【第4回】VOCの精度・質・量の最大化と活用

ヤマトコンタクトサービス株式会社

企業はVOC(顧客の声)を収集・分析する事で得られる洞察や学びにより、継続的な改善活動が可能となります。VOCの方法収集はSNSやアンケートなど様々ありますが、コンタクトセンターにおけるVOCとはその名の通り、顧客とオペレータとの会話そのものです。今回は、コンタクトセンターにおけるVOC収集のアドバンテージやその特徴、そして精度・質・量をどのように最大化し有効活用をするのかについてご紹介します。

コンタクトセンターにおけるVOC収集活動

コンタクトセンターの従来のVOC収集方法は、オペレータが1つの応対を終えるごとに顧客との会話内容を要約し、テキストとして記録するというものでした。ただし、この方法には以下のような問題点があります。

問題点1: オペレータが記録として残すのはあくまで要点のみ
メールやチャットとは異なり、顧客と電話で話した内容を限られた時間内で、一言一句記録に残すのは不可能です。オペレータが「応対履歴」としてテキストに残せるのは一般的には会話全量の10%程度です。

問題点2: オペレータが記録しない情報は永遠に失われる
オペレータはマーケティングのエキスパートではありません。顧客との会話の中で、VOC分析担当者はピンと来る顧客の発言でも、オペレータにとっては全く価値を感じていないという事もあります。そういった場合、その情報は誰の目に触れることもなく消えて行く事になります。

図1:従来の問題点

新たなVOC収集方法「音声認識」
このような問題を解決するため、当社では「音声認識」を導入しています。音声認識とは通話内容をそのままテキスト化するという技術です。近年では(業務内容に特化した認識エンジンを用いれば)日本語においても会話を高精度で、全量「テキスト化」する事が可能となりました。会話が全量テキスト化されるということは何を意味するのでしょうか。

音声認識を使ったVOCの活用方法

必要なとき、必要な情報だけを取り出す
通常、顧客との会話で得た情報というのはオペレータが意図的に記録しなければデータとして残りません。しかし時には後から「やっぱり詳細を調べたい」と思う事もあるはずです。例えば、「直近で何かシステム上の不具合が発見され、顧客は特定の症状を訴えている。不具合に気づいたのは本日で、応対履歴の記録ルールなどもまだ未整備。しかし過去に同様の症状を訴えていた顧客がいれば先回りしてフォローを実施したい…」このような時も会話が全量テキスト化されていれば、過去に遡って同様の表現がされている部分を抽出するだけです。

少数意見も「ナマのまま」取り出す
VOC分析における最大の目的は「CXに最も大きな影響を及ぼす原因を特定」することです。多数の不満の声が上がっている課題は、もちろん最優先で取り組むべきものです。しかし不満の声が多いものだけ対策を打つのは大きな間違いです。他社に打ち勝つためには「価値の高い意見」を誰よりも先に見つけ、誰よりも先に行動することが必要となります。このようなイノベーションの種は藁山の針に似て少数の意見に隠れているものです。そこで会話テキストが力を発揮します。顧客のサービスに対する何気ない一言から、長年利用してきた上での「意見」「苦情」なども顧客が発したそのままの形で記録に残っています。その声が発せられた背景や実態を正確に把握し読み解くことで「今までにない価値を実現する一言」を発見します。

VOC数値化による意思決定の支援
通話が全量テキスト化されたといっても、その定性的データだけでは企業の意思決定までには繋がりません。ポイントは「VOCの数値化」そして「外部データ」との統合です。VOCの数値化とは例えば、1通話の中に「商品A、B、Cに対する質問が何回」あって「各商品ごとにネガティブな表現が何箇所発生していて」「顧客が質問をしてから解答を得るまで何秒かかっているのか」このようにして数値化されたVOCと外部データを統合する事によりVOCにぐっと厚みが増します。例えば下記のような切り口は実際に会話の全量テキストと属性情報の統合によって実現できるものです。
・顧客が特定の問合せ、問題解決に要している時間が正確にわかったら?
・初心者ユーザ特有、ベテランユーザ特有の問合せ傾向が分かったら?
・離脱/解約ユーザが解約直前に発する、特有の発言が分かったら?

