UGCから見えてきた体験価値の重要性、ECの顧客獲得を大きく変える体験価値とは

村岡 弥真人

EC企業での活用が加速するUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)。2016年ごろより先進的な企業が取り入れ始め、現在では多くの企業がマーケティング活動の顧客獲得領域でなくてはならないコンテンツとして利用が広がっています。 今回は、「UGCとは何か」「UGCをマーケティングに取り入れる際にとても重要となる体験価値」といったUGC活用を始める際に抑えておきたい内容を、企業の実例とともにご紹介します。

UGCとは

EC企業では、UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)の活用が注目されています。UGCとは、ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称です。SNSに投稿された写真や動画、ECサイトのレビューなど、「生活者のリアルな声」のことを指します。皆さんも日常生活で、よく参考にしている情報源ではないでしょうか。

2022年10月に当社が提供するCVR最適化プラットフォーム「Letro」が行った調査では、ネット通販や定期通販で購入検討する際の「UGCのチェック状況」について調査したところ、全体の88.5%がUGCをチェックすると回答しました。さらに、「商品を購入する際に、企業から発信される情報と、実際に購入した方から発信される情報のどちらを重視しますか」という質問に対しては、全体の51.3%が「商品を購入した方から発信される情報」と回答するなど、UGCは企業発信の情報よりも重要視されていると言えます。

現在、こうしたUGCを「親近感や信頼感を醸成でき、購買行動に影響を与える強力なコンテンツ」として、マーケティング活動に積極的に取り入れていくEC企業が増加しています。LP(ランディングページ)や、公式サイトやオンラインショップ、SNS広告、SNS公式アカウントの投稿など、活用場所は様々です。
Letroでは、2016年のサービス提供開始以来、累計550を超えるEC企業のUGC活用を支援しており、Instagram投稿やレビューをLPやオンラインショップに活用することで売上向上へと導いてきました。これまでの支援の中で、年々成果に繋がるUGCの種類やその活用方法はアップデートされ続けていますが、その中でもEC企業がUGC活用する上で成果に繋がる重要な法則が見えてきました。今回はその法則について解説していきます。

UGCから見えてきた体験価値の重要性、機能価値・体験価値とは何か

「機能価値」「体験価値」という言葉をご存じでしょうか?顧客体験を語る中で頻出するキーワードであり、UGCをマーケティングに取り入れる際にとても重要となるものです。

機能価値:商品やサービスそのものの機能や性能面において、顧客に提供できる価値のこと。商品・サービスの品質や効果、価格などが機能的価値にあたる。

体験価値:商品やサービスを通して、顧客にもたらされる(機能面以外の)付加価値のこと。商品・サービスを利用することで得られる情緒的価値や生活上の変化、特別な体験などが体験価値にあたる。

まず、これらの考え方がなぜ重要なのか解説します。EC市場に新規参入する事業者が年々増加する現代では、同じような性能を持つ商品やサービスが溢れかえり、機能的価値のみで差別化するのが困難になっています。仮に今機能的価値で差別化できたとしても、将来競合他社の開発や企業努力によって、自社を上回る性能の商品やサービスが世の中に出回ってしまったときに、自社の商品を選び続けてもらうことは難しくなるでしょう。差別化が難しい商材は、価格競争も避けることはできません。

そのため、他社と差別化するために体験価値の発信に力を入れる企業が増加しているのです。「商品を通じてお客様はどのような体験が得られるのか」を正しく伝えることが大切になっており、UGCはこうした「お客様の体験価値」を伝える重要なコンテンツとして注目されています。

多くのEC企業は機能価値の発信ばかりで体験価値情報が手薄になっている

しかしながら、自社商品やサービスの機能や特徴に焦点を当てた情報発信にばかり注力しており、体験価値の発信が手薄になっているEC企業は少なくありません。もちろん商品を理解してもらうためにも性能や機能についての情報は非常に重要ではありますが、生活者は単に商品の機能だけでなく、その商品を購入することによって得られる体験や感情にも関心を寄せていることが先の調査からもわかるでしょう。

生活者は商品やサービスを単なる物として捉えるのではなく、その商品を利用することによって得られる体験や満足度に価値を見出しています。商品の機能が十分に理解できても、実際に商品を使ってもらうためには、商品がもたらす体験や感情の部分までを届ける必要があります。

例えば、ある洗濯機の機能的な特徴を並べ立てることも大切ですが、それ以上にその洗濯機が提供する「静かな運転音で心地良い時間を過ごせる」といった体験や「高い洗浄力で家事の負担を軽減できる」といった使い手の心に訴える価値を伝えることが重要なのです。

