【第四回】ヨナーイ佐々木のEC内緒話~どん底から這い上がった男の成功運営ノウハウ
【テラオ株式会社 ヨナーイ佐々木のEC内緒話~どん底から這い上がった男の成功運営ノウハウ】
オリジナルの日本酒と型番の自転車グッズ。どちらでも無駄なお金をかけずに成果を上げた著者のノウハウを全10回でお届けします。
今回は業界や社内の慣習を疑うことで生まれた、酒蔵の「ならでは」商品と、月商1,000万円突破の原動力となったオリジナル商品の開発秘話です。
☆バックナンバー
・第一回「27歳職歴なし無職(借金有り)からの出発」
https://ecnomikata.com/column/9195/
・第二回「パソコンを持たないネットショップ店長誕生」
https://ecnomikata.com/column/9380/
・第三回「思わぬヒット商品、誕生。」
https://ecnomikata.com/column/9596/
・第四回「強みを生かすとヒットが生まれる。」
https://ecnomikata.com/column/9886/
【答え合わせ】類似商品が増えても売れ続ける理由。
連載第3回の最後でお話しさせて頂いたように、ネットの父の日のお酒ギフトは、この十数年の間に「お父さんの名入れのお酒ブーム」があり、そのブームが終わると、今度は他の日本酒ショップさんがこぞって、あさ開の飲み比べセットと同様の小容量の飲み比べセットを販売する激戦区になっています。
価格で言えば送料込で2,600~3,500円ぐらいがボリュームゾーンでしょうか。
少し前は3,000円を切るショップさんが多かったので、相場が上がりましたね(笑)。
その中にあって3,980円のあさ開の飲み比べセットはかなり価格の高い部類に入りますが、毎年、日本酒セットの中では圧倒的に売れ続けています。
なぜでしょうか?
理由はいくつかあります。
まず一つは「先駆者」であること。自らの思考プロセスにより生まれた商品は、やはりなかなかそこまではコピーされにくいですし、長く販売している間にどんどんブラッシュアップされていきます。
良くボート漕ぎに例えるのですが、自分が一番先にスタートして、もし後から追いかけてくる人がいれば、ペースを高めれば良いだけなんですよね。
二つ目は「レビューの蓄積」です。
あさ開の飲み比べセットの商品レビュー数はおよそ8,000件、これは楽天市場内の日本酒・焼酎の16万点以上の商品の中でも、2番手と比べても2倍以上の圧倒的に多い件数です。
レビュースコアも4.66/5.00と高めですので、検索やCVRの点から見ても非常に強いです。
ここまでレビューが多いのは、長く販売していることもさることながら、
・5本のうちの1本は「その季節限定の旬のお酒」枠で年に5-6回ほど入れ替えており、一度買ったお客さんがお中元やお歳暮、敬老の日など他のギフトなどにも再度ご購入いただきやすい設計にしている(当然レビューは父の日時期だけではなく通年で貯まって行く)
・全身全霊の文面で書いたフォローメールをお送りしている
という、地道な施策の積み重ねが大きいです。
そして三つ目は「値上げ(プライシング)」です。
ほとんどの方は、競合他店を意識して少しでも価格を安くしようとします。
確かに「送料無料3,000円」というのは値ごろ感もあり、ギフトとしてはキリも良いボリュームのある価格帯です。
ただ、よくよく考えてみると「日本酒5本セットの相場が送料無料3,000円前後」だと決めたのは誰だったかというと…実は一番最初に売り始めた、他ならぬ私だったんですね(笑)。
だから他店さんは、ここを基準に少し安い価格設定をしてきた。
でも、第三回で書いたように、この価格の根拠は「単純にそれぞれの小売価格に送料などを加算しただけ」です。
で、最初は3,000円⇒3,300円に値上げしました。
当然として利益率が改善しただけではなく、販売数量も落ちませんでした(というか増えました)。
そして、あさ開より少し安く販売していた他店さんの多くが少し値上げして来ました(笑)
しばらくして。
父の日の直前出荷がキャパオーバーになりつつあり、再び値上げして販売数量を減らそうとして3,300円⇒3,680円に値上げしました。
