注目のUGCだが、ただ貼り付けるだけでは効果は期待できない
ユーザー(消費者)自身が制作し発信源となるコンテンツである“User Generated Contents(UGC)”、いわゆるユーザー生成コンテンツが昨今のECマーケティングで注目を集めている。
UGCという言葉そのものは少々目新しいが、ユーザー(消費者)が、購入・使用した商品などについての感想や評価をネット上でオープンにすることは以前から当たり前になされてきた。購入後の感想を描き込むレビューなどは、まさにUGCそのものである。では、なぜ今、UGCが改めて注目されているのだろうか。
UGC活用に関してバイアニア的に取組みを進め、運用型UGCツール「Letro(レトロ)」を軸に、EC事業者にUGC運用サービスを提供しているアライドアーキテクツ株式会社の取締役 CPO プロダクトカンパニープレジデント村岡弥真人氏に、UGCが注目される背景、有効なUGC活用のための注意ポイントなどについてお話しを伺った。
企業発信による商品アピールでは、消費者に響かなくなっている
——昨今のECにおける課題はどのようなものがあるとお考えですか?
村岡 コロナ禍を背景に、ECで買い物をすることが当たり前だと消費者の意識が変わったことで、EC市場が拡大するとともに、競争環境がある種の健全化の方向に進んでいるなと感じています。
以前のECマーケティングでは、売る側(事業者側)の論理に則ったハック主動というか、ハック偏重のマーケティング戦術が重視されてきたと思っています。たとえば、クッキーデータでユーザーを追い掛け回すようなマーケティング戦術ですね。“買わせるための方策”が主流でした。
しかし、EC市場が成長・成熟していく中で、そのようなハックを主流にした売り方は決して顧客志向ではないということに、消費者も事業者も気づき始めました。
むしろ大切なのは、“買わせるためのテクニック(ハック)”の前にある「商品(サービス)のベネフィットやUSPを、どうやってユーザーにコミュニケーションしていくか」という本質的なマーケティングの課題を考えるようになったのが、昨今のECの状況だと考えています。
——本来の顧客志向、ユーザーオリエンテッドなマーケティングが重視されるようになったということですね。
村岡 はい。以前のように、事業者側が自分たちに都合のよい情報だけでユーザーとコミュニケーションをはかろうとしても、もはやユーザーは事業者側の発信する情報だけで購買の意思決定をするということはほぼありません。
基本的な体験として、あるユーザーが「この商品は良さそう」だと思っても、すぐに購入するのではなく、インスタグラムや、YouTube、さらにはツイッター上の情報や評判なども確認して、その上で納得づくで購入を決定するという流れが一般化しつつあります。この状況は、ある意味で、本来の購買ジャーニーだといえるのでないかと思っています。
こうした購買ジャーニーの中では、情報接点のあちこちで、ユーザーはUGCに接触しており、その情報に大きく影響を受けています。
以前にも、レビューなどを積極的に活用しようという動きはありましたが、どちらかというとオマケ的な位置づけでした。
しかし昨今は、顧客の声と向き合うことの重要性に多くの事業者が気づき、一気にUGCがクローズアップされることになったのです。顧客の声と向き合うというのは、まさに顧客志向の第一歩といっても過言ではないでしょう。
UGCが注目される背景には、こうしたコミュニケーションの健全化、本来の顧客志向への回帰があると考えています。
UGCを効果的に活用するには、しっかりした“UGC活用設計”が不可欠
——EC事業者が、具体的にUGCを活用する上でのポイントなどはあるのでしょうか。
村岡 UGCを活用する上で大切なことはいくつかあります。特に大切なのは、実際にその商品を購入してくれた一般ユーザーのUGCを得ることです。もちろん、いわゆるインフルエンサーを活用して施策としてUGCを収集することも大切ですが、それだけでは駄目で、しっかりと一般ユーザーからのリアルなUGCを獲得することが重要になります。
できる限り多くのUGCを収集したら、それをどう活用するかをきちんと設計することが不可欠です。
たとえば、インスタグラムで、たまたまあるコスメブランドの事を知って、そのブランドサイトを初めて訪問したようなユーザーに対しては、「このブランドが、今流行っている」という内容のUGCは、非常に効果を期待できます。
しかし一方で、そのコスメブランドをすでに知っていて、指名で検索してブランドサイトにやってきたユーザーに対して、「このブランド、今流行っています」というUGCを見せても、「それはわかっている。わかっているから、サイトに来ている」と思われるだけで、何も響くものはないでしょう。
むしろ、そういう来訪者に対しては、「私は長く、愛用しています」とか、「満足度が高いです」といったUGCの方が響く可能性が高くなります。
そのユーザーは、どこから、どんな動機で、そのサイトを来訪しているのか、具体的にいえば、オーガニック検索で流入するユーザーと、ネット広告経由で流入してくるユーザーと、あるSNSチャネルを経由して流入してくるユーザーごとに、ターゲット・インサイトを明確にして、そのターゲットにマッチしたUGCを掲載しなければ、本当にUGCを活用していることにはならないのです。
ターゲットセグメントを考察したり、インサイトを洞察したりして、どのシーンでどんなUGCを使うかを戦略的に設計することなく、ただやみくもにUGCをサイト等に貼り付けただけでは、効果など上がりようがないのです。
そこを理解しないままに、無計画にUGCを使ったものの成果が上がらずに「UGCなんていっても、たいして効果が出ない」と評価するEC事業者もいます。しかしそれはUGCがいけないのではなく、うまく活用できていないというだけなのです。
UGC活用でスピーディに効果をあげるには、最適なパートナーが不可欠
——実際にUGCを活用して効果をあげるには、やはりそれなりのノウハウが必要だということですね。
村岡 私たちアライドアーキテクツの場合も、UGCの活用をご支援する場合には、最初にクライアント様の媒体・チャネルを確認します。その上で、「ここでは、こういう情報が不足しているから、こんなUGCを活用しよう」ということを、媒体ごと、チャネルごとに分析して、どうUGCを運用していくか、という視点で提案をしています。まさにUGCの活用は“運用”なのです。一度掲載したら、それでおしまい、ではなく、より効果を高めるために、ユーザーのインサイトに合わせて、最適にUGCを“運用”していくことが大切なのです。
もし、こうした戦略的なUGCの運用設計ができるEC事業者ならば、外部のパートナーと連携することなく、安価なUGCの表示ツールだけ提供を受ければ、あとは自社内のリソースで効果的な運用が可能かもしれません。
しかし、もし、その設計部分をしっかりとやりきることが難しいようなら、UGC運用に長けた外部のパートナーと連携をとるべきです。
全体的なマーケティング戦略の中で、UGCをどう位置付け、どうやって運用していくべきかを設計できないと、UGCで成果を出すことは難しいのだということは肝に銘じていたたきたいですね。
たとえば、当社がUGCの運用をお手伝いする場合には、「オーガニック検索で入ってくるLP、ディスプレイで入ってくるLP、SNSで入ってくるLP」などを分けて検証し、“SNS経由のCVRは、1.2倍になりました”と、きちんと成果が上がってから、“では次にオーガニック検索のLPについて取り組みましょう”というように、段階的に取り組んでいきます。すでに触れた通り、入口が違うということは、ユーザーの動機が違うのですから、入口ごとに、どんなUGCが必要かを設計して実施・運用することがとても大事なんです。
そこをやりきるノウハウがないのであれば、外部パートナーとの連携をぜひ検討すべきで、最適な外部パートナーとタッグを組むことが、スピーディーに効果を上げるキー・ポイントだといえるでしょう。