたというのもありますが、家にいる時間が増え、自分で料理をしたいという人が増えたことが背景にあります。
10年前に越境ECを始めたころは8割がフランス向けでしたが、今は6割以上がアメリカ向けになっています。アメリカは市場が大きいですし、FedExを使うと2日~1週間以内で届くのでアメリカ国内と大差ありません。アメリカは税関もそれほど厳しくなく、通関もスムーズです。
アメリカのお客様は、国内で買うのとそれほど変わらない感覚で越境ECを利用しているのではないでしょうか。
――日本の商品を海外で売りたいEC事業者に向けて、アドバイスをお願いします。特に注目の市場やトレンドがあれば教えてください。
ベルトラン:先ほど挙げた通り、アメリカは人口も多いですし、ECを利用する人も多いので、ビジネスチャンスの大きい市場です。ニッチな市場もたくさんあって、例えばアメリカにはアジア系の方も多いので、アジア系の方向けの韓国ブランドの化粧品やファッションなどもよく売れています。
また、メキシコをはじめとする南米はEC市場が伸びていて、日本のポップカルチャーが好きな人が多いので、アニメグッズやゲームグッズがよく売れています。
どの国や地域に向けて売るにしても、成功しているのは言語やマーケティングなどのローカリゼーションをうまくやっているEC事業者ですね。
越境ECの発送業務の苦労から生まれた「Ship&co」
――クラウド出荷管理システムの「Ship&co」が生まれた経緯を教えてください。越境ECをされる中で発送業務が大変だったことから生まれたとのことですが、なぜ自前でシステムを作ろうと思ったのでしょうか。
ベルトラン:2011年のクリスマスシーズンのとき、1日100件ほどFedExの荷物を発送したことがあります。1件1件発送先の情報をコピー&ペーストして送り状を作っていたので、1件3~5分かかっていたんです。その作業をいかに効率化するか考えたことが、Ship&coのアイデアの元になりました。
Ship&coを開発する前に、アメリカのソリューションを使ってみたことがあります。FedExとShopifyと連携はしていたものの、アメリカ国内向けのアプリだったので、送り状は作成できても通関に必要なカスタムインボイスは作成できず、別途自分たちで作るのが非常に大変でした。
それで「自分たちでソリューションを作るしかない」と思うようになったんです。自分たちが苦労したことや不便に感じていた経験から、「こんなサービスがあったらいいな」と思うものを作りました。
――サービスを設計する上で、特に気を付けたポイントはありますか?
ベルトラン:社内とディベロッパー、倉庫のスタッフから毎日フィードバックをもらいながら、UI/UXを重視して設計しました。倉庫内でのオペレーションやFedExの送り状作成のステップなど、すべての実務を理解しないと本当に便利なサービスは作れません。
Ship&coは、ShopifyやeBay、BASEなどのショップと連携すると、アカウント作成から送り状作成までが10分程度で誰でも簡単にできるように設計しています。
――Ship&coの導入で、業務時間はどのくらい削減できたのでしょうか?
ベルトラン:90%程度削減できました。以前は1件あたり3~5分ほどかけて送り状とカスタムインボイスを作成していましたが、その作業が自動化できました。
今よりもスピーディに、また使いやすさを更に追求して日々アップデートを行なっています。
――今後、Ship&coというサービスはどこを目指していくのでしょうか。ビジョンをお聞かせください。
ベルトラン:越境ECはもちろん、国内向けにEC事業をやっている事業者さんも含め、あらゆるEC事業者さんに使っていただきたいです。国内のさまざまな配送業者とも連携しているので、個人事業主から大規模EC事業者まで、どんなEC事業者さんでも便利に使えるサービスを目指しています。
日本の良いものを世界に広めるお手伝いをしたい
――Ship&coを利用している事業者が、FedEx Expressサービスを最大83%割引で利用できるキャンペーンを開催されていますね。今回のキャンペーンはどのようなEC事業者様に活用してほしいとお考えですか?
清澤:越境ECへの参入障壁を下げるためにも、今回Ship&coさんとの共同キャンペーンを立ち上げました。越境ECビジネスは成功事例が取り沙汰されがちですが、実際には始めてみたもののうまくいかずやめてしまう人もたくさんいます。物流面が複雑でつまずいてしまう人も多いので、両社のキャンペーンを活用することで物流面でのつまずきを軽減し、越境ECに参入してからもうまく立ち回れる事業者様が増えることを願っています。
世界を見渡しても、日本ほど良い商品をたくさん持っている国はほかにないと思います。「メイドインジャパン」には伝統的なものからアニメのようなポップカルチャーまで良い商材が山ほどあるので、「日本の良いものを世界に広めたい」と考えている方々の成功を後押ししたいですね。
Ship&coはBtoCに特化し、ムダをそぎ落としたわかりやすい設計になっています。スタートアップにも使いやすい料金設定なので、越境ECの発送業務の課題を解決する良いシステムだと感じています。越境ECをこれから始めたい人にも最適ですね。
ベルトラン:事業規模を問わず、越境ECに取り組んでいるものの、物流面での課題に直面している事業者さんや、新しい発送方法を考えている事業者さん、また越境ECを新たに始める事業者さんに使っていただきたいです。「越境ECはそんなに難しくないよ」と伝えたいですし、すぐに越境ECビジネスが始められるよう、マーケティングと物流の面で準備のお手伝いができたらと思っています。