【第3回】EC素人集団 「米・雑穀のみちのく農業研究所」

長濱 洋平

ECを始めて実質3年の素人集団が「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2015」と「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」受賞するまでの軌跡・・・・

【第1回】EC素人集団 「米・雑穀のみちのく農業研究所」
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【第2回】EC素人集団 「米・雑穀のみちのく農業研究所」
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「ネットショップが輝く『楽天市場 ショップ・オブ・ザ・イヤー』https://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7871/
「地方の名品を発掘!ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」
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金髪・ロン毛・1児の父、佐藤賢一工場長の逆転劇

金髪・ロン毛・1児の父、佐藤賢一工場長の逆転劇

 「このままではダメだ。もっと生産者さんにトーコクを理解してもらわないと来年以降はこの先には進まない。それどころか会社が存続しない。」そう考えた末、私は村田町内にある公民館のような場所を借り年に1~2回「お米のトーコクセミナー今年の米作りを考える」と題して農家さん宅らしき門構えの家に原付でまたもやチラシ配り。公民館でトーコクの現在の活動報告や農家さんの今問題としている悩みや自慢の取り組み、今年の農政事情や消費地のお米屋さんの欲しがっているものなどを冊子を作って発表する場を設けました。

 生産者の皆さんは回を重ねるごとにセミナーへの参加人数は増えて、借り切っている会場がようやく埋まるようにまでなりました。開業2回目の秋(平成20年)この年はセミナーの効果も功を奏し100人まで生産者会員さんが増えることになりました。実はこの時期より現在の当店工場長佐藤賢一(宮城県村田町産まれ現28歳)が入社し原付自転車を更にもう1台増車してチラシ配りを更に強化致しました。

 佐藤賢一は口数が少ないですが、ものすごく芯が強く何をやらせても器用で呑み込みが早く、米の検査員の資格取得も満点で卒業するといった実力の持ち主。フォークリフトの運転や機械の修理さらには監督官庁への書類の作成といったデスクワークにも秀でており、そんな面から考えるとこの生産者会員の増加の成果は彼が入ったことにより急速に加速するきっかけであったと思われます。

 そんな彼は実は入社当初、外見は「金髪・ロン毛・腰パン。でも1児の父」と見た目からは正直お世辞にも優等生と言えないし社会への協調は時間がかかるタイプかなと思ってましたがそんな彼とは裏腹に彼の原動力となっていたのは「1児の父と妻の支え」であったことを最近になって聞かされました。

 人は見かけによらない無限の可能性を秘めているものです。タイトル通り「EC素人集団~」と書いていますが、その前に私たちは「お米素人集団」であったのです。そんなお米素人集団がその後、生産者会員数を、3回目の秋200名超→4回目の秋400名超→5回目の秋700名超→6回目の秋900名超→7回目の秋以降現在では1000名を超える生産者の皆さんとの出会いが実現し、現在ではもっと生産者の立場になり苦楽を共にするお米屋さんになろうと「農業生産法人 東穀ライス匠株式会社」という自社農場を地域の生産者さんと運営し、今年で4回目の稲作づくりに取り組んでいます。結果とことん追求し続けたら結局自分たちが農家になってしまいました。

 前談で「倒産特急はやて号」に乗車したお米のトーコクはこの逆転成長を体験するのですが、その理由はまたもや、やはり佐藤賢一という「ヒト」の出会いでした。そしてこうやって執筆をさせていただいて最も感じることは電車で例えると、物事は、悪い方に行くときのスピードは「特急」であっという間。逆に良い方向に向かわせるのは「各駅停車」でコツコツと日々の積み重ね。

 きっとECの世界も同じだと思います。毎日のコツコツに勝るものはないのだと思います。成功する人には成功する人の毎日の積み重ねがきっとあるはずです。そして私が知る限り失敗して去っていく人に共通するとこは、自分に甘くしすぎたり、判りやすい嘘をついたり、他力本願が強かったり、他人への文句が多い人でした。諦めない限り「失敗」とは言えない。とはいえ失敗を経験したことない人なんていません。文字通り負けたことまで失ってしまう(過去の失敗を忘れて日々生活する)ことが本当の「失敗」だと思います。年齢は一回り以上も離れているがそんなことは関係ないと佐藤工場長に教わった出来事でした。

