日本のものづくりを続けるために 世界に発信していく
越境EC・海外WEBマーケティングの世界へボカン株式会社(以下、世界へボカン)と国際輸送物流のDHLジャパン株式会社(以下、DHLジャパン)では、すぐれた日本の製品について、その魅力を海外に広め、届けるアンバサダーとして協力関係を築き、国内メーカーを支援している。今回は、世界へボカン株式会社 代表取締役 徳田 祐希氏と野本早希氏、DHLジャパンの林奈緒子氏、そして実際に両社との取り組みにより、海外向けECサイトの運用を改善した伊田繊維株式会社(以下、伊田繊維)の伊田将晴氏に、取り組みの詳細について伺った。
着物の卸売から、作務衣をメインとしたEC販売へ
――伊田繊維社の事業概要を教えてください。
伊田 当社は、昔から絹の町と知られる群馬県桐生市で、和装品メーカーとして創業しました。着物市場は1980年代には1兆8千億円規模まで成長しましたが、現在は七五三や成人式などイベント需要に頼る形となり、レンタルする方も増えました。
そこで今、当社では現代に合う和装として、作務衣をメインに和のくつろぎをご提供しています。もともと作務衣は問屋に対して着物の脇役として販売していたものでしたが、普段和装をしないような人へもその魅力を伝えたいと思い、2009年に作務衣メインの国内向けECをスタートしました。
現在、自社サイトはBtoB向けとBtoC向けがあります。当社は社内に職人がいて、小ロットからのオリジナルオーダーに対応可能。BtoBでは、おもに旅館やホテルのくつろぎ着としてご利用いただき、経産省の「ジャパンブランド育成事業」にも認定されました。BtoCでは、より買いやすく、広く商品を知っていただくために、楽天市場やAmazonなどのモールにも展開。実際に商品を見たいというニーズにお応えして、実店舗も工場に併設しています。
和装や日本の精神性を広めるため、市場が広がる海外へ
――なぜ越境ECをスタートしようと考えたのでしょうか。
伊田 自社サイトは完全日本語なのですが、海外の方が探し当てて、作務衣を購入してくださることが増えてきたのです。ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、シンガポールなどの先進国には、日本の文化に親しみのある方が少なくないとわかりました。コロナ前には実店舗にも、旅行に訪れたフィンランドやノルウェーの方が作務衣を見にきてくださったこともありました。
こうして海外からの需要をキャッチしたことに加え、私が作務衣を海外で売りたいと思った理由は3つあります。
1つは作務衣を通じて、日本人の精神性や、伝統、文化の良さを世界に発信するため。
2つめは、着物より手軽に着用できる作務衣を広め、和装市場の裾野を世界で広げるため。
3つめは、日本市場への危機感です。着物の国内市場はピーク時の9分の1となっており、今後の人口減少も考えると、ものづくりや職人の雇用を守るためには世界に売っていく必要があると考えました。
――海外での販売は、初めからスムーズに展開できたのでしょうか。
伊田 いいえ。海外ECサイトは6年前に、現在とは別のサポート企業の「3ヶ月で3つの海外販売プラットフォームに出店する」という企画を利用して制作しました。「とりあえずサイトを作れば売れる」と思っていましたが、商品の見せ方がわからず、注文数も増えませんでした。
国内サイトですと顧客属性や購入後の商品の利用方法もだいたいわかるので、サイトの文言や写真、デザインなどもどう工夫すればよいかわかりやすかったのですが、海外サイトの顧客は年齢層もバラバラで、活用事例もつかめないため、サイトの方向性を定められずにいました。
そのうちサポート企業と連絡がとれなくなってしまい、3つのうち1つのプラットフォームの更新が終わるタイミングで引っ越しを決めました。
本気で海外に売るために、伴走してくれる企業を求めて
――現在はShopifyを使ってサイトを改善し、世界へボカン社に運用マーケティングを、DHLジャパン社に発送を委託されています。
伊田 海外販売にはShopifyがよいという評判を聞いていたので、まずShopifyさんに相談しました。サイトを作るだけでなく、本気で海外に売っていくために伴走してくれる企業はないかとたずねたところ、世界へボカンさんを紹介されたのです。実績を拝見し、実際に担当者の方とお会いして、当社の要望についてできる部分とできない部分を丁寧に説明してくれました。
契約の有無に関わらず、当社の運用に役立つ情報をいただけたのも好印象でしたね。売るための100項目のチェックリストを見せていただき、当時の当社は6点くらいだったのですが「あと94点も伸びしろがあるから頑張りましょう」と現状に即した具体的なアドバイスをいただけました。
サイトを作って終わりではなく、中長期的な目線で、双方にメリットがあるよう伴走していただける印象を持ちました。
それ以前から海外発送はDHLさんにお願いしていました。別会社で発送をしていたこともありましたが、コロナ禍で発送できない事態となり、顧客にご迷惑をかけてしまったのです。そこで自社航空便を持ち、サービスレベルが高いと評判のDHLさんにお願いすることにしました。
――世界へボカン社と、DHLジャパン社は「作務衣を海外で販売する」という取り組みについて、当初どのような印象をもたれましたか。
