マーケティングプロフェッショナルから学ぼう ~コンテンツマーケティング編 後編~

西村 勇哉

春は転職や異動のシーズン。そこでECのミカタでは、ECマーケターになったばかりのあなたや改めてマーケティングについて勉強しなおしたいあなたに向けて、その道のプロから学ぶマーケティング講座をウェブ上で開講します。第1弾は、「コンテンツマーケティング編」。マーケ支援企業のカタリベ社と明治大学が取り組んだデジタルマーケ時代のコンテンツマーケティングのデザイン(設計)について、調査結果と共にお話を伺います。

※こちらは後編です。前編の内容に続いていますので前編から読んでいただくのをお勧めします。

【前編】
https://ecnomikata.com/column/25485/

コンテンツに対する顧客の知覚価値を左右する要因は何か

コンテンツマーケティングを語るときに、「顧客はあなたのことも、あなたの製品やサービスのことも気にかけていない。彼らが気にするのは自分自身のこと、彼ら自身の欲求やニーズだけだ」というピュリッジ(Joe Pulizzi)の言葉がよく引用されます。モノの見方、世界観がコンテンツマーケティングと従来型マーケティングでは根本的に異なるという主張です。

伝統的なマーケティングの顧客満足(customer satisfaction)に変わって顧客エンゲージメント(customer engagement)などの用語が使われるようになっているのもデジタル化の影響を大きく受けています。その背景には、1回の売買に基づく販売額という売上価値だけではなく、顧客が長年にわたって自社製品を愛顧してくれる価値(生涯価値:LTV)、顧客の口コミによって得られた新規顧客の獲得(紹介価値、影響価値)、さらには顧客の知識をベースに生まれた新商品(知識価値)、など様々な顧客価値に対する認識が広がっているのです

しかし、そこで想定されている従来型マーケティング自体がかなり狭く認識されています。すでに1980年代から、「匿名の顧客から顔の見える顧客へ、単発的な売買から長期継続的な売買へ、顧客の獲得から既存顧客の維持(顧客の進化)へ」など、マーケティング活動をリレーションシップ(関係性)の構築・維持として捉える見方は一貫して提唱されてきました。このような見方がデジタル経済の登場によって、より具体的に、実現可能なものとして語ることができるようになったというのが本当のところなのです。

リレーションシップ志向に基づくコンテンツマーケティング

コンテンツマーケティングの有効性・効率性を左右するポイントは、パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を便利なツールだと顧客に知ってもらう、デジタル技術の使い回しが簡単だと顧客に知ってもらうことです。そのためにするべきことは、情報が顧客にとって価値があると知ってもらうことです。消費者がコンテンツに接触したときに、まずそこに含まれる情報(イラスト、写真、動画、文字等)はいったん短期記憶に蓄えられます。次の瞬間に長期記憶にストックされた知識(解釈ルール)との照合が行われ、それらが合致していれば、当該ルールは適用され、次の行動に移ります。

たとえば、有機野菜に関するコンテンツをみたとき、その印象が短期記憶に入り、「有機野菜は身体によい」という長期記憶のルールがあると、短期記憶においてコンテンツの情報は長期記憶のルールと相互作用して、価値ある情報として認識され、ある種の行動(ここでは購買など)が起こります。

問題は、短期記憶の情報処理の容量がかなり制限されていることです。そのため、一度に大量の情報を処理しようとすると、短期記憶の処理可能な容量を超えてしまい、結局、顧客に情報はうまく伝わらないという課題に直面します。そのため、コンテンツの情報の中身をどのように顧客に提示するかを慎重に考える必要があります。有効なコンテンツの例としては、製品・サービスを購買・消費することで、どのような価値が顧客にもたらされるのかをできる限り客観的な事実として顧客に伝達するようなコンテンツが挙げられます。

そして、コンテンツとして伝達する容易さは製品・サービスの種類によって異なります。今回、本プロジェクトの調査対象となったのは「美容」「出産・育児・教育」「旅行・レジャー・ホテル」「投資・資産運用」「車・ホビー・ガジェット」の5つの商品カテゴリー分野です。一般に、有形の製品よりも、無形のサービス商品の方が情報を伝えることは難しいとされています。この調査結果をみると、情報収集の際、どのようなメディアが有力な情報源になったかについて、ほぼ全てのカテゴリーで、「専門家のレビュー(専門サイト)」と「ネットニュース」が上位に列挙されている。この他にも「ニュースアプリ」「新聞社系ニュースサイト」も多く閲覧されています。要するに、サービス商品(今回のテーマでいうところの「車・ホビー・ガジェット」を除く4カテゴリ)はその品質評価が難しく、品質は状況に応じて変動しやすいのです。そのために、より客観的で、信憑性があると顧客に認識されているメディアやそのコンテンツが活用されていると思われます。