機能価値と体験価値のバランスを意識することで顧客獲得が大きく変わる

LPやオンラインショップにおいて、機能価値と体験価値のバランスを意識した情報発信やコンテンツの設計をすることで、顧客獲得に大きな変化をもたらすことは私たちの支援実績からも明らかになっています。「機能価値」で他社と比較した商品・サービスのベネフィットを訴求し、「体験価値」で顧客が商品・サービスを自分事としてとらえる背中を押す。その「体験価値」を表現するために有効なのがUGCです。

では、具体的にどのようなUGCが有効なのか。実際の利用者の体験談や感想、または商品を使用することで得られるライフスタイルの変化や生活の質の向上など、リアルな情報が表現されていることが大切です。また、年齢、居住形態、課題や悩み、利用のきっかけなど利用者の属性を一緒に表現することで、自分に近い方が商品を利用していると感じることができ、自分事化を促すことができるでしょう。

しかしながら、体験価値の発信をひたすらに増やしていけばよい訳ではありません。重要なのは、機能価値と体験価値のバランスです。まずは、5:5の割合で機能価値と体験価値の情報を拡充させることを目指しましょう。最後に、実際にバランスを意識したコンテンツ設計を行ったことで顧客獲得効率の改善につながったEC企業の事例を紹介します。

スキンケアブランド「あきゅらいず」

あきゅらいずでは、2023年1月からUGCの運用を行うことで、顧客獲得効率の改善を図ってきました。継続的にUGCに向き合い続けるなかで、お客様が「商品を通じて得られる体験」を把握することができ、この「お客様の体験価値」をもとに新たな訴求の記事LPの制作を実施しました。

UGCからお客様の想いや体験を分析すると、「年齢を重ねるに連れて、足し算で肌のケアが増えていくこと」へ疑問を感じたり、「仕事や家事も忙しいため、本当はノーファンデ生活をしたい」という理想を抱いている方が多かったため、UGCで投稿されているフレーズを用いながら、記事LPの前半で日頃の生活や肌悩みについて丁寧に語りました。さらに、UGCを「あきゅらいずを活用したことによる喜びの声」や「各商品の使用感」と訴求毎に分けて掲載することで自分事化を促しました。その結果、既存の記事LPと比較してCPA17%の改善に成功、新たな勝ち訴求を見つけることができました。

月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」

エアークローゼットでは、「これまでにない感動するお洋服との出会い」を届けたいという想いからサービスを設計し、マーケティング施策においてもサービスの特徴や仕組みといった「機能的な価値」を伝えるだけでなく、「お客様がどのような体験を得られるか」といった「体験価値」を伝えていくことを大切にしています。無形商材の体験価値をデジタル上でお客様にいかに感じていただけるかという課題を解決するために、お客様に機能価値を伝える左脳的なアプローチに加え、体験価値を伝える右脳的なアプローチも行うことを意識した際、その両方を補完するものとしてUGCに着目し、中間LP後のサービスサイトにUGCを掲載しました。

届くお洋服を着こなしている様子などサービスの利用イメージをもっていただけるようInstagram投稿のUGCを掲載。さらに、「どういう理由でお客様が購入されているのか」「なぜ継続しているのか」という細かい情報をレビューで見られるような設計にしたことで、UGCを掲載しない場合と比較して、CVRを1.44倍にすることができました。お客様のリアルな声を通じて体験価値が表現され、サービスを検討されるお客様の自分事化を促すことができました。

まとめ

今回は、「体験価値を伝えることの重要性」について解説しました。マーケティングコンテンツの制作において、機能価値と体験価値のバランスに注意することで、新規顧客獲得に大きな影響を及ぼすことをご理解いただけましたでしょうか。

まずはぜひ、自社に関するUGCの「内容」に着目してみてください。機能価値だけでなく、どのような体験価値が語られているのかを分析することで、顧客の自分事化を促す新たな訴求の発掘にもつながるはずです。

次回は、「UGCの種類別の有効活用法」について解説します。


著者

村岡 弥真人

大手ガラスメーカー勤務を経て2012年にアライドアーキテクツ入社。2014年よりSNS広告に特化した広告代理事業を立ち上げ、自社最大の事業まで事業拡大を行う。2016年にUGC Centric Creative Platform "Letro"の提供を開始、Facebook及びInstagramのオフィシャルパートナーに。2017年より自社プロダクト事業全体の統括を行い、ベトナムの開発子会社2社の経営も兼任。2018年CPOに就任。2021年取締役就任。