ECで成功するための「2つのポイント」とは? 「自分たちで作ったものをお客様に届ける」重要性~DHC髙谷成夫会長インタビューVol.2

ECのミカタ編集部

MIKATA株式会社代表の小林亮介による、株式会社ディーエイチシー(以下、「DHC」)髙谷成夫代表取締役会長兼CEOへのインタビュー第1回では、「レガシーブランドとしての立場と“今”必要な変革」について、お話しいただき「本当に戦えるような企業になっていくためには、まずは自分たちの中に『本質』をしっかり持つことが重要」など、全ての企業にとって大切なキーワードをいただいた。第2回となる今回は、「ECで成功するためのポイント」について、直球勝負での対談となった。

ジャンル規模の過拡大によるリテール化…オリジナリティが見えづらく、専門性も希薄になってしまう

小林亮介(以下、小林) DHCは通販化粧品の先駆的な存在ですが、今ECで成功するには、何が重要とお考えですか。

髙谷成夫代表取締役会長(以下、髙谷) 僕は大きく2つのポイントがあると思っています。

1つは自らの立ち位置、その専門性をしっかりと持つこと。そのためにも取り扱う商品・サービスの幅を拡大し過ぎないこと。DHCはありがたいことに約1600万人ものお客様にご利用いただいていますが、その規模の大きさゆえに、近年は幅広い商品を取り扱うリテール(小売)業に近くなっています。

もともとはお客様の課題を解決する商品を、手ごろな価格で提供し、利便性を持って提供する──という独自性を持った形でスタートした化粧品メーカーでしたが、健康食品というヘルスケアのジャンルに参入し、さらに医薬品、アパレル、ペットケア商品と、ジャンルを拡大し続け、ホテル運営やヘリコプター事業まで手掛けるまでに事業を拡大してきました。ジャンルを広げた分、お客様の数は確かに増えましたが、それぞれのお客様に対して多種多様なものを販促を駆使して提供する、小売業の性格が強くなり、それが行き過ぎると、会社の原点──オリジナリティが拡散して見えにくくなりますし、専門性も失われていくという弊害も生まれました。

「自分たちで作ったものをお客様に届ける」という製造小売業としてのあり方を強化

小林 それは、総合通販会社大手が現在置かれている厳しい状況にもよく表れていますよね。

髙谷 そういった一面もあるかもしれません。もしリテールビジネスで勝とうとするならば、リテールビジネスの勝ち筋で戦わなければなりません。でもAmazonが登場し、ドラッグストアも企業再編でどんどん規模を拡大しスケールメリットを出そうとしています。彼らのようなスケールを当社は持ち得ないので、結局は勝てないわけです。なんでもできる、ということは、見方を変えると、なんにもできないということになりかねない。自分たちが戦うべき土俵を改めて明快にする必要があり、それが自分たちの強み、それは自分たちの存在価値を見つめ直すきっかけになると考えています。
一方で、リテールの部分は、お客様とのタッチポイントとしては重要で、これは当社の強みである、最終的にお客様の課題を解決する商品を手元にしっかりと届け、サービスを通じて体験していただく、という部分において、必要なのです。

小林 単にモノを売るだけのリテールではなく、独自性を保持するということですね。2点目のポイントは何でしょう?

髙谷 もう1つは、リテーラーにはない、「自分たちで作ったものをお客様に届ける」という製造小売業としてのあり方を強化していくということ。製造という上流から、販売という下流まで、全てを持った上で、自分たちのオリジナリティを出せるというところが当社の強みであり、そこの強化に注力することが重要だと考えています。

いろいろな会社がすでに販売し、実際によく売れているような商品にちょっと差をつけて出すというのが、一番利益をあげやすい形ですよね。だから、企画として上がってくるのは当然で、否定はしません。ただ事業や会社というものは、長期的な利益をあげていかなければ成立しません。ですから、時代やお客様のニーズの動きを長期的に考えて商品を企画開発する必要があります。

例えば今ヘルスケア領域のサプリメントでいうと、機能性表示食品がビジネスとして主流になりつつあります。これは機能性表示食品で効果効能がある程度うたえるようになったからであり、ボリュームゾーンであるシニアのお客様の悩みに対応し得る商品を提供する機会があるからです。当然、そのビジネスはやっていかなければなりません。でも、特定の領域では同業他社・類似商品はたくさんありますし、その領域だけで戦い続けるのは非常に厳しい。だから視点を少し先の方まで持っていく必要があるのです。

ウェルビーイングな世界観を実現! エイジングをいかに遅らせるかとかという発想の商品開発も

小林 「一歩先の視点を持つ」ということは、経営者にとって非常に重要ですよね。先には、どのような景色が見えていますでしょうか?

髙谷 これまでDHCではビューティーケアやヘルスケアのジャンルにおいて、お客様の悩みを実際に解決する商品を、高い品質と価格訴求力をもって売るということで支持されてきました。でも前回お話したように、それを習慣化してもらわなければなりません。そのためにもう一段上の、 “ウェルビーイング(Well-being:心身ともに健康で、かつ社会的にも満たされた状態)”な世界観を実現していきたい。ウェルビーイングとは当然フィジカルの部分からスタートするのですが、メンタルやソーシャルの部分にも深く関わってきます。

やはり幸せは、人と人との関わり、社会との関わりの中で生まれていくので、その関係性作りのために貢献しうることを提供していける会社になっていくこと──それが、今、掲げている目標の1つです。

今DHCとして強化しようとしているのは、人生100年時代を見据えた健康寿命の延伸のために、「未病」を含めた「健康を維持し続ける」ためにエイジングをいかに遅らせるかという商品・サービスの開発です。若い人たちに対しても、「栄養が大事である」というアプローチはすごく重要だと思っていますが、健康の悩みがまだ顕在化していない層なので難しい領域ではあります。ただ実は当社は、ビタミンやミネラルといった、特定の健康の悩みに対応していない、健康な身体作りの基礎となるベーシックサプリメントでシェアNo.1の会社なんです。ここにマーケットを作ることができれば、ビジネスチャンスはますます広がると思っています。

通販化粧品は、30年前はすごく限られたジャンルでした。でも今は、ネット時代で比較的簡単に参入できる。だからさまざまなブランドが多様な切り口で参入してきています。ヘルスケアの領域についても巨大なナショナルメーカーが参入し、ECで直接顧客のところまで入ってくる時代です。

今は、巨大なリテーラーによる水平統合の動きがますます加速していますが、同時に、上流から下流を攻めるメーカーとPBによる下流から上流を攻めるリテーラーによる垂直統合での戦いも始まっています。だからこそ自分たちの存在価値を改めて見つめ直し、自分たちがどこでどうやって戦うのかが、これからの事業戦略上のポイントになるのではないでしょうか。

小林 そのポイントの戦略化がまさにこれからの課題であり、そこをクリアしないと、埋没してしまいますよね。最終回となる次回は、競合他社が多い成熟市場で事業を“つないで”いくために必要なことをお聞きします。

第1回「DHC髙谷成夫氏インタビュー「今必要な変革」とは~ECのミカタ 小林亮介が聞く~」を読む


記者プロフィール

ECのミカタ編集部

ECのミカタ編集部。
素敵なJ-POP流れるオフィスにタイピング音をひたすら響かせる。
日々、EC業界に貢献すべく勉強と努力を惜しまないアツいライターや記者が集う場所。

ECのミカタ編集部 の執筆記事