情報収集するメディア

もう少し具体的に解説していきます。「美容」というサービス商品のカテゴリーでは、男女、年代を問わず、一貫して「専門家のレビュー」「サービステクニックや商品特性や価格などという事実情報の提供が重視されています。したがって、選択されるメディアも「専門サイト」や「ネットニュース」、「新聞社系ニュースサイト」などの事実情報の取得に役立ちそうなメディアが選ばれています。この傾向は「出産・育児・教育」「投資・資産運用」というサービス商品でも同様であり、「ニュースサイト」「専門のサイト」そして「新聞社系のサイト」がメディアとして多く活用され、コンテンツとしては「そのサービスの質(テクニック)」や「新サービスと価格」などの実用的な情報が求められています。

美容記事は、どんなメディアで読んでいる?

美容について興味関心が高い記事はどれか?

「旅行・レジャー・ホテル」の場合、活用メディアとして「専門のサイト」と「ニュースサイト」の比率がダントツに高く、それに続くのは「ニュースアプリ」です。また、求めるコンテンツとしては「消費者の口コミ・体験談」が高くなっています。

旅行・レジャー・ホテル記事は、どんなメディアで読んでいる?

旅行・レジャー・ホテルについて興味関心が高い記事はどれか?

「車・ホビー・ガジェット」も「専門のサイト」と「ニュースサイト」の比率が高いですが、特徴として、YouTubeやTwitterの利用率が他のカテゴリーに比べて高くなっています。車・ホビー・ガジェットはより顧客個人の嗜好性の高い商品であり、好き・嫌いの評価が個人間でばらつく傾向があるため、SNSにおける特定の嗜好を共有したコミュニティが重要な情報源として利用されていると思われます。コンテンツとして、「消費者の口コミ・体験談」が旅行・レジャー・ホテルと同様に極めて高いのも特徴です。

車・ホビー・ガジェットの記事は、どんなメディアで読んでいる?

車・ホビー・ガジェットについて興味関心が高い記事はどれか?

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以上をまとめると、サービス型商品は事実情報を広く客観的に集めるのが困難であり、その意味で、一種の経験型商品(experience goods)(場合によっては信用型商品(credence goods))に該当します。経験型商品とは「使用または購買前に評価が困難な特性を備えた商品・サービスで、実際に消費することによって初めてその特性を評価できるもの」のことです。さらに、経験型商品といっても、事実情報の伝達に相応しいメディアとコンテンツの中身には違いがあることです。

「車・ホビー・ガジェット」などの個人の嗜好の相違が強く現れる商品や、顧客の使用状況(文脈)に強く影響を受ける「旅行・レジャー・ホテル」などの商品の場合、アクセスするメディアの種類に違いが生まれる可能性があります。最近、文脈価値(value in context)という言葉をよく耳にしますが、それが指し示しているのは、商品の置かれた文脈(使用状況)が一人一人の価値評価に影響を与えるということです。

たとえば、「家族での旅行と恋人同士の旅行」は同じ旅行であっても使用文脈が全く異なりますし、「アニメ・オタクとフィギュア・オタク」では嗜好の中身が異なり、必要とする事実情報も異なるのです。

コンテンツマーケティングにおける「イノベーションのジレンマ」

デジタル経済下では、顔の見える顧客を把握することができるようになります。「顔が見える」とは、顧客の置かれた使用状況(文脈)の違いと顧客間の嗜好の差異(好き嫌いのバラツキ)がより詳細に把握できるようになるということ。コンテンツとして事実情報を提示する場合、有形の商品よりもサービス商品(経験型商品)の方がより複雑になり、顧客から見て信用/信頼のおける情報源(メディア)が選別されます。

特に商品に対する嗜好の面で顧客間に大きな異質性が見られる場合、また置かれた使用状況(文脈)が顧客による価値の評価に大きく影響を与える場合、事実情報としてのコンテンツの提示はさらに技術的に複雑化・細分化し、より一層多様な情報源(メディア)が登場することになるでしょう。

しかし、消費者の情報処理能力は限られているので、コンテンツの種類が複雑化・細分化し、メディアが多様化しても、実際に顧客にアクセスされるコンテンツ・メディアの数は増えません。これがコンテンツマーケティングにおける「イノベーションのジレンマ」「コンテンツ・ショック」現象です。このようなジレンマに直面している発信元の企業は有効なコンテンツマーケティングの実践のために何ができるのでしょうか。

コンテンツマーケティングをデザインする上での課題:リレーションシップ、信頼、情報の縮約化

顧客に選択されるコンテンツとメディアであるためには、製品・サービスに関する事実情報が縮約され、発信されている必要があります。「縮約情報」ということがキモです。縮約情報というのは情報の量を適量化し、さらに情報の質を複雑にせずに簡素化することを意味します。

