SupershipホールディングスM&A強化 データ活用で世界企業へ /KDDIのSyn.構想の失敗の功績?

石郷“145”マナブ

 Supershipホールディングス株式会社(以下、Supershipホールディングス)は先ほど記者会見を行い、 DATUM STUDIO株式会社(以下、DATUM STUDIO)の株式を取得し、連結子会社とすることを発表した。

 そもそもDATUM STUDIOがどういう企業であり、またSupershipホールディングスがどういう方向性を目指して、この企業を子会社化したのかについてがわからない限り、この記者会見の真意が見えてこない。故にここではSupershipホールディングスの経緯も含めて、触れておくことにしよう。

 一言で言えばSupershipホールディングスはデータテクノロジーに関しての専門カンパニーである。よりデータ活用の観点で盤石な基盤を作るという方向性があり、ではこの企業がなぜに、データテクノロジーにこだわるのかと言えば、かつてKDDIが提唱していた「Syn.(シンドット)構想」というものが関わってくる。

 今から遡ること2014年、KDDIグループでは「Syn.(シンドット)構想」と呼ばれるものを立ち上げ、人気メディア「nanapi」などを筆頭に「@コスメ」「LUXA」といった数々のメディアやコマース系の企業などを束ねて、コンテンツのプラットフォームになろうとした過去があった。

 その構想を聞いた際には、誰しもがKDDIが携帯キャリアでありながら、そこから携帯にとらわれることなく、コンテンツ重視の方向を打ち出すことに、期待を抱いた。KDDIはその豊富な資本力を投下し、アライアンスを構築することで、可能性あるコンテンツを交わらせ、新たな価値が生まれるはずであったのだ。

 ただこの「Syn.構想」は本日の記者会見でも森岡社長が話した通り、最近幕を閉じることとなった。森岡氏の言葉を借りれば、「その構想の規模は大きかったものの、そのスケールに応えるだけ売上やユーザーの獲得を生み出せず、期待通り行かなかった」のだそうだ。

マーケ領域は盤石に新たに非マーケ領域もAIを持って進出

 では全くの失敗だったのかといえば、そうではない。プラスの要因もあった。それが「Supership」という企業の礎になっている。様々なメディアを持ち、各コンテンツの利用者データの重要性に気づいたからだ。

「Syn.構想」が発表された後、Syn.ホールディングス株式会社という会社のもと、2015年、nanapiなど複数社が合併してSupership株式会社が出来上がり、データを活かすための企業が生まれた。2017年には、ECにも馴染みが深いSocketなどもSupershipに合併されたのはそのような背景があったからなのだ。

 さてその「Supership」を含む、複数の企業から成るSyn.ホールディングス株式会社は、このほどSupershipホールディングスと名前を変え、DATUM STUDIO株式会社(以下、DATUM STUDIO)の株式を取得し、連結子会社としたわけである。今回の様にして、この会社の方向性は可能性あるスタートアップ企業を集めて、データを持ってして相乗効果を図り、新たなビジネスを構築して、世界を席巻しようというわけだ。

 DATUM STUDIOは人工知能の活用で、データの最大化する会社である。またSupershipホールディングスはこのタイミングで「Fortuna(フォーチュナ)」というサービスも合わせて提供してきた。このサービスの中身はマーケティング関連事業のコアとなるDMPである。Supershipが利用可能なキャリアデータ、ウェブ行動データなどをシームレスに統合するものである。

 これらの動きが何を意味するのか。Supershipホールディングスはデータを強みに、デジタルマーケティング事業を担ってきたわけだが、まずここの地位を盤石にするとともに、それをフックに、それらデータ活用と上の写真の図で示した様に、新たにAIを活用したビジネスの新規創出をしようと言う。マーケティングではできない部分もAIでフォローしてデータの可能性を最大化しようと言うわけだ。

 そこにとどまらない。その視点は海外にも向いている。合わせて中国eコマースでは第二位のJD.comのデジタル企業JD Cloud社との日系企業初の戦略パートナーシップを結ぶ。これにより国内のデータと広告配信のプラットフォームを「海外」にも活かしていくことも発表している。

世界に通用するデータテクノロジーカンパニーへ

 ここまでしてSupershipホールディングスがデータを基に事業拡大を狙うのはなぜか。世界の時価総額ランキングに名を連ねる企業の多くはデータを扱う企業だから。これからはデータを握る企業が時代を掴むとしている。

 また、Supershipホールディングスの森岡社長はこう例えて説明した。「かつてで言う石油を思い浮かべてほしい。そこを起点にサービスも商品も存在して経済を作っていた。それが石油ではなく今はデータだ」と。

 また、時価総額ランキングの文脈でいえば、20年前このランキングは日本企業で埋まっていた。しかし今やそれも見る影も無い。だからこそ日本で培ったテクノロジーを結集し、データを持って世界的企業を目指して、今こそ日本の復権を目指そうと言う狙いも口にした。

 ただ、一点だけ気になることがある。合併を繰り返すほどに、経営における目標数値は大きくなり、その度に、元からあった同社の子会社が関わっていた様な中小企業が置き去りにされてはいないだろうか。日本の大半を占めるのは、中小企業である。彼らに対してのアプローチは途絶えてはならず、こうした大きな企業合併と共に、中小企業の成長基盤も考えるべき問題である様にも思った。

 いずれにせよ、世界に通用するデータテクノロジーカンパニーという夢に向かい、Supershipホールディングスは、勇気を持って、大胆に華やかに、船出をしたことには喝采を送りたい。


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

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