人口減少・人手不足時代に求められる店舗運営とは STORES社長が語る、新プランに込めた想いと狙い

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大矢根 翼

ECプラットフォームおよび店舗運営支援のSaaSを手がけるSTORES株式会社(以下、STORES)は、複数の既存サービスを統合し、料金体系を見直した新プランを発表した。発表会には代表取締役社長の佐藤裕介氏が登壇し、価格改定の狙いや、背景にあるリアル店舗の現状、そして同社が目指す“これからの店舗支援”について語った。

人手不足とインフレがポスト・コロナの中小事業者を直撃

発表の冒頭で佐藤氏は中小事業者を取り巻く情勢を解説した。人手不足と顧客の要望の高まりで経営環境が厳しさを増す中、これから希少財になっていくものは、新たな事業のスタートを切る人間の情熱だという。

「向こう5年から10年の間に汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)が実用化されると、経営的な技術や事業の管理は機械化され、コモディティ化していきます。そうした時代には、“情熱”こそが希少財になる」と佐藤氏は語る。

「STORESは店舗のデジタルインフラを目指し、『これをやりたい』という執着を活かすためのパートナーでありたいと思っています。そのために、STORESは決済、POSシステム、予約サービス、CMSなどを次々に展開し、テイクアウトやモバイルオーダーにも対応してきました」(佐藤氏)。

規模にかかわらず、事業者の収益源は多様化している。実店舗で販売しているものをECで販売したり、サービスを販売したりと、顧客目線でのタッチポイントが増加。それだけに必要な施策の数も増えている。

一方で事業環境は厳しさを増している。コロナ禍はローカルな実店舗を中心に売上の減少をもたらした。同時に中小事業者は社会保険料が猶予されていたものの、2024年に猶予が終了したことで資金繰りが悪化、2024年の赤字倒産率は過去最悪(※)になった。

※1 東京商工リサーチ 2024年の「休廃業・解散」企業 動向調査

画像出典:STORES株式会社「STORES 新プラン記者発表会」資料より

STORESは2020年から2021年にかけて、年間約50億円の赤字を伴う大規模な投資を実行し、経営危機に陥っている事業者向けのサービスを開発したという。2020年から2024年にかけて同社は「予約」「レジ」「ブランドアプリ」「ロイヤリティ」「モバイルオーダー」「データ分析」とサービスを立て続けに展開してきた。

背景の経営環境は今後も厳しさが続くという。人手不足で営業時間を短縮すれば売上が落ち、コストプッシュ・インフレの影響を常連へのサービスに転嫁できなければ収益が悪化する。

一方で顧客はキャッシュレス、モバイルオーダー、ネット予約などの売場体験を当然のように求めている。中小事業者は生産性を改善し、DXを進めなければ事業が成立しなくなる。

「しかし、中小事業者が大手と同じような施策に投資してリターンを得られるわけではありません。積極的に投資できる大手と集客力の差は開くばかり。STORESは、中小企業に新たな付加価値を提供するためのリスクを取り続けたいと考えています」と佐藤氏。

3300円でオールインワンパッケージを実現

新プランには、ブランドアプリとロイヤリティ機能以外のサービスが統合された。あわせてクレジットカードの決済手数料が引き下がったこともサービス内に反映され、決済手数料は3.24%〜から1.98%〜に下がっている。

STORESは昨今トレンドになっている、業界特化型のバーティカル(垂直
)SaaSではなく、あえて業界のカバー範囲を広げる戦略を選んだ。国内で開店数が増加していることを受け、開業前のデジタル需要に応えることが狙いだ。

画像出典:STORES株式会社「STORES 新プラン記者発表会」資料より

店舗経営者はデジタルの専門家ではなく、日々の業務の中でより重要な課題に追われているのが現状だ。たとえば、資金繰りの不安や開業準備に忙殺される中、複数のソフトを比較・検討し、本当に必要なものだけを選んで契約、さらにデータを活用して使いこなすのは至難の業に違いない。「店舗オーナーは慢性的な長時間労働の中で、データ活用の恩恵を受けられていない状況が続いています」と佐藤氏は語る。

バックオフィスのDXは進んでいるが、中小企業を中心とした現場では恒常的な残業が発生している。「自分の体はゼロコスト」と考える店舗のオーナーも多く、キャッシュが足りない時、最初にカットされるのは人力で代行できるソフトだという。そういった現状に対してのSTORESの回答が「安く、ひとつで完結するパッケージ」だ。

画像出典:STORES株式会社「STORES 新プラン記者発表会」資料より

「新プランは中小事業者に特化した最安のサービスを目指しました。窓口と管理画面が一本であることにより、開業に必要なクラウドPOS、テイクアウトなど、開業に必要なソリューション一式を安心して運用できます」(佐藤氏)。

事例として紹介されたランニング用品のTrippersは、実店舗とECで共有している在庫のずれをSTORESで解消した。STORESを使えばアルバイトの権限などもSTORES上で管理できるという。

3300円のパッケージには他社が約2万円から3万円以上で提供している内容が詰まっており、従来のSTORESサービスの組み合わせでも8430円相当だ。「中小事業者にとって年間数十万円の支出は大きな負担。また、ソフトの比較検討や慣れまでの期間も工数を圧迫します。そこで、検討の手間すらかからないほど安いサービスを目指しました」(佐藤氏)。

人口減少と人手不足時代の店舗運営に必要な視点とは

佐藤氏は1〜2年の短期間で数万件の新プラン新規契約を見込んでおり、店舗を持続させるために必要な業務密度の向上を狙って機能の拡充を進めると語った。リリース時点では有料になっているサービスも、内容を中小企業向けにカスタムして3300円のプランに統合する案もあるという。

人口減少の影響で、商圏内の顧客数は年々減少している。さらに、働き手の確保も難しくなっており、スタッフを常時現場に配置する従来の体制では限界が見え始めている。こうした環境の中で、STORESは「店舗の付加価値創出にかける時間を増やすこと」を提案する。


特に重要なのが、複合的な業態での店舗運営。ガソリンスタンドが洗車や点検といったサービスを提供するように、今では新規開業時から複数の機能を備えた店舗が一般的になっている。佐藤氏は「店舗がさまざまなシーンで思い浮かべられる存在でなければ、そもそも顧客の選択肢に入らず、経営が厳しくなる」と語る。

画像出典:STORES株式会社「STORES 新プラン記者発表会」資料より

そのための具体的な施策として、佐藤氏は店頭サービスを完全予約制にすることで営業効率(CVR)を高めることや、STORESが日々対応している数万件のメールデータを活用し、生成AIによる顧客対応の自動化を進めることを挙げる。

また、店舗型サービスでは本部機能が弱いケースも多い。接客よりもAIが得意とするデータ分析の分野では、店頭のスタッフに代わって業務を担える可能性が高く、こうした領域からの効率化が期待できるという。

新しく店舗やECを始める際には、初期コストを抑えたいというニーズも根強い。導入費用だけでなく、運用にかかる手間や効果が出るまでの時間も考慮しなければならない。さらに、人材不足によりバックオフィス業務に割けるリソースも限られてきている中で、SaaSを選ぶ際には、機能の多さよりも「情報を簡単に一元管理できること」がより重要になってきている。

こうした背景をふまえ、STORESの新プランは、店舗運営やECに必要な機能を一つの管理画面で扱えるうえ、金銭的なリスクも抑えられることから、新たなチャレンジを支えるパートナーとして大きな期待が寄せられている。


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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