日本郵便が目指す新しい宅配便の形 「各種サービス拡大」の真相に迫る
宅配便というのは、安ければ良いというものではない。特にEC通販においては、注文してすぐ届くという利便性を保ち、 常に利用したいと思ってもらうには、荷物は最短で届く必要がある。しかしライフスタイルの多様化する現代、再配達の増加など、今までの宅配便の形では対応が難しくなりつつある。この状況に対応する新しい取り組みについて、日本郵便株式会社執行役員の津山克彦氏に伺った。
EC通販の利用を増やす新たな宅配の仕組み
▼今、EC通販においても、再配達の増加が問題になっているとのことですが。
国土交通省の調べによると、再配達の 割合は約2割に達しています。再配達は EC通販の利便性を損なうものです。即日発送をしても意味がなくなりますし、次の購入意欲を削ぐことにもなります。 宅配便業者にとっても、もともと人手不足な上に、手間が増えることになります。EC業界の成長を妨げないためにも、 もっと効率的な宅配便の仕組みを作る必要があります。今まで、宅配便というのはご自宅で荷物を手渡しするものでした。 けれど今、ライフスタイルが変化して、 皆さんが日中ずっと家におられるわけではないですよね。もっと受け取りやすいよう、発想を変える必要があります。
▼最近ではコンビニ受取なども積極的に紹介されていますが、利用状況はどうなのでしょうか?
コンビニ受取ゆうパックサービスは、 ローソンさま、ミニストップさま、ファミリーマートさま、全国約25100カ 所のコンビニでご利用いただけます。昨年テレビCMを流して以来認知度が上がり、利用件数が伸びています。今までよく知らなかったけれど、実際に利用してみて、自宅で待つよりストレスがないと、 自然に思っていただけたのではないかと思います。実際本当に簡単で、荷物到着のメール通知が来たら、指定したコンビニで認証コードを情報端末に入力し、レシートと引換にレジで荷物を受け取ることができます。 現在、楽天市場で1000以上の出店者さまにご利用いただいていますが、将来的にはどのEC店舗さまでもご利用いただけるようにしたいですね。追加でお金が必要になるものではないので、ぜひEC事業者さまにご協力いただいて、もっと簡単に荷物を受け取れる環境を整えれば、EC通販の利用はもっと伸びると思います。
▼他にも様々なサービスが登場していますが、今後さらに発展していくのでしょうか?
もともと郵便局には郵便局留という制度もありますが、郵便局留には認証コードのようなものがないので、送り状 に住所・氏名を記載した上で、免許証などで本人確認をする必要がありました。 これもコンビニ受取と同じように、もっと簡単に受け取れるよう2016年4月 にサービスの改善をします。これにより 受取チャネル数は全国約45100カ所になり、今まで以上に便利になります。また、大きい、重い荷物はやはり自宅まで運んでほしいという要望はあるでしょうし、配達予告メールサービス等も活用いただいて、何か一つに流れるとい うよりも、利用者さまによりストレスを感じない方法を選んでいただきたいと思っています。
郵便と宅配が融合する サービスの多様化
▼競合他社に比べ、郵便という仕組みがもともと持っているインフラの強さというところも感じます。
もともと郵便という制度は、好きな時に出して好きな時に受け取ることができるという、効率的な仕組みです。しかし大きい荷物になると、郵便受け箱に入らないし、郵便では受け取れないから宅配便という、郵便か宅配便かという2パターンしかありませんでした。それが今、少しずつ、郵便の良い部分を取り入れて宅配便も変化するような、融合が起きています。宅配便というものが、自宅に配達されるだけのものではなくて、複数ある選択肢の中から一番ストレスのない受け取り方を選択するというふうに、自然になっていくのが理想かなと思います。
▼郵便受け箱で宅配便を受け取れるというサービスも、利用が増えていますよね。
他社さまを見てもそう思います。私達は、ゆうパケットという小さな荷物を郵便受け箱にお届けするサービスを提供しています。ただ、サービス開始時に 直面したのが、最近のマンションの郵便受け箱の差入口の幅のほとんどが 25ミリで、荷物が郵便受け箱に入らない場合が あるという問題でした。 そこで、マンションの集合受け箱のトップメーカーであるナスタさまと一緒に、差入口が 35ミリの郵便受け箱を社会のインフラ基盤とすべくアピールしてきました。マンションのエントランスというのは、スリムで洗練したデザインが求められ、郵便受け箱もなるべく小さくすることが多いので、現状の郵便受け箱のサイズを維持したまま差入口を大きくする必要があります。また、差入口を大きくすることはその分、差入口から郵便物を抜き取られやすくもなってしまいます。それらの問題に対し、試行錯誤の結果、35ミリにしても郵便物を抜き取れない特殊な差入口を開発していただきました。この35ミリの郵便受け箱を設置していただいたマンションには、郵便受け箱1つにつき500円を手数料としてお支払いしています。
日本郵便が提供する物流ソリューション とは
▼EC通販利用者へのサービスだけでなく、事業者の業務支援も充実されてきましたよね。
