「解約率3%以下」をキープ PostCoffeeが実現した“続けたくなるサブスクEC”

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桑原 恵美子

無料のコーヒー診断により、約30万通りの中から自分好みのコーヒーが届くパーソナライズ型のコーヒーのサブスク通販「PostCoffeeサブスクリプション」が好調だ。2020年のリリース以降、売上高はスタート時の10倍を超えている。2022年には、日本最大級のコーヒーショッピングモール「PostCoffee」をオープン。23年10月には、オフライン旗艦店となる「PostCoffee® Offline Store」を下北沢に、2025年6月4日には大丸東京店 9F〈明日見世〉内に、2号店「PostCoffee® KIOSK Daimaru Tokyo」をオープン。快進撃の理由を、POST COFFEE株式会社の下村祐太朗CCOに聞いた。

一人ひとりの好みに応じて最適なコーヒーをレコメンドする“パーソナライズ型の定期便”

POST COFFEE株式会社のEC事業は大きく2つ。一つは、顧客一人ひとりの好みに応じて最適なコーヒーをレコメンドするパーソナライズ型の定期便「PostCoffeeサブスクリプション」。もうひとつは、国内外で有名なコーヒーショップのコーヒー豆が手軽に単品購入できるコーヒーショッピングモール「PostCoffee」だ。コーヒー版ZOZOTOWNを目指し、国内外20店以上の有名コーヒーショップのコーヒー豆と、世界20カ国以上の自社焙煎コーヒー40種類以上をラインナップしている。

PostCoffeeの定期便プラン(サブスク)は月額1980円(税込・送料無料)~。パーソナライズされたスペシャルティコーヒー3種(各75g)が届く。頻度は毎月または隔月を選択可能。スキップや解約もマイページから簡単に操作可能

同社の成長を牽引しているのは、前者の「PostCoffeeサブスクリプション」。最大の特徴は、30万通りの世界中のコーヒーの組み合わせから自分好みのコーヒーを選べる「コーヒー診断」を、サブスク導入のきっかけにしていること。スマホを使ってPostCoffeeのサイトでコーヒー診断ができ、ライフスタイルや好きな食べ物などの10項目の質問に答えるだけで、コーヒーの淹れ方からコーヒー豆の種類、量、価格といった様々な要素がパーソナライズされ、送料無料でポストに届く。届くたびに好みにどれだけ適合していくかを採点し、次回のセレクトにフィードバックしていくシステムなので、長く続ければ続けるほど、自分の好みに合ったコーヒーが選ばれるということになる。

PostCoffeeサブスクリプションの診断画面の一部。「僕たちは『ライフスタイルを進化させる』をビジョンにしているので、コーヒー診断では味の好みを聞くというより、その人のライフスタイルについて質問し、それに基づいてバリスタが味の好みを導きだしています」(下村氏) ※画像提供:POST COFFEE株式会社

診断結果の好みに近い3種類のコーヒーを届け、その結果をフィードバックしてもらうことで、さらに好みの味の精度が上がっていく仕組み ※画像提供:筆者

1台のエスプレッソ・マシンへの一目ぼれが、コーヒービジネスのきっかけ

もともとデザイナー・アートディレクターとして、デザイン会社 HERETIC, inc.の取締役を務めていた下村氏が、国内最大級のコーヒー通販であるPOST COFFEE株式会社を創業したのは、2018年。きっかけは、オフィスの改装だったという。

「たまたま見かけたKees van der Westen社の『スピードスター』というエスプレッソ・マシンのデザインにひと目ぼれして、衝動買いしたのがきっかけです(笑)。かなり高額なマシンだったので、オフィスで使うだけではもったいないと考え、2013年頃、渋谷で20~30席くらいのカフェを始めました」(下村氏)

ちょうどその頃、アメリカのスタートアップの中でコワーキングスペースが流行り始めていたので、下村氏も、Wi-Fiが使えて作業もできる小さなカフェを目指したという。同じタイミングで渋谷界隈を中心にスペシャルティコーヒーのブームが起こり、コーヒー業界で働くバリスタや焙煎士のような人々が、カフェに遊びに来るようになった。そこで初めてスペシャルティコーヒーの存在を知り、そこからどんどんコーヒーにのめりこんでいった。だがその後、リアル店舗のカフェ運営では商圏に限界があることを感じ、カフェ運営から撤退。より広い商圏から主客できるECに目を向けることになった。

下村さんが一目ぼれして衝動買いしたKees van der Westen社のエスプレッソ・マシン『スピードスター』

「コーヒーのサブスクのアイデアが生まれたのは、カフェを閉じた後、自分たちがスペシャルティコーヒーを買う場所に困っていたからです。一般的なコーヒー屋さんでは、届くまですごく時間がかかって、飲みたい時に飲めない。そういうことに課題を見いだして、2019年にワンタップでコーヒーを買えるアプリの運営を始めました。それを1年間運営していく中で、もっとサービスをブラッシュアップしていけば、コーヒーに特化した理想的なサブスクサービスが作れるのではないかと考えたのです」(下村氏)

