【第2回】「個に寄添う応対」で顧客満足度の向上

澁谷 毅

ヤマトコンタクトサービス株式会社

第1回でも少し紹介させていただきました、当社の電話応対方針である、
「100人いれば、100通りのお客様の個性、その個に寄添う応対」につきまして、2回に渡り紹介します。<br>
【第1回】オムニチャネル時代で変わるコンタクトセンターの役割
https://www.ecnomikata.com/column/14519/

企業とお客様のコミュニケーションの変化

その昔、企業とお客様を繋ぐのは、「対面接客」が主流でした。それから固定電話の普及により、電話を活用した「非対面接客」も増え、今は実際の店舗から、電話、メール、チャット、WEB、SNSなどを活用した「トータル的な顧客接点」として、オムニチャネル化が進んでいます。また、技術の高度化により、AIを活用したバーチャルエージェントも導入する企業も出てきています。このように企業とお客様をつなぐ接点やコミュニケーションは目まぐるしく変化しています。
確かにこれからは、電話の割合は減少していき、ノンボイスチャネル(メール、チャット、SNS等の電話以外のチャネル)が増えていくと思います。また、企業もお客様に応えるべき、オムニチャネル化や情報の一元管理といったニーズが非常に高まっています。企業とお客様のコミュニケーションで重要なこととは・・・。<br><br>

コンタクトセンター電話応対品質管理の現状の問題

一般的にコンタクトセンターでオペレーターの電話応対品質管理を行う場合、専任のトレーナーなどが実際のお客様との通話をモニタリングし、チェックシートで採点を行い、採点結果に基づき、オペレーターにフィードバックや、研修でトレーニングをするというスタイルが主流になっています。
但し、この採点をする項目は、自社で設定した項目となっており、「決められたアクションを起こしているか」というような基準が多く見受けられます。また、「正しい言語できれいに話す」というのが、最重要目的になっています。例えば、「明るく、抑揚のある発声をしているか」というような内容です。

確かに正しい言語やきれいに話すことは重要です。但し、もっと重要なのは、お客様がどういう印象を受けたかという「お客様目線」です。
オペレーターの対応が、自社の基準やマニュアルに沿った案内をしているかという評価は、「自社目線」であり、「お客様満足度」と連動しない状態になり、単に、お客様の問合せや質問に答えるだけの「アンサーセンター」となってしまいます。
このような背景には、コンタクトセンター自体が、コスト部門と捉えられ、「集約、効率化によるコストダウン」や「均一された電話応対による迅速処理」が優先ミッションとなっていることが原因だと思われます。
はたして、この視点で多様化していくお客様のニーズに応えられるのでしょうか。<br><br>

「入口」となるコンタクトセンターの「目線」

<br>昨今、コンタクトセンターに集まる声を活用して、顧客満足度の向上や、顧客の声収集、活用により、業務改善や商品、サービスの改善に発展させたいというニーズは多く、実際に着手している企業もあります。しかしながら、実態は、うまく満足度が上がっていかない、顧客の声を集めているが、活用できるほどの情報が得られないという話も良く耳にします。その根本的な原因は、情報の元となるコンタクトセンターのオペレーション自体が、「自社目線」になっていることにより、満足の度向上や有効な情報収集が出来ないという原因だと考えられます。「出口」となるスキーム、体制等は、しっかり整っているが、「入口」が整っていない、すなわち、「自社目線」のオペレーションで、満足度の向上や「顧客目線」の情報収集をすること自体に無理が生じているということです。ゆえに有効な結果が出ないということではないでしょうか。<br><br>

100人いれば、100通りのお客様の「個」性、その「個」に寄添う応対

そこで、当社は「入口」であるオペレーションの根本的な改善を実施しました。まずは「自社視点」を捨てて、「お客様視点」に徹するということを軸にお客様対応のあるべき姿として、「個に寄添う応対」を活用して、以下の4つを軸にしております。また、この考え方は、今後も企業と消費者の接点が変化していっても、「変わらない重要な軸」になると考えています。<br>

