「本気(マジ)でECに取り組む研究会」設立 EC事業者のさらなる成⾧機会や刺激の場に
ECの成⾧に懸念を持つ有志による「本気(マジ)でECに取り組む研究会」が2024年11月28日に設立され、同日、日本マイクロソフト社にて第1回研究会が開催された。3本のプログラムの中から、同研究会立ち上げのコアメンバーの一人、ネクトラス株式会社 代表取締役の中島郁氏のセッションを紹介する。
経験&実績豊富な有識者が、EC業界の底上げを目指す
「本気(マジ)で ECに取り組む研究会」は、ECに対して本気で取り組む事業者の悩み相談、問題解決、考えるヒントを提供できる場を作り、さらなる成⾧機会や刺激の場とすることを目指して立ち上げられた。研究会の参加対象者は、ECを立ち上げ後一定期間経過し、一定の規模(年商1億円以上)があるか、または一定の規模を目指す事業者などで、登壇者発表及び参加者で議論するワークショップ的な双方向型の研究会形式を予定しているという。
第1回の研究会最初の登壇者は、ネクトラス株式会社代表取締役の中島郁氏。1995年からECに関わり、新規事業立ち上げの中でいくつものECを経験してきた。
マーケティング部門立上げ、EC専業法人設立を担当した「トイザらス」では2年目で年商約20億円、執行役員EC・番組編成・マーケティング本部長を務めたジュピターショップチャンネルでは年商約200億円、役員兼WEB事業部長として、EC、メディア等の所管、オムニチャネル推進を4年間担当した三越伊勢丹では年商約140億円を、累計すると約1000億円の売上を達成したことになる。年商10億円以上のEC事業者は日本にそれほど多くなく、その中で3社の責任者を経験したという経験は非常に珍しいという。
ちゃんと考えずEC事業を始める経営者が多すぎる
その豊富な経験から、小売やメーカーのトップなどからEC事業の経営について相談される機会が多く、その中でよく耳にするのが「ECをやれば儲かると聞いたので始めたが、聞いていたほどうまくいかない」「店舗での売上が減ったからECを始めたが、うちの商品はECに向いていないようだ」という訴え。それに対して中島氏は、「御社のECがうまくいっていない本当の原因は、本気でやっていないこと」だとはっきり伝えているという。
中島氏が「その経営者・担当者が本気かどうか」を見分ける目安の一つとしているのが、自身のEC事業のコンセプトを明確に簡潔に応えられるかどうか。「例えば、(事業の起点である)リアル店舗は真剣にコンセプトを考えてスタートさせているのに、EC事業だと『〇〇にあるリアル店舗と競合させたい』『売上を〇〇億円にしたい』といった目先の希望を、コンセプトのように語る経営者が少なくない」と中島氏は嘆く。
経済産業省の調査によると、2023年の日本の電子商取引市場のうち物販系分野におけるBtoC-EC市場規模は14兆6760億円。前年比4.8%と成長している(※)。だが中島氏は、「個々のEC事業者を見ると必ずしもすべてが成長しているわけではない」と語る。月刊ネット販売のデータによると、2022年から23年トップ30社中、2桁成長している会社は5社しかなく、トップ50社でも10社。トップ100社まで見ても1桁成長の会社のほうが多く、マイナス成長の会社も少なくない。「なぜこういう状況かというと、さっきの話に戻りますが、『本気じゃないから』、もしくは本業自体の縮小の要因です」(中島氏)
「本気」とは、あえていうと「ちゃんと考えて、ちゃんと決めて、決めたことを徹底すること」。一般的に新規事業は既存事業よりもハードなのにうまくいかないことが圧倒的に多い。会社としてちゃんと考えた構想/コンセプトもなく、EC事業担当者の行動がぶれたり、徹底できなかったりしてしまいがち。そのためにいいところがあっても、生かせない、伝わらない。いい加減な検討で始めた取り組み利用者にすぐ見透かされてしまうからだ。
「ちゃんと考えずに、事業を始めたがる経営者が多すぎる。『今ある1000アイテムで、3年後に売上が30億になるようなECサイトを構築してくれ』というような発注をしている会社がリアルにある。構想/コンセプトもなしにそんなことができるわけがない、特に大規模を目指す場合は。そして、事業開始後でも、多くのことをスピーディーに決定し、導入することが必要不可欠。指針となるしっかりしたコンセプトがあれば、個々の施策、追加機能もそれに沿ってスピーディーに進められるが、それがなければ、その都度、立ち止まって考えて方針や基準を決めなければならない。そんなEC事業が成長できるわけがない」(中島氏)
ECの種類、規模によって考えること、やることは違う
では、どのようにすればしっかりした構想/コンセプトを作ることができるのか。
中島氏によると、最初に自社の目指すEC事業の種類と規模をしっかり想定し、それに向けた構想/コンセプトを考えることが重要だという。「例えば、ECという業態は、小売でいう『路面店』と同じくらいあいまいなレベルで、路面店である都会にある大手の百貨店がやっていることを路面店である地方の駄菓子屋が真似しても、うまくいくわけがない。誰にでもわかる理屈だが、EC事業だと『あの大手がやって成功しているから真似したい』と安易に考える経営者や担当者が少なくない」
新規事業としてECを始める場合、初期投資をしてから収益があがるまでには時間がかかる。大きな売上を目指すほど、初期の段階で先行するリソースが大きく、赤字幅も大きくなる。「この支出がないと売上が伸びない」ということを、出資者や経営陣にしっかり伝えて納得してもらうにも、本気の検討に基づいた構想が必要なのだ。
また、ECの構想/コンセプトを考える場合、製品の顧客体験だけではなく、ECで購入する体験全体のプロセスを考えることが重要だという。「商品を見つける」「評価して購入を決定する」「支払う」という購入まで、「商品を受け取って開梱」「使って体験する」という入手時のフロー、さらに「評価する」「人に話す」「その人が注文する」という再注文までが「購入体験」に含まれる。つまり商品だけの戦略を立てたりマーケティングをしたりするのではなく、EC全体をプロダクトとして考えるマーケティング戦略を考える必要があるのだ。
加えて重要なのは構想/コンセプトを一度決めたら、それを会社全体で共有し、全部署で徹底すること。「会社が本気でないと、徹底できない。徹底しないと、決定そのものがよくなかったのか、徹底しなかったから効果がなかったのかが検証できない」(中島氏)
次回からはより具体的な内容に
中島氏によると、今回は第1回ということで総括的な内容になったが、次回からはリアルな事例をもとに、より具体的な内容にしていくとのこと。
第1回の研究会では中島氏に続き、立ち上げのコアメンバーの一人である合同会社インフィニティーオクターバーの栗田由菜氏による「ECと物流の『本気』の関係を一緒に考えてみる」をテーマにした「トピック」で話すのではなく、「ストーリー」で語る重要性のワークショップ、同じく立ち上げのコアメンバーである株式会社Commerble(コマーブル)代表取締役の橋本圭一氏が「ECを本気でやるなら『継続改善』」というテーマでセッションを行った。
同研究会では今後、すでに参加を予定している大手メーカーに加え、大規模ECを目指すメーカーや小売などの事業者などの参加を広く呼びかけ、隔月でセッションやワークショップを実施していく予定だという。