2020年、あなたは楽天とどう向き合いますか?〜編集長が聞く!楽天EXPOで三木谷氏が披露した施策の中身
これからのECにとって必要となるのは何だろう。おそらく各店舗が扱う商材もお客様も異なる中で、それぞれがこれからの時代を生き抜くために、どの手段を取るべきなのか、必要に迫られているのが今なのだと思う。
時代とともにネットが取り巻く環境が変化する中で楽天株式会社(以下、楽天)は新たな指針を発表した。それが、今とこれからの時代に即した「ショッピングモールのあり方」であり、それらを反映した新施策を、出店店舗に対して本日より手紙やメールで、告知を始めた。手紙では理解しきれない部分もあるかもしれないから、取材を行った次第だ。
宅配クライシスへの対策が急務となった
今回の新施策の数々に関して解説すべく出てきてくれたのは、楽天のコマースカンパニー マーケットプレイス事業 市場企画部 ヴァイス・ジェネラル・マネージャー海老名 雅貴氏だ。僕は別に楽天だけの言い分を伝えるつもりはないが、まずはその真意を改めて語ってもらい、時に店舗の目線で話を受け止めながら、記事を書き起こそうと思っている。この記事が、店舗においてはこれからの楽天との付き合い方のヒントになればと思っているのだ。
ます第一に楽天が注目したのが世間的な関心事となっている物流に関してだ。昨年来、ヤマト運輸が人材不足や急激な荷受量の増加を受けて荷受量の抑制を主張、また再配達への対処をするとともに、値上げなども行い、業務の健全化につとめたことで、そのほかの配送業者もそれに倣って、同じ様な動きを見せた。
一方で、EC(BtoC EC)の市場規模はというと、2016年の15.1兆円から2017年の16.5兆円(経済産業省調べ)へ前年比で9.1%となるまで成長を続けていて、とりわけそのECの根幹部分を為すのが物流であり、そのしわ寄せがECサイトを運営する事業者のところにきている。つまり、配送はこれからEC業界を考える上で、向き合わなければならない課題となった。
ワンデリバリー構想で自社物流に乗り出す楽天
そこで、楽天が出した提案は独自の物流案で、それを「ワンデリバリー構想」と名付けた。難しいことを抜きに一言で言うならば、楽天の「配送」と「保管」の2つの観点における変革である。今までやってきたことをベースにその事業を拡大し、それを全部の店に対して適応させて、物流の問題を解決するだけでなく、店舗の悩みに答えようというのだ。
まず「配送」に関しては、これまで「楽天ブックス」や「Rakuten Direct(楽天ダイレクト)」などの直販を通じて培ってきた独自の配送網が整ってきたとして、それの対象を全ての店舗の商品に当てはめ、全国に迅速に送り届けられる物流網を独自で構築しようとするものである。独自のネットワークに合わせて、関連する様々な企業と手を組み既存配送も最適に組み合わせて、配送網を確立していく計画だ。
一方で「保管」の部分に関しても、これまで「楽天スーパーロジスティックス」という物流サービスが存在し、千葉県市川市や兵庫県川西市に拠点を置いていたが、ここの内部におけるテクノロジーを強化し、かつそれだけではなく大阪の枚方と千葉の流山に新たな倉庫を作ることで、商品の管理環境も大幅に改善していくことを発表した。これによりこれらの倉庫を使えば、全国のどこの地域でも届けられる出荷元、つまり土台ができるわけだ。
両者の強みを組み合わせる事で、注文の翌営業日にはすぐ届けられるという「あす楽」というサービス並の物流環境がこれにより、基本、楽天スーパーロジスティクスを利用する店舗の商品に実現可能となり、また、臨機応変に届けられる環境が整うというわけなのだ。
三木谷氏の言葉を聞いていて思った事だが、今まではお客様からお客様へと届けるCtoC配達が第一の物流で、企業から企業に届けるBtoB配達を第二の物流だとすると、今までECが台頭した中においても、この二つの物流をベースに配達が成り立っていた。
ただ、ネット通販に見られる様な企業からお客様へと届けるBtoC配達、すなわち第三の物流と言えるものには独自のノウハウが必要であり、三木谷氏が言うのは、そのノウハウこそはショッピングモールである楽天が持っており、そのノウハウを使う事で効率よくお客様に不快感を与える事なく届けることができるとしたわけなのだ。それを表で示したのが上の図である。
ただ、ノウハウのその具体的な中身は何か、その点を海老名氏に聞けば、その一つが「受注予測」だとした。楽天側が本来、配送業者単体では知り得ないお客様の細かな情報を知り得ることで、それをAIを駆使しながら配送に生かし、極力各倉庫にかかる人手を減少させて、配送にかかるコストを軽減していけて、それは店舗にもそのメリットを還元できるとしている。
