ECの人材と育成について 第3回:どういう人がEC担当者に向いている?【後編】

中島 郁

ECの人材の獲得と育成について、結論から言ってしまうと、獲得は外部人材の募集を実施して、もしよい人が見つかれば採用するといったくらいのレベル感で、ただ、必要なタイミングで必要なレベルの人が見つかる可能性は低いため、結局、内部育成していくことになるということです(これは、ECに限らず、筆者が得意とする新規ビジネス全般に言えることです。DX、デジタルビジネスをはじめ、アナログでの新規ビジネスなどもです)。この連載では、どのスキル、人材がEC業務に向いているか、どう育成していくかを、事業者側視点で書いていきます。連載(全6回)の第3回は「どういう人がEC担当者に向いている?」【後編】です。

EC担当者に向いている人を細かいポイントでいうと〜

・デスクワークのできる人
いくら販売の知識があっても、店頭にずっといた人は、机(PC)にずっと向かっての作業というのはつらいようです。うろうろ歩き回りたいそうです(偏見ではないと思いますが)。これも時間が解決することですが、短期で向いている人というと、デスクワークのできる人、ということになります。

・PC、EXCELに使い慣れていること
PCが使えるのは大前提ですが、むずかしい機能というわけではなく使い慣れていることが重要です。作業の効率、所要時間の問題です。同じようにEXCELです。こちらもむずかしい関数ということではなく、使いなれていることが重要です。

ECでは、分析や表作成といったことだけではなく、商品説明の作成、修正、リンクの作成、コンテンツの依頼資料、情報の整理といったことでもEXCELをよく使います。役割にもよりますが、EXCELで作ったデータを(CSVなどに変換して)、管理画面からECシステムへアップロード(ファイルごと登録)して、サイトに表示させることなどもあります。具体的な手順や作業方法は、配属後に周りの人に教わればよいことですが、PCやEXCEL自体を使い慣れていないと自身の作業にも教えてくれる人にも時間もかかります。

・管理画面の操作に抵抗がないこと
これも今はほとんどなくなりましたが、ECシステムの管理画面の操作を行う際に、怖がるような人が過去にはいました。以前は、Webベースの画面ではなく、黒いいかにもシステム然としたコンソール画面だったせいもあります。やり始めれば一つひとつは難しいことではないので、取っ掛かりに抵抗のない人です。

・ある程度几帳面、正確な作業のできる人
ECは、裏で作業していること、登録されたデータ/設定などが、そのままサイト上に表示されてしまいます。そして、それらを顧客も、いろんな種類の不特定多数の人が見ることになります。なので、商品の説明(景表法、薬機法にも関わります)、価格、納期などが間違っていても、そのまま表示されます。そして、店頭などよりも影響範囲が広く、また、(画面キャプチャーなどで)記録もされることもあるという状況が大きく違います。そのため、とりあえずで済む対応は難しく、店頭で販売員さんが裁量で説明をしてといったことと種類が違ってくるので、サイトへの掲載の処理には責任を持たなくてはなりません。そのためには、「ある程度」正確な作業をできる几帳面さが必要かと思います。

・質問ができること、ある程度自分で調べる気があること
例えば、ECやWeb、システムに関するアルファベットの略号、カタカナ用語、システム用語が飛び交っています。元がシステムから派生したり、海外から入ってきたりしているものが多く、日本語を使えと主張してもすでに広く使われている場合はしょうがないことなので、身に着けていきましょう。

わからないことをわからないままにしていると、ミスとなり、サイト上に間違った情報が表示されることや、トラブルとなることもあります。その場合のほうが多くの人に迷惑をかけることとなります。

また、用語などは他のメンバーにすぐに聞くことなどで解決できますが、聞かれるほうの時間、手間の問題もありますので、だんだんとある程度は、自身で調べるようにするということは必須でしょう。よく言われることですが、「あなたの質問に答えてくれる人は、あなたの代わりに調べてくれている人」である場合が多いことを心しておきましょう。用語の説明レベルは、今はほとんどの場合、ネットで検索すれば出てきます。ただ、単純に検索結果のままでいいのか、所属する会社による意味合いの違いがあるのかは、ちゃんと確認しましょう。この段階での質問の回答を厭う人はいないはずです。

