月商3,000万円企業に学ぶ「高付加価値商品」とは

「スマホ対応」はメーカー化を加速させる?

株式会社船井総合研究所(以下、船井総研)は、定期的な会員制サービス「EC•通販経営研究会」を運営している。同経営研究会は、業績の向上を本気で目指すEC•通販会社経営者のための実践的な勉強会である。
年間6回開催される定例会では、実際にECにおいて成功を納めている事業者のノウハウ講演を受ける事ができる他、繁盛店が自店、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonその他などのモール別で実際に利用している帳簿や、実際に配信しているメルマガのレポートなどが提供されており、繁盛店への秘訣が集積した貴重なデータを手にする事ができる。

2015年度の第3回となる今回も、大きく「モノづくり」というテーマでアジェンダが組まれている。メーカーや卸から仕入れる型番商品だけでは、結局のところ価格競争になってしまうため、商品力を磨くことが難しい。自社をメーカー化し、商品開発のフローまで内製化する小売りの方が、そうでないただの小売りと比べ圧倒的に良いモノを押し出すことができる。むしろ今後はそうしていかないと生き残っていく事は非常に困難であるとし、そのための市場トレンドの熟知と商品力•企画力アップが「EC•通販経営研究会」の大きな目標である。
そのプロセスにおいて、グーグルのアルゴリズム更新によるSEO上での優越の重要性について、専門家のメスが入り解説がされる。「スマホ対応」の是非について、メリットデメリットを検証しつつ自社にマッチしたスタイルの模索を提案する。

2015年第3回「EC•通販経営研究会」アジェンダ

•第一講座「高付加価値型オリジナル商品で月商3,000万円突破!~高付加価値を売るとはどういうことか~」
講師:有限会社桜道ふとん店 専務取締役 林 義浩氏

•総勢約30企業によるテーマ別情報交換会

•第二講座「繁盛店から学ぶ『売れるスマホサイト』の共通点!」
講師:株式会社船井総合研究所 坂口 徳幸氏
講師:株式会社Speee WEBマーケティング事業部アカウントグループ 藤田 理氏

高付加価値商品を開発する目線


第一講座では、有限会社桜道ふとん店の専務取締役、林義浩氏が登壇し講演を行う。同社は、昔から店舗僅か十坪という面積で年商8,000万もの売上げを計上し、寝具業界坪効率Mo.1企業として業界内でも注目される企業であった。業績好調で実店舗の拡大を検討していた2008年に船井総研のECセミナーに参加し、新しく店舗を出すか、ネットに参入するか考えた末に、ECサイト開設を決断し現在に至る。現在では、オリジナル商品でも月商3,000万もの売上をあげるようになった。
同社のオリジナル商品は、林氏が長年苦しんだ腰痛の解決に向け、様々なトライアルを行った結果、トルマリンを練り込んだオリジナルの綿である「温泉綿」を作り、高付加価値商品である「トルマリン綿使用布団」の開発を実現した。

「人は心とカラダと魂でできている」

ビジネスを行う上でメンタルを非常に重視しているという林氏は、冒頭でそのように語り、経営のコツとして3つのポイントをあげた。「理念」「フィロソフィ」「キーワード」が重要であるとし、それぞれの解説を自社商品の寝具製品での実例を元に行っていく。

中でも林氏が特に注目するポイントは「キーワード」。「キーワード」とは、消費者に気付きを与えさせることができる重要な要素であり、パラダイムシフトを起こし文化を想像することが可能と林氏は語る。
同社のメイン商材である「トルマリン綿使用布団」を動画で紹介し、キーワードの大切さを解く。トルマリン綿を使用することで、従来良品とされていた「布団そのものが暖かく保湿性に優れた」寝具と比較し、「遠赤外線で身体そのものを暖める効果」のある同商品の訴求とし「カラダが暖まる布団」とコピーを打つことで、成功へと導いた。動画中でも、温度計を用いた実験などから視覚的にも感覚的にも商品のセールスポイントが分かるPRを行い、「カラダが暖まる布団」というコピーの信憑性を証明している。

