サイバーエージェント藤田晋氏はなぜ「負けない」のか?【書籍プレゼント付き】8000億企業を作った「勝負眼」とは?

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船木春仁

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「ここ一番での決断に迷いが生じる」「正解がわからないまま、前に進まなければならない」――EC運営や事業開発の現場では、データやロジックだけでは割り切れない“勝負の瞬間”が必ず訪れる。そのとき、成果を分けるものは何か。

今回紹介するのは、サイバーエージェント創業社長・藤田晋氏の最新刊『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』。麻雀とビジネス、勝負と経営を貫く“押し引きの思考”を通して、運と実力の正体を明かした一冊である。

創業から四半世紀で売上高8000億円企業を築いた意思決定の核心が語られる本書は、日々、判断を迫られるEC担当者にこそ、静かに効いてくる一冊だ。

IT革命の渦中で藤田晋氏は何を見てきたのか

『勝負眼』は、2024年5月から『週刊文春』で連載が始まった「リーチ・ツモ・ドラ1」の単行本化第一弾だ。著者である藤田晋氏は、いまさら紹介する必要もないだろうが、サイバーエージェントの創業社長であり、サッカーJ1・FC町田ゼルビアの社長や麻雀のプロリーグ・Mリーグ機構のチェアマン、IT関連の経済団体である新経済連盟副代表理事等々の顔を持っている。

本人も、小学生の頃は「将来は作家になりたい」と言っていたぐらいなので文章を書くことはむしろ楽しいという。自叙伝的な著作である『渋谷で働く社長の告白』や『起業家』などでみせた筆致の軽やかさは出版業界では広く知られている。

連載でも麻雀から学んだ成功法則や人生の諦念観、事業での成功や大失敗が軽妙に綴られていく。大金持ちらしい桁外れの趣味のいくつかも披露されるが、それがあまり厭味に感じられないのは、外連味(けれんみ)のない人柄だからなのかもしれない。

1998年に24歳で起業してから現在に至るまでの時期は、まさにIT革命の勃興から成熟に至る時期である。四半世紀でグループ総売上高は8000億円を超えた。

産業トレンドや社会トレンドの大きな変化のなかで事業を導いてきた経験は、かつてのソニー・盛田昭夫、松下電器・松下幸之助、ホンダ・本田宗一郎などの自叙伝と比較読みされてもよい。著者は「そんな大物と同列になどしてくれるな」と謙遜するだろうし、実際、連載は特に気張った風もなく、思いつくままに経験や感慨を書いているだけだが、革命的なトレンド変化に乗って成功を勝ち取った経営者が綴る時代史としての面白さは、過去の偉人たちにもひけを取らない。

ネットは「人間の欲望」に最も正直な場所だった

連載のテーマはさまざまだ。しかし一貫した印象になっていくのは、ビジネスの舞台としてのネット世界の特質についてである。

ネット向け広告代理店業だけでなく「ABEMA(旧AbemaTV)」を軸とするメディア事業の構築でコンテンツ集めに奔走した際に気がついたのは、「ネットは人間の欲望に非常に忠実だということ。アクセスが集まる3大テーマは、エロ、金、有名人だった」という。インターネットTV事業の立ち上げの難易度は高く、最初のうちはお色気番組の力も借りつつ、見に来てもらうことに必死だったという。

余談だが、新しい技術やメディアはエロと相性が良い。たとえばビデオカメラやデジタルカメラが登場したときに、その“有効性”に真っ先に気がついたのは、他人には知られたくない趣味をお持ちの方々であった。写真を撮っても現像に出すことなく、つまり人に知られることなく楽しめたりするからだ。新製品は、ユーザーの10%ぐらいに浸透してくると爆発的な普及期に入るが、その種の方々は初期ユーザーとして非常に大きな起爆力を持っている。

ネットは瞬く間に情報が流れ、流行も早いという印象だが、実は新サービスが浸透するには地味な時間がかかるともいう。「Netflixも2007年に開始して日本進出は2015年。今のような圧倒的なサービスになるまで10年ぐらいは時間を要している」。

さらに「ネット世界」では世界水準をめざさなければ生き残れないという指摘も興味深い。藤田氏はそれを、日本のクールジャパンと韓国のK-POPに例えて説明している。「クールジャパンは日本の文化の良いところを世界に広めようとしているに過ぎない。一方で、クールコリアは自国の文化を世界水準に高めることをめざしている」。

世界最高水準のクオリティがあれば、世界のどこからでも選ばれるし、日本にいながらにして世界中に提供できる。ABEMAがNetflixと提携したのも、こうした問題意識が背景にあったからなのだ。クールジャパンの評価に甘んじていると、世界水準が上がったときに日本は付いていけなくなる。