徳田 世界へボカンでは伝統工芸品のマーケティングを15年以上手がけており、日本で一番作務衣を作っている伊田繊維様からお声がけいただけて光栄に感じました。
伊田繊維様は製造だけではなく、減少傾向にある伝統工芸職人の育成もしておられます。職人とお客様をつなぎ、エンドユーザーの声をものづくりに生かす努力もされている。社内に職人さんがいるから、小ロットからオリジナル商品が作れるところも他社では真似のできない強みです。
伝統工芸品の販路を海外に拡大する動きは増えています。大量生産や外注では形だけ真似されてしまいますが、伝統的な製法で細かいニーズに合わせたものづくりをしている伊田繊維様にはチャンスがあると思いました。
林 伊田繊維様の商品は「いい素材を使って職人さんが丁寧に作っている」という、海外の人が日本製品に求めるニーズをすべて満たしていると思います。
本格的に海外販売していこうという熱意は、お話しする中で伝わってきました。これまでも、通関など発送に関わる課題でお困りの企業様を数多くサポートしてきた事例がありましたので、伊田繊維様も全力でサポートさせていただきたいと考えました。
顧客インタビューからサイトの見せ方、カテゴリを見直し
――世界へボカン社とはどのような取り組みをされたのでしょうか。
伊田 現在も進行中なのですが、既存の海外ECサイトを改善しています。
世界へボカンさんとの話し合いでサイトの方向性がクリアになり、優先順位も決めながら、会社概要や商品原稿の書き直しなど、1つ1つ着実に進められるようになりました。
野本 伊田繊維様の海外のお客様に対して、その方が感じる作務衣の魅力や、実際どういうふうに着用しているかといったインタビューも行いました。その結果、お客様は作務衣を部屋着として着用したり、禅の効果を感じたり、質感や素材からリラックス効果を得たりしていることがわかりました。
そこで「作務衣」というジャンルではなく、「ルームウエア」「リラックスウエア」などのくくりで紹介し、素材の良さも訴求するなど、お客様のニーズに沿う形の表現に変えることもしました。
徳田 せっかく気持ちを込めていい商品を作っていても、ECサイトではそれを見える化できていないことも多い。またお客様が、たくさんある商品のうち、どれを選べばいいのかわかりにくいことも少なくありません。インタビューを通して顧客理解を深めることで、マーケティングの方向性を明確にできます。
伊田 海外ECサイトを見直す中で、自社商品についてどういう言葉で誰に対して説明すればよいかが整理できたので、国内ECサイトも改善中です。
発送スピードが大幅にアップ。トラブル時の対応も安心
――DHLジャパン社に発送を依頼したことで、どのような変化がありましたか。
伊田 昼に出荷すると当日発送ができ、アメリカなら早くて翌日、ヨーロッパ主要都市なら現地時間の中1日とスピーディーに届くようになり、発送に関するレビュー評価も上がりました。
以前は顧客が不在で商品が届かない場合、時間が経ってから当社に返ってきてしまっていましたが、DHLさんに切り替えてからは、不在の場合は「先方のメールアドレスを知っていますか?」などの連絡が来て、すぐに対処できるようになりました。インボイスを作るのもシステム化されているので出荷の手間が減り、海外向けにしっかり届くよう、梱包資材も見直していただきました。
また世界へボカンさんの指摘で気づいたのですが、DHLさんで発送していること自体も顧客の信頼を得られるメリットです。サイトでもそこをしっかり打ち出すことにしました。
日本製にこだわり続けるからこそ、世界に出ていく
――3社での取り組みに関して、それぞれ今後の展望をお聞かせください。
林 今後も伊田繊維様のものづくりや、その商品を世界中に届けたいという情熱を大事にしながら、安全、確実、スピーディーに商品をお届けしてまいります。そのことで商品を作る方、売る方、買う方、そして当社とみんながハッピーになり、いいものがどんどん世界に広まっていく、という好循環を生み出せれば幸いです。
そのためにシステム面も日々改善しています。伊田繊維様には、今後Shopifyなどのストアサイトと連携したDHLの無償ツールをご紹介する予定です。受注オーダーデータから、数クリックで運送状とインボイスの作成ができますので、間違いなく出荷管理/工数をさらに削減できると考えています。
徳田 伝統工芸のものの価値や、その背景にあるストーリーは、作り手からすると当たり前のものなので、お客様への伝え方がわからないというケースは多い。今後も作り手である伊田繊維様とお客様両方の声を伺いながら、どういう価値を、どう海外に打ち出すかという戦略を立てて伴走していきます。
野本 越境ECへ参入する事業者様を支援し、購入者へ伝える側として、我々は製品の魅力を一番理解しないといけません。伊田繊維様の作務衣に関する細部のこだわり、職人様の働く環境への気配り、作務衣を世界に届けたいというお気持ちを汲み取りながら、今後も3社で支援させていただきます。
伊田 一緒に伴走してくれるパートナーがいることは心強く、安心感があります。日本のものづくりは高齢化、後継不足などによって過渡期にあります。生産拠点を海外に移す企業も多い中で、当社は単なるものではなく、着るだけで姿勢を正すような精神性を含んだ作務衣にこだわり続けたい。それを世界に発信し、次の世代にバトンタッチしたい。そのためには適正価格できちんと売らなくてはいけないわけですが、そこを2社とも相談しながら進めていきたいと考えています。