一応、前年数量の74%までなら利益ベースでも前年割れをしない計算でした。
で。
結果として販売数量は前年の120%以上に増えました。
そこでさすがに私も気が付きました。
「安くすることに意味はない。」
確かに3,000円前後の価格帯は、父の日ギフトでもっとも売れるボリュームゾーンです。
ただ、同時に競合店舗の数も最も多い激戦区。
そこでたまたま販売数を減らしたくて値上げしたので、3,000円のゾーンから4,000円のゾーンに商品がずれたんですね。
そして、そこには競合店舗さんはほとんどいませんでしたので、売上独り占めになったんです。
ただ「他より価格が高い妥当性」は当然として必要なので、従来の受賞歴に加えて、たった一文だけ商品名などに書き加えました。
「大吟醸入り 豪華版」
これだけでお客さんは「ああ、これは良いお酒だから少し高いんだな。賞もいっぱい取ってるみたいだし、レビューの評価も高い。じゃあ700円高いだけならこっちの方がよさそうだ。」
そう思って購入していただけるのです。
翌年、3,980円まで値上げしました(笑)
ちなみに、またもや他店さんは少し値上げしてきました(笑)。
知人で会計士の田中靖浩先生が、先日にたまたまFacebookにこういう文章を投稿されていました(原文まま引用)。
-----
【プライシング外伝?】
本日、某クライアントにお話ししたこと。
「安さ」でコンペに負けたなら、全く気にすることはない。やらせておけばよい。「ネームバリュー」でコンペに負けたなら、全く気にすることはない。どうせ適わない。
ただし、自分より「高い」価格、かつ、「ネームバリュー」で劣る相手に負けた場合、それは断じて見過ごしてはならない。
そこで悔しがらなかったら、原因分析しなければ、商売人として未来はない。
-----
やっぱりですね。
商売人が「腕」で負けて悔しがらなくなったらお終いですよ。
安易に売れているものをパクリ続ける商売がしたいなら話は別ですが。
これだけ一番商品の利益がちゃんとあると、本当に商いが楽になりますよ。
◆大切なポイント
----------------
・価格競争が発生する売れてる市場に参入するよりも、自らのアイデアと思いで市場を創と、長く自らの商売の助けとなる。
・お客さまからの評価を「目に見える方法で」蓄積していくと、それはいつしか信頼(ブランド)となる。
・安売りより、利益を確保した価格で買ってもらえる努力。結局はそれが市場の健全な成長を促す。
----------------
今だけここだけあなただけ。
話を10年前に戻します(笑)。
運よくギフト市場を開拓できましたが、やはり当初の出店目的である「1人でも多くの生涯のお客さんと出会う」事を考えると物足りません。
何でもいいから売れれば良いわけではなく「あさ開のお酒を好きになって買って飲んでいただける」ことが本来の目指すべき場所なのですから。
そこで、限定のお酒を月替わりで販売することを思いつきました。
うん、ありがちですねぇ(笑)。
その名も「源三屋の隠し酒」。
ただ、多くの方が間違えちゃっているのは「限定である理由」をきちんと示せないことだと、当時の私は考えました。
単に「このお酒は限定販売ですよー」ではなくて、どうして常時は販売出来ないのか?という理由をしっかり明示しようと考えたのです。
例えば、この章の冒頭の画像にある「純米大辛口水神の搾りたて生原酒」。
料亭などの飲食店さん限定で出荷している「純米大辛口水神」というお酒の、アルコール度数調節の加水処理も常温保存するための加熱殺菌処理もしていない生原酒なのですが。
このお酒は一年でも冬場にしか醸されません。
しかも、醸造後には酒蔵内のタンクで貯蔵するために加熱殺菌処理をしてしまうために、非加熱の生の状態でお酒を瓶詰出来るタイミングは年に一度だけなんですね。
そりゃもう抜群にうまい酒なんですが、要冷蔵での保存が必要ですし価格も高めになるので、酒蔵としても売り切る自信が無いので、生の状態での商品化はされていませんでした。
