バリアフリーなWEBサイトを実現!「ウェブアクセシビリティ」対応でEC事業者が知っておくべきこと
2024年4月に改正された障害者差別解消法(※1)により、「合理的配慮」への対応が義務化される。ECサイトにおける「合理的配慮」とは、年齢や障がいの有無などにかかわらず、全ての利用者がウェブサイトを利用できる状態を指す。今回の法改正により、これまでECサイトの利用が難しかった人にも平等なアクセス機会がもたらされることが期待されている。
一方、視覚性から操作性までクリアすべき基準は多岐に渡るため、各対応には膨大なコストがかかるほか、そもそも何をどうすれば良いのか分からず、対応を進められない企業も多い。本記事ではウェブアクセシビリティ機能の支援サービス「ユニウェブ」を提供する、株式会社Kiva 代表取締役社長 野尻航太氏に、アクセシビリティ対応への留意点と、同社サービスの強みについて聞いた。
※1:全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けた、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
企業名公表のリスクも……EC事業者は今なぜ/何を/どう対応すべき?
──いよいよ4月から合理的配慮の提供が義務化されました。ウェブサイトの場合、JIS X 8341-3:2016に準拠したウェブサイトを作り、ウェブアクセシビリティを確保することは、合理的配慮を的確に行うための環境の整備として努力義務となる、と政府広報オンラインでも示されています。しかし、その認知度は依然として低く、未対応のEC事業者も少なくないようです。
当社ではウェブサイト運営に携わる20歳〜60歳以上の185名を対象に「ウェブアクセシビリティに関する調査」を実施しましたが、調査時点で対応が完了している企業は6割に留まっています。未対応の理由としては「やり方が分からない」が56%、そもそも「ウェブアクセシビリティについて知らない」が17%に及びました。こうしたケースでは今から自社対応を始めるのは難しいこともあって、「ユニウェブ」のようなツール導入をご検討される事業者様が増えているようです。当社へのお問い合わせも急増しています。
出典:政府広報オンライン「ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説!」よりECのミカタ編集部で改編
──ウェブアクセシビリティ基盤委員会が定める達成基準では、知覚や操作・理解など各カテゴリーの項目別に、レベルAまたはAAの評価が示されています(※2)。どのレベルを目指すことが多いのでしょうか?
上場企業をはじめとする規模の大きな事業者様の多くは、AAを目指すケースがほとんどです。AAを満たす基準例としては、知覚のカテゴリーだけを見ても、音声解説やキャプション、コントラストやテキストのサイズ変更機能の有無などさまざまです。項目が多岐にわたるため、どうしても開発費用も膨らみます。また、ユーザビリティとアクセシビリティを両立するうえで、現状のUIに干渉しない実装を考えるのも難しいですよね。
──ECサイトで合理的配慮を的確に行うための環境の整備がなされると、どのようなプラスの変化が起きるでしょうか。
視覚障がい者の方は国内に32万2310人以上(※3)いらっしゃいます。また高齢者(65歳以上)の人口は3624万人以上(※4)にも上ります。高齢者の場合、老眼で小さい文字が読みにくい方も含まれますが、色覚障がいがある場合には、「店舗では色味について定員に尋ねられるが、ウェブではそういうわけにはいかない」「コントラストの調整ができれば、認識しやすくなるが、機能がないからEC利用を諦めている」というケースも多数あるはずです。合理的配慮を的確に行うための環境の整備が進めば、より多くの方にEC利用の機会を開くことになると考えます。
──逆に、合理的配慮を的確に行うための環境の整備を行わないままでいると、どのようなリスクがありますか。
現時点で具体的な罰則はありませんが、合理的配慮を怠れば企業名を公表される可能性があります。ただ、自社ECに限らず、対応が不十分な大手モールもまだまだあるのが現状です。
アクセシビリティへの取り組みにおいて先進国と言えるアメリカの場合、大手モールも含め、合理的配慮を欠いたEコマース事業者への訴訟が頻発しています。日本でも、リスク回避や企業イメージ維持向上の観点から、アクセシビリティへの対応が必要不可欠な時代になっていくと予想されます。
※2 出典:ウェブアクセシビリティ基盤委員会「JIS X 8341-3:2016 達成基準 早見表(レベルA & AA)」参照
https://waic.jp/files/cheatsheet/waic_jis-x-8341-3_cheatsheet_201812.pdf
※3 出典:厚生労働省「令和3年度福祉行政報告例の概況」によれば、2021年(令和3年)度末時点の身体障害者手帳交付台帳登載数は 約491万 人、うち視覚障害者は32万2310人だったという
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/21/
※4 出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によれば、2022年(令和4年)10月1日現在の65歳以上の高齢者数は3624万人
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/index.html
コード一行でサポート。コストメリットも高い「ユニウェブ」の強み
──「ユニウェブ」は、どのような背景で生まれたのでしょうか?
