予想外の大ヒットとなった映画はいかにして社会現象になったか?

ECのミカタ編集部

映画『カメラを止めるな!』(C)ENBUゼミナール

株式会社スパイスボックス(本社:東京都港区、代表取締役社長 田村栄治)は、「THINK」を使って、SNSデータを起点にこの夏予想外の大ヒットとなった映画『カメラを止めるな!』のヒットの要因を調査・分析し、その結果を公表した。

異例のヒットの秘密に迫る

スパイスボックス社は、主要SNSの定量、定性データ分析プラットフォーム「THINK」を使って、SNS上の口コミデータや行動データを踏まえた広告コミュニケーション戦略設計からコンテンツ制作、情報流通設計、効果検証まで行うデジタル・コミュニケーション・カンパニーだ。その同社がSNSを中心に拡散し、異例のヒットとなっている映画『カメラを止めるな!』の拡散の要因について分析した。以下その内容を見て行く。

<調査概要①>
・調査期間:2017年10月1日~同年7月24日)
・エンゲージメント数(口コミ量):119万8,232
・投稿数:12万6,805
・Webメディアの掲載数:238

<調査概要②>
・調査期間:2018年7月1日~7月24日)
・エンゲージメント数(口コミ量):88万2,729
・投稿数:10万3,172
・掲載Webメディア数:109

<比較数値>
「今夏上映の超有名ハリウッド映画」
(調査期間:2018年7月1日~7月24日)
・エンゲージメント数(口コミ量):34万793
・投稿数:5万1,714
・Webメディアの掲載数:329

<調査方法>
スパイスボックス独自のソーシャルリスニングプラットフォーム「THINK」にて、「カメラを止めるな!」に関連するエンゲージメント数、投稿数、記事掲載数と口コミ内容を調査・分析。

※エンゲージメント数とは:いいね!やシェア、コメント、リツイートなどFacebookとTwitterでの総アクション数に加え、対象コンテンツについて取り上げた記事に対するSNS上における口コミの総数。

※SNSタイムラインの投稿数とは:企業アカウント、著名人、一般人問わず、国内のSNS投稿データを収集(サンプル収集による拡大推計を実施)。

※記事掲載数とは:「THINK」では、国内主要Webメディア、動画サイト、ブログ、まとめサイトなど約2000サイトの記事、コンテンツデータを収集しており、その中から該当記事数を算出。

※口コミ内容について:当社アナリストが該当記事、投稿から内容を分析

SNSでの口コミ量はいつから増加したか?

SNSでの口コミ量はいつから増加したか?

※以下時系列

・2017年11月(6日間の先行上映時点)でのエンゲージメント数(口コミ量)が約4000。どんな映画でも大体発生するレベルの口コミ量。

・2018年初頭は一旦沈静化した後、3月の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」での大賞受賞後に微増。

・口コミ量が増え始めたのが2018年6月頃から。6月だけで約30万エンゲージメントを獲得、その後一気に口コミが爆発。

・2018年7月1日~24日のエンゲージメント数(口コミ量)が約90万、Web記事掲載数109。

※同期間における「今夏上映の超有名ハリウッド映画」は約35万、Web記事掲載数329。

「社会現象」に至るプロセスは?

「社会現象」に至るプロセスは?

<口コミ内容の推移まとめ>

◆『6日間の先行上映時期』(図1注目ポイント①):
この時期の口コミは、主に映画に関わる人々から「思わず人に伝えたくなる映画内容」や「37分ワンカット」などのギミック、「著名映画監督、著名映画レビュワーによる賞賛」についての言及が中心。

◆『受賞決定、マスコミ関係者向け試写会実施時期』(図1注目ポイント②):
この時期、映画賞の受賞によって集まった注目に加え、映画のPR用に行われたマスコミ関係者向け試写会を見た芸能人、有名人による口コミがスタート。Twitterなどで絶賛コメントが相次いだ。その他、一般人から「予算300万円なのに…」「無名監督、無名俳優なのに…」「(当初は)2館しか上映されていないのに…」「B級ホラーだと思ったのに…」「面白い!」と言った口コミが急増。こうした数々の“分かりやすいネガティブ指標”とそれを鮮やかに裏切る高評価が、ライトな一般層へのフックとなり一気に注目度が高まる。

◆注目度急上昇時期(図1注目ポイント③):
当初はSNSで話題沸騰後も上映館数が限られており、“見たいのに、見られない”欲求不満現象が発生。「ネタバレ厳禁」な内容のため、簡単なあらすじしか分からず鑑賞希望者の飢餓感が増幅。SNS上では、映画チケットの「完売」情報や記録的猛暑や台風接近中にも関わらず映画館前に「大行列」ができていることなどが話題となり、「そこまで面白いなら見たい!」と、ついに社会現象化へ。

「良い意味での裏切り」とワードのタイムリー性

今回の調査に際して分析担当者から次のようなコメントが出されている。

スパイスボックス メディアコンテンツ事業部長 角田和樹氏

「今回の大ヒットの背景を『THINK』を使ってSNSデータから分析すると、上記のような結果が得られました。

映画そのものの魅力もさることながら、そもそも映画に「低予算」、「無名監督」「無名俳優」…といったネガティブポイントが多かったこと、そのネガティブポイントを良い意味でしっかり裏切ったこと、また、台風や猛暑などの「世の中ごと」と映画の話題が結びついたことなどが、SNS上での口コミ量を爆発させ今回の大ヒットに繋がったと考えられます。

上記調査は7月24日時点の内容となります。2館でスタートした上映館数も8月9日には150を超えており、今後もSNS上の口コミはさらに拡大することが予想されます」

口コミを拡張するSNS

これまでも社会に特定の事象やワード、商品などが広く拡散することはコンスタントに起こって来た。マーケティングやプロモーションという意味でも、いかに意図してそうした拡散と浸透をさせるかについて、日々奮闘している各事業体の担当者も多いことだろう。

伝統的にこうした拡散力の面では、地上波テレビや新聞、雑誌といったメディアが大きな役割を担ってきたが、口コミの持つ拡散力と影響力も時々で指摘されてきた。今回の調査・分析結果からも、この口コミの持つ力がSNSの登場によってさらに拡張されていることが浮き彫りとなっている。

EC分野でのマーケティングを考える上でも、もはやSNSの存在を無視することは難しいだろう。SNSをはじめとするアーンドメディアは、広告などのペイドメディアと違い、費用をかけずにグロースを遂行することが可能だ。反面、一気に拡散させるには、高度な設計をもとにした綿密な施策や人的リソース、そして根気も必要になってくる。もちろん拡散される対象(今回は映画作品)が持つ本来の魅力が無ければ、意図した一時的な拡散に成功しても、ユーザーとのロイヤリティの醸成や、拡散の継続は困難であるということも言える。

今回の調査・分析をひも解くことで、そうしたSNSなどを活用したマーケティングを行う上での新たな視点と仮説の構築が可能になってくるのかもしれない。

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