AIの力で不在配送が9割削減可能に!東大越塚研ら産学連携で実証

ECのミカタ編集部

東京大学大学院情報学環・越塚登研究室、同大学工学系研究科田中謙司研究室は「不在配送ゼロ化AIプロジェクト」(代表者:大杉慎平)において、開発した配送ルーティングエンジンによる配送試験を行い、98%の配送成功率を得たことを公表した。これは、宅配における不在配送を9割以上削減することに相当するという。

AIが在宅予測を行い最適な配送ルートをたたき出す

不在配送ゼロ化AIプロジェクトとは、次のようなものだ。個人向け配送における「不在配送件数」は全宅配件数のおよそ2割、数千億円のコストに相当し("宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について" 2015年 国土交通省 より概算)、深刻なドライバー不足と労働生産性の課題を抱える物流産業の悩みの種となっている。

当該取り組みは、日本全体の労働力が低下するなか、人工知能を活用した生産性向上に寄与するべく、東京大学の研究室が東大発ベンチャーらの協力のもと、実用化を前提に実施した。

このプロジェクトで開発された新たな「配送ルーティングエンジン」は、各戸に設置されたスマートメーターから取得される電力データをAIが学習し、配送時刻における在宅予測に基づいて、在宅戸から優先的に配送するルートを自動生成するという。

<プロジェクト協力研究室・各社概要>

◆東京大学大学院情報学環 越塚登研究室

情報社会における石油とも言われる「データ」。当研究室は、コンピュータ・サイエンスとデータ・サイエンスの知見を駆使し、産業・社会の「デジタル社会変革(Digital Transformation)」を起こすことに取り組む。現在、越塚登教授は東京大学大学院情報学環 副学環長・教授 およびユビキタス情報社会基盤研究センター長を務める。

◆東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学・システム創成学専攻 田中謙司研究室

大規模データを活用した社会システムおよびビジネスサービス設計に取り組む。特に物流・流通分野での需要予測法や事業シミュレーションを用いた具体的な導入システム設計およびサービス設計の研究を行う。 最近では分散化社会におけるブロックチェーン等を活用したP2P電力融通システムの研究開発を進める。

◆株式会社日本データサイエンス研究所

流通・製造業を中心に、需要予測、異常検知、およびそのシステム開発をする、東大発のAI企業。戦略コンサルティングファーム出身者らで構成され、ビジネス課題解決に特化した、手法としての人工知能活用、およびそのシステム化まで一貫して手がけられる日本唯一のAI企業。

◆NextDrive株式会社

家庭及びビジネス向けのスマートエネルギー・マネジメントソリューションを提供する台湾スタートアップ企業。2017年1月に日本法人であるNextDrive株式会社(以下、NextDrive社)を設立。同社は、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド、アプリなどの幅広い独自開発技術による、スマートエネルギー・マネジメントソリューションを提供している。世界最小クラスのIoTゲートウェイであるNext Drive Cube J Series(以下、Cube J)をはじめとする製品を展開している。

◆プロジェクト代表者 大杉慎平

(株)日本データサイエンス研究所共同創業者、同社チーフデータサイエンティスト。東京大学大学院情報学環 越塚登研究室在籍。東京大学卒業後、コンサルティングファーム マッキンゼーアンドカンパニー にて製造業・インフラ・物流産業の技術戦略構築支援に従事。2017年より東京大学へ。2018年(株)日本データサイエンス研究所に共同創業者として参画、同職。本プロジェクトの発起、配送ルーティングエンジンの開発を主導。

不在配送の9割以上が削減されることを実証

不在配送の9割以上が削減されることを実証

プロジェクトの成果は、国際学会の学術論文としてIEEE COMPSAC 2018及びICSCA2019で採択されており、今後は東京大学発ベンチャーの株式会社日本データサイエンス研究所(本社:東京都文京区、代表取締役:加藤エルテス聡志)、NextDrive株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:石聖弘)と共に、自治体での実証実験に取り組む予定とのことだ。また、当該プロジェクトに賛同する物流企業と連携して2022年度中の実用化を目指していく方針だ。

配送試験は同システムを活用し、2018年9月6日〜10月27日、東京大学構内にて実施された。人工知能が不在先を回避するルートを配送者に示したことによる配送成功率は98%にのぼり、人の判断で配送した結果と比較すると、現状発生している不在配送の9割以上が削減されることが実証されたそうだ。

不在配送に伴う再配送が削減することで、移動距離も5%短縮されることがわかった。さらに、これまで特定されていた“不在”というプライバシー情報が配送者に伝わることがなくなり、より個人情報保護が強化される結果が示されたとしている。

AIで個配物流における最重要課題を解決

プロジェクトの実施に際し、東京大学 越塚登教授から次のようなコメントが出されている。

「不在配送は、現在の日本の個配物流における最重要問題の一つと考えています。AIとIoTの技術を適用することで、これを効果的に解決できるとわかったことは、大きな一歩だと思います。一方、各戸のスマートメーターの情報を外部に出すことは、プライバシー上の懸念があるかと思います。

ところが我々の手法の特徴は、むしろパーソナルデータを利用して、プライバシーを守る点にあります。今回我々が開発した新手法のルート指示では、各戸の在不在を隠すことができる様々な工夫がなされているのです。

配達の順番を決めるというプライバシーに関わる処理は、人ではなくAIが行うので、プライバシーは他の人から守られます。これを発展させて考えると、人に知られたくないこと、プライバシーに関わることは、むしろ積極的にAIやロボット、機械に担ってもらうという新しいサービスコンセプトが、今後はあらゆる局面で重要だと考えています」

このように、ECを支える物流のラストワンマイルの現場が抱える不在配送に対してAIの力が課題解決に向けて大きく寄与することになりそうだ。特に9割近くの不在配送が削減できるというその数字には驚かされる。また「不在」という個人情報が結果として守られるという点も大いに注目される。

今後こうした先端の技術が登場して実用化されることにより、宅配の現場にたれこめる暗雲が少しずつ取り除かれ、明るい未来が到来することを大いに予感させてくれるニュースと言えそうだ。

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