アガットがCRM分析とMA活用で目指す、 顧客に寄り添うECの購買体験とは【サザビーリーグ エーアンドエス カンパニー セミナーレポート】

ECのミカタ編集部

awoo株式会社が主催し、12組のファッションブランド&ファッションEC支援企業が集結したオンラインイベント「ファッションECカンファレンス2024」(2024年12月10日~12月13日開催)。各ブランドが「戦略設計」「具体的な取り組み事例」「未来予想図」を共有した同イベントから、今回は半歩先のライフスタイルを提案する企業、サザビーリーグの社内カンパニーとして「アガット(agete)」など4つのジュエリーブランドを展開する株式会社サザビーリーグ エーアンドエス カンパニーによるセミナーをレポートする。

登壇は株式会社サザビーリーグ エーアンドエス カンパニー 管理統括部 WEBシステム課 課長 和田雄一郎氏と、「サザビーリーグらしいデジタル/チャネルシフトの実現」を目指しグループのブランドを横断してCRMやSNS領域を支援する株式会社サザビーリーグ DX推進室 CRM・EC支援課の課長 加藤瑛文氏。「アガット」はどのようにCRM分析基盤とMAツールを活用し、いかにして【顧客に寄り添う購買体験】を実現しているのだろうか?

CRM・MA導入でMA経由売上139%、LTV130%を達成

株式会社サザビーリーグ DX推進室 CRM・EC支援課 課長 加藤瑛文氏(以下、サザビーリーグ 加藤) 最初にサザビーリーグ全体の事業をご紹介させてください。サザビーリーグは衣食住横断で40を超えるライフスタイルブランドを展開するコングロマリット企業です。売上高は1004億円(連結/2024年3月期)、その構成比は衣料が49%を占め、飲食が21%、服飾雑貨・生活雑貨が各15%となっています。

株式会社サザビーリーグ エーアンドエス カンパニー 管理統括部 WEBシステム課 課長 和田雄一郎氏(以下、エーアンドエス 和田) エーアンドエスカンパニーはジュエリーを専業とするサザビーリーグの社内カンパニーで、1990年にデビューした代表ブランド「アガット」のほか、「ノジェス(NOJESS)」「ベルシオラ(BELLESIORA)」「ラムダ(LAMBDA)」の4つを国内外で展開しています。

サザビーリーグ 加藤 今日はDX推進室が支援しながらエーアンドエス カンパニーで導入しているCRM基盤とMAツールの活用について話していきたいと思います。まずは導入前の2021年当時、顧客管理においてどのような課題があったのでしょう。

エーアンドエス 和田 当時は実店舗とECの顧客データを個別に管理していたため、店舗を軸にしたCRM分析はほとんどできていませんでした。顧客へのアプローチ(訴求ツール)はメールが主力で、LINEとアプリも運用していたものの、いずれもパーソナライズはできておらず、一斉配信していました。

サザビーリーグ 加藤 会員データも統合できておらず、そうした現状を変えるためにCRM基盤を構築してMAツールを導入しようと。(その準備として)導入前に行ったことを教えていただけますか。

エーアンドエス 和田 1つ目は会員登録せずに購入できる「ゲスト購入の廃止」です。EC購入において会員登録を必須にして、会員化を促進しました。2つ目が登録ポイントの付与」で、新規会員登録や「アガット」公式アプリのダウンロードやログインでのポイント付与を追加しました。3つ目は「会員プログラムの改訂」になります。3段階だった会員ランクを5つに細分化、さらにお客様に登録いただく情報によってポイント付与率が変動するプログラムを新しく作り、会員様のデータを充実させました。

サザビーリーグ 加藤 MAを導入する前に、しっかりと会員データを収集できる仕組みを作ったということですね。これを実施したうえで、DX推進室の支援のもとCRM基盤データ構築を進めていきました。

