“大原かおり”EC運営にかけた約4,000日〜10年で気づいた真実「Otty」

石郷“145”マナブ

 とあるイベント会場に僕はいた。そこではいくつかのアパレルブランドが並び、その中にちょっとした人だかりと可愛らしい衣装をまとったワンちゃん達の群れができていた。それこそが、犬服&小物ブランド店「Otty(オッティ)」(http://otty.net/)だった。

 「あっ、どうも」たくさんの人と人との隙間から顔を出し、気さくに対応してくれたこの方が「Otty」店長 大原かおりさんだ。大原かおり?その名前を聞いて気付く方もいるのかもしれない。20代から今もバラエティ番組等で活躍するタレントである。

 というと、名前貸しでやっているとか、片手間でやっているのだろうと思い込む人がいるだろうが、それは全くもって違う。自らワンちゃんの洋服をデザインし、材料メーカーから仕入れ、工場に依頼をして、商品を作成、納品し、その在庫を管理して、商品をネットで販売するという具合に、彼女のやっていることは全般にわたる。

1年で売れる!と断言・・しかし

1年で売れる!と断言・・しかしワンちゃんの服と雑貨のネットショップ「Otty」

 大原かおりさんのネットショップにかける意気込みは並ではない。聞けば、創業して12年になるという。きっかけは偶然だった。とある企業から、ワンちゃん用の洋服ブランドを大原さんがデザイナーとして立ち上げる話が出たことに端を発する。

 大原さんは、もともと洋服が好きだったこともあり、衣装もスタイリストと一緒に見ていたということと、当時、ワンちゃんが好きで流行り出す前からトイプードルを飼っていたことから、舞い込んできた話だった。

 とは言え、簡単なわけはなく、デザイン一つにしても、つまづいたという。ここの色はピンクと書けば、どんなピンク?と聞かれ、困惑する大原さん。企業側曰く、ピンクと言っても世界共通のものだけでも100色はあると。彼女は、ファッション誌を持ち出してきて、何ページのピンクなどと指示をしたりしていた。まさにそんなスタートだった。そして、彼女は言われるまま、自らPANTONEという全世界の共通の色チップを10万円で買って、指示をするようになったわけだが、その時すらも、そのあまりの面倒さに、最初は嫌がらせでもされているのか、と思うほどだったと振り返る。今思えば、むしろ逆で、ちゃんと聞いてくれていたんだなと思う、とも。

 そこまで向き合ったその商品だが、いざ始める段になって、その企画が頓挫し、発売されなくなる。まさにこの時こそが、彼女にとって運命の分かれ道。彼女が悩み、そして成長するきっかけをくれた商売への道が始まったのである。

1年後も、3年後も、5年後も見えない答え。

1年後も、3年後も、5年後も見えない答え。

 「洋服は既にできているが、廃棄処分にするつもり。」依頼主の企業からそう言われた時、彼女は自ら100万円近くのお金を出して、それらの洋服を買い取った。それは無謀な一手だったのかもしれない。芸能の仕事しかやったことがない彼女は、末締め翌月末払いということすら知らなかった。買い取った商品も、納品されたらすぐに銀行に行ってその金額を振り込んでみたり、ビジネスのなんたるかを知らなかったと振り返る。

 一方で、温かな仲間がいた。アパレルに関わる友人は、商品を丸ごと買い取って、それを売ろうとする当時の大原さんを見て感じたのだろう。「卸先はどうするの、ホームページはどうするの?あなた一人ではやっていけないでしょ」と声をかけたという。結果、その人の案内のもと、その商品を売るために、紹介された会社に勤めてみたと言う。学ぶところはあったかもしれないが、肝心のワンちゃんの洋服の売り上げは、変わらなかった。1年経っても、軌道に乗らず、卸先も1店舗だけ。

 それは、3年経っても、5年経っても軌道には乗らなかった。思えば、そのアパレルの仕事に関わる友人から始めた当初「売れるまで10年はかかるよ」と話していたという。大原さんが当初、芸能人の仲間がいるから何とかなるという想いも、彼女自身がブログを書けば売れるのでは無いかという考えも、そう思い通りにいかなかったのである。売れるってどういうことなのか。大原さんはおそらく、商売で大事なことをこうした経験の中で身を持って感じたのかもしれない。

10年を経って、今、大原さんは、自分でようやく認知されてきた実感が得られるという。まさに、アパレルに関わる友人の話していた10年だった。

売れない時代から何が大原さんを変えたのか?

売れない時代から何が大原さんを変えたのか?