PC嫌い、未経験のど素人がECへ無謀な挑戦「米・雑穀のみちのく農業研究所」出店へ

PC嫌い、未経験のど素人がECへ無謀な挑戦「米・雑穀のみちのく農業研究所」出店へ

 創業5年目、生産者さんとの仕入れが潤沢になりつつあったお米のトーコクは、そのお米を卸売するのではなくどうやったら生産者の思いをより深く消費者の方にお伝えする小売販売ができるのだろうか?と考えました。具体的な取り組みとしては関東圏へ新聞折り込みチラシを入れ、主にこだわりのお米を食卓に直接お届けする電話受注型の通信販売を行っていました。

 さて、ここで登場するのが言わずと知れた日本一のECモール「楽天市場」です。

 ECど素人の私ですから簡単に考えました。「出店しとけば自然と売れるのだろう」と。更に変な判断基準が私にあり、こんな村田町の田舎のお店が、「楽天」という文字の如く「楽」(らく~に)「天」(てっぺん)とれちゃう素敵なシステムが存在するなら出店しないわけないだろう。と、まあ私らしいといえばそれまでですが、いわゆる「高校四年生事件」(本編第1話参照)の25年前と全く変わらないDNA感でスタートしたわけです。

 店舗名は「みちのく農業研究所」店舗のイメージコンセプトは「田舎の泥付きの野菜をそのまま売る」みたいな感じで、商品画像や写真は、まあ生々しい。良く言えば「産地直送感が本物感として伝わる」悪く言えば「おいしそうなイメージを連想しにくい」そんな出店当初のページでした。

その結果として、通称「泥付き野菜ページ作戦」の出店から3年間の販売人数をここで公表します。
①2010年18人
②2011年890人
③2012年1,692人

①この年は出店1年目(6月)であった為12か月のトータル人数にはいたっていないのでさほど参考にはなりませんがまずは指標として考えていただくと1か月3人、10日に1人の方にご購入していただきました。

②この年からが本当のベースで単月74人、1日あたり2~3人に購入していただきました。

③この年は単月141人、1日あたり4~5人に購入していただきました。昨年対比でみると約倍になる。

といった出店から3年の実績でありました。年々増えてはいますが費用対効果は全くの採算割れで正直私の思っていた「楽天市場」とはかけ離れていました。もっと爆発的に売れるものだと思っていました。1年目の手応えはともかく2年目の手応えは確かに前進してはいるのですがその歩幅は私の想定したものとはかなりかけ離れていたと思います。そしてその感情が「インターネットでは農産品や生ものは売れない」という半信半疑感を勝手に作り上げていきました。

 そんな出店4年目のある日、こんなことを言われました「このページでは私も買う気になりにくいわ。」「新鮮さや産地直送感を前面に出したいのは店舗の姿勢としてよくわかるが、安心感にいまいち欠けている。どんなに美味しくても美味しくて安心じゃなきゃダメなのよ。口に入る物なのだから・・・・。」とピシャット指摘をした人物がいました。その人物が現在の当店常務でした。常務はその当時、全く米業界とは関係ない職場で働いておりペット業界で働こうと思っている人でした。それも良かったのかもしれません。

 渦中に入り込んでいる私や中島は3年間良かれと思って「本物を伝え続ける泥付き新鮮野菜」に販売軸を置いていましたが、結果としては前述の通り中々響かない。そんな半ばあきらめの渦中に常務が登場し女性の目線で物事をはっきり言われたのが軌道修正の始まりだったかもしれません。

そして常務がこんな話を。「例えば、いちご狩りを連想してください。いちご園に行って「さァー皆さん1時間いちごたっぷり食べ放題です。」と言われて確かにいちご畑にそのままなっているいちごを口に入れる瞬間に「洗わないで大丈夫かな?」と一度躊躇したことはありませんか?いちご園のおじさんは「もちろん大丈夫だ、ほれこの通り!」とあらわにおじさんがもぎ取りダイレクトに口にほおばる姿を見て私たちは安心して食べるでしょ。もしかしたらインターネットや顔が見えない通販に肝心なのはその「一度躊躇する」の部分の払拭をどう取り組むか?それが商品ページで伝える場所なのでは?。と

 当たり前に聞こえたけど、深かった一言でした。そしてセンスのなさも自身で感じた瞬間でした。3年間の取り組みは無駄ではなかったのだろうがこれまで購入していただいたお客様になんか申し訳なくも思った瞬間でした。そんな最中、常務が一言「私でよかったらちょっとページいじってみるよ。でも私、画像ソフトもHTMLも知らなければ専門用語も何一つ知らないむしろPC嫌いの一般人だから過度に期待しないでね。」でした。