事業者さまには、物流ソリューションという形で、物流業務のアウトソースから事業者さまを支援する各種システムまでフルラインナップでそろえています。そもそもは3年程前から、私達の中では「1局1ロジ」といって、1つの郵便局で最低1つのロジスティクス、ソリューションサービスをご提供しようと、草の根的に始まったものです。それこそ書類を折って封筒に入れて発送するというような小さなことから、季節やイベントで 一時的に出荷量が増えた時のスポット利用の対応など、ただ物を送るだけではなく、付加価値のあるサービスを提供しようと、会社を挙げて続けて来ました。
▼アウトソースというのは、まずどこに相談したら良いか分からないということも多いですが、郵便局でやってもらえるとなると安心感がありますね。
EC通販事業をされている方にも、ゆうちょ銀行に振替口座を作られていて、郵便局に時々来るという方も多いと思います。そんな時にでも、ちょっと相談していただければ、お手伝いができるのではないかと思います。ありがたいことに本当に短期間でご利用が増え、ニーズを感じています。 草の根的なところから徐々に、大きな作業スペースで本格的なソリューションシステムを入れるというところまでサー ビスを充実させてきましたので、個人か ら中小、大規模の事業者さままで規模を問わず、ご要望にお応えできる体制を整えています。今後も、事業者さまの負担を減らし、EC通販の利便性を高めることで、事業者さまの売上に貢献し、EC業界、宅配便業界共に発展につなげていきたいと思っています。
さらに便利に、 日本郵便の新しいサービス
▼今後の取り組みについて、2月に 新たなプレスリリースがありました。
2月の下旬に、既存サービスの拡充および今後の新たな展開について、2つの発表をさせていただきました。その内容は、これまで提供してきた宅配ロッカー「はこぽす」や、大型受け箱の仕組みを進化させるとともに、新たな仕組みを作り出すものです。これらは、EC通販の利用者さまの利便性を向上させるものですし、業界全体の成長にもつながるものだと思います。
▼「はこぽす」 は従来、利用範囲や 設置場所が限られていた印象があります。
これまでは、楽天市場で購入した商品をゆうパックで発送される荷物が、「はこぽす」で受け取ることができました。この機能の拡充およびサービスの拡大を行います。 機能拡充については、大きく2つです。1つは、不在持ち戻りとなったゆうパックも、近隣の「はこぽす」で受け取ることができるようになるというものです。まだ一部地域に限定はされますが、2016年3月からご利用いただけます。もう1つは、楽天市場での購入以外に、オークションサービスやフリーマーケットサイトで落札した商品も「はこぽす」で受け取れるようになるというものです。具体的には、2016年4月から日本郵便が提供する物流ソリューションとはさらに便利に、日本郵便の新しいサービス「モバオク」で落札した商品も受け取れるようになります。
さらに、2016年9月からは「ハグオール」の買取りサービス利用時に「はこぽす」から荷物を発送できるようになります。サービスの拡大としては、日本郵便以外の宅配便業者の荷物の受け取りも可能になるよう検討しています。また「はこぽす」の設置個所は現在、都内22カ所の郵便局ですが、これ以外の都内3郵便局への設置をはじめ、郵便局以外、首都圏以外での設置も検討しています。その実証実験として、京王井の頭線の駅6カ所への設置を予定しているところです。 他にも、ロッカーメーカーと共同で、「はこぽす」の機能を追加できるコインロッカーの開発を進めています。
▼一方で、大型受け箱のように自宅で受け取れる仕組みも進化させるということですが。
まず、以前より取り組んできた、マンション向けの大型受け箱の設置については、設置していただいた場合、1戸あたり500円の手数料をお支払いしていますが、さらなる普及促進のため、この申込受付期限を1年間延長し、2017年3月31日までとすることになりました。 また、新築の戸建住宅向けに、郵便・宅配・書留郵便の受け取りが可能な宅配ボックスの設置・普及促進を、各業界のリーディングメーカーと共同で進めています。既築住宅についても、宅配ボックスの普及促進を検討しているところです。
▼業界を越えて、新しい取り組みをされている印象です。
新しいサービスを開始する際には、何よりもまず、EC事業者さまにご利用いただかないといけません。また、宅配ロッカーや大型受け箱、宅配ボックスの 設置に関しては、メーカーさまの協力が必要不可欠です。そういった点では、幸いなことに、以前より業界を越えた各社さまにご協力いただいてきました。その取り組みを、今回の新しいサービスにも活かしています。そうすることで、宅配便を利用する方 により便利に使っていただけることはもちろんですが、結果的に、私達宅配便業界の問題を解決していくことにもなりますし、さらに、私達のサービスをご利用いただくEC業界の各社さま、ご協力いただく各業界の成長にもつながることだと考えています。
<ECのミカタ通信 2016 SPRING vol.11より抜粋>