・こだわりの強すぎない人
几帳面さを求めるのとは、逆のような感じですが、正確さ/緻密さやクリエイティブへのこだわりです。ビジネスを行っている意識、目標にあっているかというレベル感などを踏まえることができるかということです。制作や施策には、納期がありますし、部門内にも後工程の人たちがいます。それに間に合わなかったり、後工程に負荷をかけて、結果的に精度が落ちたり、ミスが起きても本末転倒です。クリエイティブなどは「素晴らしい」よりは「こぎれいで、わかりやすい(Clean & Easy)」を意識し、主役の商品や施策をわかりやすくすることが重要です。また、賞賛よりも、アクセス数、売上、またお客様からの声などのリスポンスで評価を感じることが重要です。

・とりあえず歩き出す勇気のある人
ECはいまだに新規事業や新しい分野である要因が多いので、基盤となる業務やフローから構築しなければならないこともあります。ただ、とりあえずは、それほど高いレベルを要求されることはありませんので(この辺のレベル感を理解するのも難しいのですが)、ある程度おおざっぱな方針を決めたら、完璧さを追及しすぎるよりもまず歩き出し、後で精度を上げていくというやり方も必要です。上記の新しいことに考えもなく飛びつきやすい人はNGですが、基本的には新しいことに抵抗のない人であることが望ましいと言えます。

・もし配属前に持っていたらうれしいスキルをあえて言えば
どの形のECであっても、結局自身では使わなかったとしても、EXCEL/csv、簡単なHTML/SQL、グーグルアナリティクスの基本操作、Photoshop操作方法、デジカメの使い方、セキュリティに関する最低限の常識、かかわる商材の知識などなどでしょうか。必要があれば、担当後に身につけられることなので必須ではありません。

・マーケティングの知識
マーケティングの知識というか基本的な考え方を知っている人は、EC内のどの役割でも助かります。が、今よく言われている、マーケティングごっこ的な知識の方は逆に邪魔になります。また、ECや小売は行った施策に対する明確な結果を求める多いダイレクトリスポンスでのマーケティングが多いので、ブランディング的なマーケティングが中心だった人には少し違和感も多いでしょうし、メーカーのマーケティング費用とも桁が違うほどです。そこの認識は必須とも言えます。

別の観点から、興味を持つべき人、持ってもいい人

小売や流通は、アナログで人的リソース集中の、労働集約型ビジネスでした。システム人材にしても、POSの運用や、業界での古い基幹システムの運用などと、スキルアップにならないからと魅力に乏しいものでした。しかし、アマゾンなどのECの台頭、社会のデジタル化の波に伴い、小売は大変な変動期にあります。リアル店舗にしてもデジタル投資をしなくては利益が出ない事態となり、ウォルマートのデジタル投資は年間1兆円を超えているほどです。

店頭の無人化、物流の多様化、データを使ったCRM、OMO、顧客体験の向上への展開が大きく行われ、非常に変化の速い分野となっています。そのため、キャリアアップにならないと敬遠していた人材も興味を示し始めています。また、小売等の各社にはデジタルに対応できる人材がいないことが多いため、そんな中でECを担当することで、会社全体でのデジタルに関する大きな役割を担うチャンスがあります。小売業界にいた人がデジタルになじむためにはECは非常によい取っ掛かりであり学びの場でもあるのです。

また、非エンジニア人材では、Webマーケティング、EC等の人材が、会社全体のデジタル要員として抜擢、配置されていますし、求人はひっきりなしです。そのため、これまで小売に興味を示さなかった人たちにも魅力的な業界となっているのです。

第4回に続く


著者

中島 郁 (Kaoru Nakashima)

豊富なEC、オムニチャネル、デジタル化の実務経験に加え、アナログを含む成長や新規事業のタネの掘り起こしと実現に強い。ベンチャー⇒外資⇒老舗と通常と逆の経歴で新規事業/新組織を担当。関与は小売、EC、デジタル/リアル、メディア、サービス等。トイザらスでマーケティング部門/EC法人立上げ、ジュピターショップチャンネル役員(EC・マーケティング)、GSIcommerce/eBayEnterprise APAC代表/日本法人社長。三越伊勢丹ではコンサルでの関与後EC役員事業部長に就任、オムニチャネル推進も担う。大規模EC3社の事業責任者経験は珍しい。ベンチャー~大企業の新規事業、戦略、マーケティング、EC、小売、リアル・デジタルを実務視点で支援。Babson College MBA

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