EC事業者の「今後のあるべき姿」のヒント続出! 10月5日「ECのミカタFESTA」1日目ルポ
今年15周年を迎えたMIKATA Groupは、主力サービスである、EC通販業界の課題解決型ビジネスポータル「ECのミカタ」を運営する中で「パートナー企業、利用者、通販事業検討者が交流する新たな場を作りたい」という想いから、このたび「ECのミカタFESTA」を開催した。
「EC通販事業者の今後のあるべき姿とは」をテーマに、東京・恵比寿のザ・ガーデンホールで行われた同イベントの1日目は、39のEC通販支援企業による出展ブースが並び、オンラインも含め計8組による基調講演も行われ、あいにくの雨にもかかわらず多くの参加者が訪れ、オンライン配信も大盛況となった。
この記事では1日目の基調講演の概要をご紹介する。いずれも見逃し配信があるので、気になる講演は動画でもぜひチェックしていただきたい。
Vol.1「爆伸びECの新規獲得&CRM絶対法則と最新テクニック」 株式会社ダイレクトマーケティングゼロ代表取締役社長 田村雅樹氏
化粧品、健康食品の通販企業を中心に計600社以上の顧問・コンサルを行う同氏が、独自理論や、クライアントの売上を20倍以上上げた実績をもとにアドバイスを展開。通販起業が“爆伸び”するためには、「成功モデルからの統計による伸ばしどころの瞬間把握」と「KPI鬼揚げの法則化&それを実践する力」が必要だとした。
「爆伸びするにはまず、事業が伸びるための方程式=ユニットエコノミクスを知ること。たとえば新規顧客が伸びても離脱者が多ければ当然ながらその事業は伸びていない。定期顧客などの優良顧客が増えているかどうかが重要。利益が出ているかどうかも見るために、LTV―変動費―CPAが0より低い状態になっているかどうかを求める。LTVに対してCPAが2倍以上あればその企業は伸びやすく、最低でも1.7倍は欲しい。またボトルネックを見つけて改善することも重要。ボトルネックがLTV、CPA、変動費のどれなのかを調べるには、他社と基準値と比較してもっとも乖離のある部分を改善すればいい」と田村氏はアドバイスする。
CPAを下げるには下記のポイントがあるという。
・齟齬をなくす。韓国美容をイメージさせる広告なのに、遷移先記事には韓国についての内容がないなどの齟齬は、顧客の期待を裏切ることになるので避ける。
・ファネルに応じて説得。顧客の不安を払拭するため、フェーズによって説得方法を変える。AMIDAS理論=Attention(気づき)→Motivate(共感、未来像)→Interest(興味) →Desire(欲望喚起)→Action(行動・申込) →Share(共有)により、今買うことでどういうメリットが得られるかを示すことが重要。
商品のメリットを訴求するには、商品、人の動き、テキストを活用。商品で注目してもらうなら、たとえば大量に泡が出てくる炭酸化粧水など、見ただけで「凄い」と感じられるものが強い。そのほか人の動きによってテクスチャーを見せる、インパクトのあるコピーを読ませるなどの方法もある、と田村氏。
メリットの次はReason(動機)として、直接的な効果と、結果その先にどういう未来があるかを示すことも大切。LP前半では商品の話はせず、第三者目線での体験コメントなどを紹介して顧客に共感してもらう。中盤以降で「〜賞受賞」「〜大学と共同開発」など信憑性、納得感を提示し、後半は「キャンペーン中」「なくなり次第終了」など、今買いたいと思わせる内容を示してDesire、Actionを喚起する。さらにメーカー視点で機能説明や、人気が高いことなどを示し、購入に結びつけることが有効だとした。
チャットからの離脱を防ぐには、あらかじめどこで離脱されやすいかを確認する。購入画面入力前が多いなら「今買わないともったいない」「購入が面倒ではない」ことなどを再度伝える。クーポンの特別付与やプレゼントも有効だが、それらを「受け取る・受け取らない」など答えやすい設定にし、顧客の工数を減らす。確認画面で離脱されやすい場合も、パスワードや名前のふりがなを省略するなど入力数を極限まで減らす。
