“BtoB-EC”が働き方を変える。業務のデジタル化がもたらすものとは?【セミナーレポート】
近年、BtoB-ECはかつてない盛り上がりを見せており、経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2020年のその市場規模は約334兆円にも及ぶとされる。実際のところ、BtoB-ECは企業にどのようなメリットをもたらし、今後どのような可能性が期待されているのだろうか。
2022年2月18日、「イーコマースフェア東京2022」(於:東京ビッグサイト)にて「キープレイヤー4社が語る!コロナ禍で進むデジタルシフトとBtoB-ECの最新動向」と題した主催者企画枠のパネルディスカッションが開催された。株式会社Dai取締役の鵜飼智史氏がファシリテーターとして進行を担当し、BtoB-EC業界を牽引する他3社とともに、デジタル化がコロナ禍や働き方にもたらした変革、そして未来の展望を存分に語り合った。
<登壇者>
・株式会社Dai 取締役 B2BソリューションDiv. マネージャー 鵜飼智史氏(ファシリテーター)
・株式会社アイル BtoB EC推進統括本部 江原智規氏
・株式会社ネットショップ支援室 ソリューション営業部 執行役員 営業統括部長 三宅晋平氏
・株式会社ジェーエムエーシステムズ 営業部統括マネージャー 岸直之氏
業務効率化と売上アップをもたらす——BtoB-ECの「3rdウェーブ」
パネルディスカッションでは、まず株式会社Daiの鵜飼氏がBtoB-ECの歴史を振り返るところからスタートした。
1stウェーブと称されるBtoB-ECの黎明期には、オフィス用品の通販を行う「ASKUL」や工具通販の「モノタロウ」がインターネットで法人や事業者に対して直販を開始。その後、ネットで小売業者に卸売を行う「スーパーデリバリー」や「NETSEA」に代表される2ndウェーブを経て、現在は、BtoB-ECサイトを自社の業務フローに組み込んで運営できる3rdウェーブの台頭が目立つ。
3rdウェーブのBtoB-ECは、今までオフラインだった社内の業務をオンラインに更新する。FAXや電話での注文・受注はカート注文・データ受注になり、テレアポや展示会で行っていたリード獲得はWEB広告やコンテンツマーケティングに、そして対面での営業活動はWEB面談に変わる。導入に当たっては、中小の取引先の受注チャネルとして活用することがポイントだ。
こうした特徴を持つBtoB-ECは、受注や問い合わせ業務を効率化すると同時に、新規顧客の開拓や顧客接点の強化などを通じ売上アップにも貢献すると鵜飼氏は話す。
そしてコロナ禍が続く現在、さらに注目したいのが「ニューノーマルな働き方」への効果だ。
もはや避けることはできない。「Withコロナ」のデジタル化に貢献
現在第6波を迎え、今後しばらくは「Withコロナ」として、非接触型のビジネススタイルの流れが避けられないと予測される。それに伴い、業務体制もそうした変化に対応することが必須となりつつある。
実際にコロナ禍の発生後、さまざまな企業が困難に直面したと鵜飼氏は話す。
例えば、これまで営業スタッフが対面での受注や納品、集金を行っていた企業は、感染症拡大防止のために接触を極力避ける流れから、業務自体が立ちゆかなくなってしまった。こうしたケースにおいて、株式会社Daiの「Bカート」は受注から請求、配送までをオンラインで完結することを可能にし、コロナ禍に対応する業務フローを実現するとともに、非接触型ビジネスへの転換を支援してきた実績がある。
業務効率化の事例として、株式会社ネットショップ支援室の「楽々B2B」を導入したケースでは、毎月132時間もかかっていた営業マンの入力工数をゼロに削減したことに加え、毎月の仕入れ額がタイムリーに見られるようになったことで、現場からも喜びの声が寄せられたという(三宅氏)。
また株式会社ジェーエムエーシステムズのケースでも、紙カタログ中心の訪問対面型の営業を、WEB商品紹介サイトとオンラインWeb会議ツールの組み合わせでリモートセールスにアップデートしたり(岸氏)、株式会社アイルでも、「アラジンEC」の商品検索機能により、電話問い合わせの件数を年間8,000件削減することに成功している(江原氏)。
従業員のライフワークバランスを改善。人材採用にもプラスに
対面からリモートへと「働き方」に大きな変化をもたらしたコロナ禍において、業務効率化の面からBtoB-ECは大きく貢献したと言える。
しかし、BtoB-ECの可能性はそれだけに留まらないと鵜飼氏は指摘する。
アドビ株式会社の「業務のデジタル化と会社への満足度に関する調査結果」によると、企業の選定理由として業務のデジタル化が進んでいることをどれだけ重要視するかという設問に対し、「とても重要・どちらかと言えば重要」と応えた人数は、回答者の7割以上に及ぶ。またテレワークやデジタル化が進むと社員満足度が高くなるという傾向も得られており、デジタル化は人材採用にも影響することが分かっている。つまり、アナログだった業務フローをBtoB-ECの導入でデジタルに置き換えていくことは、採用面での企業の魅力向上にもつながるのだ。
さらに、BtoB-ECは従業員のライフワークバランスにも良い変化をもたらす。
株式会社アイルの事例では、「アラジンEC」の導入によりある食肉卸企業で業務の約50%に当たる年間3,000時間の労働時間が削減されたことで、定時に帰ることが可能になり、職場の雰囲気も柔らかに変化。働く環境が改善されたと現場から好評だと言う。別のアパレル企業でも、展示会業務に伴う集計作業の効率化がスタッフの精神負荷減に貢献し、週休3日をめざせる体制が可能になったそうだ(江原氏)。
このように、BtoB-ECは単純に業務の効率化や利益の拡大に役立つだけではなく、従業員の「幸せ」にも貢献する。「働き方改革」の観点からも、BtoB-ECは大きな意味を持つと言えるだろう。
バックヤードの自動化に越境BtoB-EC。更なる進化に期待が高まる
パネルディスカッションの最後には、BtoB-ECの今後の展望についての意見が交わされた。
鵜飼氏によると、株式会社Daiの顧客事例では、あるスタートアップ系企業が「Bカート」の導入によりバックヤードを完全に自動化することに成功。従業員がより顧客とのコミュニケーションや商品開発に時間を割けるようになるなどの改善がもたらされたと言う。通常、大手企業が多額の費用をかけてシステム構築するような課題を、BtoB-ECがクリアし、スタートアップ企業に実現させた点でこの意義は大きい。
また株式会社ネットショップ支援室も「楽々B2B」とオンラインマーケティングにより、ある企業に「営業マンが1人もいない体制」を実現させている(三宅氏)。さらに、株式会社ジェーエムエーシステムズは、国内需要が飽和したり、海外販売が頭打ちとなった際の「越境BtoB-EC」や、元々サロンなどを通じて購入していた商品を消費者が直接購入できる機能を実装しながら、消費者の所属サロン情報からインセンティブを代理店に支払う「BtoBtoC」の成功事例を説明(岸氏)。今後の幅広い活用に期待が込められながら、企画講演は幕を閉じた。
2000年前後の1stウェーブからスタートし、3rdウェーブと呼ばれるビジネスモデルを築くBtoB-EC。
導入企業の業務効率を改善させ、コロナ禍に不可欠なデジタル化を実現すると同時に、従業員の「働き方」を改善し、人材採用にも良い影響をもたらすことが、今回のセミナーで改めて明らかとなった。
今後のBtoB-ECとその進化に、引き続き注目したい。