ヤマト運輸の「宅急便」で置き配が選べるように! EC事業者のメリットや「EAZY」との違いは?担当者に直撃した

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

ヤマト運輸株式会社は2024年6月10日から、5700万人以上が登録する個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員を対象に、「宅急便」「宅急便コンパクト」で「置き配」での受け取りを選択できるサービスをスタートした。なぜ今、こうした施策をスタートしたのか、その狙いやEC事業者への影響について、ヤマト運輸株式会社 サービス商品部 部長 久保田亮氏、課長 山﨑遥氏、係長 工藤洋平氏に聞いた。

受け取り方法の選択肢が増えることが、利便性の向上につながる

──ヤマト運輸さんは対面での配達を重視してきたというイメージがありますが、今回、宅急便で置き配を選べるようにした理由は、物流の2024年問題が関係していますか。

久保田 今回の新サービスの最大の目的は、お客様の利便性向上です。ヤマト運輸は2020年6月から、ヤマト運輸と連携したオンラインショップなどで注文した商品は置き配を指定できる商品「EAZY」をEC事業者様向けに提供していますが、置き配利用率が2020年度の18.4%から2023年度には37.3%へと拡大しています。

受取人様が置き配を利用されるシーンが増えるにつれ、「宅急便も置き配できるようにしてもらいたい」というお声を多くいただくようになりました。また「EAZY」が広まるにつれて、受取人様の置き配に対する意識も変化し始め、置き配が可能な環境が整ってきていることもあり、お客様のご要望にお応えするために「宅急便」「宅急便コンパクト」の「置き配」での受け取りをスタートしました。

──置き配を希望するお客様が増えている背景には、コロナ禍などによる非対面重視などの生活スタイルの変化などもありますか?

久保田 コロナ禍による非対面ニーズという点も一つの背景にありますが、お客様がお届け時間に合わせて必ずしも在宅している必要がないという点が大きいですね。受け取り場所の多様化や、受け取りの時間帯が選べても、受け取りタイミングが合わないというお客様は多いと思います。

例えば帰宅時間が遅くなり受け取りたいタイミングに間に合わなかったり、休みの日でなければ受け取れなかったり、受け取るために休みの日にも家にいなければならなかったりと、配達時間に配達場所にいないと荷物が受け取れないことは、お客様にとってストレスになり得ます。

お客様のライフスタイルに合わせて置き配などを活用いただくことで、荷物を待つことや、再配達の日時調整などによるストレスがなくなります。スムーズに最短で荷物を受け取れるようになることで、お客様の利便性向上につながると考えています。

出典:ヤマト運輸「置き配サービス」

ヤマト運輸としては「置き配利用率を伸ばすこと」は目的ではない

──受け取る側の時間調整が難しくなってきているので、「受け取り方法の多様性」が求められるようになったということですね。

久保田 その通りです。受け取り方法の選択肢の幅を広げることが、受け取りのストレス軽減、顧客満足度の向上にもつながります。顧客満足度が向上するということは、EC事業者様にとってもメリットがあり、売上拡大につながると考えています。また、結果的に再配達が削減することで、物流の輸送力確保やGHG(Green House Gas:温室効果ガス)排出量の削減などの社会課題にも貢献できます。

私たちとしては、あくまでも「受け取るお客様ご自身のライフスタイルに合わせて、受け取るタイミングや場所を選んでいただきたい」というのが最大の目的です。「置き配利用者を増やしたい」ということではありません

──エンドユーザーの要望をかなえることは、EC事業者にとっても大きなメリットになるということですね。この置き配サービスをスタートさせるにあたって、ご苦労された点はどんなところでしょう。

工藤 お客様が受け取り場所変更に際してサイト画面を遷移していく中で、いかに複数ある受け取り方法の中から簡単に「置き配」を選択いただけるようにするかということを意識しました。お客様にとって「特別な新サービスが出てきた」というよりは、「受け取り方の選択肢が1つ増えたな」と思っていただいて、自然にご利用いただきやすいように設計したというところが、工夫した点です。

出典:ヤマト運輸「置き配サービス」

今回のサービス開始で、EC事業者が『EAZY』を選ぶメリットは?

──置き配にも対応している「EAZY」はEC事業者向けの配送商品ですが、こちらはどのような理由でスタートされたのでしょうか。

山﨑 「EAZY」はコロナ禍で非対面の受け取りニーズが高まっている中、2020年6月にスタートしました。対面だけでなく置き配も含めた多様な受け取り方法を選択できる点や、受け取り直前まで何度でも受け取り場所の変更が可能な点など、ECのニーズに特化した商品です。EC事業者様も、注文されるお客様の声を反映させたいという気持ちが強く、ECサイトの注文画面上で置き配を選べる機能を望まれており、弊社としてもそのニーズに早期に対応しました。その中でも、EC事業者様の注文画面上で置き配を指定する際の動線や、一度ご利用されたお客様には次の注文時にも「置き配を利用しませんか」と誘導するなど、EC事業者様に様々な工夫をしていただいていることもあり、置き配を利用されるリピーターが増えています。

──「EAZY」を導入するにあたり、EC事業者がやらなければならないことは何でしょう。

山﨑 「EAZY」を導入いただく場合、ECサイト上で注文時に置き配を選べるようにするためには、サイトのデータレイアウトを少し変えていただくための改修など、EC事業者様にご協力いただく部分もあります。そこが、EC事業者様にとってはハードルになることが多少あるかもしれません。

画像提供:ヤマト運輸株式会社

画像提供:ヤマト運輸株式会社

山﨑 今回、「宅急便」「宅急便コンパクト」の置き配サービスの開始により、EC事業者様が「EAZY」を導入されなくても、「宅急便で荷物を出していただくだけで、置き配を選べます」というご案内を、お客様(購入者様)に対してできるようになりました。

──ヤマト運輸と連携した一部オンラインショップなどで注文した商品で置き配を選べるのが「EAZY」、オンラインショップ問わず「宅急便」「宅急便コンパクト」で置き配を選べるのが今回の置き配サービスということですね。受け取り手側目線でいえば対象が広がったという理解ですが、EC事業者目線でいえば、「EAZY」を利用することで、注文時にどれだけ置き配をご希望されるお客様がいるかデータが手元に残るわけですよね。

久保田 はい、置き配を利用できるお客様の対象が広がりました。「EAZY」を導入し、オンラインショップ上で置き配を選択できるようにしているEC事業者様にとっては、購入時にどれだけのお客様が置き配を選択しているかのデータをもとに、サービス向上につなげたいというニーズはあると思います。

まずはヤマト運輸のそれぞれのサービスにどのようなメリットがあるかを知っていただき、目的・用途に合うサービスをご利用いただければと思います。

引き続き、世の中の変化やEC事業者様・個人のお客様からの声をもとに、より便利にご利用いただけるサービス開発の検討を行っていきます。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■桑原恵美子
フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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