①個客(一人ひとりの個のお客様)マッチング率スコア化による、顧客満足度の向上

①個客(一人ひとりの個のお客様)マッチング率スコア化による、顧客満足度の向上コンタクトセンターの品質基準

オペレーターが定められたアクションをしているかどうかではなく、その通話しているお客様の状況や、感情に寄添った最適な対応をしているかを基準に採点します。いわゆるそのお客様とオペレーターの「マッチング率」が、スコアとなります。お客様によって商品やサービスの理解度は違います。また、同じお客様でも問合せをしてくる状況や感情は異なります。マニュアル通りの対応では、お客様に合うときもあれば、合わないときもあります。採点する専任者は、このオペレーターとの会話でお客様がどういう印象を受けたかという視点で採点します。いわば採点者が、お客様になったつもりで、満足度調査をする「仮想的顧客満足度調査(VCSS:Virtual Customer Satisfaction Survey)」というスタイルです。
これにより、従来型の応対品質をチェックするという手法から、顧客満足度をチェックするという手法を活用し、オペレーション方針も「応対品質向上」から「顧客満足度向上」へと進化させています。<br><br>

②アクティブVOC(顧客の声)能動的に顧客の声や情報を収集するオペレーション

顧客の声へ収集する工程は、お客様との通話を音声認識ツールによる書き起こし⇒マイニング⇒分析⇒顧客の声というスキームが主流ですが、実際の通話を聞くと、お客様は様々な話し方をするため、会話が整理されてなく、テキスト化されたときに、誤認識されるケースが多くあります。また、通信状況の影響による誤認識もあります。実際、当社でもオペレーターの認識率と比較して、お客様の認識率は、10%以上低くなるという傾向が出ています。また、同様の理由により、お客様の会話から「情報」を抽出するのも困難となります。
そこで、オペレーターが会話の中で、お客様の状況や感情を要約したり、復唱したりと代弁します。また、お客様の潜在ニーズを能動的に問いただすことで、「情報」を引き出します。
このように能動的なオペレーションをすることで、認識率が上がり、会話の中から「有効な情報」の量も増えてきます。<br><br>

③ノンボイスチャネルへの活用

冒頭でも触れましたが、今後ノンボイスチャネル(メール、チャット、SNS等の電話以外のチャネル)の比率は、増加していくと推測されます。対面接客は、表情が見え、声が聞こえるため、お客様の状況や感情はダイレクトに伝わります。また、非対面の電話は、顔は見えないものの、声が聞こえるため、トレーニングをしていけば、ある程度の状況や感情は見えてきます。但し、ノンボイスチャネルは、声も聞こえないため、お客様とオペレーターのやり取りに食い違いが生じやすくなります。ここで重要なのは、いかにお客様の感情や状況、ニーズを想像するかということです。これを実現するためにも、当社のお客様対応の「100人いれば、100通りのお客様の「個」性、その「個」に寄添う応対」が有効となります。お客様の状況や感情を想像し、一人ひとりのお客様に寄添うことが出来なければ、顧客満足度を低下させることとなります。<br><br>

④FAQやAI等の良質なプログラムモデル

FAQやAI等を導入するときに重要なのは、プログラムモデル(モデルとなる処理プログラム)だと思います。いくら高度な機能を有している、ツールを活用してもプログラムモデルの質が悪いとツール自体の質も落ちます。例えるならば、植物園に最新設備の自動化されたオペレーションシステムを導入しても、汚水や栄養価のない肥料を与え続けると植物は、思うように育たず、枯れ果ててしまいます。
栄養価の高い、良質な水や肥料を与えるかが重要となります。つまりは、お客様との会話の中で、「個に寄添う応対」を活用して、顧客目線での「良質な情報(プログラムモデル)」を作り出すことです。

どんなに世の中が変化していこうとも、技術が高度化していこうとも、顧客接点の基本は、「人が持つおもてなしの心」だと思います。

さて、次回は当社の「個に寄添う応対」を支える育成専任者である、HCP(Hospitality Communication Partner)の活動についてご紹介します。<br><br>


著者

澁谷 毅 (Takeshi Shibuya)

ヤマトコンタクトサービス株式会社 経営戦略部長 兼 CS推進部長

中古車オークション会場のカスタマーサービスを経て、官公庁、地方自治体のコールセンター設計、構築、運営に携わり、コールセンターアナリスト、アーキテクチャとして活動。現職では経営戦略部門と品質部門の責任者として、コールセンターを活用したブランディング戦略や顧客目線のKPIマネジメントを担う。コールセンターの世界標準規格COPC VMO規格登録コーディネータ。日本コンタクトセンター教育検定協会理事。

コーポレートサイト:http://www.y-cs.co.jp/