新たな市場の開拓! 越境ECで国外売上を伸ばす子供服企業ナルミヤの戦略 【ナルミヤ・インターナショナル セミナーレポート】
awoo株式会社が2024年12月に開催した「ファッションECカンファレンス2024」に、20以上の子ども服ブランドを展開する株式会社ナルミヤ・インターナショナル(以下、ナルミヤ)のEC事業本部 次長 加藤翔太氏が登壇した。ナルミヤ・インターナショナルは0歳から15歳までの幅広い年齢を対象とした子ども服向けの専業会社として40年以上展開しており、百貨店、SC、EC、アウトレット、卸事業など様々な販売チャネルで展開。
オフラインの幅広い販路に加えて、2008年以降はモールと自社ECでビジネスを拡大している。今回のセミナーテーマは東アジアにおける越境EC環境と成長戦略。モデレーターはメディアストリーム株式会社 セールス&マーケティング部 マネージャーの江上恵理氏が務める。
ナルミヤが越境ECに進出した理由
メディアストリーム株式会社 セールス&マーケティング部 マネージャー 江上恵理氏(以下、メディアストリーム 江上) まずはナルミヤ様の販路を教えていただけますか?
株式会社ナルミヤ・インターナショナル EC事業本部 次長 加藤翔太氏(以下、ナルミヤ 加藤) 当社は、「世代を超えて愛される企業へ」というビジョンを掲げております。子ども服専業ですので、子どもの時に当社の洋服を着ていただいて、大人になったときに、ご自身のお子様へ着ていただきたい。おじいちゃん・おばあちゃんを含めて、世代を超えて当社の商品を買っていただきたいと考えています。
2000年代に大流行した当社のファッションブランドのリバイバルブームが起きており、当時着てくださっていた方々が30代の大人になって、また当社商品を着ていただく接点を作ることができており、そういった意味でも、“大人になってからも愛される企業”というところを目指しております。
自社運営の公式ショップ「ナルミヤオンライン」ですが、サイトオープンから15年が経過し、会社の主要な販売チャネルへ成長しております。月間のUU数は約100万、会員数は150万人を突破し、店舗でのアプリ会員獲得が寄与し、順調に増えております。
生まれたての赤ちゃんから10代半ばまでのティーン向けまで様々な子供の成長に合わせて、20ブランド以上を展開し、全てのブランドを購入できるのが「ナルミヤオンライン」の最大の特徴となっております。
ユーザー属性は子ども服専業ですので、ほぼ女性かつお子様を持つ家庭となり、年齢は、30~40歳がボリュームゾーンとなります。
メディアストリーム 江上 続いて、ナルミヤ様が越境ECに着手した経緯を教えてください。
ナルミヤ 加藤 実店舗では首都圏を中心にインバウンドのお客様の売上が非常に伸びており、その規模は見逃せないほど大きくなっています。お店によっては、売上の3割が海外のお客様によるものです。何もプロモーションを実施していないのに勝手に売れている現状を踏まえて、百貨店、SC、アウトレット、ECの各販売チャネル担当者やブランドMD、情報システム、経営企画室のメンバーたちと海外プロジェクトを発足しました。
旅マエ・旅ナカ・旅アトの各フェーズでできることをメンバー同士で話し合い、中国版Instagramと言われる「RED」活用による認知拡大、ポケトークを使用したり店頭POPを強化したりといった外国人の方への接客、POSを改修し外国の方が買っている商品の見える化、帰国後にリピートしてもらえるようなECサイトの告知など、少しずつですが施策を実施している最中です。
メディアストリーム 江上 背景として越境ECの市場規模を少しご説明させてください。世界のBtoC EC市場規模は日本円にして約860兆円に成長しており、その約半分を中国が占めています。各国内でのEC化率を見ても中国は48%と圧倒的な1位(※1)。人口とEC化率の組み合わせで中国のEC市場は頭一つ抜け出ています。
次に越境EC市場は2021年の7850億米ドルから、2030年には約8兆ドルへと成長するという推計されており、今後も年平均26%程度成長すると言われています。日本からの購入は少ないですが、米中からの日本商品購入はそれぞれ1兆円以上。年約10%の成長を続けています。また、訪日外国人観光客は2024年にコロナ禍前のピークである2019年を上回る3400万人超となる見込みです。(※2)
※1 参考:令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書
※2 日本政府観光局が2025年1月15日に発表した2024年の訪日外客数は、年間で3600万人を突破し過去最多を更新した(出典:日本政府観光局)
中国版Instagramと言われる「RED」を効果的に活用
メディアストリーム 江上 こうした市場動向を踏まえて、ナルミヤ様の施策を深堀りさせてください。まず「RED」の運用について教えていただけますでしょうか。