 この10年で彼女の何が変わったというのか。それは、売るためのテクニックやツールは身につけたかもしれないが、一番大きかったのは、すごくシンプルなこと。お客様のことを誰よりもしっかり見つめて、理解しているということなんだろうと、僕は思った。

 もともと八百屋の娘だった彼女は、人と接するのが大好きだった。ペット博などにも出店し、話をし試着をしてもらうなど、とにかく接した。また、SNSを使って積極的に交流を図り、お互いに心を開くようになるうち、本音を聞くことができて、それが彼女の商品に生かされ、ブランドのファンに繋がっていったのだ。

 例えば、サイズに関してもそうだ。大体が3〜4サイズのブランドが多いが、それで言うと、飼い主のニーズには応えきれない。なぜか。もし、複数ワンちゃんを飼っていると、それらにお揃いで着させたいという考えがあるからだ。サイズを絞ってしまうと、その多く売れるサイズすらもお揃いで着させられないが故に、飼い主は購入を諦め、機会損失をしてしまうというのだ。

 多少なりとも、それに近いサイズを買えばいいと思うのは、素人の考え。「人間であれば、ちょっと大きいなと思えば、スカートの中に入れたりできるけど、ワンちゃんは決してそうはいかない。少しでも大きければ、どこかに引っかかったりしちゃうんです。だから、サイズに慎重になる必要性があるのです」と話す。

 それだけペット服というのは難しい。以前、大手ブランドがペット用を作ろうとすると、きっと行き詰まるだろうという考えで、大原さんの方から「パターンがきっと大変だから一緒に組みましょう」と持ちかけたことがあったという。ところが、その市場を独占したいという気持ちから、断られたりすることも。しかし、そう言うところに限って、ペット向けとは思えないパターンを作り、少しも売れないという事態を招いているという。

 更に、彼女は言う。「流行りの犬種は常に変化するから、次に流行る犬種を予測して、それをサイズに反映させなければなりません。プードルに関しても、サイズは同じではなく、様々な種類がいて、少しのズレも許されない。」それも逃さず商品企画に生かせているのは、この章の冒頭で話した通り、お客様ととことん心が通い合い、本音で語り合える関係性を築いているからなのだと思う。

真心こもったお客様への対応

真心こもったお客様への対応

 そうやって彼女はいつしか、単なる可愛いペットグッズというのでは納得しなくなった。「可愛いは一つの要素でしかありません。ファッションのように見えて、実用的なアイテムでもある。服を着させるのは、あくまで、清潔感を保ち、そのワンちゃんが病気にもならず健全に育つ環境を整えるためでもあるのです」と大原さん。その言葉を聞いて、これらのグッズは嗜好品ではなく必需品なのだという彼女の使命というか強い誇りを感じた。

 「背丈のあるワンちゃんが尿をした後に、背丈の小さいワンちゃんが同じ場所で尿をしたりすることがあります。すると、小さなワンちゃんの背丈くらいの高さまで、既に草に尿が付いているから、小さなワンちゃんは、大きなワンちゃんの尿を胴体に接着させて尿をしてしまうです。洋服が付いていることで、外出後すぐに取り替えることで、体の清潔感を保つことができます」その語る姿は、ワンちゃんの味方といった風です。

 最初は、色の指定も、掛け率も、支払い、在庫も何も知らなかった。勿論、ECも。しかし、大原かおりさんは、この10年で大きく変わった。それは、商売の本質がわかったということなのだ。服が可愛いければいいというわけでも無く、芸能人としての特権を使えることでも無い。所詮、小手先のテクニックで乗り切れるほど、商売は甘くは無いのだ。

 まずは自らネットで検索し続け、勉強して、カラーミーショップのASPカートをうまく活用し、またイラストレーターのソフトを使いこなし、運営するためのインフラは自分で整えた。そして、そのインフラを持ってして、先ほど触れた彼女の個性が今、花咲いた、ということ。

 持って生まれた人の心に入り込む、人懐っこさで、大原さんは、いつの間にかペットの飼い主の心に寄り添っている。そして、彼女にはワンちゃんのグッズへの想いがある。寄り添うだけでなく、ペットを愛する飼い主の心理にちゃんと向き合うことで見える真実がある。それこそが、Ottyの商品を流れる血となっている。

 大原さんは、Ottyには特にブランドのカラーやイメージはないといったが、まさに、そのお客様と大原さんの関係性こそが、このブランドの真骨頂だと僕は思った。多くのワンちゃんの快適な生活と、それを見守る飼い主の満足は、Ottyと大原かおりさんとともに、これからもずっと素敵に紡いでいく。


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

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