
スタートアップ・中小企業の資金調達-2024年トレンドからみる今後の潮流【バンカブル セミナーレポート】
EC事業者の持続的成長には、適切な資金調達戦略が不可欠だ。しかし、思うように融資を受けられず、困っている事業者も多いと推察する。2024年12月に行われたミカタカンファレンスでは、広告費の分割・後払いが可能な金融サービスを展開している株式会社バンカブルの松山陽裕氏が登壇。近年注目を集める「オルタナティブファイナンス」の可能性と、融資資金を最大限に活用するための戦略について語った。EC事業を円滑に進めている方も、資金繰りに悩む方も、今後新しくECのサービスを始めようとしている方も、ぜひ松山氏の解説から資金調達のトレンドを押さえてほしい。
多くのEC事業者が直面する銀行融資の「壁」
松山氏はまず、近年におけるEC事業者の資金調達について述べた。創業期は自己資本と創業融資で事業をスタートし、軌道に乗ってきた段階でベンチャーキャピタルからエクイティで調達するケースが圧倒的に多いとのこと。ただしその後、資金が必要になったとき銀行融資を受けようとすると、困難が生じるという。
「これは、EC事業者様の持つアセットと銀行側の評価軸が合致していないことが、大きな要因です。例えば、EC事業者様は仕入れや広告費を銀行から調達して事業を加速させたいと考えていますが、銀行からすると、EC事業者様が扱う商品は動産であり担保価値が低く、広告費への融資は返済能力を予測しづらいという課題があります」
また、事業歴が短いことや事業の一過性を懸念され、貸借対照表の資産状況などで評価されてしまう実情がある。松山氏は「EC事業者様のアセットが、今の銀行の評価軸に合っていないと感じています」と指摘した。
注目されるオルタナティブファイナンスとは
次に松山氏は、近年注目されている「オルタナティブファイナンス」について解説した。オルタナティブファイナンスは、融資に代わる金融サービスであり、代表例として法人BNPL(後払い)やファクタリングがある。BNPLは支払いサイトを伸ばすことで資金繰りを改善し、ファクタリングは未回収の売掛金を売却して即座に資金化する。どちらも資金調達とは異なるものの、結果として同様の効果が得られるという。
オルタナティブファイナンスは申し込みしやすく、通常1週間程度と審査が早く、また通りやすいというメリットがある。手数料も既存のファイナンスに比べてそれほど差がなく、EC事業者のアセットを銀行とは違う目線で評価してくれる。
画像提供:株式会社バンカブル(カンファレンス登壇資料より)
バンカブル株式会社の「AD YELL」もまた、オルタナティブファイナンスの一つだ。広告費を4分割して後払いできる。最短3営業日で審査が完了し、財務諸表だけでなく広告実績も評価対象になる。また、バンカブルの請求書カード払いでは、財務審査は不要。支払いが最大60日延長される。
なお、売掛債権を買い取ってもらえるファクタリングは、顧客の信用力よりも売掛先の信用力を重視して与信を行うことが多く、スタートアップ企業でも利用しやすいサービスとのこと。2020年の民法改正により、将来債権もファクタリングの対象になった。松山氏は「ECサイトでよくある例を挙げるなら、定期購買などで将来の売上が予測できる場合、まとまった金額の買い取りが可能になっています」と述べた。
さまざまな資金調達法を知り、活用してほしい
最後に松山氏は、要点を2点に絞り、解説してまとめとした。
1点は、銀行からの借り入れなどデットファイナンスと、オルタナティブファイナンスは相反するものではなく、両立させられるものであるということだ。「オルタナティブファイナンスは借入枠を圧迫しないため、将来的な銀行融資の可能性を狭めることなく、むしろ良好なキャッシュフローを示すことで、融資審査に有利に働く可能性もあります」と松山氏。オルタナティブファイナンスの審査でも、他の資金調達予定があれば、与信にポジティブに働くという。
またもう1点として、「オルタナティブファイナンスはより短期・少額の取引に特化したサービスが増加していく」と予測した。BNPLやファクタリングに対する金融庁による規制強化の検討や、ベンチャーデット(※)のデフォルト増加などを受け、各社リスクを抑える動きが予想されている。
このことから松山氏は「特定の金融サービスに依存するのではなく、幅広い選択肢を検討し、活用していくことをお勧めします。特に、緊急度の高い状況になってからではなく、事前に複数のサービスを調査し、利用を検討しておくことが、EC事業者様の今後の事業展開に必要になるでしょう」と述べ、本セミナーを締めくくった。
※ベンチャーデット:資本(エクイティ)と負債(デット)の両方の性質を持つ金融商品。金融機関がスタートアップに低金利融資を行い、融資を受けた企業は金融機関に対して新株予約権を無償で発行する。
2019年に三菱UFJニコス株式会社へ新卒入社。法人営業やクレジットカードの加盟店開拓に従事。2020年より三菱UFJニコス側の営業担当者として「AD YELL」事業立ち上げをサポートするほか、法人営業のチームマネージメントを経験。2022年株式会社バンカブルに入社し、プロダクト開発と営業を兼務。2024年4月より、YELLシリーズ及び新サービス「Vankable 請求書カード払い」のBizDevから営業・CSまでをワンストップで担当するYELL Divisionの部門長に就任。