ECサイトをリニューアルしたナノ・ユニバース、使いやすさとポイント制度が鍵 【TSI セミナーレポート】

ECのミカタ編集部

awoo株式会社(本社:東京都渋谷区)が2024年12月10日に開催した「ファッションECカンファレンス2024」に、57のブランドを展開する株式会社TSIのナノ・ユニバース事業部 野口瞳氏(以下:ナノ・ユニバース 野口)が登壇。2024年に行った大規模なECリニューアルの背景と、リブランディングの施策を語った。

ナノ・ユニバース事業部は株式会社TSIのストリート&カルチャーDivision.で、サイト内では自社含め198ブランドの商品を取り扱っている。ナビゲーターはawoo株式会社の坂居広行氏(以下:awoo 坂居)。

25周年を迎えたナノ・ユニバースのECとは

awoo 坂居 まずはTSIの事業概要を教えていただけますか。

ナノ・ユニバース 野口 「ファッションエンターテインメントの力で、世界の共感と社会的価値を生み出す」をミッションに、アパレルECと実店舗を運営しています。TSIの中期経営計画としては、「TSI Innovation Program 2027」と銘打って、ブランド横断での全社の収益性を最適化しようとしています。

従来はブランドごとの成長が全社成長のエンジンになっていましたが、中期経営計画では全社の収益構造改革で得た利益を成長戦略に投資しようとしています。ナノ・ユニバースはECプラットフォームのコスト効率を改善することで、成長投資の原資を作っているところです。

※カンファレンス登壇資料より

awoo 坂居 ナノ・ユニバースのブランドの特徴と客層を教えてください。

ナノ・ユニバース 野口 ナノ・ユニバースのブランドは「色気を纏(まと)わせる」をコンセプトにしており、商品はセレクトアイテムとオリジナルアイテム、夏には汗染み防止の、冬は防寒性の高いダウンなどの機能系アイテムも展開しています。

主要なお客様は20代後半ですが、ECとアウトレットは30代から40代のお客様が中心になっています。お客様はブランドコンセプトから入ってくる方、機能に惹かれてご購入いただく方とさまざまです。

awoo 坂居 ナノ・ユニバースの沿革を教えていただけますか。

ナノ・ユニバース 野口 ナノ・ユニバースは1999年に渋谷で誕生し、2005年にECが発足しました。施策の打ちやすさを狙って会員ランクを細分化した2019年の会員プログラムリニューアルを経て、2024年にECサイトと会員プログラムをリニューアルしました。2024年には25周年を記念してビルボードライブとの協業施策も実施しています。

※カンファレンス登壇資料より

2024年の大アップデート内容

awoo 坂居 今回のリニューアルの背景を教えていただけますか。

ナノ・ユニバース 野口 まず中期経営計画の一環として、ECの全社最適化を目指し、コストとブランドの訴求方法を見直しました。コスト削減は、フルスクラッチの従来型ECサイト構築ツールをパッケージ型のECプラットフォームへと移行することで実現を目指しました。パッケージのプラットフォームは、デザインの変更などにあまり工数がかかりません。フルスクラッチと比べてシンプルに見えるビジュアルは訴求方法の改善で対応しています。

ナノ・ユニバースは株式会社TSIの中で、最初の挑戦をすることが多いブランドです。頭出しは大変ですが、成功した施策は全社に展開されていくという面白さがあります。

awoo 坂居 リニューアルの概要をお聞かせください。

ナノ・ユニバース 野口 最も大きなアップデートは会員プログラムの刷新です。新たな会員制度がわかりやすいように、会員特典をサイトのフッターに常設するなど、UI/UXも改善しています。また今回のリニューアルはアプリのアップデートとタイミングを合わせて実行しました。

awoo 坂居 では会員サービスのリニューアル内容を教えていただけますか。

ナノ・ユニバース 野口 従来は入会当初から最大6%還元という高還元率をうたっていましたが、会員情報の登録によって付与されるポイント還元を廃止、ブロンズ以下のランクで還元率を少し下げました。減った還元率は会員限定セールやポイントキャンペーンの原資にすることで施策を増加させています。

一方、年間5万円以上をお買い上げのシルバーランク以上のお客様を増やすべく、還元率とサービス優遇を設定しました。目的は優良顧客様にブランドの期待値を維持していただくことです。シルバーの下に位置するブロンズとホワイトランクを分けている理由は、低価格帯の商品を細く長くお買い求めのお客様もいらっしゃるためです。直近1年間でご購入のあるお客様をランク分けすることで、休眠期間に応じたクーポンの出し分けがしやすくなりました。