林氏が、同キーワードに込めた想いは「ありそうでなかったもの」というものだという。今までに全くなかったものでは、消費者に浸透するまでに時間がかかりなかなか受け入れてもらいにくい傾向がある。しかし、林氏いわく「ありそうでなかったもの」であれば消費者としても受け入れやすい価値観となるのだ。

林氏の定義するキーワードとは、伝え方であり、新しい価値観を伝えるための要素である。以前であれば、こだわった商品というだけで売る事ができたが、同様の商品が市場に溢れるようになった今、ただこだわっただけでは駄目で、「とことんこだわった」商品でなければ成功は難しい。とことんこだわっている「想い」を伝える手段として、消費者が受け入れやすい「キーワード」は非常に強力な要素であると、言葉の持つ力について講演を展開した。

質疑応答の際に、ECサイト立ち上げ時の苦しかった時期、どのようなマインドで苦境を乗り越え年商3,000万円の領域にまで高めたのかという質問に対し、林氏は

「自分は正しい事をして正しい商品を販売していると信じていました。自信を裏付けるだけの努力も継続していましたし、もし、ECサイトでなく実店舗を拡大していればもっと資金はかかっていました。絶対にやり遂げるという意志を持ち、研究を重ねることで乗り越えました」

と回答した。

視力の低下をまねくほど競合他社の調査をしている中で、言葉が持つ力の大きさに気が付き「キーワード」という一つのポイントを発見するに至ったという。最後の質問では、何を頑張れば成功すると思いますかという問いに対し、

「全てに命をかけてやることです。仕事とは、命をかけるものだと思っています」

と力強く応え、ビジネスでメンタルを重要視するスタンスを聴衆に裏付けた。

テーマ別情報交換会


続いて参加者はAからDまでの4グループに別れ、テーマ別情報交換会へと展開する。
この情報交換会は「EC•通販経営研究会」において最も魅力的なアジェンダで、各参加企業の目的別にグループを作り、船井総研のコンサルタントをファシリテーターに迎え、前回から今回までの具体的な進捗状況などについて話し合う場である。
自社の現在の取り組みと今後のアクションプランなど、最先端のトレンドと蓄積された船井総研のノウハウを通し戦略を練り、また成功事例の共有など様々な情報が交換できる。途中休憩をはさみ、約2時間以上に及ぶ熱心なディスカッションが展開された。
毎回、それぞれ持ち帰った課題を確実に潰していき、その発表の場を共有できるだけでなくその場でプロのコンサルタントから生のアドバイスを受けることのできる時間は、非常に貴重かつ刺激的である。定期的にこのように軌道修正を図ることは、事業戦略を練る上で欠かせない工程であろう。

その後、各ファシリテーターが登壇し、ディスカッション内容の全体共有が行われる。
目的別にグループ分けされた参加企業も一堂に介し、テーマの違う事例の中から自社の課題解決のヒントを探す。

紹介された事例の中には、ちょっとした工夫をこらしただけで好循環に入り、楽天での売上げが2,000万円から3,000万円にまで150%上がったという企業も。
課題が見える化したというグループでは、利益や価格競争の生き残り方について、それらは回避できないものと享受する例も。その上で取れる対応として、「ローコストオペレーションの体制」が肝になってくると述べた。いかにして体制を作っていくかというポイントでは、従業員の離職対策として鉄板のマニュアル作りに尽力している事例も見受けられた。誰がやっても同一のクオリティを担保できるマニュアルを用意することで、離職率が高い業界において従業員の退職と共に、蓄積されたノウハウや技術も失われる事態を防ぐという。
また、成功企業のフレームワークを元にトレースし、自社店舗に当てはめて活用したという事例も。そういった横グシを入れることが可能な裏には、同セミナーで具体的な成功事例やノウハウ、活用できる数字などを業種をまたいで共有できるという特質が生きていることは明白だ。

