楽天のインバウンドCBTが「日本で売る・海外から買う」を支援
楽天グループ株式会社 海外営業戦略部 Vice General Manager 金谷嵩史氏
2025年12月、楽天グループ株式会社(以下、楽天)は自社の越境EC戦略を紹介する「『楽天市場』の海外事業に関する説明会」を開催した。当日は、海外営業戦略部 Vice General Managerの金谷嵩史氏、同部 Business Growth Office Senior Managerの大原麻奈実氏が登壇。グローバル市場の最新動向を踏まえ、2015年に海外営業戦略部が発足して以降の「楽天市場」の取り組みの変遷と、今後の戦略方針、具体的な成功事例が語られた。
日本市場には成長の余地あり
日本の越境EC市場規模は中国、米国、英国に次ぐ4位。うち中国と米国が世界の越境EC市場の70.8%を占める(※1)。日本のシェアは3.4%だが、国内のEC化率は9.78%のため、金谷氏は「他国と比べるとEC化率はまだ低く、今後さらなる成長が期待されています」と述べた。
日本在住者が購入している海外からの越境ECは、2019年から2025年の6年間で年平均30.1%成長しており、2022年からの成長率が0.65ポイントの国内ECを大きく上回る。楽天は2025年における米国、中国、韓国からのB2C越境EC総額が1兆7000億円に達すると見る。
画像出典:楽天グループ株式会社 記者説明会投影資料
先述した越境ECは、個人輸入を含む広義の概念である。日本国内で購入できる海外製品の多くは個人輸入という形態をとっており、日本では入手困難な商品を現地価格で購入できるほか、免税のメリットも享受できる。一方で大原氏は、個人輸入においては購入者・事業者の双方が、それぞれに不安や課題を抱えていると指摘する。
購入者は「本当に商品が届くのか」「配送にどれくらい時間がかかるのか」「クレジットカード情報の漏洩はないか」、事業者は「日本の品質基準を満たせるか」「日本人ユーザーのレビューが厳しくてブランドに影響しないか」「日本語以外で売上拡大の相談をしたい」といった不安があるという。
一方で楽天が強化しようとしている分野は国内から海外の商品を購入する「インバウンドCBT(Cross Border Trading)」だ。楽天はインバウンドCBTを通して新規顧客の獲得とロイヤリティの強化を目指す。
「トレンド性が高く、手に入りづらい商品を取り揃えることで、これまで楽天市場を利用してこなかったユーザーにもアプローチできます。(中略)海外事業者の出店を進めることで、商品バリエーションを拡充し、日本では見つけにくい商品も提供できるようになります」(金谷氏)。
※1 令和6年度 電子商取引に関する市場調査(経済産業省)
出店前から販促まで多言語対応
楽天市場に出店している海外事業者数は2025年に1000を超えた。出店に至っては楽天市場の顧客体験を損なわないための厳しい審査があり、「サービスレベルを維持できる事業者のみを選定しています」と金谷氏は語る。
日本の法規制は厳しく、海外事業者にとって日本は進出しづらい市場だ。そこで楽天はバイリンガルスタッフが出店をサポートしている。「日本の商習慣を理解しづらい海外事業者に向けて、日本のユーザーが持つ期待や、求められている商品情報を共有しています」(金谷氏)。
画像出典:楽天グループ株式会社 記者説明会投影資料
店舗の対応や梱包、問い合わせ対応など、日本の購入者が重視するポイントをレクチャーし、「楽天スーパーSALE」など、日本のカレンダーに合わせた販促イベントへの参加も後押ししている。
事業者のショップ運営を支援するコンサルタントは日・英・中・韓の多言語に対応。出店前には日本の法律や輸出入の知識共有、市場調査などの支援を行い、出店後はマーケティング提案やデータ分析などを通して日本の購入者が求める品質水準での運営を支援している。
帳票閲覧システムの英語対応や、ナレッジ動画の多言語対応、RMS(Rakuten Merchant Server)へのAI実装など、システム面の拡充も進む。また、店舗同士で情報を共有できる「NATIONS」の越境EC版となる「NATIONS GLOBAL」が2026年3月に始まる。これによって、「海外事業者が積極的に参加し、売上を伸ばすためのアクションを取りやすくなる」と大原氏は語る。
画像出典:楽天グループ株式会社 記者説明会投影資料
出店できる国と地域は「ユーザーのニーズとモールの安全性の両面を考慮しながら徐々に拡大」してきたと金谷氏は語り、韓国から始まった楽天市場のインバウンドCBTは欧州やニュージーランドにも拡大した。出店対象国は今後も拡大していく予定だという。
海外製品を日本で売るための楽天の取り組み
楽天市場が個人輸入を楽しめる環境にするべく、楽天は「いつも通り」の購入体験を提供している。「楽天IDを使って検索すれば、海外商品も国内商品と同様に表示され、同じ購入体験ができる仕組みです」(大原氏)。
購入者は海外事業者から購入した商品でも国内商品と同様に補償され、トラブル対応時には楽天市場が仲介することで、日本語での対応を受けられる。「楽天あんしんショッピングサービス」によって最大30万円の補償を受けられる仕組みはインバウンドCBTでも、国内ECでも同じだ。
画像出典:楽天グループ株式会社 記者説明会投影資料
ECに欠かせない配送は大きく2種類ある。ひとつは海外からの商品を日本の購入者に直接商品を配送する「個人輸入」、もうひとつは日本国内に保管された在庫を購入者に配送する「国内配送」だ。国内配送には「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」が活用できるため、海外事業者は複雑な物流手続きが不要になる。
楽天は、日本の消費者が安心・安全に買い物ができる事業者を厳選していることを前提に、各国の行政機関と連携した出店強化に取り組んでいる。例えば、英国では通商部と連携して英企業の出展支援など営業活動を強めているほか、中国では政府団体の支援を受けてセミナーを開催。韓国でも政府系団体と基本合意を交わすといった活動を展開している。
発表会の終盤では、楽天市場の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」に海外事業者が選出された事例も紹介された。韓国の「VT cosmetics」は3年連続で同賞を受賞。ほかにも、脱毛ジャンルでトップシェアを獲得した「ULIKE CARE」や、インフルエンサーマーケティングで成果を上げた「JBL・AKG」など、具体的な成功事例が挙げられた。
すでに海外商品を楽しむ日本国内の購入者は増えている一方、安心して越境ECを利用するには、なお一定のハードルが存在するのも事実だ。楽天の取り組みによって越境事業者が増えれば、モールには新たな商品と選択肢が加わり、さらなる活性化が期待される。競争環境の変化をどう捉え、事業成長につなげていくかが、今後のEC事業者に問われている。


