ミツカングループ「ZENB」のD2C戦略 グルテンフリーは結果でしかない

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

株式会社MizkanHoldings執行役員 ZENB事業マーケティング&ダイレクトグループリーダー 佐藤武氏(撮影:厚地健太郎)

ホールフードをコンセプトにヌードルやチップス、ブレッドを開発し、2019年の誕生からわずか5年で圧倒的な認知度を得るにいたっている「ZENB(ゼンブ)」は、ミツカングループのブランドだ。D2C戦略およびモール戦略、SNS、CM、UGC運用など、様々な施策で顧客獲得に成功している。
そこで「ZENB」のマーケティング部門を統括する佐藤武氏に、販売戦略成功の鍵をインタビュー。前後編でお届けしていこう。前編では、「ZENB」のスタート経緯からお話しいただく。

後編はこちら

「ZENB」は「人と社会と地球の健康に貢献する」未来ビジョン宣言に則ったブランド

──「ヌードル」が発売から3年で累計1500万食以上、2023年11月発売の「ブレッド」は生産が追い付かないほどの人気となり、ZENBブランドは「おいしい」「体にいい」「地球に優しい」そして「糖質オフ、高タンパク」な商品として浸透しています。改めて、ミツカングループがZENBをスタートした経緯から教えてください。

ミツカングループは2018年に10年先の未来へ向けて「ミツカン未来ビジョン宣言(以下、未来ビジョン宣言)」を行いました。未来ビジョン宣言のコンセプトは「おいしさと健康をひとつに」しながら、「人と社会と地球の健康」に貢献することです。ZENBは、人にとってもヘルシーで、地球にも優しい食材を使う、未来ビジョン宣言に基づくサステナブルな食材供給の象徴的なブランドとして、翌2019年3月に立ち上がりました。

ZENBでは動物性の原料を使用せず、普段捨ててしまうような皮や種なども全て利用するホールフードの考え方を採用しています。また、ZENBの主力商品には黄エンドウ豆を使用していますが、これもブランドコンセプトと強い関わりがあります。

黄エンドウ豆をはじめとする雑豆は栽培行程で頻繁に水を与えなくてもよく育ち、根粒菌が窒素を固定するためいわゆる化学肥料をあまり必要としません。栽培工程がサステナブルであるため、地球に優しい。そして豆自体は皆さんご存じの通り、たんぱく質と食物繊維が豊富です。主食で食べられる食材と比べると糖質も控えめになるところも含め、健康的で人間に優しいといえます。

ヌードルやパン、チップスの原材料に小麦ではなく黄エンドウ豆を使うことで、結果的にグルテンフリーになりました。すると小麦を控えている方にも手に取っていただけることになり、「やっとグルテンフリーのおいしい麺に巡り会えた」というおほめの言葉もいただいています。

商品イメージ(画像提供:株式会社ZENB JAPAN)

生活者の方と直接インタラクティブにコミュニケーションするため、D2Cに舵を切った

──ZENBブランドの商品は、サイトから購入できるEC商品です。EC業界では「『体にいい』の文脈では、長くたくさん売るのが非常に難しい」とよく言われます。サステナブルなコンセプトのZENBをD2Cで展開すると決めたとき、どんな販売戦略があったのでしょうか。

ミツカングループの商売は、「BtoBtoC」がベースに成り立っています。つまり卸さん、小売さんを通じてようやく生活者の方に届きます。2018年に未来ビジョン宣言を掲げ、役員も含めて議論をしたときのポイントの1つが「私たちには、買ってくださっている人が見えづらい」という問題認識でした。つまり生活者をインサイトできていない。

今後メーカーとして生き残っていくには、生活者の方と直接つながって、インタラクティブにコミュニケーションができなければなりません。メーカー自身も生活者の方々のことをよく知り、より良いものを提供するという関係性ができなければならないという課題に対応するため、D2Cというプラットフォームを選びました。

ミツカングループの他の商品ではなく、ZENBをD2Cで展開したいと考えたのは、ブランドストーリーやものづくりのこだわりを生活者の方に丁寧に届け、理解していただく必要があると考えたからです。ZENBのローンチ前には、シェフや有識者の方にアプローチをしてお仲間を集める「ZENBイニシアチブ」という活動をしていました。

活動ではクラウドファンディングなども仕掛けながら、ZENBのビジョンに共感してくださる方がどのくらいいるかをうかがっていました。そしてファンの方や共感してくださるステークホルダーの方々の口コミやリレーションを得て、広がる輪を作っていきました。それがD2C立ち上げの戦略といえるでしょう。

(撮影:厚地健太郎)

結果としてグルテンフリー製品として訴求した理由

──さきほどZENBがグルテンフリーとなったのは結果論に過ぎないというお話をいただきましたが、実際にはグルテンフリーであることが注目されるようになりました。「狙いとは違うのに」と感じたり、売り方に迷ったりしたことはありましたか。

ZENBの購入者の方々には、定期的に購入理由や食生活についてのアンケートを行っています。するとグルテンフリーを意識している方の集団があり、かつ継続利用してくださる方も多い。我々はサブスクモデルが前提なので、使い続ける熱量や習慣を持った方をキャッチアップできたことがアンケートでわかり、これをフックに商品の提供価値の1つとしてグルテンフリーであることもコミュニケーションに加えていきました。

ホールフードの精神を守ることは前提としてありますが、ビジョンに共感するという理由だけで買い続けてくださる方はなかなかいないでしょう。グルテンフリーだったり、たんぱく質豊富だったり、糖質が控えられるといった健康につながる便益を訴求することで、利用を継続してくださる方をキャッチアップできたのが、ビジネスとしてのドライバーになりました。

顧客とのコミュニケーションを大事に戦略を進める

──ミカタの読者であるEC事業者様の中には、モールに出店したはいいものの顧客と繋がれず、どんな施策が有効なのかわからなくて悩む方がたくさんいらっしゃいます。御社は商品ブランディングを考えたうえで、またミツカングループの戦略を果たす役割としてもZENBをD2Cで展開したという、トータルの成功体験をお持ちです。ローンチ後は、どんな戦略や施策をされていったのでしょうか。

モデルの冨永愛さんが見つけてくださったり、テレビ番組で紹介してくださったり、他にも発信力のある方が「こんなの見つけたよ」という文脈で発信してくださいました。2023年の春からは小売りでの展開も始め、秋頃からはポップアップショップを立ち上げたり、イベントを行なったりするようになりました。

D2Cだけで間口を拡げるのはなかなか難しいと思います。ただ、グルテンフリーをアピールすることの重要性に気づくなど、D2Cでユーザーの方とコミュニケーションしたことによって事業にとってポテンシャルの大きいニーズが明確に分かったため、ショップやイベントなど形は違っても「グルテンフリー」は必ずコンセプトやコミュニケーションの中に入れて設計しています。

伝えたいコミュニケーションの軸にはD2Cで生活者の方と繋がったことを文脈として生かすことを守り、一気通貫でアピールしています。

2024年5月21日(火)から、シェアグリーン南青山(東京都港区南青山1-12-32)など首都圏5カ所で、キッチンカー「ZENB Café ~Gluten-Free GO!~(ゼンブカフェ グルテンフリー号)」を期間限定オープン。多くの人が訪れた(画像提供:株式会社ZENB JAPAN)

──前編ではZENB立ち上げからこれまでの戦略について、流れを語っていただきました。後編では、さらに戦略成功の鍵について深く掘り下げ、お話を伺っていきます。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■奥山晶子
2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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