なおLTVの上げ方で今多いのは、つど購入の人に定期購入を、単品買いの人に複数購入を進めるなど、既存顧客になるべくLTVの高い購入の仕方をしてもらう手法。ボットで購入喚起する場合は短いほどよく、自然な流れでアップセル、クロスセルを狙っていく。その後は「今購入された商品と相性のいい商品がある」などThanks(感謝)としてクーポンやプレゼントを提示しながら、強くアップセル、クロスセルを推すとよいとのこと。
最後に田村氏は「KPI鬼揚げの法則」について説明。14年間、600社超のKPIを改善し続けた経験から「有名企業が無名なところから爆伸びしたのは弊社で方程式をつくり、地道にそれを実践し続けただけ。ぜひ自社でも挑戦し、できなければ気軽に相談してほしい」と締めくくった。
Vol.2「EC店舗とお客様をつなぐこれからのLINE活用術」 株式会社伊藤久右衛門WEB営業部部長 足立容子氏×LINE株式会社マーケティングソリューションカンパニー バーティカル事業部 楠木修平氏
京都宇治に店舗を構える老舗のお茶屋であり、楽天ショップオブザイヤー9回ほか数多くの賞を受賞、LINE経由のオンラインショップ年間売上が1980万円にものぼる伊藤久右衛門が行うLINE施策について足立氏が紹介、楠木氏がLINEの機能について解説した。
楠木氏によれば、現在LINEは、国内の月間利用者数が9200万人、スマホを使う人の92.5%と圧倒的な利用率。企業店舗のLINE公式アカウントは39万社あり、開設数は昨対比127%。昨年7月にスタートした公式アカウントからヤフーショッピングへの送客は、3万件を超えるストアが活用する。友達追加や友達へのセグメント配信、友達数の推移などの解析もできるLINEはGMV2倍となっており、その理由は開封率や流入率(クリック率)がメルマガと比べて非常に高いことにある、と楠木氏。
伊藤久右衛門でもメールマガジンと比べて開封率3.5倍、流入率3.7倍。足立氏は、同社のLINE公式アカウント施策で行った3ステップを紹介した。
ステップ1 導入前に、目的・目標・運用体制を考える
配信の内容がぶれないよう、伊藤久右衛門では
1、 売上拡大のため新しい販売チャネルにする
2、 お客様と接客・コミュニケーションツールとして活用
3、 メルマガからの売上減少が深刻なため上位互換として実施
と目的を定めた。
配信の成功は目標数値がないと判断できないため、いつまでに何人の友達をつくるか、何月に何円の売上をつくるかなどの目標を定め、PDCAを回していくことにした。
LINEは即時性が高いツールのため、判断が早いほど成果につながるとし、運用は事業決裁権がある人が担当。コンテンツはユーザーに刺さる内容を配信しないとブロック拡大につながるため、配信内容の決定とレポート改善には熱量と時間を割く必要があり、日々最適化しながら1、2年など中長期的に取り組み、まずは友達を集め、顧客との距離をしっかり縮めていく必要があるとした。
ステップ2 導入後に考える3つのポイント
1、リソース配分は、配信企画40%、友達集め20%、レポーティング20%、クリエイティブ作成15%、配信設定5%とした。友達集めLPを作成したことで、全体の約30%、チラシへの掲載で全体の10%、購入完了画面で全体の60%の友達を獲得。カートの横などCV率が高い部分に導線をつくるのがポイント。
2、配信企画はリピーターを対象とし、過去に成果が出た企画を参考にする。顧客が喜ぶ企画以外は出さない。効果があったのは、4コマ漫画を使ったキャンペーン紹介、テレビ番組と連動したメッセージ配信。お客様参加型のクイズ企画からのクーポン発信など。
3、クリエイティブは、LINEのメッセージは1通で3つの吹き出し(情報)を送信できる機能を活用。1吹き出し目はテキストを送信して全体の内容を細かく説明。3吹き出し目のリッチメニューは顧客がクリックするものなので注力する。動画の送付も可能なので、商品の使い方やストーリーなどを伝えたい時などに活用。
ステップ3 配信時の注意点
無料メッセージ配信数に制限があるので、ニーズの高い人に絞って送ることが重要。たとえばホワイドデーは30代男性に絞り、通勤通学、お昼休みなど開封されやすい時間帯に配信した。フューチャーショップを活用し、ポイント期限切れのリマインド配信や会員ランク別のメッセージ、個別に誕生日のお祝いメッセージなども配信している。