ナルミヤ 加藤 ご存じの方も多いかと思いますが、中国にはSNSとECが一体型になった「RED」というアプリがあり、月間のアクティブユーザー数は3億人を超えていて、今や中国国外の利用者も増加しているようです。口コミ型のコンテンツが多く、中国の方が何らかしらの消費行動をする際は必ずと言っていいほど「RED」でレビューをチェックすると言われていて、多くのブランドが公式ストアを展開しています。
各百貨店のインバウンド需要が高いきっかけの一つが、百貨店自体で「RED」運用を昔から行っていると聞き、当社としても公式アカウントを作成し、(2024年)7月より投稿をスタートしました。外部のパートナー会社と一緒に、月20投稿行っております。投稿するコンテンツについては、商品軸、当社の実店舗案内、KOCを活用したギフティング、プレゼント企画など様々なことを行っております。
フォロワーは右肩上がりで順調に推移しており、属性も20代後半から40代前半とママ層で、上海や北京といった1級都市が半分を占めており、当所想定したユーザー層を獲得できていると考えております。
ただフォロワーはわかりやすいKPIですが、フォロワー獲得だけを意識するのではなく、エンゲージメントも重視し、質の高いフォロワー獲得を重要視しております。フォロワーを獲得しながら、当社ブランドを在中の方々に向けて認知拡大を行い、旅マエ施策として訪日時における実店舗送客のきっかけとなるように「RED」を活用していきたいと考えています。
メディアストリーム 江上 言語や文化の違いはどのように乗り越えているのでしょうか。
ナルミヤ 加藤 ナルミヤは複数ブランドを展開しているため、配信コンテンツの種類は多様です。しかし、日本のスタッフに実際の中国ユーザーに合うコンテンツはわからないので、外部のパートナー会社との連携した翻訳、現地の商習慣に合わせたコンテンツ配信、投稿の結果分析、同業他社の投稿を参考に行っています。
越境ECモールShopeeの活用事例
メディアストリーム 江上 続いて、アジア圏のECモール出店施策について教えてください。
ナルミヤ 加藤 現在では、インバウンド需要の高いアジア圏を中心に越境ECを展開しており、具体的には台湾、中国、韓国、シンガポール向けに展開している越境EC対応の現地モールへ出店し、今年から本格的に強化しています。海外で実店舗をオープンするには時間やお金もかかり、出店リスクもあるので、越境ECをテストマーケティングと捉えて、現地でのニーズがあるかどうか、まずはオンライン上で展開を行っております。
その中で、今回はShopeeの出店に関して具体例をお話します。Shopee は、シンガポールを拠点とする東南アジアを中心に展開しているEコマースプラットフォームで、直近では中南米にも展開を行っています。GMVも順調に伸びているようで、日本から越境ECサービスを展開している国が6カ国ございます。
まず当社が台湾向けに出店したのが、今年の5月下旬頃でした。台湾を選んだ理由としては、現状のインバウンド売上、オンラインサイトに集客している海外ユーザー、来年実店舗オープンを控えているといったことです。
実際にShopeeに(ショップを)オープンしてみると、最初に管理画面を見たとき、日本語ではないという点に違和感があり、本当に大丈夫かなと思いました。しかし、翻訳機能を使うことでニュアンスが伝わってきて、実際に運用してみると、商品登録や受注処理、チャット対応なども思ったよりスムーズにできました。言葉の壁を懸念していましたが、今のところ問題なく対応できています。
商品登録も、一括や手動で登録できる点は国内と同じで、特に違和感なく運用できました。翻訳の手間はありますが、それ以外の商品マスター登録はスムーズに進みますし、商品詳細に「動画挿入」が簡単にできる点など国内と同じ運用方法で使いやすいと感じました。
また、受注時のステータス管理が明確なので、国内ECと同じ感覚で運用でき、国内事業者としては非常に安心できます。課題の一つである「出荷」についても、ShopeeのSLSサービス(Shopee Logistics Service)を利用することで、台湾ユーザーへ直接出荷していただけけるのが非常に便利だと感じています。配送料に関しては、実際に出荷してみないと請求額がわからないこともありますが、たまに500〜600円で送れることがあり、日本国内よりも安いと感じることもあります。これはShopeeのスケールメリットを活かして展開できております。
売上構成分析も管理画面で視覚的に簡単に操作することができます。最初は新規95%、リピート5%ぐらいでしたが、11月は新規79%、リピート21%と、顧客のリピート化にもつながっております。
一方で広告掲載も継続しており、新規客数の母数も増えております。広告掲載におけるROASは、600~700%台で推移しておりますので、日本国内では低い数字かもしれませんが、海外向けとしてはまずまずの実績として捉えております。