出店4年目・奇跡の山賊現る

出店4年目・奇跡の山賊現る

 それから数日して、常務はトリマーの学校に通う傍ら、それが終わると事務所に来て辞書のような分厚いものを開いていました。「それは何ですか?」と質問すると「HTMLまるわかり」という本でした。彼女は机に向かってひたすらそれを読みながらPCをいじる日々が続きました。

 又、画像ソフトの使用の方法も中島から聞きながら学んでいました。その姿を見てこれまでのみちのく農業研究所ではない、何か全く新しい何かが動き始めている感じがしました。しばらくたって1つの商品画像を常務から見せられました。それはこれまでの商品をただ写真撮りしただけの丸裸の物ではなく、お客様の立場に立つのは勿論の事、まずは安心して購入していただくことが第一のこれまでとは全く違うわかりやすい、お客様目線の買いたくなる商品画像でした。それはまさに常務=イチゴ農園おじさんに見えた瞬間でもありました。その画像をすべてシリーズ化していったその年の2013年の販売人数が以下です。

 
④2013年 年間購入人数    6,568人 

       単月購入人数      547人 

       1日当たりの購入人数   18人

つまり昨年対比 約4倍の購入者数にステップアップしたことになる。

恐るべしページ力。びっくりしました。そんな中この中にはもう一つ話しておかなくてはならないとんでもない事態がこの年起きていました。

 あくる日、中島店長が突然「楽天担当者より長濱社長にどうしても会いたいので繋いでくれという電話が来ているのですがいかがなさいますか?」と聞かれ私は「お会いする事は構いませんが、広告の御提案であればご期待に答えられない回答になると思いますが、それでも宜しければ・・・」という半ば条件付きで出店してから約3年初めて私は楽天市場の方とお会いすることになるわけです。

 会談日当日2名の楽天社員が訪れました。来社された2名の片方は、ひげ面めがね・もう片方は新卒の右も左もわからないが返事と元気と笑顔だけは大事にしなさいと社内教育マニュアル通りのテキパキとした新人社員。年の頃にして親分が28歳くらいで子分が24歳くらいでした。私も同席した瞬間「あ~きっと広告買いませんか?うちこれまで広告まともに買ってなかったから鬼上司が同行してくるパターンだなー」ととっさに断り文句を考えました。そして開口一番、ひげ面上司が私にしゃべり始めました。
     
ひげ    「社長。くすぶってますね~。」←Vシネ俳優?のような切り出し
    
私     「・・・・・・・?。」
      
中島(鉄拳)「・・・・・・・?。」

テキパキ  「・・・・(-_-;)」←明らかに「何?この上司オレの担当先に言い掛かりつけてんだよ、余計なことしやがって。。。冷汗」

私     「なにがですか?」←状況が呑み込めないので再度聞きなおす。

ひげ    「販売数字ですよ。」「精米能力に対して、今の販売数にまんぞくされてますか?」←圧迫面接風味:満載
 
中島(鉄拳)「・・・・・・。」←「誰やねん。来て早々、挨拶も無しにこの無礼者!お前は竹内力かっ!」

私     「(ムッとしたが、たしかに事実だから返答しない。)」←ただ随分ビッグマウスな人が上から物言いにやってきたなと楽天市場も変わった面白い人もいるもんだなあ。みんなお坊ちゃまと思っていたから新鮮さもあったが、しかし無礼者!!くすぶってるだの、精米能力だの?言いたい放題・・。こいつら山賊か?

テキパキ  「汗(-_-;)汗(-_-;)汗冷汗冷汗」←ほぼ失望。取引失墜。落胆。退職願の書き方


 思い起すと正に、一触即発、みちのく農業研究所VS楽天市場との初対面でありました。広告を売りに来ると思ったらまさかの精米能力の調査!!しかも初対面で!?

 読者のみなさんもどう考えてもこれは作り話でしょ?と思われるかもしれませんので先にお知らせしておきます。「すべて真実です」。その真実の話は来月ゆっくりと。

 ただ一つだけ、この二人が当店に来なかったら「米・雑穀のみちのく農業研究所」の本当のECデビューにはなりませんでした。よってこの二人を「奇跡の山賊」と私は命名しました。

追伸「上記写真左の奇跡の山賊のモザイクは次号でベールを脱ぎます?。お楽しみに」


著者

長濱 洋平 (Youhei Nagahama)

1974年1月23日宮城県産まれ。お米のサラリーマンを経て現在の株式会社東穀を設立。
PCでアンダーバーの出し方すら知らない素人がECを始めて5年で楽天市場ショップオブザイヤーを受賞。そして今年も受賞し、2年連続受賞。現在43歳。