また、ランクダウンは従来の毎月から年1回にすることで、お得にお買い物できる期間が長くなっています。ランクアップのたびに、ランクに応じたポイントの付与もあるので、使えば使うほどお得になる設計にしました。

※カンファレンス登壇資料より

awoo 坂居 サイト上のUI/UXではどのような点をリニューアルされたのでしょう。

ナノ・ユニバース 野口 ポイントは使いやすさとストレスの軽減です。例えば、元々Pinterest風のサイズが違うタイルレイアウトだった商品画像を、グリッドに統一して見やすくしました。カラーバリエーションもカラーチェッカーで確認できるようにして、Tシャツなどの色展開が多いアイテムは商品一覧ページから簡単にカラーバリエーションを見られるようにしました。

結果として、雑誌に近かったビジュアルが、オンラインで買い物をさせるお客様にとって馴染みのあるUIになり、よりお買い物を楽しんでいただけるサイト設計になっています。

サイト全体ではスマホでも多くのコンテンツがお客様の目にとまるよう、縦にジャンルを分けてスクロールで見られるようにし、各ジャンルはカルーセルの横スクロールで見られるようしました。顧客行動分析を踏まえた細かなストレスの軽減策として、会員登録後の画面遷移を変更しました。一度商品をカートに追加してから会員登録されたお客様は、遷移先をカートに変更。「遷移先のマイページからカートに戻る」というストレスを排除しています。

※カンファレンス登壇資料より

サイトリニューアル後のCRM活動

awoo 坂居 この講演の前に、サイトをリニューアルしたことによってユーザー側での再ログインとパスワードの変更が必要になったと伺いました。どのようにユーザーアクションを促したのでしょうか。

ナノ・ユニバース 野口 まず、パスワードの再設定はお客様が興味のあるアクションではありません。そこで、再ログインをクーポン利用のトリガーにすることでパスワードの再設定を促進しました。目標に対して135%のお客様にログインしていただき、購買行動も見られました。

案内メールはHTMLでステップバイステップのクーポン取得ガイドを付けるなど、伝わりやすさを重視。文章を列挙したくなるのをこらえてスクリーンショットや太字での強調など、ひと目でわかる工夫をしました。

※カンファレンス登壇資料より

awoo 坂居 レビューポイント3倍キャンペーンの効果はいかがでしたか。

ナノ・ユニバース 野口 新たな会員サービスとして、レビューを投稿すると「レビューポイント」がもらえるキャンペーンを実施しました。施策の認知を広めるべく、期間限定で3倍の300ポイントがもらえるキャンペーンを実施。キャンペーン中には1000%のレビュー数伸長があっただけでなく、内容もきちんとした高評価レビューが多く投稿されていました。

awoo 坂居 このようなCRM施策はどのように企画されているのでしょう。

ナノ・ユニバース 野口 OMOに係る部門のメンバーが横断して集まる会議体で、店舗、EC、マーケティングの足並みを揃えるように相談しながら決定します。施策のアイデアはマーケティング部門がカスタマージャーニーの分析結果から抽出してスケジュールを立て、具体的な施策に反映することが多いです。

※カンファレンス登壇資料より

ナノ・ユニバースが見据えるブランディングと会員訴求

awoo 坂居 今後の展望を教えてください。

ナノ・ユニバース 野口 リニューアル後に再開できていないサービスの再開、未完成な部分のアップデートをしつつ、レビューポイント制度の更新など、ユーザーが行うアクション系の施策を増やしたいと考えています。お客様は店舗とECの両方を見るケースが増えているので、自社ECサイトがブランドの顔になるよう、ブランディングと会員訴求をしていきたいです。その中では結論の売上データよりも、「誰が、いつ、何を買っているか」を重視してPDCAを回していきたいと考えています。

サイトのリニューアルは、これまでのブランドイメージを継承しつつ、より低コスト、高付加価値なサービスを提供することがミッションになる。ナノ・ユニバースが選択したサイトの価値を高める施策は、顧客行動を徹底的に観察し、顧客のアクションが欲しい要所で顧客にインセンティブを付与することだ。「売れた、売れない」という結果だけに振り回されず、カスタマージャーニーを注視すると、これまでよりもデータドリブンな施策が実行できるだろう。


記者プロフィール

ECのミカタ編集部

ECのミカタ編集部。
素敵なJ-POP流れるオフィスにタイピング音をひたすら響かせる。
日々、EC業界に貢献すべく勉強と努力を惜しまないアツいライターや記者が集う場所。

ECのミカタ編集部 の執筆記事