楠木氏は、LINE公式アカウントで今後実装される機能として、アンケートを実施し、その回答データをもとに最適なメッセージを配信できるサービスを紹介。さらに最適化された配信により、顧客とのつながりをタイトにできる未来を予感させた。
Vol.3「一人ひとりの個性を価値化したい急成長するパーソナライズを基軸としたD2Cブランド」 株式会社Sparty 取締役 榊原幸佑氏
パーソナライズD2Cを展開し、販売300万本を突破したシャンプー「メデュラ」を筆頭に、スキンケアやサプリメント製品も手がける同社が、パーソナライズビジネスの先駆者として把握したTips5選を紹介。
Tips1、なぜパーソナライズ製品を買うのか
パーソナライズ製品は、自分で選ぶのは嫌だが、興味がある人向けのもの。
自分に合うものを自分で選ぶのが難しいが、ちゃんといいものに出会いたいという人がいる分野であり、かつ企画として新規性があるかが大事。
Tips2、具体的なパーソナライズ製品の始め方
まずSKU数を決める。いまある商品を特徴に応じてマッピングしてみると、何を軸にできるかが決まる。その軸をどのようなラインナップの商品で埋めるかを決めれば、SKUが決まる。マッピングが埋まればよく、SKUが多い必要はない。軸に沿って、パーソナライズの振り分けやアドバイスに必要な質問や、キービジュアルのデザインを決める。
Tips3、利益ベースLTVについて
LTV−(変動費―原価+資材費+送料作業日+決済手数料)=一人の顧客から得られる利益。
利益ベースLTVを伸ばす方法は継続率だけではなく、クロス率を上げる、売価を上げる、原価を下げることも有効となる。そこで製品・資材・物流などの原価に注目。メデュラは創業依頼、380円→250円→180円と原価を下げることに成功している。ロットを増やしたり、良質なパートナー企業を見つけたことで、クオリティは落とさずに200円下げることができた。
矛盾するようだが、利益ベースLTV最適化には罠もある。同社では2018年から2019年にかけて、企業価値を上げるために発送単価を上げるなど、LTVを優先して営業利益の最大化を図っていたが、連続的な右肩上がりの売上成長ドリブンができなくなった。そこで会社的には継続率にも目を向けるようになった。LTVは大切だが、連続的な利益売上貢献をするビジネスにするためには継続率も重要。
Tips4、店舗展開について
パーソナライズシャンプーは高価であり、ドラッグストアに行けばシャンプーはたくさんある中でなぜ売れるのかというと、その理由は顧客の「購入時の迷い方の違い」にある。
ドラッグストアでシャンプーを買う人の比較対象は他社製品だが、メデュラの購入者は「今きれいな髪を手に入れるか入れないか」の二択。コスパで判断されにくく、世界観を提示して感性に訴えかけないと売れない特性があるため、同社ではオンラインでは自社サイトで、オフラインでは店舗に出店することで世界観をアピールしている。オフラインで販売する場合、ベストは路面店だが、集客難易度やイニシャルコストが高いため、百貨店の丸井に出店している。
Tips5、TVCMのバイイングについて
安くテレビCMを実施するためには、相見積もりをとらないこと。局に話ができる人が間に入ることによって、CM単価が大幅にカットできることも少なくない。テレビCMを検討している企業はぜひ相談してほしい、と榊原氏。
榊原氏は「他にも良質なパートナー企業を見つけることも重要」とし、同社のパートナー企業として、先に登壇した田村氏のいる株式会社ダイレクトマーケティングゼロや、今回出展したEC、D2C企業のオリジナルパッケージ製作から倉庫選定までのバックエンドをサポートする株式会社shizaiなどを紹介。パートナー企業次第で、パフォーマンスが大幅に変わってくることを熱く語った。
Vol.4「様々なEC運営から見えてきた“なぜ今「D2C」なのか”その勝ち筋と限界について」 株式会社DINOS CORPORATION CECO 石川森生氏
株式会社ディノスコーポレーションのCECOほか、株式会社bydesignの取締役社長としてD2Cの家具を今期来季で売上30億まで導き、トレンダーズ株式会社の社外取締役、ルームクリップ 株式会社のCEO室長等も兼任する同氏が、ディノスやルームクリップの事例をもとにアドバイス。
