ファンケル  健食事業をテコ入れ、戦略商品「PSG」3年で50億円へ

ファンケルが健康食品事業の立て直しを図る。低価格商品を軸に幅広い顧客を獲得してきた従来の路線から、中高齢層をターゲットにキーアイテムで顧客基盤を構築する戦略に転換。11月20日、戦略商品と位置付ける発芽玄米由来の独自素材「PSG」を配合した健食を発売した。今期中に10億円規模の広告費用を投下。残り約4カ月となる今期は1億円超の売り上げを見込むが、来期(2015年3月期)は20億円、17年3月期に50億円の売り上げを持つ商品に育てる。

新商品「発芽米パワーPSG」(税込9000円)は、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる血管の老化に働きかける成分として期待される「PSG」を配合したもの。発芽玄米にわずか0・02%しか含まれていない希少成分の原料化に成功した。1日の目安量である6粒中、半分は溶解を遅らせるコーティングを施し、時間差をもって作用させることで体内に長く留まる独自の製法も採用した。

血流改善に対応する商品は市場にすでに流通するが、より根本原因となる「血管」に対応する。ほかにも中性脂肪や血糖値への作用も期待されるが、当面は単一の関与成分と表示を求めるトクホ取得は目指さず、制度改革の動向を見つつエビデンスの蓄積を進める。

販売に際しては、従来からある「サプリメント相談室」とは別に、個々の顧客に専門知識を持つ「健康カウンセラー」が対応する体制を構築、定期コースへの入会を促していく。薬剤師や管理栄養士の資格を持つスタッフに加え、従業員教育を行うファンケル大学でも健康カウンセラーを養成。定期顧客には専用の「コンシェルジュダイヤル」を用意し、生活習慣や運動のアドバイス、医薬品との飲み合わせの相談にも対応していく。今年2月に開院した「健康院クリニック」の医師らもサポートする。

まず11月に中京・東海地区(愛知、三重、岐阜)の直営店と通販で展開。テレビのスポットCMや折込チラシを集中投下する。カウンセリングサービスや新規獲得の状況を検証しつつ、来年2月には関東地区での展開を予定。以降、関西地区や九州、北海道にエリアを拡大していく。

プロモーション費用は今期中に10億円規模を予定。ここ数年、大々的なプロモーションを行ってきた「カロリミット」は、年10億円規模の費用を投下しており、これを上回る規模になる。

【定期誘導がカギ】高額商品のノウハウ確立なるか

ファンケルの健康食品事業は06年3月期の約332億をピークに減少傾向に転じている。直近の業績は約266億円。3年で50億円を目指す「発芽米パワーPSG」の売り上げを単純に上乗せすれば、07年3月期(約316億円)の規模になる。

厚生労働省の調べでは、日本人の死因のうち脳梗塞など「血管」に関わるものは約26%。潜在ニーズは高く、市場は大きい。医療費の高騰に歯止めがかからず政府が健康長寿社会の実現を目指す中、ファンケルもこの大きなテーマに挑む。

ファンケルは、健食業界のパイオニアと言える存在だろう。売上高ではサントリーウエルネスやディーエイチシーの後塵を拝しているが、その取り組みは常に先進的だ。

04年には医薬品との相互作用の検索システム「SDI」を他社に先駆けて構築。ミネラルの吸収効率を高めた「ツイントース」や、同「HTCコラーゲン」など独自素材も複数持つ。会見では、村上晴紀ヘルスカンパニー長が「健食は低価格や成分の配合量に目がいきがちだが、ファンケルは量より質、機能を重視する。『PSG』を中心に業界をリードし、超高齢化社会の中で一人ひとりが望む健康のあり方を実現していきたい」と意気込みを語った。ファンケルは理念ではなく、それを実践できる数少ない企業だろう。

ただ、戦略の展開にはタイミングも重要になる。こうした取り組みに市場や消費者の知識が追いついていないと感じる面もある。07年当時は今ほど競合他社も多くなく、その中で07年と同規模の売り上げを達成できるか、大きな挑戦になる。

「発芽米パワーPSG」は9000円(定期入会で10%オフ)という高額商品。年間10万円近い客単価となる顧客をいかに定期誘導して囲い込めるかがカギを握る。売り上げ計画もそこから算出している。

ただ、健食の"価格破壊"を打ち出し、低価格商品を数多くラインアップしてきたファンケルには、定期誘導や付加価値の高い高額商品を販売するノウハウがまだ乏しいのが実情だろう。健康カウンセラーによるアウトバウンドも行い、定期入会や継続利用を促すが、単品通販のノウハウなど新たな販売手法を確立できるか、課題は少なくない。