直営webショップで販売するとしても、さしたる本数の販売も見込めないし、売り残しても他に行き場が無い在庫リスクの高い商品。
そこで、私は「完全予約受注生産」という手法を取りました。
およそ1か月間の予約期間を設けて、そこで予約いただいた本数を、酒蔵で手詰めしてもらう訳です。
ここで大切なのは、限定のお酒と言っても新規に醸造するのではなく「通常販売しているプロパー商品の切り口を変える」ことで、そのお酒を気に入ってくれたお客さんが、以降は通常商品を購入していただけるように設計すること。その為には通常販売のお酒に割安感が出るように、価格を高めに設定することを決めました。
最初は月に60本程度の、わざわざ瓶詰させるのが申し訳ないような本数からのスタートでしたが…
・精米歩合の異様に低い真っ黒な純米酒
・アルコール度数21度の辛口のにごり酒
・土用の丑の日の鰻を味わい尽くす為の純米酒
などなど、かなりニッチでマニアックなお酒を完全に趣味で投入し続けていくうちに、100本200本400本500本と、販売本数はドンドンと増えて行き、何より「在庫ロスの心配はない、利益を確保した状態の予約販売」ということもあって翌月以降の売上計画も立てやすく、通常時のベースアップに大きく貢献する商品群に育ってくれました。
何よりもニッチでマニアックであればあるほど「期間限定で酒蔵直売でしか手に入らない面白いお酒」と評価が高まり、引いては通常販売の商品群の告知にも繋がって行ったわけです。
私はギフト屋になりたかったわけではないので、自分の「目利き」がお客さんに喜ばれるのはとてもうれしく楽しかったですねぇ(笑)。
ちょうどこのコラムを書くために、あれこれと検索していて、たまたま2005年当時のお客さんのブログを発見しました。
↓こんなことが書かれていました。
-----
2005/02/08
源三屋のメルマガ
楽天市場の「源三屋」をときどき利用するので、メルマガが届く。
ここは盛岡のあさ開という蔵の店だ。数年前に、スーパーで買ったにごり酒『雪渡り』がおいしかったのだが、その後、スーパーが取り扱わなくなってしまった。そこで、ネットであさ開を探して利用するようになったのだ。
さて、このメルマガ。いやに、ざっくばらんなのだ。今日のは、雑誌の『dancyu(ダンチュウ)』に酒が紹介されて、「メデタイ、メデタイ」という内容。本当に、「いやー、メデタイ、メデタイ♪」と書いてある(^^;)。
最近、ショップのメルマガで店員の個性を出そうとするのか、なれなれしい感じで日記風につづったものが増えている。実をいうと、私はそういうのは嫌いだ。くだらないおしゃべりなど、読みたくない。おしゃべり口調を見たとたんに、読むのをやめてしまう。
しかし、この源三屋のメルマガは、おしゃべり調になっているわりには憎めないというか、つい引きこまれて読んでしまう。変に飾らないところがいいのだろう。書き手の喜怒哀楽、日本酒への愛が、そこはかとなく伝わってくるような気がするのだ。
多くの人は、うまい文章を書こうとするが、「私の文章を見て~」という文章は、あざとくなりやすい。素直に「この商品を見て~」という気持ちを表すのが大切なのだと思う。
-----
自分の好きなものを自分らしく。
当たり前ですが、それが結局は一番楽しいし、自分と価値観や波長の合う「良いお客さん」と出会う近道なんだと思います。
◆大切なポイント
----------------
・限定にはお客さんが納得できる「理由」が必要。さらにそれが「欲しい理由」になればなお良い。
・特別な何かを新しく創るだけではなく「今あるもの」の切り口を変えてみる。
----------------
安売り ≠ 安く売る。業界の慣習を破って生まれたもの。
自分で書いておいてなんですが、今回は特に長くて濃いですね(笑)。
今回はこの章までにしておきましょうか。
ネットで商いをしていると、本当にいろんな方と出会えるものです。
あさ開にも、木箱に入った10,000円以上する最高級の大吟醸があるのですが、普通は贈答用に使うであろうそのお酒を、月に一度、必ず6本ずつご注文されるお客さんがいらっしゃいました。
つまり自宅での酒代だけで月に6万円以上!
