越境ECは何からはじめればいい? 国際輸送のプロフェッショナルと越境ECコンサルタントの特別対談
巣篭もり需要を受け、EC業界は盛り上がりを見せている。とはいえ国内市場は限られており、海外にも販路を広げようと越境ECを目論む事業者も多いことだろう。今回、越境ECプラットフォームであるイーベイジャパン公認コンサルタントの皆様と、国際物流大手のUPSとの対談の機会を設けた。越境ECと国際物流のプロフェッショナル同士の対談から、越境ECにおける勝ち筋を探る。
コロナ禍を受けて 国際物流のトレンドは変化した
松田(UPS):日本で越境ECを営む場合、どのように海を越えるかが非常に重要になってきます。皆様はその辺りについてどのようにお考えでしょうか。
荒井:2019年に出版した書籍の中で、日本郵便を使えば海外発送も難しくないということを書きました。しかし出版の半年後にコロナが到来し、状況が大きく変わります。その時に脚光を浴びたのがUPSさんをはじめとするクーリエ(※国際宅配便のこと)での発送でした。
コロナ禍や戦争の影響で国際物流がダメージを受ける中、クーリエ各社は変わらず物を運んでくださっています。越境ECをこれから始めようという方の中には、荷物をきちんと送れるのか心配される方もいらっしゃいますが、UPSさんやその他のクーリエ各社のおかげで安心できるということをお伝えしたいですね。
本山:私はコロナ以前から日本郵便とクーリエ各社を並行して使ってきました。ただ、特に個人の方の中には配送コストの高いクーリエ各社を利用することに高いハードルを感じる方も多かったようです。
しかし実際に利用して感じたのは、お客さまがとても喜んでくださることです。海を超えているとは思えないスピードで、「アメリカで買うよりも早い」とアメリカのお客さまに驚かれたこともあります。
越境ECは盛り上がっている 競争優位を取るための秘策とは
西脇:おっしゃる通り、越境ECを行う限りは必ず海を越えなければならない。その点、運びやすくて梱包もしやすい小さい物はレッドオーシャンになりやすいです。
小さくて軽い物を売っている販売者さんが多い中、大きくて重いものも取り扱う戦略は非常に有力です。なぜなら、越境ECで勝ち抜けるかどうかはいかにニッチなポジションを取れるかにかかっているからです。
ただしその場合、取り扱ってくれる運送会社が限られてしまいます。越境ECでは、海という障壁をいかに超えるかが勝負の分かれ目です。だからこそ、まるで東京から北海道に送るような感覚で、日本からアメリカに物を送る運送会社を選択する必要があります。
荒井:越境ECと普通のECの違いは、やりとりが英語になることを除けば配送方法の違いにすぎません。日本でECをやった経験があれば、それをクーリエ各社やその他の海外配送手段を活用して、発送先を海外にするだけなので実はそんなに難しいことではないです。
山下:おっしゃる通り、越境ECだからといって特別なバックグラウンドが必要なわけではありません。頭を使って汗をかけば、未経験でも十分に勝機はあります。
ただ、コロナで潮流は大きく変わったので、それを捉える必要はあります。特に輸送手段を変えざるをえなくなったことが大きく、ビジネスのやり方も大きく変わりましたね。たとえば私の場合、売上はコロナ前の最盛期の半分くらいにはなりましたが、利益額は1.5倍ほどになっています。臨機応変に対応することで勝機を見出すことは十分可能です。
越境ECだからこそ成立するビジネス
松田(UPS):いまインフレ・円安だと言われています。値決めを調整したりしているのでしょうか。
山下:私の場合は、為替を自動取得するシステムがあるので、それに合わせて値段も自動的に変わるようになっています。
本山:私は逆に、為替などはあまり気にせずにビジネスをしています。というのも、細かい値付けよりも購入者が欲しい物を売っているかどうかが重要だからです。
むしろ、日本で普段使っているものが高く売れることも多くあります。たとえば一般的な調理器具が思いのほか人気だったりします。
荒井:私は日本からの人気商品であるフィルムカメラをメインに輸出していますが、高くても欲しいという海外バイヤーはたくさんいます。また、変わったものとしては、かなり古い木版画の写真集を売ったこともあります。世界は広いので、こんなものも欲しい人がいるの?と驚くことがたくさんあります。
西脇:越境ECをやっていると、購買力のみならず購買意欲が高い方に巡り合うことも多いですよね。欲しい物があればきちんとした対価を払って買ってくださります。自分が販売する付加価値をどのように表現するかが価格設定で重要だと考えます。
越境ECの注意点 大切なことは情報収集
松田(UPS):なるほど、越境ECだからこそ売れる物があるということですよね。一方で、越境ECをやる上での注意点などあるのでしょうか。
本山:まず最初に考えるべきは、その商品を海外に発送できるかです。国ごとによって規制がある場合があります。そして、eBayのようなプラットフォームで販売する場合には、プラットフォームのルールを遵守することも大切です。
西脇:そういう意味では、現代社会では無料で手に入る情報も増えました。もちろん情報の信憑性は自己責任で確かめなければなりませんが、アクセスできる情報は格段に増えています。
関山(UPS):たとえば弊社でも、UPS TradeAbility®(トレードアビリティ)という一般のお客さまにもご利用いただけるツールを公式Webサイトにご用意しています。「ここからここに、こういった物を送ることができる」などの情報が手に入ります。また、有料にはなりますがSTTASというHSコードの付け方や通関の規制などを含めてコンサルティングを行うサービスも提供しています。セラーの皆様にとって売りやすい環境を整えることが大事だと考えております。
ただしおっしゃる通り、まずはマーケットプレイスのルールブックに従うことが大切でしょう。その上で運送のルールや国ごとのルールをご確認いただく。注意深くビジネスを展開していただきたいと考えております。
本山:国境を超える分だけ学ぶべきことも多くなるのは当然ですが、昔に比べて格段に越境ECがやりやすくなっています。必要があれば私たちのようなコンサルタントにもご依頼いただければと思います。
関山(UPS):実際UPSにも、越境EC初心者の方からのご依頼も増えています。従来はEコマースに慣れている方ばかりだったのですが、今まで以上に様々な方がUPSをご利用くださっている印象があります。もちろん弊社にも営業員がおりますので、物流に関するアドバイスを含め様々な角度からサポートさせていただけます。
西脇:究極のところ、輸送を制すればECを制することができると私は思っています。送れるものしか売れないのが越境ECなので、UPSさんのような運送会社のサービスをよく知っていくことが越境ECの鍵を握っているといえるでしょう。
松田(UPS):弊社では、お客様の利便性を何よりも重視しています。アメリカには現在、荷物をお受け取りいただける22,000ヶ所のアクセスポイントを設置しており、そのアクセスポイントから5マイル以内に全米の92%の人口がお住まいです。配達日や配達方法などをオンラインから指定できるUPS My Choice®というサービスとセットで、便利にお使いいただけます。自社機・チャーター機を合わせて約600の輸送機を使うことで、安定的にお荷物を各国に届けられるネットワークを構築してサービス提供を行っております。
西脇:遅延なくきちんとお客さまの手元に届かないと不安につながり、返品のリスクも高まってしまいます。UPSさんのオンタイム輸送のおかげでeBayのセラーたちも助かっています。