【第2回】EC店舗を襲う不正の今~あなたは見抜ける?不正注文の具体例~

稲数 裕之

EC業界において、実は不正注文が大量発生しているってご存知ですか?

この連載では、EC業界を取り巻く不正の全体像、そして不正からEC店舗を守る方法に迫ります。

<過去掲載分もご参考ください>
第1回: セブン銀ATM不正引き出しは対岸の火事ではない。
https://ecnomikata.com/column/9728/

あなたは見抜けますか?

 今、急成長中の決済手段であり、EC店舗への導入が進んでいる「後払い決済」の事例です。前回ご紹介した、クレジットカード決済と共通する悪用されやすい背景が存在します。具体例を見ていきましょう。

こんな時、どうしますか?
 あなたが運営するEC店舗において、最近、関西地方からの注文が急増しているとします。不審さを感じつつ注文内容を確認してみると、全ての注文において注文者や配送先が異なります。いずれも、過去に900円程度の低額な支払い履歴がありますが、今回は4,000円前後の注文です。念のために電話をかけると、留守番電話につながります。あなたは商品を発送しますか?


 これは、実際に起きている不正手口です。手間をかけ、支払い履歴を作り信用させてから不正をする点が巧妙です。被害総額としては、同一と思われる人物によって100万円を超えるケースもありました。

後払い決済とは

※画像1 後払い決済のメリット・デメリット

 後払い決済は、注文者が商品を先に受け取り、内容を確認した後で代金を支払う仕組みです。その利便性による安心感から、注文者に支持されています。

 主に、専門の決済代行会社(後払い事業会社)がサービスを提供しており、EC店舗に立替払いをし、代金未回収時のリスクを負う、いわゆる債権譲渡タイプが現在の主流です。

 自社でリスクを負うタイプの後払い決済の場合、直接的な代金未回収リスクが存在することはもちろんですが、実は、債権譲渡タイプであっても商品を不正取得された場合には、将来の売上低下につながるような間接的リスク(※画像1 赤文字部分)があることには注意が必要です。

後払い決済が悪用される背景

※画像2 【3つの弱点】後払い決済を使った注文手続き

 注文者にもEC店舗にもメリットのある後払い決済ですが、同時に不正者が悪用しやすい決済方法とも言えます。その背景として、3つの弱点を挙げたいと思います(※画像2)。

 前回(https://ecnomikata.com/column/9728/)は、クレジットカード決済の不正利用被害が増加している事をご紹介しました。一方、今回ご紹介する後払い決済の場合、そもそもカード情報などを不正入手する必要さえありません。虚偽情報を入力するだけで、一旦は注文できてしまいます。”弱点1”が不正の心理的ハードルを下げていて、主婦や学生など、犯罪グループではない一般の人たちまでもが犯罪行為に手を染めています。
 
 もちろん、後払い事業会社の多くが独自の不正検知システムを持っており、全ての不正注文が成功するわけではありません。ただし、100%不正防止できるわけではないという事は一つの事実です。

 ご参考までに、クレジットカード決済の場合は下図となります(※画像3)。

※画像3 【3つの弱点】クレジットカード決済を使った注文手続き

 共通点は”弱点3”の、不正者が生活する住居ではなく、一時利用が可能で身元を隠しやすい場所(身元隠匿住所)を配送先とする事が容易という点です。

~最近の不正配送先トレンドや、今後の予想を次のページで解説します~

空き部屋への配送が増えている

※画像4 空き部屋のドア(実際にカード不正利用時に使われた配送先)

 身元隠匿住所として、空き部屋の悪用が増えています。不正者が空き家に不法侵入し、住人のふりをして商品を受け取る手口です。参考事例として、下記のような報道もありました。

「受け取り先を空き部屋にする不審な注文が相次いでいて、ネット通販大手の楽天が去年1年間に取り引きを停止した件数は9万2000件、金額にしておよそ72億円に上る」(2016年1月31日 NHKニュースより)。

空き部屋だけではない!巧妙な手口

 配送会社の転送サービスも悪用されています。例えば、注文時は「住所A」を指定し、商品出荷後に配送会社へ別の「住所B」への転送依頼をする事で、EC店舗のブラックリストなどを回避します。「住所B」としてよく使われるのは、ホテルやウィークリーマンション、私設私書箱、貸しスタジオ、ネットカフェ、海外への転送サービス会社などです。すべて一時的に利用でき、身元を隠匿しやすい住所です。

 また、海外への転送サービス会社を直接の配送先として悪用する事例も増えています。海外発送に対応していない日本国内向けEC店舗の商品を、海外からも注文できる事から正常な注文者にも人気がある一方で、不正者にもよく悪用されています。悪用する場合は、住所表記に通常記載する必要のある会員番号などを記載せず、サービスを利用していることを気づかれないようにするケースも多く見られます。

※画像5 海外への転送サービス会社倉庫(実際にカード不正利用時に使われた配送先)

今後の予想

※画像6 今後増加が予想される新しい不正配送先

 これまでにご紹介した手口ですが、被害に悩むEC店舗では、専門の不正対策サービスを活用するなどして対策が進みつつあります。それを回避するため、巧妙な不正者は新しい手口を生み出していきます。上図(※画像6)は今後の予想です。民泊や、駅などで受け取れる宅配便受取りロッカーの悪用には要注意です。

 もちろん、不正対策を強化しているEC店舗とそうでないEC店舗との差がつき、後者がさらに狙われ易くなるという事は言うまでもありません。

 不正者にEC事業の利益を食い荒らされる前に、まだ被害の起きていない場合は対策の事前検討を、すでに被害が起きている場合には、対策の強化や効率化を検討すべきではないでしょうか。対策の詳細はこの連載中でご紹介予定です。


【第3回】【3社比較】Amazon/楽天/Yahoo!の対応は?~(https://ecnomikata.com/column/10179/


著者

稲数 裕之 (Hiroyuki Inakazu)


かっこ株式会社 不正対策エバンジェリスト

中央大学法学部法律学科卒。ECにおける各種不正対策業務に10数年従事。
これまで大手ネットオークションサービス3社において、実運用から管理、法務、企画まで横断的に担当。その後、外資系ショッピングサイトの不正対策チーム日本拠点立ち上げメンバーとして、運用構築に携わる。
現在、EC・金融向け不正検知サービスを提供するかっこ株式会社にて、企画、運用改善、顧客提案などを担当。


かっこ株式会社:http://cacco.co.jp/