1200万人超が利用するファッションECに成長 ZOZOTOWN20年の進化とこれから

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桑原 恵美子

2024年12月に20周年を迎えたファッションEC「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」。インターネットで洋服を買うことが一般的ではなく、通販への偏見や誤解も根強かった時代に、わずか27ショップ(250ブランド)からスタートし、現在では1600以上のショップ・9000以上のブランドを展開し、アクティブユーザー・ゲストユーザーを含め年間1200万人超が利用する巨大ファッションECへと成長した。この節目の年に、ZOZOTOWNがどのように進化し、これからどこに向かおうとしているのかを、株式会社ZOZO ブランド営業本部 本部長の松田健氏に伺った。

“ネット通販への不信感”と戦った創立期

ファッションECサイト「ZOZOTOWN」が誕生したのは、2004年12月。2000年に創業者である前澤友作氏が、前身となるアパレルのオンラインショッピングサイト「EPROZE(イープローズ)」を開設しているが、利用者からカートや決済システムの統一化のリクエストを受けたことからZOZOTOWNを立ち上げたという。

松田氏が株式会社ZOZO(以下、ZOZO)に入社したのはその4年後だったが、発足当時の苦労については社内でよく耳にしていた。特に苦慮したのが、出店を依頼したブランドの反応の冷ややかさだった

「当時のファッション業界ではまず店舗を構え、その中で丁寧な接客を通して自身のブランドの世界観を表現することが常識でした。しかも当時は、通販で売られる商品は粗悪品が多いというネガティブなイメージがありました。創業当時は我々が何者で何をやろうとしているのかも伝わっていない状況でしたから、店舗側にお話を聞いていただくのも大変だったということを聞いています」(松田氏)

そこで生まれたのが、「街(タウン)」というコンセプト。一つひとつのブランドのショップを、WEB上にリアルに作り込み、街を散策してさまざまなショップを巡ることができるように設計した。それを「街」に見立て、“想像と創造の行き交う街”として「ZOZOTOWN」と名付けた

ZOZOTOWN発足当時のトップページのバーチャル画像

ZOZOTOWNを変えた、3つの“転機”

ZOZOにとって大きな転機となったのが、2005年にセレクトショップを運営する「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」「ビームス(BEAMS)」をZOZOTOWN内にオープンできたこと。ユナイテッドアローズ出店のきっかけは、創業者である前澤氏のファッションに対する姿勢を、ユナイテッドアローズ創業者の重松理氏が高く評価したことだった。

「ZOZOTOWNのオープン前に重松会長が、『何か新しいことをやろうとしている、若くて生きのいい子たちがいる』という噂を聞いて興味を持ってくださり、当時の幕張オフィスまでわざわざ出向いてくださったと聞いています」

当時はまだ無名のECサイトだったZOZOTOWNに、日本を代表する著名なセレクトショップが出店したことは大きな話題を呼び、その後「シップス(SHIPS)」などが相次いで出店。有名セレクトショップが揃ったことでZOZOTOWNの認知度が一気に高まり、ファッション業界からの反応も大きく変わったという。

2007年にはユーザーの発信により蓄積された情報を新たなコンテンツとして提供していくことを目的にZOZOTOWNなどを包括した「ZOZORESORT」(現在は終了)がオープン。2010年「ZOZORESORT」がリニューアルするタイミングでコンセプトを「街から人」にチェンジし、ZOZOTOWN発足当時からあったトップページのバーチャル画面をサイトから消した。

これはネットで洋服を買うことが一般的になった結果、利用者からより高いユーザビリティが求められるようになり、CGとFlashを駆使して作り込んだバーチャル画面のデータの重さが、画面推移のスピードの妨げとなっていたことも理由のひとつ。だが、ネット通販が一般化したことで、バーチャル画像の必要性が失われていたことが最大の要因かもしれない。このリニューアルでユーザー参加機能や検索機能も拡充され、「人」とのコミュニケーションや利便性が重視された構成に大きく変貌した。

もうひとつの転機は、コロナ禍です。商品はあるのに多くの実店舗が開けられず『どうやってお客様に商品を届けたらいいのか』と悩まれる店舗さんの声を多く耳にしました。そんな状況でもZOZOのサービスは稼働を続行できましたのでどんどん商品が集まってきて、『お店で売れない分をZOZOで売って欲しい』というご期待を非常に強く感じた時期でした。またあの数年間を経て、ECで買うということがファッションで当たり前になった。そういう意味でも近年ではコロナ禍が大きなターニングポイントだったと思っています」

