ECでトラブル発生後、6割超「問い合わせなしで離脱」 影響を最小化する方法とは【New Relic記者発表会】

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大矢根 翼

オブザーバビリティ(可観測性)プラットフォーム「New Relic」を提供するNew Relic株式会社は2025年12月18日、「小売市場動向とEC消費者調査および新機能記者発表会」を開催した。発表会では新機能「New Relic Mobile Session Replay」の紹介に加えて、ネットショッピングでトラブルに遭遇した際の消費者行動に関する調査結果を公表(※1)。さらに注目度を増す「AI時代のリスク管理」について解説した。

※1:同調査における「トラブル」とは、ネットショッピングのサイトやアプリにおける購買者体験の不具合(商品の検索や購入検討・注文時のwebやアプリの応答の問題、遅延やエラー、クラッシュなど)を指す。購入・決済後の配送トラブルや商品破損は含まない

トラブルが原因で4割以上が「別のショップに乗り換える」

発表会には同社 技術統括 コンサルティング部 兼 プロダクト技術部 部長の齊藤恒太氏が登壇。齊藤氏はまず、ネットショッピングでトラブルが発生した際の企業側の損失を解説した。

同社が先に発表している「2025年 オブザーバビリティ予測レポート(※1)」によれば、「企業のデジタルシステムが障害などで停止した場合、1時間あたり200万米ドルの損失が発生」しており、「エンジニアは業務の3分の1をエラー対応に奪われている」という。

※1:2025年 オブザーバビリティ予測レポート(New Relic株式会社)

一方、当日発表された「ネットショッピングのトラブルに関する調査(※2)」によると、トラブル発生後、約6割(57.2%)が、トラブルが原因でネットショッピングの利用をやめたことがあると回答。また、63.4%は窓口に問い合わせをしておらず(「全く問い合わせない」と「普段は問い合わせないが、過去に1〜2回問い合わせたことがある」の合計)、問い合わせない理由は「そのまま利用をやめる(離脱する)から」が4割以上と最も多かった。

さらに、トラブル発生後、サービス復旧までに3時間以上かかるとユーザーの7割以上が利用をやめると回答。こうしたトラブル体験はユーザーのブランド信頼度と購買意欲を低下させ、43.2%はトラブルが原因で別のネットショッピングに乗り換えたことがあるという結果に。同時に、悪い体験は良い体験よりもSNSで拡散されやすいという性質を持つため、口コミが大きな影響力を持つECでの販売に長期的な影を落とす。

※2:「ネットショッピングのトラブルに関する調査」概要 ●調査主体:New Relic 株式会社 ●調査機関:株式会社インテージ ●調査方法(抽出フレーム):インターネット調査(マイティモニターよりランダムに抽出) ●調査実施期間:2025年8月1日~8月4日 ●調査地域・対象者条件:「ネットショッピングを「2~3カ月に1回以上利用している」「ネットショッピングにおけるトラブル経験が『たまにある』『非常によくある』」日本全国の18~79歳の男女個人 ●サンプルサイズ:1052人 ●出典:New Relic株式会社

顧客離脱を防ぐための「オブザーバビリティ」

トラブル発生時に顧客を離脱させないためには、運営側が原因を素早く特定し解決策を講じる必要がある。しかし、もっと言えばトラブルそのものが発生しづらいシステムのほうが望ましい。齋藤氏は「インフラからアプリケーション、さらにはユーザー体験までを含めた、システム全体の状態を可視化することが重要」と語る。

また、トラブル対応に時間がかかるケースが多い理由を、齋藤氏は「システムに関するツールやデータがサイロ化しており、組織やプロセスごとに分断されている」と指摘。これはフロントエンドでトラブルが発生しても、事業者側ではシステム全域の運用状態を包括的に見られないため、原因が特定されるまでユーザーの悩みが「たらい回し」されることを指す。

こうした「たらい回し」を避けるために齋藤氏が必要性を唱えるのが、「フルスタックのオブザーバビリティ(可観測性)」と、「オブザーバビリティの民主化」。事業者側のあらゆる立場の者が、ユーザーのサイト訪問から購入完了までの、どの段階でトラブルが発生しているのか「見えている状態」だ。

出典:New Relic株式会社

「(統合された情報を)共通の基盤としてコミュニケーションを効率化することで、システムの信頼性を向上させ、最終的にはユーザー体験も改善していく」と齋藤氏。同時にユーザー環境の多様化によるトラブルの多様化にも対応しやすくなるという。

今回発表された調査では、普段ネットショッピングを「スマートフォンなどのアプリから利用する」という回答が84.2%にのぼり、「PC・ブラウザ版から利用する」の35.6%を大きく上回っており、齋藤氏はモバイルにおけるUXを強化する重要性も示した。

AI時代の新たなチャンスとリスク

昨今、AIによるショッピング・アシストやECサイトのAI機能などを使って商品情報に到達するユーザーが増加。従来のSEOだけでなく、自社のサイトやコンテンツ・商品をAIに引用・参照されやすくする「LLMO(Large Language Model Optimization/LLM最適化)」がEC業界でも大きな注目を集めている。

齊藤氏は「LLMO」施策の要点について「AIによるアクセスのしやすさ・情報の解釈のしやすさ」「情報の信頼性、信憑性の確保」と語る。つまり、データの構造化と品質の向上が、AIが回答を生成する際にピックアップされやすくなるために必要ということだ。

出典:New Relic株式会社

一方で多くの生成AIはオープンソースになっていない上に不確実な挙動をすることもあるため、AIのリスクへの対応が必要となる。齋藤氏は「AIに対してもオブザーバビリティを高めることが非常に重要」と警鐘を鳴らす(New Relic社では2025年11月に「New Relic Agentic AI Monitoring」を発表しており、「エージェンティックAIのためのオブザーバビリティ」を強化している)。

調査結果が示すように、ユーザーはシステムの不安定なネットショップからはためらいなく離脱する。同時にAIのエージェント化などによって、事業者が「可視化」しておくべき範囲は拡大している。つまり、利便性を確保しつつ、問題解決を迅速化し、安定的にシステムを運用することが、顧客を逃がさないEC運用の前提となっているといえそうだ。


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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