【第二回】フィンテック法規制~利用者約1.9億人のPayPalが語る決済~

野田 陽介

 こんにちは。PayPal(ペイパル)の野田陽介です。今回から越境のお話を始めたいと思いますが、その前に前回のPayPal歴史についてもう少し触れておきたいと思います。 特に日本での活動について。

【第一回】越境ECと決済の進化
https://www.ecnomikata.com/column/10435/

フィンテックの法規制について

 前回PayPal創業の歴史をご紹介しましたが少しおさらいをしますと、会社は1998年に創業後、2002年にアメリカで上場。上場後間もなくeBayに買収、そして昨年2015年にeBayから分社化し独立企業として再上場しました。2度上場しているちょっと変わった会社ですが、その間日本では2010年から本格的な活動を開始しています。

 日本での事業活動の話をする上で欠かせないのが2010年に施行されました資金決済法(正確には“資金決済に関する法律“)。 当時、ネット技術の発達や銀行業以外のプレイヤーの参入で、さまざまな資金決済サービスが出てきました。そのような状況をふまえ、利用者の保護等を目的として資金決済法が施行されます。

 資金決済法、と言う言葉は今年に入ってから報道でLINEやポケモンGOの件で耳にした方も多いのではないかと思います。未使用の課金アイテムは事業者が保証金として法務局などに供託する義務がある、というやつです。本件については同法の「前払式支払手段」に該当するか否かと言う議論ですが、目的は利用者の保護です。発行者の破綻に備え、利用者の残高半分を国の機関である法務局などにお金などを預けることを義務付けられています。

 一方、PayPalは同法の「資金移動業」に該当し「資金移動業者」として登録し活動しています。「前払式支払手段」と「資金移動業」、ともに利用者の資産保護を義務付けられていますが、資金移動業者にはアカウントの残高資金を100%資産保全しなければならない義務があります。よって、万が一PayPalが倒産などでサービスが停止しても、お客様の残高は保証されています。ご安心下さい、PayPalアカウントにあるお金はこの法律によって全て守られています。

 また資金決済法とは別に2007年に施行された犯収法(正確には”犯罪による収益の移転防止に関する法律”)と言う法律もあります。 犯収法はいわゆるマネーロンダリングを防止、規制するための法律として事業者に対して本人確認や取引記録の保存の義務を課しています。この対象事業者に「資金移動業者」も含まれることになり、PayPalも日本ではアカウントの開設時等に本人確認の書類提出をお願いしています。

 少し法律の細かい話をしましたが、PayPalはこの他にも様々な法規制(送金額の上限、等)を遵守し日本での活動を広げています。幸い昨今のフィンテックの流れに乗って少し実態と乖離した規制・法律に関しては緩和に進む方向にあります。その中、我々もより実態に則した、もしくはより経済全体が活性するような提案もしています。一方でこれら法律は利用者の保護、犯罪の防止、など重要な目的を持ったものであり、日本では日本のルールに則った事業運営をしております。

※日本資金決済業協会HPより

越境ECについて

 さて、以上でPayPalの歴史については終わりにして肝心の越境の話に移りたいと思います。前回Googleトレンドで「越境EC」が2015年以降、検索数が急激に伸びていると紹介しました。では、市場規模としてどれくらいの規模があるものなのでしょうか?

 アクセンチュアとAliResearchが調査した数字では世界のB2C向け越境ECは2014年時点で約23兆円。世界で国境をまたいだECが年間約23兆円行われている、と言うことです。一方、越境取引きを俯瞰して見てみますと世界の貿易額が2014年時点で約1,800兆円です。よって越境ECの占める割合はまだ1〜2%です。

 かたや日本に目を向けてみますと日本から輸出として海外ユーザーへ販売する越境ECの規模は2015年時点で対アメリカ&対中国で約1.3兆円(経産省調査)。米中以外の国を加えると約1.5兆円の規模があると見ています。一方、日本全体で見た貿易の輸出額を見てみますと2015年で約75兆円。輸出の越境EC比率で言うと約2%です。世界全体で見た時と同じくらいの割合になっています。

 これだけを見ると”越境ECまだまだね”と思う方がおられるかもしれませんが、私は大きく2つの点で非常に可能性があると思っています。

 一つ目は成長率。先述したアクセンチュアの調査では2020年には約100兆円まで成長すると予測されています。これは年率28%の成長率。また日本からの輸出に対しても経産省の調査では2019年に約3兆円と推測されており、年率21%の成長率です。日本国内のEC成長率が10%前後と言う中、この規模で2割成長する市場はそんな簡単に見当たらないと思います。

 二つ目は日本の輸出ビジネスの裾野を広げる、と言う可能性。これまで(今もそうですが)日本の輸出ビジネスと言うと自動車や電子部品といったものが主用な商品です。商品を輸出しようとすると物流インフラを整え、海外で現地法人を設立し、販路を整備していく。 資金力のない事業者にとっては非常に高いハードルであり、輸出はある程度の規模をもった事業者しか参入できない市場です。

 それがインターネット・ECの登場でこの壁が大きく下げられました。基本的にインターネットに国境はないですし(正確にはありますが)、ECサイト一つあれば世界中の人々にものを売れます。もちろん越境ECにも乗り越えなければいけない課題は多数あります。翻訳、集客、決済、配送、サポート、等など。しかし、これまで海外輸出とは無縁の人々にその可能性を広げていると言う点においては非常に大きな可能性を秘めていると感じています。

 越境ECを語る上では外せない海外ユーザーの理解。これは越境に限った話ではないですがユーザーを理解することがビジネスでは欠かせません。次回はPayPalが世界中の消費者へ実施したアンケートを基に現状の越境ECの実態をご案内したいと思います。


著者

野田 陽介 (Noda Yosuke)

 事業開発部 部長

 電機メーカーで設計開発に従事後、ベンチャーキャピタルにて米国を担当。ITにフォーカスした投資および日本におけるビジネスディベロップメントを担当した後、シリコンバレーにてスタートアップ立ち上げ。その後、PayPalに参画し事業開発を担当。

PayPal Pte. Ltd. https://www.paypal.com/jp

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