明治はなぜ“未来のマルシェ”を作ったのか? 共創型EC「ミラマル」の挑戦
“未来のマルシェ”をコンセプトに、株式会社明治(以下、明治)と株式会社Wellnize(以下、Wellnize)が2025年7月にスタートした「ミラマル」は、広く流通する前の明治の新商品などを購入・体験できる新しいECプラットフォームだ。
消費者と明治をつなぎ、“新たな消費体験と明治のマーケティング革新を同時に実現する”ことを掲げる「ミラマル」について、明治 価値創造戦略本部の川端善也氏と、Wellnizeの代表取締役 兼 執行役CEOである木下寛大氏に聞いた。
明治と消費者をつなぐ共創型ECプラットフォーム
「ミラマル」の具体的な機能を紹介する前に、まず開発の背景にある明治のマーケティングDX戦略について触れておきたい。
同社は会員サービス「明治会員IDサービス」を開始しており、それを軸にした独自のデジタルエコシステムの拡大を推進中だ(詳細は後述)。そうした中で「ミラマル」は、育児記録アプリ「赤ちゃんノート」や栄養管理サポートアプリ「ザバスアプリ」といったものと並ぶ、デジタルサービス群の一つと位置付けられている。
画像提供:株式会社 明治、株式会社Wellnize(以下、図版は全て同)
「ミラマル」では広く一般流通する前のMVP(最小限の製品検証)段階の商品などが販売・お試しでき、明治はそこで得たものをフィードバックし商品やサービスの改善につなげていく。一方、「ミラマル」を通してアンケートやオンラインインタビューに答えたユーザーに明治独自のポイント「明治ポイント」を付与する機能も開発中で、消費者に新商品をいち早く体験できるメリットに加え、ポイントをためる楽しさも提供する。
このように「ミラマル」はテストマーケティングの場として機能しつつ、消費者の声をいち早くキャッチする新たな顧客接点となる"共創型の新商品検証ECプラットフォーム”としてローンチされた。
スキームとしては、明治が商品開発や製造を行い、ECでの販売とマーケティングに知見を持つWellnizeが「ミラマル」の運営を担うことになる。2025年7月時点では先行事例として、プロテインブランド「ザバス」の限定プロテインケース付き商品を販売しており、今後は女性特有の健康課題に対応するソリューションの検証も実施される予定だ。
「ミラマル」で商品開発の“確度”を上げる
もう一つ、「ミラマル」の立ち上げには、商品開発に関する明治の企業的課題も関係している。同社はこれまで、長い期間をかけて開発し市場調査を経て発売した商品を、大規模な販売投資を行って全国に流通させてきたが、それによって「どうしても高い目標とのギャップが生まれていた」と川端氏は語る。
「大規模投資をし『当たるかはずれるか』を見るフェーズの前にこの『ミラマル』を挟むことで、商品開発の“確度”を上げていくことが狙いです。商品のコンセプトが固まってきた段階で『ミラマル』を通して小規模に販売することで、実際のニーズやコストが検証できます。ここでPDCAを回し、4P(製品・価格・流通・販促)を見直したうえで全国に流通させていきます」(木下氏)
株式会社 明治 価値創造戦略本部 コミュニケーション部 デジタルソリューションG長 川端善也氏
また明治にとって、新しい市場や価値を生み出せていない時期が続いたことも『ミラマル』開発の背景にあったと川端氏は明かす。同社では数年前から全社的に新規事業を生み出すための仕組み作りを進めており、「I-meiji(イメージ)」と名付けた公募制の社内創発プログラムにも取り組んでいる。そうして生まれたアイデアをスピーディーに事業化し、最初に世の中に出す場としても「ミラマル」を活用していきたいという。
つまり現段階で「ミラマル」は、単独での収益化が目的ではなく、明治が顧客とつながりマーケティング施策を加速させるためにテスト・検証を行うためのECプラットフォームと言えそうだ。
「商品開発のプロセスの中で、『試しに売ってみる』こと自体が企業カルチャーの変革につながります。『ミラマル』はまだ売上や販売数を追うフェーズではなく、ここで検証した商品が世の中に出て、しっかりと売れていくことが一つのゴールだと考えています」(川端氏)
統合IDを基盤とした「明治エコシステム」
「ミラマル」がその役割を果たすためには、当然一定数のユーザーを確保し、さらに増やしていくことが必要となる。「ミラマル」への送客は広告や既存商品に関連するキャンペーンを通じて行われるが、そこで鍵となるのが前述した「明治会員IDサービス」および「明治ポイント」だ。
明治IDを登録している会員は、キャンペーン参加などでためた「明治ポイント」を使って、サービスや抽選への応募、クーポン等のポイント利用特典と交換することができるし、同ポイントを「ミラマル」で利用することもできる(※2)。明治はこの統合されたIDをマーケテイング基盤として活用し、“明治エコシステム”を作り上げることを目指す。
「人口減少に伴ってシュリンクしていく日本国内の食品市場において、『明治の商品を選んでいただく』ために明治IDを活用してユーザーを広げられることが、一番のバリューだと考えています。オフラインを含めた明治エコシステム全体の中の“出入り口”の一つが『ミラマル』であると捉えています」(木下氏)
明治エコシステムはまだスタートを切ったばかり。組織のカルチャーを変革し商品開発全体を加速させる「ミラマル」が、これを成長させるエンジンとなるのか。今後投入される新しい商品・サービスを注視していきたい。
株式会社Wellnize 代表取締役 兼 執行役CEO 木下寛大氏
※1:株式会社Wellnizeは株式会社ゲキジョウと株式会社Co-Liftにより設立された合弁会社で、株式会社 明治とは資本提携している
※2:商品によっては明治ポイント対象外のものもある
●参考記事:明治の“共創型”新商品検証ECプラットフォーム「ミラマル」がサービス開始