キユーピーのD2Cサービス「Qummy」開始1年で見えてきたものは【前編】
キユーピーが2022年9月28日、D2C(Direct to Consumer/消費者直販)の新サービス「Qummy®(キユーミー)」を立ち上げた。マヨネーズトップシェアのキユーピーがなぜこのサービスを始動させたのか。その背景と開始から1年間の成果について、キユーピー株式会社 カスタマーサクセス室 室長の宮下亨氏に聞いた(本記事は前後編の前編となります)。
キユーピー商品サイトの会員数は1年間で、5万人を突破
今では食卓に欠かせないサラダだが、その食文化を日本に広めたのはキユーピー株式会社(以下「キユーピー」)。1925年(大正14年)に、日本で初めてのマヨネーズ「キユーピー マヨネーズ」の製造・販売を開始した。1958年には、日本で初めてドレッシングを発売。日本のサラダの歴史に貢献してきた。そのキユーピーが、2022年9月28日に、D2Cサイト「Qummy®」を関東地方(伊豆諸島・小笠原諸島を除く1都6県)でスタートさせた。
同日、キユーピー商品サイト内に、会員専用の新サービス「Hi! kewpie」もオープン。これら2つのサービスは、kewpie IDに登録すると使える。開始から1年で会員登録者数が3万人を超え、現在は約5万人が登録している。 また配送エリアも2023年9月28日より、関東以外にも大きく拡大(※)。これを機に売上を伸ばしているという。
(※)現在の配送エリアは関東地方(1都6県。東京都の離島、一部地域を除く)、東北地方(青森県、秋田県を除く4県)、中部地方(9県)、近畿地方(2府5県)
商品ラインアップの中心は、パッケージサラダにトッピングを組み合わせて楽しんでもらう「サラダセット」のほか、「Qummy」オリジナル商品のドレッシングやスープ、独自技術で特許も取得している「冷圧フレッシュ製法®」(食品を低温・高圧処理することで、より素材本来の味わいを維持しながら日持ちを延長できる技術)で製造した惣菜サラダなど。さらに、植物由来の原料で卵らしさを楽しめるプラントベースフードとして注目を集めている「HOBOTAMA(ほぼたま)」も同サイトで販売している。
お客様のことを、もっと知りたい
食品メーカーとして長い歴史を持つキユーピーだが、ビジネスの根幹は卸を通じて取引するリアル店舗。
「Qummy 立ち上げの背景にあった課題は、『私たちはお客様のことを知っているようで、知らないのではないか』ということでした。お客様と直接つながることで、より提案力が増すのではないかという思いで始めたのがこの事業です」
宮下氏は生活用品を取り扱う通販会社の商品責任者を経てキユーピーに入社。前職では食品飲料部門だったので、キユーピーも取引先の一つであり、良いところがたくさんあることがわかっていた。また大手の食品メーカー各社が、自社ECでなかなか成功事例を作ることができていない状況も理解していた。そんなEC小売に詳しい宮下氏が、Qummy の立ち上げに際して最も苦労したのは、スタッフの意識改革だったという。
「これまでは、卸様を通じて店頭に置いたところである意味ビジネスが成り立っていましたが、Qummyは利用者にダイレクトに販売をしていく小売業でもあります。普通のリアル店舗とは、利用者の買い方が違う。これまではそういうことをあまり意識してこなかったと思うので、その違いを周知させることが最初の難関でした」と宮下氏は振り返る。
「例えば、『国産にんじんドレッシング』という非常に素晴らしいと自負している商品があります。私たちのECサイトに入ってもらえれば、その素晴らしさを伝えることはできますが、一般的な検索サイトではまず上位に上がってこない。なぜなら『国産にんじんドレッシング』は世の中にたくさんあって、その中に埋もれてしまうからです」
自社商品を検索ワードの上位に上げるようにするためには、利用者との接点を増やすことはもちろん、そのためには利用者インサイトを深く理解し、検索されやすいワードなどを商品名や商品詳細に盛り込まなければならない。ECでは何から買っているかの順番もわかり、ついでに何を買っているか、どの商品の閲覧タイムが何秒間かまで把握できる。そこから利用者のインサイトを深く読み取り、どのような人が何を目的にサイトを訪れているかなども分析できる。
「利用者の行動を把握するためにテクノロジーを使うことが一番正確で早道で、そこに自分たちの価値が見えてくるはずなので、元々持っているキユーピーグループのアセットをうまく活用または組み合わせることが大事だということを、繰り返し伝えました」
データから利用者の“顔”が見えてきたことで、掲げているペルソナをもとにした仮説も立てやすくなった。そこにECとリアル店舗との差があり、そのデータから得られた仮説を、キユーピーグループの商品開発に役立てていくことを視野に入れている。それが本当の目的ともいえるだろう。
「ただ、これは常に循環している話で、データ分析から得られるお客様の行動や特徴は変化していきます。ある価値をお客様に提供すると、その時は納得してくださったとしても、また別の価値を求めるようになるので、お客様とはいつも追いかけっこをしているようなもの。いわば、終わりなき道ですね」。(後編に続く)
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