当社では延長保証サービスの「proteger」をEC事業者様向けに提供しています(※5)。そのなかでハンディキャップのある方への対応がなかなか進まないECの現状を目の当たりにしてきた経験が、2023年12月のローンチにつながりました。
合理的配慮が必要な方は、国内だけで1160万人以上(※6)いると言われています。開発の背景にあるのは、EC利用が急激に拡大しているにもかかわらず、一部の方だけがその利便性を享受できない状況をどうにか改善できないかとの思いでした。
──「ユニウェブ」の特徴や強みについて教えてください。
「ユニウェブ」では、全てのウェブサービスにコード一行を追加するだけで「導入当日」にウェブアクセシビリティ機能をサポートできます。
まずアクセシビリティの観点からウェブサイトの分析・修正を提案し、サイト構造の自動最適化を行います。状態に応じてワンクリックでウェブサイトへの適合が可能で、各規格へのサポートも充実しています。さらに、ボタンやウィジェット設定で、現状のUIやブランドイメージを維持したまま、幅広いカスタマイズが可能です。
これまでデザイン担当者や外部の制作会社が目視で確認し、改善案を考え、実装していた一連の作業が自動化されるので、コストや工数の削減にも確実に貢献します。
※5 関連記事:「サステナビリティを支える延長保証「proteger」がEC事業を新ステージへ」
※6 出典:障害者基本法(昭和四十五年五月二十一日法律第八十四号/最終改正:平成二十五年六月二十六日法律第六十五号)によれば、「障害者」は「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」を指す。一方「令和5年版障害者白書」では、「厚生労働省の調査によると、我が国の障害者数の概数は、身体障害者(身体障害児を含む。)436万人、知的障害者(知的障害児を含む。)109万4千人、精神障害者614万8千人となっている」としている
多様性への配慮=企業イメージ向上に
──現在までの導入状況や反響はいかがでしょうか?
ローンチから3カ月目で、カメラのキタムラ様をはじめとして既に150サイトに導入いただいております。料金は1ドメイン毎の月額制でPV数により算出します。自社で一から対応するとなると大変な高額になるため、コストパフォーマンスの面でも大きなメリットがあるツールです。
また、ecbeingやメルカートなど、人気のカートとの連携を多数実施しており、フルスクラッチのサイトでもスムーズに連携できる点に好評をいただいております。
──今後の展望についてお聞かせください。
ECサイトでの買い物が一般的になったからこそ、その体験が全ての人にとっての日常になる、そんな “ウェブの民主化”に「ユニウェブ」で貢献できればと思っています。
また、先の能登半島地震を含め、自然災害の際には、ハンディキャップをお持ちの方が情報にアクセスしにくく、危険を回避しにくい状況になりがちです。今後はEコマースに限らず、災害情報や金融サービスなど、さまざまな分野での平等なアクセス実現にも注力していく予定です。
昨今はブランドイメージの向上と、ダイバーシティやインクルージョンをはじめとするSDGsに関連するトピックは切り離せません。また合理的配慮の義務化は、サイト構造の改善などSEOの観点からもプラスになりますので、自社製品をより広く発信し、全ての人に知ってもらう良い機会にもなります。
自社で完結させるにはなかなか難しいアクセシビリティの改善をサポートできればと思いますので、ぜひ一度お気軽にご相談いただけば幸いです。