カタログショッピングやテレビショッピングを展開するディノスは「Everything has a story」をテーマとし、石川氏はサイズや素材をオーダーできる家具ブランドkanademono(かなでもの)を立ち上げた。一般のオーダー家具より格段に安く早く提供できるのが特徴という。
ルームクリップ 株式会社が運営するルームクリップは、ユーザーが家の中のお気に入りスペースを投稿してコミュニケーションを楽しめる、SNS的要素の強いプラットフォーム。石川氏はこのルームクリップにEC機能をつけた。実際にユーザーが買った家具を家に組み込んだあとの写真やコメントが投稿されるという特性から、見る人が使用感を得られやすく購入のヒントにしやすいという、一般のECモールにはできないメリットを提供している。
・デジタルマーケティングの潮流
日本のEC化率は中国、アメリカ、イギリスに次いで4位であり、コロナ禍でもさほど伸びなかった上に、Amazonですら全米の小売の7%とウエブの限界を感じる数字が出ている今、ECだけに頼るのは厳しい。
Amazonはデジタルデータを分析してリアルの方向に進み、完全無人のリアル店舗「Amazon Go」を開設。中国のタオバオも会員限定のリアル生鮮食料品店を開いている。今、トップ企業はリアル側につなげに行っている。
・D2Cとは何か?
それまでの産業構造は大きなマーケットに対してスタートアップ企業が参入しにくいものだったが、D2Cはその構造を突き破るためのソリューションだと石川氏は理解する。日本ではコスメ、健康食品の売上の9割はドラッグストアやバラエティショップだが、その棚を押さえるためには費用と実績が必要であり難しい。しかしD2Cはネットを活用し、web上で大勢にファンを作り出すことで棚を取ることができるようになった。
アメリカでサブスクモデルの髭剃りを製造販売するダラーシェイブクラブは2012年に創業、YouTubeでのPRを中心に費用をかけずに棚を取る権利を得た後、2016年にはユニリーバーにより1000億円で買収されている。
・D2Cは世界観が必須
コアなファンをつかむためには、ソリューションとして世界観を研ぎ澄ませるべき。そこで石川氏が立ち上げた家具ブランドKanademonoでは人物の顔のロゴを作り、フルCGで作った雰囲気のある部屋の画像と合わせ、見る人の頭に残るビジュアルを展開している。
世界観とスケールメリットはついてこない。世界観を追求するとニッチなファンはつくが、大きくするとファンが離れるので、30〜50億円規模くらいがちょうどいい。それ以上にするなら別のECサイトを作った方がいい、と石川氏。
・D2C時代の顧客接点とリテンション
Kanademonoの商品は家具なので、ほぼリテンションはかからない。そのため継続的なビジネスとして、ルームクリップにECサイトを置いて運営。ルームクリップは20〜40代女性を中心に月間600万人が利用し、30代の約3人に1人がアカウント持っていて、累計500万枚以上の実例写真が投稿されている。
必然的にインテリア好きな人たちのコミュニケーションが発生するため、そのすぐ横にECサイトを置いてみた、と石川氏。6万商品を扱い、Kanademonoで買った人がルームクリップを使うことで、映り込んでいる別の家具にリテンションがかかるしくみとなっているという。
さまざまなD2C企業において事業再編を行ってきた石川氏の独創的なアイデアには、ヒントがぎっしりと散りばめられていた。
このほかWEB基調講演として、福助株式会社✖️ブランジスタソリューション小宮章太郎氏、Rokt合同会社×株式会社カスミ、「ミウラタクヤ商店」株式会社モリノス、株式会社ハックルベリーがそれぞれの得意分野や知見に基づいたアドバイスを披露。講演では熱心にメモをとる参加者も多かった。
会場では「コンシェルジュツアー」も行われ、担当ガイドが出展ブースの位置と、業種ごとのサービス内容、導入メリットや注意点、パートナー選びのポイントをレクチャー。参加者がよりポイントを押さえながらブースを回れる配慮があった。各ブースでは熱いやりとりが交わされる様子が多くみられ、活況に沸いたイベント初日となった。