オムニチャネルの目指すもの

山崎 徳之 [PR]

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コラム#4:需要予測 - 消費者データの活用手法と領域
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6522/

コラム#5:ECにおけるマーケットクリエーションと人工知能の活用
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6579/

コラム#6:人工知能と要素分類
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6649/

マーケティングトレンドとバズワード


今回はオムニチャネルについて触れてみます。

マーケティングには毎年毎年トレンドが登場します。ビッグデータ、オムニチャネル、マーケティングオートメーション、人工知能などです。これらは「パーソナライズ」という目的を達成するための各種の切り口に過ぎません。

ビッグデータは主にパーソナライズに欠かせない消費者理解のための入力、オムニチャネルは入力と出力、マーケティングオートメーションは出力、人工知能は処理方法です。目的は同じなのにバズワードが次々登場するというのは、ある意味残念なことといえます。本質より上っ面のほうが注目されているような感じがするからです。

Walmart曰く、walmart.com is a giant personalization machineとのことです。ウォルマートのECは巨大なパーソナライズマシンだそうです。walmart.comではなんと一ヶ月に144,000,000,000,000,000回ものパーソナライズの決定をしていると聞きました。まさにgiant personalization machineですね。

オムニチャネルの鍵となる2つの要素


さてオムニチャネルというのは、顧客とのあらゆる接点を活用して消費者理解をし、パーソナライズに役立てようというものです。あらゆる接点を入力にもするし出力にもしようというアプローチで、わざわざオムニチャネルなどというキーワードを作るまでもなくそれはごく自然な考え方だといえます。問題は入力と出力の間にあるものです。入出力はただたくさんあるのではなく、それらがシームレスに連携することが期待されています。となると入力と出力の間にある処理は、相当膨大なものになることが予想されます。

ITの進化によってオンラインというアプローチが登場し、またITの進化によってオンラインとオフラインを連携することが可能になり、そしてITの進化によってそれらを活用することができるようになりました。できるようになったとはいえ、まだまだそのハードルは高いといえます。であるがゆえに、オムニチャネルというキーワードが登場して注目をされているのでしょう。さてその鍵を握るのはなんでしょうか。もったいぶるほどのものでもなく、それはテクノロジーとデータです。

オムニチャネルというのはこれまで主に人間の経験と勘に頼っていた部分を、機械で処理しようという側面を持っています。機械というかコンピュータの進歩は目覚ましい物があり、チェスではすでに人間が敵わないレベルになり、将棋ではいい勝負を繰り広げるようになっています。何年か何十年かわかりませんが、いずれ囲碁もそうなっていくのではないでしょうか。これだけ大量に高速な計算が可能になってくると、経験や勘という仕組み化しずらいものを機械に任せられるかもと考えるのは自然な発想です。

パーソナライズを進化させる要素


ビジネスというのは常に、労働集約を設備集約に変えるチャンスを探し続けているものです。となるとこれから求められてくるのは、高速な処理を実現するインフラと、その上で動作する的確なロジックです。スピードもロジックもその改善に終わりはないので、ある一定のレベルをクリアしてオムニチャネルがお題目だけではなく真に役立つものになったあとは、ひたすらその向上が求められ続けることでしょう。

そのアプローチの一つとして有望なものが人工知能であるというわけです。

もちろん処理の高速化や精度だけではなく、その根拠になる消費者との接点自体を増やすことも重要です。得られるデータの重要性は同じではなく、それぞれにプライオリティがあります。同じ計算量ならより重要なデータを処理するほうが良い結果を期待することができます。

当然ながらその最有力候補はスマートフォンです。誰もが持っていてかつ常に消費者のそばにあり、また高度な入出力機能を持っているという点で、しばらくは最も期待されるデバイスの一つでありつづけるでしょう。

ただ現状ではオムニチャネルを実現するデバイスというかハードウェアは、むしろスマートフォンより磁気カードです。クレジットカードや会員カード、電子マネーです。支払いをするために使用するので、消費者の同定をしやすいというのがその最大の理由です。

ただ磁気カードの最大の欠点は、入力にはなっても出力にはならないということです。USではApple Payなどスマートフォンによる決済機能が普及の兆しを見せていますが、日本も間違いなくこれに追随して行くものと思われます。最初は独自規格(会員カードなど)で囲い込もうとしても、いずれはグローバルの流れに飲み込まれるのは歴史が証明しています。

オムニチャネルを一つの道具とし、人工知能も単なるアプローチとして、今後パーソナライズというものがどこまで進化するかは、大変楽しみなところです。


著者

山崎 徳之 (Noriyuki Yamazaki )

青山学院大学卒業後、アスキー、So-netなどでネットワーク・サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータホテルを構築・運営の後、海外においてVoIPベンチャーを創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現株式会社ゼロスタート)を設立、代表取締役就任(現任)。EC向け商品検索やレコメンドエンジンの「ZERO ZONE」シリーズを開発・販売している。

http://zero-start.jp/