楽天、5年ぶりの通期黒字達成 ECはさらなるAI活用へ
2025年2月14日、楽天グループ株式会社(以下:楽天)が「2024年度 通期及び第4四半期決算説明会」を発表した。同社は「インターネットサービス」「フィンテック」「モバイル」の全領域で増収増益を達成。ECの流通総額は2023年対比で微減したものの、売上収益と営業利益は成長した。EC事業を含む「インターネットサービス」セグメント全体は昨年比5.8%の増収となった。
5年ぶりの通期黒字化
発表の冒頭で紹介された「AIを活用した効率性改善プロジェクト」が105億円の利益を創出したことも助け、通年の収益は前年比10%増の2兆2792億円に到達。AIによる利益創出額の倍増と、連結売上成長の34.4%を支えた、楽天モバイルをドライバーとした成長を目指すという。
連結Non-GAAP営業利益は2019年以来となる通期での黒字化を達成。前年比で1601億円の成長となった。かねてより赤字事業であった楽天モバイルは年末のキャンペーン「楽天モバイル最強感謝祭」(※1)の効果でEBITDAの単月黒字を達成。同時にフィンテック領域のキャッシュフローなどがグループ内でのモバイル事業に必要な資金調達を実現に貢献した。
楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長 最高執行役員 三木谷浩史氏(以下、三木谷氏)は、「楽天エコシステムとして発展してきたビジネスモデルにモバイルが加わったことでユーザー獲得、エンゲージメント、クロスユースが促進され、リテンションコストが削減された」と語った。
(※1)楽天モバイル最強感謝祭
EC事業は額面減収するも堅実に成長
「インターネットセグメント」の国内EC流通総額は前年同期比1.5%減の6兆円となったが、売上収益は5.8%増で1.3兆円。Non-GAAP営業利益は29.8%増の851億円となった。三木谷氏は国内EC流通総額が低下した原因はSPUプログラムの改定(※2)であり、条件を揃えて比較した場合には4.6%の増収になると説明した。
SPU改定を加味した流通総額、売上収益、Non-GAAP営業利益はいずれも前年比で成長しており、流通総額は4.6%増の6.3兆円、売上収益は8.1%増の9650億円、Non-GAAP営業利益は19.9%増の1220億円となった。ここでも三木谷氏はモバイル事業とのシナジーを強調。「モバイルユーザーの楽天市場での流通額は、非モバイルユーザーと比較して1.5倍。モバイル最強感謝祭では33万人の送客と284億円の売上に貢献した」と語った。
画像提供:楽天グループ(2024年度通期及び第4四半期資料より)
AI+ディープラーニングをECに活用
ECの売上向上は、顧客側と事業者側、両方のフロントエンドにAIを導入することで顧客体験と店舗運営が向上するという説明がなされた。顧客目線では2025年からレビューの要約やサーチ結果のパーソナライズ、フィード画面のパーソナライズによって潜在需要を喚起。購買体験を向上するという。
事業者側は楽天市場のCMS機能「RMS AIアシスタントβ版」を2024年3月から提供開始。店舗が掲載する文章作成から顧客とのコミュニケーション、店舗のパフォーマンス分析に至るまでAIが導入されている。「RMS AIアシスタントβ版は3万以上の店舗に利用されており、利用者の半数以上の店舗で業務効率や売上成長に寄与しています」(三木谷氏)。
また、ディープラーニングを活用したセマンティック検索、セマンティックレコメンデーション、ダイナミック広告表示を導入することで、検索結果の充実や広告効果が引き上がった。検索結果ゼロは98.5%減少し、広告売上は4%向上したという。
画像提供:楽天グループ(2024年度通期及び第4四半期資料より)
専務執行役員CAIDO (Chief AI & Data Officer)AI & Data ディビジョンのグループシニアマネージングエグゼクティブオフィサーであるティン・ツァイ氏は「2024年は知見を貯める1年になった。2025年はスケーリングの1年になる」と語った。
海外で展開する「インターナショナル部門」は成長を続けて黒字化。収益は前年比8.5%増の20億米ドル、Non-GAAP営業利益は4850万米ドル増の9340万米ドルとなった。「長くかかりましたが、国際部門の営業利益への貢献が存在感を増しつつあります」と三木谷氏はインターナショナル部門の成長を振り返った。
新事業でグローバル化が加速
会見の後半では新事業である法人向け業務効率化サービス「Rakuten AI for Business」、人工衛星でのブロードバンド提供サービス「AST SpaceMobile」、OpenRANネットワーク「楽天シンフォニー」に触れ、モバイルを起点としたグローバルな活動の加速を紹介した。
加えて質疑応答で三木谷氏は「エコシステムの国際展開とITプラットフォームとしての楽天グループがある。まだ点と点のビジネスを線でつないでいくことで、いわゆるハイパースケーラーではない独自の立場を目指す」と発言。楽天グループが持つサービスの多様性が生むシナジーで、事業全体を成長させていく方針を語った。
画像提供:楽天グループ(2024年度通期及び第4四半期資料より)
AIとモバイルをドライバーとした成長への意欲が高い楽天グループ。新しい技術は楽天市場においても展開されるため、事業者としてはアルゴリズムにキャッチアップするためにも、常に新サービスと楽天の投資を注視していきたい。