成功の裏で直面した「嫉妬」と「誹謗中傷」という現実

ネット世界の説明がある一方で、さりげなく何度も記されているのが、「実世界における人間の嫉妬や理屈抜きの誹謗中傷の理不尽さ」である。サイバーエージェントが上場して間もなくネットバブルが弾け、同社の株価も初値の1500万円から10分の1に下がった。株式公開後の初めての株主総会では、「詐欺」呼ばわりもされた。ネット長者への嫉妬の感情は、女優を妻に迎えて“炎上”にもつながった。

ネット世界の匿名性を楯にした偽の情報の拡散や悪質な書き込みは「ネットの宿痾」と言われるが、実は人間と社会が潜めている汚泥のような感情がネットによって表出しやすくなっているだけなのかもしれない。

「物言う株主」たちとの間でも、経営を担う者と投資回収しか頭にない者たちとの絶対に埋まらない溝を確信させられる。一時期、サイバーエージェントも村上ファンドの村上世彰氏に株を買い占められるが、実は藤田氏と村上氏は同じマンションで隣同士だったという。そんな縁もあって虚心坦懐に話し合ったが、溝は埋まらなかった。

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一度ハマったら世界トップレベルまでやり切る

もう一つ、本書の面白みは、「藤田氏自身の気質」である。何かが琴線に触れて嵌まると、セミプロと呼ばれるレベルになるまで勉強を続ける。

まず大学時代に嵌まった麻雀。後にMリーグ機構というプロ雀士の戦いの場を創り、そのリーグ戦をABEMAのチャンネルにしてしまう。自身も、いつプロ雀士に転向してもおかしくないほどの打ち手だ。

武豊騎手と対談したのを縁に馬主になり、100頭もの馬を持つ。大ざっぱに自分の残りの人生と資産を計算して、「(競馬では)200億円ぐらいまでは損してもいい計算と覚悟でやっている」(Unbelievable!!)。最近では持ち馬のフォーエバーヤングが、世界のダート競馬の最高峰であるブリーダーズカップを日本調教馬として初制覇している。

GMOインターネットグループの熊谷正寿代表から仕込まれたワイン熱もすさまじい。最初はブドウ産地や醸造所の名前が覚えられなかったが、コロナ禍で会食が減り、自宅で飲んだワインをメモしてブログで紹介するようになってから本格的に嵌まった。高級ワインを買えばワインセラーが必要になり、気がつけばワインセラーは20台になっていた。しかも飲む一方だそうで、稀少ワインのコレクターが楽しめなくって売りに出すと買い求め、すぐに飲んでしまう。

麻雀も趣味もすべてが「勝負の型」になる

このほかにもサッカーチームの運営、映画、韓国ドラマ等々。遊び好き、趣味好きであっても、一心不乱にのめり込む気質は藤田氏の徳なのだろう。それらから学べることも実に多いのだ。

例えば、麻雀では「主観、客観、俯瞰」が打ち手の能力を見る要諦だという。主観とは自分が読む能力であり、客観とは相手に自分がどう見られているかを理解する能力だ。その上で局面を俯瞰できれば勝てる。この局では勝てないとみて降りることも勝ちだ。そして麻雀では「何が起きても自分のせい」である。

これらはそのまま経営の要諦になるし、少なくとも藤田氏にとってはなっている。「言い訳が多いと感じる経営者には絶対に投資しない」等々。

メモしておきたくなる名言、至言も多い。筆者が本書で最も忘れがたかったのは、雑多な陳列で有名なあのお店の創業者についてであった。雀友で何度も卓を囲んだという。そこから学んだ「運と実力」について書いているのだが、ネタバレになるので詳細は本書で確認してほしい。

本書の著者について
藤田晋(ふじた・すすむ)さんは、1973年福井県生まれ。97年に青山学院大学を卒業後に人材派遣会社に入社するも翌98年には独立株式会社サーバーエージェントを創業して代表取締役に就任。2000年には史上最年少の社長(当時)として東証マザーズに上場。インターネット広告のほか、インターネットTV「ABEMA」事業やゲーム事業なども立ち上げ、現在、グループ企業は約100社を数える。グループ総売上高は8740億円、当期純利益は317億円(2025年9月期決算)。


【書誌情報】
勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術
藤田晋 著
文藝春秋
1870円(税込)

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著者

船木春仁 (Haruhito Funaki)

水産経済新聞社、東京タイムズ社編集局社会部、文化部デスク、社会部長、金融証券部長、編集局総合デスクなどを経て、1990年に編集工房PRESS Fを設立。フリーの経済・産業ジャーナリストとしてダイヤモンド社、新潮社、野村インベスターリレーションズ(『IRmagazine』)、東京海上日動火災保険(代理店向け広報誌『Club Nextage』)、NTT(広報誌『365°』)、川崎重工業(技術広報誌『Kawasaki News』)などの各種媒体で記事執筆や企画構成。著書に『時代がやっと追いついた 新常識をつくったビジネスの「異端者」たち』(新潮社)、『テクノロジー・ストリーミング 技術頭脳集団NTT-ATの挑戦』』(毎日新聞社)など。

船木春仁 の執筆記事