話を聞いている限りにおいては、お客様と配送業者や倉庫、お店をダイレクトに直感的に繋ぐことで、シェアリングエコノミーの様な融通のきく配送ができる様になりそうな予感もした。それであれば、再配達などの問題に応えていくこととなり、この辺はお客様の顔が見えている楽天だからこそ、できる部分で大いに期待をしたい。
店への集荷については検討段階
そして、改めて「ワンデリバリー構想を全部の店舗に適用していくのか」という質問をさせていただくと、海老名氏は「弊社としてはこれを全店舗にご利用いただきたい」とした。ただ、食品など保管の難しい商品を扱う場合や、あるいはお客様から受注を取ってメーカーから直送してもらう事で店舗は粗利を捻出しようとする場合もあるだろうから、敢えて「それは強制力を伴うものなのか」と聞かせていただいた。が、「それはない。現状においては店舗の判断に任せる」との答えが返ってきたので、あくまでケースバイケースだという事だろう。
なお、金額についてだが、対象となるのは4サイズに分かれていて、在庫保管料(7.5円/商品ピース)、そこに出荷作業費(極小サイズで50円/商品ピース)と配送費(極小サイズであればポスト投函にして180円/個)という形で楽天から課金されることになる。あくまでも楽天としては、既存の配送料と比較して高い安いの判断ではなく、第三の物流としての価値を踏まえて判断してもらいたいと言ったところだろう。
また、別の観点から言わせてもらえれば、僕が思うに配送は「楽天の倉庫に入れてからお客様へ届けるところ」だけではなく、「店舗ないしは工場から楽天の倉庫に入れるところ」においても発生すると思っている。
当然、楽天の倉庫に収める部分においては今まで通りに配送業者を使わなければならない。この点を考慮し、「楽天が集荷をしてくれるのか」という部分について問うたところ、「現在のところは未定だが、今後検討していきたい」とした。店舗の気持ちを考えれば、この点も配送料が絡む部分で、検討材料に入れることを期待したい。
メールの役割変化、メール以外の役割増加
新施策の中身は物流に限らず、お客様とのコミュニケーション部分にも及んでいる。EC業界の流れとして、これまではどちらかというと新規顧客の拡大が重要視されてきた時代だったが、これからを考えると一人のお客様とどう長く付き合えるかに重きが置かれる時代になってきた。それゆえ、メールの役割も変わってきたように思う。今までは単純にメールをお客様との連絡のやり取りのツールであったものがその役割を変え、より一人のお客様との長く深い関係構築のための手段となってきている現状があると思う。
楽天はその点も考慮し、これまでのメール「R-Mail」の仕様を変更させて、それに代わる新たなメールの仕組み「R-Message」を始めるとし、お客様の状況に合わせて配信するスタイルへとチェンジするという。具体的には、このように話している。「一つの機能が『シナリオメール』。これは、楽天内にあるデータを元にメールを自動化して店舗様の負担を軽減しようという事で、商品購入後や3日後という具合に、お客様の環境に合わせて自動配信できる様に仕様変更します」。
そして「R-Chat」だ。これは楽天に限らず、昨年来、当メディアでもLINEなどを題材にその重要性を説いてきた話題だが、メールやコールセンターなどでのコミュニケーションに加えて、会話の様なインタラクティブなお客様との関係性が、今までのコミュニケーションにプラスオンされる形で重要になってきているのだ。
楽天の意向としてはこうだろう。メールを「R-Message」で進化させながら、メールより少しライトに関係性を築く、コールセンターとメールの中間にある様な、チャットを用意して、店舗とお客様との関係性をフォローしようと。楽天はそのチャット機能を「R-Chat」と呼び、それを9月から全店舗に導入するとした。些細な質問などは、その機能によって、お客様のきめ細かな対応で即応できる様にするとともに、長く続くお客様との関係性をより深くし、またタッチポイントを増やそうというわけである。
R-Chatに関してはプランによるが、上の表のように「スタンダードプラン」「メガプラン」を利用している店舗においては、固定費で5000円。100会話を超えれば、一件あたり10円の課金となる。単体のチャットの代金としてというよりは、お客様との関係性が肝となる時代なだけに、いかにこれらの施策を通して、一人のお客様のLTV(ライフタイムバリュー)をどれだけ上げていけるかという視点で、この施策を取り入れるかを考えたい。
アフィリエイトの料率変化と計測期間で何が変わる?