ブランドにはないZOZOの強みはデータと最新技術の活用

松田氏は「ECと店舗は決して対立するものではないし、店舗の世界観の伝え方の素晴らしさには我々はやはりかなわない」としながらも、「顧客データの活用や最新のテクノロジーでお客様の課題を解決するという観点を持ち、我々のように早くから取り組んでいる店舗はほとんどなかったと思う」と振り返る。

多くの顧客データが集まるZOZOは、それを最新技術と掛け合わせて提供することで、ユーザー体験を向上させてきた。特に顕著なのが、近年のパーソナライゼーションの進化。ZOZOスーツなどの計測技術やレコメンデーション技術が年々進化しているが、それらに注目し向き合うのが早かったのがZOZOだという。

ZOZOは膨大なデータを利用して、ブランドの課題解決にも取り組んでいる。そのひとつが2022年からスタートさせた「Made by ZOZO」。これは受注生産プラットフォームを通じて、ブランドの在庫問題解決しようという取り組みだ。

「ZOZOTOWNは売り場としてご活用いただくことが多いのですが、ファッション業界全体の課題をもう少し川上のところから解決したいと考えています。ブランド様の課題の根本にあるのが、在庫を抱えるということ。そこでMade by ZOZOでは、これまで各ブランドが手作業でおこなっていたことをデジタル化し、複数の異なるデザインの商品を同時並行で生産可能にする独自のシステムで、最低1着から生産をおこない、商品を受注してから最短10日で発送することができるようにしました」

2022年からスタートさせた「Made by ZOZO」

これまでのファッション業界では季節ごとに一定量をまとめて生産する方法が一般的だったが、Made by ZOZOではZOZOTOWN上で商品を受注した後に生産工程に入るため、ブランド側は在庫リスクがほぼゼロになる。したがって、商品のバリエーションを豊富に揃えることが可能になる。

「プライベートブランドを作った時に、マルチサイズ(身長と体重を選ぶだけで、自分の体型に合ったサイズが選べる)というサービスを提供開始したのですが、それも掛け合わせていますので、多サイズ展開も可能です。ブランドさまとしては在庫を持たずにいろいろなことにトライできると、大変好評をいただいています」

洋服のオンライン購入が一般化する頃には「ZOZOUSED」「ZOZOフリマ」などの二次流通市場に参入。近年ではラグジュアリーブランドを取り扱う「ZOZOVILLA」などで、より幅広い需要に応えるため領域を広げている。「ZOZOUSED」サービス開始当初はブランド側に戸惑いもあり、説明を要したが、現在では独自の買い替えサービスを利用することでファッションの流通を回転させる役割を果たしていることが評価されているという。

専用のボディスーツを着用してスマートフォンで撮影するだけで、詳細な体型を自動採寸できるサービス「ZOZOSUIT」(2022年にサービス終了)

さらにユーザー体験の進化を追求していき、EC購入の課題であった 「サイズ」や「色選び」 の不安を解消する「ZOZOSUIT」「ZOZOMAT」「ZOZOGLASS」などのテクノロジーを活用したツールの提供を開始。「ZOZOMO(ゾゾモ)」というサービスでは、店舗の在庫情報をオンラインで表示し、取り置きや店舗への送客を促進している。

リアル店舗にできないことを、テクノロジーで実現していく

今後も目指し続けて行くのは、カテゴリーを拡張し、新しい顧客との接点を作り続けること。

「ファッションが軸であること自体は変わりありませんが、ファッション中心にその周辺にあるようなカテゴリーを引き続き強化をしていきたい。そしてお客さまのLTV(Life Time Value)を向上させていくことが大事です」

テクノロジー面では、数年前から「似合う」の解明に力を入れ、「ジャンル」「味付け」「与えたい印象」「体型の悩み」という、ZOZOが考える「似合う」を構成する4つの要素を特定した。昨年には「似合う」のデータを活用したファッションAIによる「好みのジャンル傾向」の言語化に着手し、今後は「似合う」のデータベースにより、ユーザー一人ひとりの個性や悩みに合わせたファッション提案を目指している。それができれば、ZOZOTOWNという売り場への信頼もより上がっていくと考えている。

株式会社ZOZO ブランド営業本部 本部長 松田健氏

最後に、ZOZOの強みについて聞いた。

「当社は規模拡大に伴い2006年にZOZOBASEという物流機能を分離しましたが、当初、幕張のオフィス内に倉庫機能もあり、全社員で検品、撮影、出荷を手作業で行っていました。最初は代表だった前澤が自分でコードを書いてサイトを作っていたのです。そのため『自分たちで解決していこう』という文化があり、現在もインハウスのデザイナーやエンジニアを中心に開発に取り組んでいます。ファッション好きなメンバーがユーザーの気持ちを理解しながら自分たちでサービスを作り続けているということが、ZOZO最大の強みかもしれません」


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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