秋田のいいものを生産者の思いと一緒に届けたい! 秋田銀行グループ「詩の国秋田」が目指すECの理想とは
2016年の銀行法改正による金融緩和により、銀行が事業者を支援できる範囲が拡大。これに伴い、取引先の販路拡大や地域活性化を目的に、地方銀行がECモールを開設する例が増えている。さまざまなECモールがある中、地方銀行の強みを生かしたECのあり方とは? また、実際に運営してみてどのような成果が出ているのだろうか。
今回は2021年10月にオンラインストア「詩の国(しのくに)商店」を開業した秋田銀行グループの地域商社「詩の国秋田株式会社」(以下「詩の国秋田」)営業部の藤田大夢氏と澤藤早紀氏に話を聞いた。
生産者さんの思いを知った上でご購入いただきたい
──「詩の国秋田」は2021年10月にECモールを開業されましたが、始めることになった背景などお聞かせください。
詩の国秋田株式会社 営業部 藤田大夢氏(以下、藤田) 秋田県には素晴らしいものづくりをされている方が大勢いらっしゃるのですが、会社の規模が小さかったり、都市圏までの距離が長かったりといった理由で、売り込むところまで手がまわらないところがたくさんあります。売り込みができないから認知度が上がらず、売れていないという課題が以前からありました。幅広いネットワークを持っている秋田銀行であれば、そうした会社の営業活動を肩代わりできるのではということで、詩の国秋田株式会社を設立しました。
活動のメインは、各地の小売店や飲食店等に秋田の特産品をロットで卸す卸売業ですが、「もっと最終消費者様に直接リーチできるような場があればいいのだけど……」と感じ、ECサイトを開設することにしたのです。
──今でこそ地銀系のECサイトは全国に多くありますが、開始するまでは仕組み化など多くのことで手探りだったと思います。開業当時の苦労などお聞かせください。
詩の国秋田株式会社 営業部 澤藤早紀氏(以下、澤藤) 私は最初の立ち上げの時にはまだ参加していなかったのですが、そもそも登録してくださる生産者さんを集めること自体がひと苦労で、それ以上に生産者さんの思いを汲み取って商品を購入してもらうという流れをEC上に作ることが大変だったと聞いています。こちらとしては単に売れればそれでいいということではなく、あくまでも生産者さんの思いをしっかり知った上でご購入いただきたいのですが、それを知っていただくようなサイト作りをするとなかなかご購入につながりづらくて……。思いを知っていただくことと、ご購入いただくことのバランスが難しいということは、今も痛感しています。
──ストーリーをちゃんと受け止めてもらって、それを購入につなげてもらうのが大変だということですね。
澤藤 はい。以前は生産者さんのストーリーがトップに出るようにしていたんですが、今はページに進んでいただくと簡単に商品の特徴が掲載してあって、それとは別に生産者の思いを語る特集のページを作っています。本当は生産者さんのストーリーを読んでから買っていただきたいのですが、なかなか難しいですね。
──ほかには、どんなところに工夫していますか?
澤藤 生産者さんのストーリーの撮影では、写真が単調にならないように気を付けています。生産者の方の表情や生産の現場、取材時に見えた風景などをバランスよく掲載できるよう、取材前からカメラマンの方と入念に打ち合わせをして取材に臨んでいます。
ヤマト運輸の「らくうるカート」で、高齢の生産者も負担なくECで販売できた
──秋田は高齢化が進んでいるので、生産者さんもご高齢の方が多いと思います。ECのシステムになじんでいただくのは大変だったのでは?
澤藤 それは問題ありませんでした。ヤマト運輸さんの「らくうるカート」というシステムを使っているのですが、名前に違わずどんな方でも楽に売ることができるシステムなんです。「詩の国商店」に注文が入りますとヤマト運輸に情報が飛んで、ヤマト運輸さんのほうで売主・配送先双方の住所が入った配送伝票を作ってくれます。配送スタッフがそれを持って直接、生産者さんのところに行って荷物をピックアップしてくれるので、生産者さんはただ商品を段ボールに入れて配送スタッフに渡せばいいという仕組みです。
──サイトを管理しているのは「詩の国秋田」さんですし、発送業務もヤマト運輸さんにお任せできるのであれば、確かにハードルは下がりますね。ちなみにサイトで取り扱う商品は、どういった基準・条件で選ばれているのでしょうか?
澤藤 秋田県内に数多く展開している秋田銀行の支店から情報をいただいています。例えば、湯沢支店のお客様でこういう事業者さんがいて、いいものを作られているけれど売り方が難しいと相談されている、というような報告を受けることがあります。その際、当社と面談し、参加いただいたたりしています。
基本的な商品の基準としましては秋田県産の食材や素材を使っていること、県内で製造していること、そして秋田に住んでいることが条件です。ただ、秋田のものだったらなんでもいいかというとそうではありません。
──基準を満たした品物の中からさらに選別されているわけですね。それはなぜでしょう?
澤藤 今、地方の物産を販売するECサイトはすごくたくさんありますよね。私たちはその中では後発ですので、差別化をしていかなければなりません。秋田の物産でも、いろいろなECサイトに掲載されているような有名な商品もありますが、そういうものだけではなく、あまり知られていない商品にスポットをあてて、県外の人に知っていただきたいので。
ECポータルサイト「&WA(アンドワ)」で他エリアの地銀と提携
──「詩の国商店」様は、NTTデータが開設したECポータルサイト「&WA(アンドワ)」で、京都銀行さんとも連携していますが、どういった経緯で連携をすることになったのでしょう?
藤田 京都銀行さんも「ことよりモール」というECモールを運営されていて、やはり課題としてどうしたらより多くの方に見てもらい、買ってもらえるかということを考えていらっしゃいます。その中で、単独でやっていても限界があると考え、私たちのように地方銀行で同じような取り組みをしているところが増えてきている中で、サイトにいらっしゃるお客様を送客し合えるような仕組みができたらいいね、ということで、2022年の11月から参加しました。最近はその効果か、注文してくださる方のエリアが、以前より広がっているように感じます。
──現在はどんな商品に注力されているのでしょうか。
澤藤 秋田っていろいろなものが採れるんですが、消費が地元にとどまり、なかなか都市圏に出回らないものもあります。でも例えば、秋田のさくらんぼは山形ほど有名ではないけれど、すごくクオリティは高く、都市圏の高級スーパーで売られていたりするんです。そういう、生産量が少なくても付加価値が高いものをこれから、積極的に売っていきたいと思っています。
──今後はどういったモール展開をされる予定ですか。
澤藤 単に売るだけでなく、例えばクラウドファンディングを実施したり、生産者の思いを消費者に伝えるイベントなども開催しているので、この活動をもっと広げていきたいです。また、一つの地域にスポットをあてた特集をこの4月から始めているのですが、それも場所を変えていろいろなところでやってみたいですね。