最後に、アフィリエイトの料率と計測期間に関してである。商品を育てるにしてもまずは商品の良さをお客様に理解してもらい、購入意欲を高める工夫なしには、その第一歩は飾れない。商品の購買力アップに向けてアフィリエイトは重要な意味合いを持つが、今回、新たにその料率と計測期間を変更するとなった。まず、料率に関しては商品のジャンル別にして絞り込むことで狙いを明確に成果を出しやすくした。
例えば、ジュエリー・アクセサリー、食品、インナー、靴、日本酒・焼酎、バッグ小物などは8%となる。
合わせて、計測期間に関してもこれまでは「クリックされてから購入まで30日以内」のものであれば全て対象となっていたが、これからは「クリックされてから24時間以内にカゴに入れる」ことができなければ、その対象から外されることとなった。それについては下記の通りである。
これにより、より商品の「購入」を意識したプロモーションのスタイルとなり、アフィリエイトをする側にとっても24時間以内にカゴに投入されない限りは成果認定されないので、より戦略的要素が求められ、アフィリエイターにとって本気度が問われることになる。その熱意が最終的には店舗へのメリットへと還元されるとしているわけだ。
今回の発表の主な中身は以上だ。よりネットが身近なものとなり、ECの機会が増えて、宅配問題が生まれ、またテクノロジーの進化によりお客様との関係性が多様化した事で、店舗に問われることが増えてきたというのは事実である。店舗が打ち込むべきことの内容が変わってきたのも真実である。いろんな意味で時代の変化に伴い、店舗がその時代の即した形で店舗を運営していくために、楽天の今回の施策は、そういった要素を実装したものといえよう。
楽天に求められる役割とは?ECを考える上で大事なこと。
ただ、とは言え、その全ての施策に支払いが生まれる以上、楽天はきちんとした説明をすることが重要である。敢えていうなら、例えば、ワンデリバリーにしても、独自の配送と管理の部分と楽天のテクノロジーを駆使することで、受注予測がなされるのが強みであり、その要素を加味した物流の金額設定であるとすれば、受注予測の精度とそれによりもたらされるメリットがどれだけのものであるか。その具体的な説明は、ECコンサルの口から丁寧になされるべきである。
ここで取り上げている話題と別件ではあるが、先日、楽天から「楽天市場に掲載する商品画像の仕様変更の要請」がなされて、その内容が「割と近い将来に仕様を変更してほしい」という旨で罰則に関する部分を匂わせる内容であった為、それを初めて耳にした店舗が不安を感じて、弊社にも問い合わせが寄せられた。
しかし、その要請そのものは過去の楽天新春カンファレンスでなされたもので必ずしも突然ではなく、また何かを提示するときの罰則の言い回しも受け止めかたの問題もあり、そこに何か不安を抱くとすれば、楽天側のコミュニケーション不足がもたらしたものではないかと思う。今回のこの記事も店舗への想いを持って書いたつもりだが、これに加えて、店舗に対しての楽天による誠意ある説明もこれから期待したいと思う。
最後に“店舗さん”と話していて最近思った事がある。あくまで僕の考えだが、ネットというのは既得権益がないから、そこには夢があったのだと思っている。けれど、時代が変わっていろんな要素が必要となった時に、さて楽天に見られる様なショッピングモールが果たすべき役割はどこまでなのかを、楽天も、店舗も考えるべき時かもしれないと思った。
語弊があるのを恐れずいうならば、場合によってはそのショッピングモールの動きが既得権益を守る様な動きに店舗から受け取められかねない。そうならないためにも言いたい。大中小問わず、店舗あっての「楽天」であるはずである。こういう大きな施策の時を通して、店舗と膝をつき合わせて、考えていくべきなのではないかと思うのである。ワンデリバリー構想など、楽天の想いが店舗に届き、また店舗にとっても自分たちの夢をもっと描けるEC業界となることを切に祈り、この話を終えたいと思う。