こうして、各グループのファシリテーターによる総括が行われ、第二講座へと進行する。

激変を続けるスマホ周辺環境


第二講座は「繁盛店から学ぶ『売れるスマホサイト』の共通点!」と題し、船井総研の坂口徳幸氏を講師にスマートフォンを取り巻く環境についての講演が行われる。スマートフォンの急速な浸透により急増中の「スマホ検索」を受け、今年の4月21日よりGoogleが実施した「モバイルフレンドリーアップデート」と呼ばれるアルゴリズム更新により何が大きく変わったのか。

スマートフォン利用に最適化されたサイトが「モバイルでの」検索結果で優遇されやすくなった今回のアルゴリズム更新では、いわゆる「スマホ対応」されていないサイトでは検索順位が下がってしまうリスクがあるとし、モバイルフレンドリーへの対処の仕方や評価基準など、マクロな視点で何がどのように変わったのかについて説明が行われる。
それらを前段階として踏まえた上で、売れるスマホサイトの原則について様々な観点から検証を繰り返していく。その後、具体的にどのようにしてアクションを起こしていくのかなど、次のステップの解説を、株式会社SpeeeのWEBマーケティング事業部アカウントグループ藤田理氏が話す。

藤田氏は当講演のゴールとして、本質的なSEO対策の理解をし、Googleが求める最適なサイトになるためにアルゴリズムの背景を理解する、というポイントを提唱した。そうすることで、すぐにできるモバイルフレンドリーの確認方法を持ち帰り実施すれば良いという。

SEOの大切さを裏付けする実例として、有名企業のデータを開示し、様々な大手企業で「集客の約5割」が検索エンジン経由であるという数字をあげていく。検索エンジンは最も大きな集客もとであるとし、その中で自社サイトへの集客を最大化するための手段として、Googleが更新するアルゴリズムに対応し、Googleにフレンドリーなサイトにしていくことの必要性を語った。
「パンダアップデート」「ハミングバードアップデート」「ベニスアップデート」「ペンギンアップデート」等々に続き、今回実施された「モバイルフレンドリーアップデート」と、Googleは確実にサイトの質を見るようになってきている。「世界中の情報を整理する」というGoogleが抱えるミッションで、ユーザーが真に使いやすい検索エンジン足りうるために、今後はロードの早さなども審査の対象となるアップデートがされるのではと藤田氏は予想する。

とはいえ、「スマホ化」するにもメリットデメリットが存在するということも事実で、企業によってはあえてスマホ化を行わない企業もいるとのこと。藤田氏が提唱するスマホ化のメリットとは、検索結果の順位を上げることに起因する集客で、デメリットとして考えられる点に、スマホだけのサイトを作ると重複URLと取られる可能性もゼロではないとした。デザイン的な制約が非常に大きいだけに、100%スマホ化が良いかといえば、決してそういうわけではないという。
自社の取り扱う商材やターゲット顧客など、様々な属性を加味した上でモバイルフレンドリー対応を進めていく事が重要であり、良い業者やコンサルを探し強力を仰ぐ必要があると語り、藤田氏は講演を終えた。

課題を潰すことで見える「課題」とは


以上をもって、第3回「EC•通販経営研究会」の全てのアジェンダは終了した。
最後に、参加企業各社が今回のセミナーで感じ取った課題を一つずつ発表し、それらが次回の情報共有時に進捗材料として扱われるものとなる。発表企業の感じた課題は様々であり、「啓蒙できる商品、イコール気付きを与える商品開発に力を入れたい」「商品を見せるときは単体だけでなく、その周辺ファッションなども見直していきたい」「より物流を考え直し、スピードを上げ集荷できる体制を整えていきたい」「スマホページを強化していきたい」「オペレーションのコストカットを見直したい」「情報の品揃え、棚卸しを行い、理念の共有を社内で行っていきたい」など、今回のセミナーでも議題に上がった切り口で十人十色の課題が発表された。

こうして、参加企業各社全ての課題も網羅したところで同セミナーは閉幕となった。
毎回自社だけでなく、他社の課題も知ることで、自社以外の切り口での戦略に触れる事ができる点も大きな魅力だろう。確実に課題を見つけ、限られた期間内に潰していくフローを一年間続けた先には、大きな進歩があることは明白だ。次回の定例会も、非常に心待ちである。