サブスク導入のきっかけとして有効な「コーヒー診断」のシステムを作るのには3カ月ほどかかった。スペシャルティコーヒーには、フレーバーの特徴がキーワードで示されているので、その味わいと、ライフスタイルの傾向に基づいた診断結果を焙煎士が紐づけて、その人に合うコーヒーを導き出している。

「解約率3%以下」をキープするためにしていること

同社のサブスクサービスがユーザーを拡大しているのは、無料でできるコーヒー診断がフックになって居るのは間違いない。だがその継続率が高く、解約率を3%以下にキープしているのには、さまざまな理由がある。

ひとつは、1回分の配送料が少量からカスタマイズできること。コーヒー豆のサブスクでは、配送料の節約のため、1回分である程度まとまった量を送るのが一般的だが、少量からの販売し、量もカスタマイズできる。サブスクでは、1種類5杯(1杯15g×5杯)から契約可能で、送料無料。POST COFFEEで単品購入する場合、各45g(約3杯分)から購入が可能。それは自分たちの経験からだ。

「コーヒー好きな人でも、飲み切れなくてコーヒー豆がたまっていき、鮮度が落ちていくのがストレスになることが多いんです。ですから多く必要な人も、少なくていい人も両方満足できるように、細かくカスタマイズしています。また『欲しいタイミングでスピーディに届く』ということも重視していて、単品購入なら15時までに注文いただければ、その日のうちに発送します。都内なら翌日、コーヒー豆が新鮮な状態で届きます。またサブスクは、決まった日に一斉に配送するところが多いのですが、うちは365日に分散させて、毎日配送しています。ユーザーが増えても、新鮮な状態でコーヒー豆が届くことが大事だと思うからです」

ただ、サブスクの場合は全国送料無料なので、小ロットが多いと経費がかさむ。「少ないロットでも、1種類につき1パッケージ必要ですので、小ロットですとどうしてもパッケージの費用の比率が高くなり、価格を上げないといけなくなってしまいます」

現在使用している新技術のパッケージ ※画像提供:POST COFFEE株式会社

それを解決したのが、現在使用している新技術のパッケージ。一般的なコーヒー豆のパッケージには、バルブという空気が抜ける穴がついているが、特殊な技術を使って、素材から空気が抜けるようになっている。「多分同じ条件でバルブを付けて作るというと、今のパッケージが3倍ぐらいの値段になってしまうと思います。そんな新技術や企業努力を重ねて、ユーザー様が増えても同じ価格で続けられるような仕組みを作っています」

デザイナー出身だけに、デザインにもこだわりが強い。「コーヒーを送る時に、単に物を届けるだけではなく、ライフスタイルを楽しむという観点を大事にしています。届いた時にパッケージがちょっとイケてるなと思って欲しいので、デザインにこだわっていきたいと考えています。コーヒーのパッケージって茶色い渋いイメージのものが多いけど、そうではなく、届いた時にちょっとテンションが上がるタイミングを作りたいんです。そのタイミングをつくるのがデザインだと思っています」

「届いた時にちょっとテンションが上がるタイミングを作りたい」と語る下村氏

サブスクのサービスをリリースしたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大する直前の2020年だったが、意外にもそれがチャンスとなった。コロナによるおこもり需要でサブスクというキーワードが注目され、いろいろなメディアに取り上げられたのがきっかけでユーザーが急増したのだ。そこから徐々にスタッフも増やしていったという。

「僕たちがやっているような、お客様一人ひとりにカスタマイズしたコーヒーを、その都度違う組み合わせで少量から箱詰めして送るというオペレーションは、手がかかりすぎて、おそらく大手の会社ではあまりやりたがらないのでは。それも、僕たちが成功した理由の一つだと思います」

いろんなお店のコーヒーをお客さん自身が選んで楽しめる場所に

下村氏が現在力を入れているのは、ポストコーヒーのカフェでの新たな体験づくりだ。これまでもポップアップショップを展開し、来店者にサブスクを紹介する取り組みを行ってきたが、短期型の店舗では体験の継続性に限界を感じていたという。

「最近できた大丸の店舗でも、下北沢の店舗でも、うちのコーヒーに加えて、他のコーヒー屋さんの豆も飲めるようにしています。いろんなお店のコーヒーをお客さん自身が選んで楽しめる場所にしたい。ここで新しいコーヒー屋さんに出会って、そのお店に足を運ぶきっかけになったり、好きな味を見つけてサブスクで家でも楽しんでもらえたらうれしいですね」

下北沢の店舗でも他の人気ロースターによる豆を購入できる

近年、オンライン(EC)とオフライン(リアル店舗)を融合したOMO(Online Merges with Offline)型の店舗が、顧客体験を最大化するスタイルとして注目されているが、同社の試みはまさにその典型といえそうだ。

下村氏は展示会の視察で海外に行く機会が多く、その時にカフェめぐりを楽しんでいるが、海外のカフェはスペースが広く、のびのびとしているところに魅力を感じるという。「日本のカフェはどちらかというと、小さなスペースでこぢんまりしているお店が多いですよね。そういうお店が落ち着くという気持ちもわかりますが、僕たちは海外の人気カフェのように、ゆったりした開放的なスペースでコーヒータイムを楽しんでもらいたい。それもリアル店舗でかなえたい夢のひとつです」


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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