つまり、同じ発言であっても属性情報が加わることで、必要な施策の具体性が増すということです。

購買データ、購入者データ、アクセスログなどは顧客の行動履歴、つまり「やったこと」がわかるデータであり、「やらなかった理由」「それをやった理由」が具体的にわかるのはVOCだけといえます。単に「○○した」という行動の結果だけでなく、それが発生するまでのストーリーを直接顧客の口から聞くことができ、なおかつそれを属性付きで全量テキスト化できるのが現代のコンタクトセンターなのです。

音声認識によるVOC分析の課題と解決方法

前出の音声認識によるVOC分析においても課題はあります。

音声認識の「認識率」向上の課題
「認識率」とは、コンピュータがオペレータやお客様の声を「正しく」認識し「正しく」漢字やカタカナなどに変換が出来ているか?という割合です。いくら会話をテキスト化したとしても、結果が意味不明な文字の羅列となってしまっては、VOCには使用できません。

お客様との会話中に含まれる“欲しいVOC”の「量と質」の課題
“欲しいVOC”の「量と質」とは、「通話の中でどのくらい“欲しいVOC”が得られる会話をしているか?」という考え方です。会話からVOCの「量と質」を高めるためには「能動的に聴き出す会話」を行う必要があります。

顧客満足度・オペレーション効率との「バランス」の課題
私たち「コンタクトセンター」の仕事は「お客様対応」です。一人ひとりのお客様にご満足頂くことと、一人でも多くのお客様を対応するための効率も確保しなくてはなりません。

これらの課題を解決するために当社ではVOC認識率/質/量を最大化するメソッドを構築し、オペレータへ展開しています。(図2)

図2:VOC認識率/質/量の向上メソッド

メソッドの展開をして分かったこと 「応対品質≒VOC品質」

応対品質を向上させると、以下の点でVOC品質の向上へと繋ることがわかりました。

A. 発声や滑舌、話す速度をコントロールすることにより、会話の聴き取り易さ(応対品質)と認識率(VOC品質)の向上
B. 重要な会話を復唱することにより、お客様の理解度を高め(応対品質)解決速度を向上し(効率性)VOCの含有率(VOC品質)を向上
C. “欲しいVOC”のキーワードを逃さず、会話を広げていくことで、お客様の話したい気持ちに寄り添い(顧客満足度)VOCの“質と量”(VOC品質)を向上

従って、従来の応対品質向上のトレーニングへ「VOC品質」の視点を加えることにより、応対品質の向上とVOC品質の向上を同時に行うことができるということがわかりました。このA.~C.の達成には、前回(https://www.ecnomikata.com/column/15019/)にご紹介をした2つのエンジン「HCP」と「スモールラボ」により実現をしています。

図3:VOCと応対品質

図4はメソッド導入後の効果事例です。結果として、①②のVOC品質の向上とともに、③の応対スコア(VCSS)の向上と、効率性を保つことも達成できました。効率性については、お客様に寄り添い「会話を広げる」ことを行ったとともに、主題が明確な会話を行い、解決速度を高めた結果、従来の生産性を保つことが出来たと分析しています

図4:テクニカルサポートセンターでのメソッド導入時の効果事例

メソッドの活用と今後の展開

今回ご紹介したメソッドには以下の点の強みがあります。
"欲しいVOC" の定義次第でどのようなVOCの収集へも適用できる
"欲しいVOC" の内容が変わっても少ないオペレーションの変更で対応できる

特に、技術の進歩や流行の変化の激しいEC業界の事業者様においては「良質なVOC=真に価値あるVOC」の獲得に大いに活用が出来ると考えています。また、この「良質なVOC」は、言い換えるのであれば「優秀なデータ」でもあるとも言えます。従って、AIの学習などに活用をすれば、AIによるFAQ候補の選定やチャットボットのなどの改善へも効果的であると考えています。このようにしてコンタクトセンターを活用し、VOC品質を高めることで、CX改善や顧客の真の課題解決をよりスピーディーに、精度の高いものへと進化させることが出来るのです。

次回の第5回は「カスタマーサポートをあきらめない」についてご紹介いたします。


著者

ヤマトコンタクトサービス株式会社

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