そうした作業はオフラインの小売業と共通しています。小売業者が何をしているのかと言えば、大量に存在する商品・サービスの世界から、小売業者自身が顧客のニーズに合致しているであろうもの(商品/サービスの集合=品揃え)を選択し店舗に並べるわけで、この役割は商品/サービスに関する「縮約情報」と呼べるでしょう。

オンラインの小売業者もこの品揃えが莫大に広がったとも言えます。では消費者はそのすべての商品/サービスのなかから自分のニーズに合致したものを主体的に選んでいるかと言えば、そんなことは通常はできません。一般の消費者は画面に並んでいる上位の商品/サービスの品揃えのなかから、選択せざるをえないのです。

だからこそ、オフラインの小売がやってきた「情報の縮約化」のように、オンラインでは比較サイトの「集合知」、アマゾンの「レコメンド技術」が事実情報を縮約し、専門家やインフルエンサーの「キュレーション」が伝聞情報を縮約補完します。つまり情報の質を複雑化させずに簡素化することが今後一層求められるのです。そしてその縮約の中身や手段は、時代とともに変化します。それは消費者の関心事や情報に接するデバイス、メディアが日々刻々と変化していくからです。

例えば、米国のビジネスウェブメディアが提唱した「Quartzカーブ」というものがあります。
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アメリカの新聞の平均的な記事の長さは、紙面の上から下までの一段の記事で、語数にして700語台である(日本語に訳すと2千数百字になる)。だが、『クオーツ』は、500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化している。

この哲学に行き着いたのは、トラフィックを分析したところ、デジタルでよく読まれるのは短い記事か長い記事のどちらかだという分析結果を得たからでもあり、700語台の記事は無駄が多いと考えるからでもある。

※参照 アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた  | New York Sophisticated | 現代ビジネス [講談社] より
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一般的な新聞記事の700語よりも、ウェブメディアでは「短文の500語」または「長文の800語」の方がトラフィックが増加することに目を付け、ウェブ記事の最適な分量を決めたという話です。言語や文化背景が違うため、日本で応用するには検証が必要ですが、このように消費者が反応する分量についても編集方針を持つことは重要です。

まとめ

リレーションシップ(関係性)の基礎にあるのは、顧客と企業との間の信用・信頼の相互規定関係である。コンテンツマーケティングをリレーションシップマーケティングの1つのツールと見なすならば、信頼されるコンテンツと信頼を生み出すコンテンツの間で良循環を生み出すことが大切である。価値ある情報のコンテンツは顧客の側に信頼され、その信頼を基盤にして、さらに有益なコンテンツの情報発信が促される。このような双方向の良循環がリレーションシップ型のコンテンツマーケティングとして望ましい姿ではないだろうか。


●株式会社カタリベ 代表取締役社長 永瀬義将(ながせ・よしまさ)
大学在学中にタクシー広告に特化したビジネスで起業。2004年ネット広告代理店(株)オプト(現:東証一部オプトHD)に入社。営業部長などを歴任し、子会社2社(SMM関連事業、デジタルマーケティング人材紹介事業)の取締役執行役員に就任。2013年(株)カタリベを設立、代表取締役社長に。

<カタリベ>
スマートフォンマーケティングに軸足を置いて、「コンテンツ質」と「コンテンツ量」を圧倒的に高めて成果を出す各種ソリューションを提供しています。アド、オウンドメディア、ソーシャルメディア上で展開されるコンテンツ戦略の立案から実行までを支援する頼れるマーケティング&テクノロジーパートナーです
・参考リンク
http://corp.katari.be

●小林 一(こばやし・はじめ) 
1953年生まれ。81年、明治大学大学院商学研究科博士後期課程の単位を取得し、同年より明治大学短期大学助手となる。82年同短期大学専任講師、86年同短期大学教授。 87~88年に米国ワシントン大学の客員研究員。96年より明治大学商学部助教授をへて、同年、明治大学商学部教授就任し、現在に至る。テーマは戦略的マーケティング論と流通チャネル論。
・著書・論文
『新訂流通総論』(白桃書房)、共著『市場駆動型の戦略』(同友館)、『ケイパビリティとしての事業システム』(明大商学論叢)、『戦略的SCMケイパビリティ』(戦略的SCMケイパビリティ)、『ダイナミック・ケイパビリティ研究の現状と課題』(明大商学論叢)など
・参考リンク
https://www.meiji.ac.jp/dai_in/commerce/faculty/02/6t5h7p0000014zgl.html


著者

西村 勇哉 (Nishimura Yuya)

ECのミカタ株式会社 メディア運営事業部
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
社会人になってもちょこちょこ練習しています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
伝統産業や地方創生に興味があります。
好きなものは乃木坂46(箱推し)。今、好きな曲は「ありがちな恋愛」

連絡先→nishimura@ecnomikata.co.jp