ケースから読み解く「オムニチャネル」Vol.3

村石 怜菜

今回はEC事業部といった部単位の規模ではなく、もっと広範囲な規模感でオムニチャネルを波及・推進する際に気をつけたいポイントをお伝えします。

Vol.1 http://ecnomikata.com/column/detail.php?id=4941
Vol.2 http://ecnomikata.com/column/detail.php?id=5130

部門を横断したメンバー選定

オムニチャネル化を円滑に進める鍵はメンバーです。今までリアル店舗の顧客データは店舗運営の部署が、ECサイトの顧客データはEC事業部が、といった形で各部署が専門に管理していました。同様に販促活動やマーケティングも部署毎に実施し、効果検証をしていたかと思います。

しかし、これからは
「“企業として”顧客に何を提供するのか?」
「どうしたら顧客に製品・サービスを選んでもらえるのか?」
を大局的に捉え統括・推進していくことになります。

社内を横断したメンバーの参加は必須です。一点注意していただきたいのが、いきなりEC担当者からオムニチャネル化しよう!と声を上げても他部署や上層部からアレルギー反応が出る可能性が高いということ。

まずは日頃から社内を横断したメンバーを巻き込み、土壌を整備しておきましょう。特に、「EC事業部」「店舗運営の部署・ブランド事業部」「経営企画系部署」のメンバーを巻き込むことが重要です。

KPIの設定をどうするか?

実は、プロジェクト立ち上げ時のKPI設定がオムニチャネル化において一番重要だと考えます。

というのも、KPI設定と社内意思統一を怠ると、必然的に「売上」といった分かりやすい指標がKPIとなる可能性が高いからです。もちろん、オムニチャネルとは「顧客から自社の店舗、製品・サービスを選択してもらうための企業戦略」ですから、最終的には顧客の購買金額を最大化し、企業規模の拡大に繋がることがベストです。

しかし、例えばオムニチャネル化の一部として顧客データを統合したからと言って、売上に直結しない場合もあるでしょう。KPI設定を誤まったばかりにプロジェクトがあらぬ方向へ進んでしまったり頓挫するといった事態を回避すべく、具体的な数値・指標を用いて設定しましょう。

○具体的な例
・在庫データを連携し、店舗間移動コストを減らす
・在庫データを連携し、各店舗・チャネルの在庫を適正化し、機会ロスを低減する
・顧客データを統合し、リアル店舗顧客のEC利用を◯倍にする
・店頭受取サービス利用者数を○%増やす
など。

但し、人は慣れている指標で捉えたくなるのが心情です。必ずと言って良いほど、売上といった分かりやすい指標にすり替えられそうになります。事あるごとに根気よく説明し、ブレないようにしましょう。

オムニチャネル化の必要性を明確にする

オムニチャネル推進にあたり、上層部の理解を得ることに苦心する方が多いように見受けられます。ポイントを押さえ、整理してみると良いでしょう。

○オムニチャネル推進における整理ポイント
1. スマートフォンの急速な普及によるインターネット環境の変化
・いつでも・どこでもインターネットへ接続可能に
・検索行動の定着・SNSの普及
・Eコマースが一般化
2. 従来・現在の顧客のお買い物行動の変化
3. 自社が保有するチャネルとデータの棚卸し
・WEB・ECサイト、SNS、アプリ、ネット広告等の顧客接触チャネル
・顧客データ(実店舗、ECサイト、ポイント等)、在庫データ(店頭在庫、EC在庫)
4. 2と3のギャップと改善案(オムニチャネル化で実現する部分)
5. 4を実現したことによる求められる成果

企業やシステムの規模にもよりますが、基幹システムのリプレイスや、顧客・在庫データの統合などの場合、プロジェクト発足からシステム構築・リリースまでに1〜2年を有することもざらです。

プロジェクトを完遂することはもちろん重要ですが、刻々と顧客の周囲環境が変化する昨今、遅滞なくプロジェクトを推し進めることを念頭に置きましょう。

“オムニチャネル”という言葉を出したために、プロジェクトの推進に支障が出るのであれば、敢えてオムニチャネルという言葉を使用しないという選択も賢明でしょう。


著者

村石 怜菜 (Reina Muraishi)

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日本女子大学卒。大手専門店企業で接客販売・店舗運営を経験した後、
Eコマース支援企業で数々のファッションブランドのECサイト構築・運用に携わる。
専門店や商業施設へのECコンサルティングを得意とし、
顧客企業のオムニチャネル戦略の実行を支えている。

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