「あー、やっぱり商売は自分の財布の中身だけを基準にして考えたらダメなんだなー。」
なんて当時は話していました(笑)。
その方が、ご注文時の備考欄に「自宅用なので木箱は不要です」って何度か書いてきてくださったんですね。
ああ、確かに自宅での晩酌用なら、場所も取るしゴミにもなるし木箱は要らないよなー。
そう思ったので、毎回連絡させてしまうのも申し訳ないし、お客さま情報に「木箱不要」と入力しておいて、ご注文があったら「今回も木箱なしでお送りしますねー」とひと言添えてメールをお返ししていました。
・
・
・
(-o-;) あ!
ちょうど年末年始も近い。
誰だって盆暮れ正月ぐらいは「最高に美味い酒」を飲んでゆっくり幸せに過ごしたいよな?
これ「中身だけは最高級のお酒」を豪華な包装や金箔押しのラベルなんか省いちゃって、安価なリサイクル瓶に入れたりしたら・・・お客さん喜ぶんじゃないかな?
で、さっそく原価計算をしてみたところ、なんと製品版の4割引きでも粗利金額がより多く残ることが判明!
意気揚々と社内の会議で「こういう商品を販売したいんです!」とお伺いを立てたところ…そりゃもう社内の各部署の部長課長から大反対をされました(笑)。
「最高の酒にはそれなりの格というものがある。」
「そんなみすぼらしいパッケージで販売するな!ブランドイメージが傷つく!」
「だいたいお前は日ごろから服装はだらしないし…」
ついでに余計なやぶをつついて蛇を出すほどの、まさに全方位からの集中攻撃(笑)。
さすがにここまで言われてしまうと仕方がないので、直接お酒を造っている杜氏さんと社長を口説いて許可を得ました(あれ?)。
確かに会社員としては褒められたもんじゃないんでしょうけどね(笑)。
商売人としては「自分が良いと思ったものを情熱をもって実現する」のなんて至極当たり前の価値観だと思います。
申し訳ないんですが、当時のあさ開のブランド力は、最繁忙期の年末年始を過ぎても、蔵のタンクにはその「最高級のお酒」が売れ残ってたんまりと残っている程度のものでしたので、そんなもんに義理立てする気はさらさらありませんでした。
私はサラリーマンであるよりも商売人でありたかったし、なにより経営と製造のトップの許可を得たんですから「錦の御旗は我に有り!」ってなもんです(笑)。
こうして「源三屋の隠し酒-歳末特別版-」と銘打って、それこそ「今だけここだけあなただけ!」で販売を開始、順調に「そんなお酒なら飲みたい!」と予約本数が増えて行きました。
そんなある日、源三屋宛てに一本の電話が。
この隠し酒をたまたまネットで見つけた朝日新聞の記者さんからでした。
「年末年始の時期に、最高のお酒を破格の値段で飲んでもらいたいという心意気に感動しました。」
「夕刊だけの生活欄の読者はそんなに多くないコラムなのですが紹介させてもらえませんか?」
こちらとしては断る理由はまるでないので、一も二もなく了承。
新聞媒体だとネットで注文できない方も多いだろうからと、フリーダイヤルもご案内しました。
そして掲載日。
そのフリーダイヤルは深夜の2時半過ぎまで鳴りやむことはなく、楽天市場の総合ランキングにあさ開のお酒が並んでいる信じがたい光景が。
結局、あれほど残っていたタンクの中のお酒は空っぽになり、当初は企画に反対していた上司たちも深夜2時過ぎまで出荷作業を手伝ってくれて、当時の源三屋としては最高の約1,000万円の売上げを記録しました。
私が連日帰宅できずに会社に泊まり込む羽目になったのは言うまでもありません(笑)。
◆大切なポイント
----------------
・業界や自社の既成概念にとらわれず、自社の強みとお客さんを繋げて考える。
・許可を取るな、謝罪しろ。
----------------
次回のお話。
この頃から「いけるかもしれない」という手ごたえと「このままではまずいな」という危機感が膨らんできました。
権限もお金もないサラリーマン店長が、その「急成長」故にぶつかった壁。
辞表提出の寸前まで行きました。
次回は7月22日ごろの更新予定です。