ECと実店舗の顧客管理システムを統合し、売上や商品、顧客の情報を一挙に集めたデータベースを構築し、そこからDWH(Data Warehouse)としてCRM基盤を作りました。そのデータ基盤とBIツールをつなぎこんでCRM分析を行い、MAツールである「Braze」とつなげることでパーソナライズした配信ができるようにしました。(図版1)
※「Braze」はBraze株式会社が提供しているカスタマーエンゲージメントプラットフォーム

【図版1】※カンファレンス登壇資料より

サザビーリーグ 加藤 こうしたCRM・MAの導入効果について、エーアンドエス カンパニーではどんなKPIを設定して測定しているのでしょうか。その成果も教えてください。

エーアンドエス 和田 まずMAツールを活用した売上向上に関しては、「MA経由売上と施策数」をKPIに置き、結果として経由売上が前年比139%、施策数は累計で500本に達しました。「CRMを活用したOMOの促進」という目標に対しては、クロスユース率(売上)が120%に向上しています。顧客体験とロイヤリティの向上に関しては、会員比率が110%、LTVは130%という成果が出ています。(図版2)

【図版2】 ※カンファレンス登壇資料より

成果につなげるCRM分析とMAツール運用事例

サザビーリーグ 加藤 基盤を構築しMAツールを導入しただけではなく、それをうまく連携させることで、成果が出てきているんですね。では次に、どのようなCRM分析を行っているのか、その事例をご紹介していきましょう。DX推進室ではF2転換分析やクロスユース分析などといったCRMに関わる様々なレポートをエーアンドエス カンパニーに展開しています。(図版3)

▼CRM分析事例

CRM軸×月次・週次実績
主要KPIの前年対比の推移を、新規・既存や客層など様々な軸で定点観測するレポート

会員ランク別分析
会員ランクごとに昨年と比較した各ランクの稼働率や上位ランクの顧客獲得推移を確認するレポート

セグメント抽出 会員/売上分析
任意のセグメントした顧客IDを取り込み、その顧客群の属性や購買傾向を分析するレポート

購入頻度別 商品分析
商品カテゴリやブランド、品番毎に売上げ実績を購入頻度(初回・2回目)別で傾向を分析するレポート

サザビーリーグ 加藤 (上記の中で)「セグメントを抽出した会員/売上分析」は、任意のセグメントした顧客IDをデータとして取り込み、その顧客群がどんな属性なのか、購買傾向があるのかといったことを分析するレポートです。全体というより(セグメントで)絞り込んだ分析ですが、これをどのように活用されていますか。

エーアンドエス 和田 例えば「アガット」とワーナー・ブラザースの映画「ハリー・ポッター」のコラボジュエリーを発売したことがあり、コラボ商品を購入いただいたお客様の客層を分析しました。コラボ企画は新規顧客獲得を推進する施策と言えますが、お客様がその後(F2・F3転換して)オリジナル商品を購入いただいているのかを分析することで、施策のアプローチが正しかったのか振り返ることができます。

【図版3】※カンファレンス登壇資料より(全てサンプルデータで、実際の数値とは異なる)

サザビーリーグ 加藤 続いてMAツールの運用についてです。2021年にMAツールを導入後、「配信する施策数が増えない」「施策の成果が生まれにくい」という状況があったと思うのですが、改善のためにどのような点に注力したのでしょう。

エーアンドエス 和田 「施策を整理する(カスタマージャーニーの設定)」「チャネルを増やす(マルチチャネル化)」「施策の幅と質を高める」の3点です。1つ目の「施策の整理」については配信施策を実施しようにも、何から手を付けようかという状態でしたが、カスタマージャーニーを作り「顧客体験の中でどのタイミングの施策が足りないのか」を整理しました。

サザビーリーグ 加藤 お客様の行動を横軸に、購入回数を縦軸に置いてカスタマージャーニーを作成すると、その“空白部分”に施策が足りないことがわかりました。そこで、新規顧客向けの施策に加え、2回・3回と購入いただくための「顧客育成シナリオ」を複数用意してそれぞれを実行したわけですね。(図版4)