メディアストリーム 江上 特に売れている商材はありますか。
ナルミヤ 加藤 台湾での売上の中でリュックサックの比率が非常に高いんです。毎日必ず1個以上は売れる感じですね。なぜこんなに売れるのか調べたところ、日本ではランドセルが普及していますが、台湾にはランドセルがないため、小学校の通学用にリュックサックを買う方が多いことがわかりました。特に「A4サイズが入るか」という問い合わせが多く、学校で日常的に使えるものとして選ばれていることがわかりました。こういったデータは非常に参考になりましたね。
ブランドMDチームにも情報共有を行い、今後は日本の商品をそのまま展開するだけでなく、現地のニーズに合わせたローカライズ商品を提供する方向で考えています。例えば、A4サイズ対応や防水仕様など、ランドセルに近い機能を持たせた商品展開を検討しています。
いよいよ2025年に控える台湾の実店舗オープンと現在展開しているShopeeにおいて、どれだけ相乗効果が生まれるかを楽しみにしています。実店舗がオープンすることで、台湾国内での認知が広がり、実店舗で購入いただいたお客様がその後ネットで買えるような仕組みを構築したいと考えています。一方で、Shopeeを通じて実店舗への集客もできるようにしていきたいです。
シンガポールには、テストマーケティングと位置付けて、10月下旬より本格的に展開しました。(2025年の)1月末には、フィリピンにも、テストマーケティングと位置付けて展開し、今後のグローバル展開の指標になればと思っています。
メディアストリーム 江上 2024年11月末に立ち上がったグローバルサイトについて教えていただけますか?
ナルミヤ 加藤 国内サイト同様に本店サイトを重要視する考え方となっているかと思いますが、海外向けも同じ考え方のもと、海外ユーザー向けの自社ECサイトの立ち上げを行いました。海外ユーザー向けにプロモーションを実施し、顧客情報を獲得し、国内と同じようにF2転換を行い、LTVの最大化を目指しています。
短期的な施策では各国のモールへ出店ですとか、実店舗でのインバウンド接客をしっかり行い、当社ブランドの認知拡大を行っていきながら、中長期には今回立ち上げたグローバルECサイトは全世界から購入できるサイトとなりますので、最も注力していくサイトとなります。
海外ユーザーに向けて、グローバルにマーケティング活動を行っていく中で、ただ単にECサイトで購入するだけではなく、グローバルサイトを受け皿として、訪日時における実店舗集客に向けたメディアとしても活用していきたいと考えています。
現時点では英語のみに対応しておりますが、ユーザーの多い台湾・香港向けに今後、中国語繁体字での翻訳も予定しております。将来的には各国のIPアドレスやブラウザ言語をもとに、お客様に最適な言語でグローバルサイトを対応していきたいと考えております。
今後の展望とECの未来
メディアストリーム 江上 これまでの越境ECの成果はいかがですか?
ナルミヤ 加藤 越境ECを本格的にトライしたのが、2024年3月からとなります。当初は月間売上100万を超えず苦労しましたが、ここ最近では1000万を超える規模に成長しました。来期は、もっと伸ばせるように海外ECの販路拡大を強化していきます。
メディアストリーム 江上 ナルミヤ様全体として、今後の展望はいかがでしょうか。
ナルミヤ 加藤 旅アト需要に向けて当社店舗で購入してもらった訪日外国人の方々が帰国後に購入できるようにしっかりと認知拡大していきたいです。一方で当社ブランドを知らない外国人に向けて、グローバルにプロモーションも実施していこうと考えております。中長期では海外ECも主要な販売チャネルとして成長できるようにしていきたいです。
メディアストリーム 江上 今後のファッションEC業界にとって重要なことを教えていただけますでしょうか。
ナルミヤ 加藤 日本の総人口は、2004年をピークに、今後100年間で明治時代後半の水準に戻っていくと予想され、この変化は、千年単位でみても類を見ない極めて急激な減少傾向となっていく中で、国内だけを見ていると事業の成長は厳しくなっていく一方だと感じております。
私がECに携わり約15年経過しましたが、あっという間のスピードで様々なソリューションやインフラが整い、お客様にとって最適なサービスを提供できるようになりました。これから今まで以上に早いスピードで世界とつながっていく中で、海外ユーザーにとってもより身近に国内サイトと同じような感覚で海外ECで注文する事が当たり前になってくると思います。
事業者側も海外ECへのチャレンジについて昔に比べて取り組みやすくなり、ハードルは下がっていると感じています。幸いにも日本は外国人から人気があります。日本のファッションブランドを、ECを駆使して、海外に向けて届けることに取り組んでいければと思っております。