【図版4】※カンファレンス登壇資料より

サザビーリーグ 加藤 2点目のアプリやLINEを使って「チャネルを増やす」取り組みについても教えてください。

エーアンドエス 和田 従来のアプリは店頭で会員証の機能として使うこと以外の用途があまりありませんでした。しかしロイヤルユーザーの方に向けたツールとして効果が見込めるツールとして、アプリの価値を高めるためリニューアルを行いMAと連携しました。合わせてライトユーザー向けにはLINEもMAと連携することで、いずれもパーソナライズされた、より強力なお客様とのタッチポイントとなるよう進めていきました。

具体的には、アプリをダウンロードしていただいた方にクーポンを配布したり、カートに商品を入れたまま購入が済んでいないお客様にリマインドとしてプッシュ通知したりといったことです。店舗ごとの販促にも使えますし、ポイント失効前の通知といったセグメント施策の自動化も可能になりました。

サザビーリーグ 加藤 マルチチャネル化することでお客様への訴求、タッチポイントを増やす取り組みですね。最後の「施策の幅と質を高める」ためにはどのような取り組みを?

エーアンドエス 和田 まずレコメンド系機能の強化です。リングを購入されたお客様には、リングを取り入れたスタイリングを提案したり、購入・閲覧履歴に基づいて他の商品をおすすめしたりなど、レコメンドできる種類を増やしました。また統合データベースを構築したことで、店舗とECのデータを統合した様々なデータを抽出することができるようになったので、それを各施策のランキングデータの生成等に活用しています。

「質を高める」取り組みとしては、施策ごとに配信タイミングの検証や、コンバージョンしやすい訴求タイミングや見せ方を探るABテストを行っています。ABテストではコントロールグループ(AもBも実施しない群)も設定して、実施したことで本当に効果があったのかを検証しています。

サザビーリーグ 加藤 3つのポイントを実施して成果につなげていったわけですね。他にも、CRM分析で深掘りして見えてきた傾向をもとに、F2転換率の向上や、実店舗⇔ECの併売を促進するMA施策の実施を、DX推進室支援のもと、様々に行っています。

AIとアナログの融合が未来のファッションECの鍵

サザビーリーグ 加藤 最後に“ファッションECの未来”について、和田様のお考えをお聞かせください。

エーアンドエス 和田 今後の施策としては、すでに実施段階に入っていますが、アンケートツールを活用した回答結果、つまり「お客様の声」をAIで分析し、それをMAに連携して、よりこまかなセグメント設定や、施策立案に活用していきたいです。定量的な数字のデータと(アンケートのような)定性データを掛け合わせて、高速でPDCAを回したいと考えています。

ここまでお話した通り、データを使ってMAツールでお客様へのアプローチは強化していきます。その一方で、ブランドへの信頼を高めお客様との絆を強めるためにはアナログのアプローチも必要不可欠です。「丁寧な店舗接客で商品の魅力が伝わり、『アガット』のファンになりました」といった声も多くいただいていますし、ジュエリーという商材ならではの“手に取って試着する”体験はオンライン上ではなかなか得られない価値でもあります。

デジタル化が進む中で、AIとアナログをバランスよくECに取り入れることが非常に重要だと思います。AIを活用して効率・精度を高めつつ、人間味や感情的なつながりを強めていく。その融合が未来のファッションECの成功の鍵になるのではないでしょうか。

追加情報
カンファレンス開催後、加藤氏が所属するサザビーリーグ DX推進室の部門は、2025年4月より分社化し「株式会社サザビーリーグ アウルスケープ」を新設することが発表された。今回エーアンドエスと実施しているような取り組みも含めた、現在グループ内で展開しているCRM・EC・SNSに係る各支援業務の実績・ノウハウを活かし、今後は外部企業向けにも同様の業務支援のサービス提供をするという。

小売・ファッションの現場で培ったノウハウを活かしたデジタルマーケティング領域の支援を社内外に展開する、今後の同社の取り組みにも期待したい。


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